子どもに自立してほしいという気持ちを持つのは、親として自然なこと。でも、本当の意味での自立とはどのようなことなのか、考えたことがあるでしょうか。「ひとりではできないことも、周りの人の助けや協力で何かを成し遂げることが、本当の自立」という《おへそ保育園園長の吉村直記さん》のコラムです。
執筆:吉村直記
「今日は何をしたの?」
「どんな遊びをしたの?」
「友だちとはケンカしなかった?」
いろいろなことを聞いて欲しい子もいれば、ねほりはほり聞かれるのを嫌がる子もいます。
ある日5歳の息子に、「保育園で誰がお友だち?」と聞くと、「そんなことは聞かないで」と言うのです。後から、じっくり話を聞くと、「みんな友だちだから誰かって聞かないで欲しかった」と胸の内を話してくれました。
親が思いもしないところで、いろいろな思い、考えを持っていることに驚かされることがあります。
親はいつになっても細かい報告を受けたいものですが、あれこれ言わないのも子どもの自立だったりします。自分が子どもの頃を思い出しても、親に言えないことや秘密にしておきたいこともたくさんあった気がします。
親に頼り過ぎず、子どもが自分で考え、行動し、決断している過程が自立です。
ときにはグッと我慢して、子どもの話さないことを楽しむくらいの余裕が必要なのかもしれません。
先日、保育のなかで年長さんが大きなダンボールを使って「ロボット」を作りました。
「ぼくは手を作るね」「わたしは足を作るわ」とそれぞれが役割分担をしながら、協力して進めています。完成した「ロボット」は先生たちの背丈よりも高くて天井につきそうなくらいです。
集団のなかでそれぞれ自分の役割を探して協力している姿勢は、まさに社会で仕事をしていく上で必要な力を身につけていると言えるでしょう。
「ちゃんとひとりで勉強できるように」
「ちゃんとひとりで宿題ができるように」
「ちゃんと、ちゃんと…」
と子どもに「ひとりでできる自立」を求めがちですが、
本当の自立というのは、ひとりではできないことも、周りの人に助けを求めたり、頼ったりすることで何かを成し遂げることができることではないかと思うのです。
先生に聞くと年長さんたちが代わり代わりに「今日もロボットが元気に過ごせるように」と言いながら、毎日協力してロボットの口の中に、これまたダンボールで作った電池を入れてあげているそうです。
友だちと比べたり、兄弟姉妹と比べたりして、子どもを動かそうとすると、そのときはうまく行動してくれて効果的なように感じますが、長期的に見ると子どもの心の中に劣等感や優越感を強化してしまうように思います。
大人も同じことが言えますが、成長の目的を幸せではなく、人に負けないことや、人を見下し優越感を感じることが大きな目的になってしまう人もいます。子育てのなかで、人と比べられたり、競争を強いられることが多くあったのかもしれません。
劣等感や優越感で子育てをしていると、子どもも仲間に同じように接することを覚えます。自分より優れた人がいれば、嫉妬や批判をして、自分より劣っていると思う人の前では見下すような態度を覚えていくかもしれません。
いつも周りを否定し、自分を正当化することで、心を保つことは今後生きていく上でとても苦しいことです。
誰かに勝つことが目的ではなく、子どもが幸せになることが目的であるとすれば、親が友だちや兄弟姉妹と比べたりする姿勢や、誰かを非難、批判して、見下したりする姿勢を改めて、
友だちや兄弟姉妹、それぞれの素晴らしさを褒め、他人の良いところを探す習慣を親が身につけることではないでしょうか。
子どもはよく見聞きしているものです。
競争よりも協力するという気持ちを親の言動を通して、どうか子どもたちにお伝えいただきたいと思います。
1985年8月11日佐賀市生まれ。
社会福祉法人みずものがたり 理事
小規模認可園「おへそ保育園」・幼保連携型認定こども園「おへそこども園」・放課後学童クラブ「おへそ学道場」 統括園長。
自ら考え、学び、行動し、情熱を持って社会に貢献できる人づくりを日々研究している。
執筆、講演活動、空手指導、また、一男一女の父として子育てにも奮闘中。
2017年06月26日
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