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食事のマナーや好き嫌いは二の次でいい。「楽しい食卓」を最優先する子育ての効果とは
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教育評論家
教育評論家
親野智可等(おやの・ちから)/教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。
私たちにとって食事は身体に栄養を摂り入れるだけではなく大きな意味を持ち、生きていくうえでは欠かせない時間です。特に親子にとって食事はコミュニケーションの場であり、家族の絆を深めるうえでも大切です。公立小学校で23年間以上たくさんの親子に接してきた教育評論家の親野智可等先生に、親子の食事をテーマに話を聞きました。
テレビを見ながら食事はNG
ーー親子で食卓を囲むコミュニケーションは、子どもにとってどのような意味があるのでしょうか?
親野先生:私たち人間は、食事中とてもリラックスしていて、開放的・受容的になります。そのため、食事の時間をいっしょに過ごすことで、普段よりも打ち解けて話せたり、相手の話も寛容的に聞くことができたりします。外交やビジネスの場でも食事をしながら重要な話をすることがあるように、一緒に食べることで人間同士の絆が深まるんですね。
そんな大切な時間を毎日積み重ねることで、子どもは「お父さんお母さんに大切にされている」と親の愛情を実感したり、「自分も家族が大好き」だと自分から家族への愛情を感じることができます。現代人は忙しく、子どもといっしょに食卓を囲むことができない家庭もあると思いますが、できるだけ子どもに孤食をさせないことです。
ーー食事中の会話は、どのような内容が望ましいですか?
親野先生:お互いの理解につながるような話題がよいですね。保育園であったことや友だちのこと、子どもが好きなゲームの話を聞いてあげたり、親御さんの仕事の話や子ども時代の話をしたり、なるべく家族に関する話題を選択しましょう。
望ましくないのは、テレビを見ながらご飯を食べること。テレビを見ていると、どうしてもテレビでやっていることに関する話題になってしまいます。それによって盛り上がることもありますが、お互いの理解が深まることにはつながりません。もし毎日テレビを消すのが難しければ、たとえば朝だけはテレビを消して食べる、曜日を決めてノーテレビの日を作るなどの方法もありますよ。
まだ喋ることができない小さい子どもに対しても、笑顔で話しかけながら食べましょう。食事は、楽しい時間にすることがとにかく大切です。「これおいしいよ」「これはバナナだよ」などと、お父さんお母さんの声を聞かせて表情を見せてあげることで、赤ちゃんは嬉しくなります。
また、赤ちゃんが離乳食を食べながら「うーうー」など喃語を喋ったりしたときには、表情豊かに反応してあげたり、答えてあげましょう。そうすることで、食事の時間は楽しいものだと次第に覚えていきますよ。
少食な子ほど、食事中の楽しい会話が必須
ーー子どものなかには食べること自体があまり好きではない子もいて、そのような子は食事の時間が苦痛になってしまうかもしれません。
親野先生:生まれつき少食の子もいますよね。年齢も体重も同じ子がいても、基礎代謝はそれぞれ違っていて個人差がありますから。親は、どうしても子どもにはしっかり食べてほしいと思うので、あまり食べない子に対しては言葉がきつくなってしまうこともあると思います。
でも、それは本当に逆効果で、食事の時間をどんどん苦痛なものにしてしまいます。食事の時間が楽しい時間であることを何よりも優先して、少食の子ほど楽しいコミュニケーションを意識しましょう。
また、親御さんがおいしそうに食べる姿を見せることは、モデリング効果が働きやすいのでおすすめです。モデリング効果とは、憧れやお手本となる人の行動を観察して真似することで、その行動を学んでいくことです。「柔らかくておいしい」「甘くておいしいよ」などと言語化してあげるのもよいでしょう。ただし、嫌みっぽい言い方はNGです。
とはいえ、子どもが少食だといっても、必要な栄養をバランスよくちゃんと取れていればそんなに焦ることはないと思います。もし心配なら、医師や保健師など専門の方に相談してみましょう。
子どもは苦手な食べ物を本能で回避する
ーー子どもの好き嫌いが激しくても気にしなくてもいいのでしょうか?
親野先生:はい。子どもは苦手な食べ物がたくさんあるほうが普通ですし、好き嫌いは本能によるものなので、子どものときに直す必要はまったくありません。むしろ無理に直そうとすることは逆効果です。
子どもは一般的に苦いものと酸っぱいものが苦手ですが、それには理由があります。苦い食べ物は毒が入っている可能性、酸っぱい食べ物は腐っている可能性があるかもしれないと、本能で悟ってしまうからです。経験のある大人はある程度見た目などで判断できますが、経験の少ない子どもにはわかりません。
だから、命を守るために子どもは生まれつき苦いものと酸っぱいものにはブレーキがかかるようになっているのです。ただ、そのブレーキの強さも個人差が大きく、強烈なブレーキがかかる子は苦い物や酸っぱい物には強い拒否反応を示します。
子どもの味覚に関するメカニズムを親御さんが理解することは、子どもにとってはもちろん、食事の用意をしている親にとっても、精神的な負担を軽減するという意味で重要です。
大人になるにつれて、だんだん食べられるようになる食べ物でも、子どものうちに無理やり食べさせられることでトラウマになってしまうことが往々にしてあります。食べられない食材があっても他の食材で必要な栄養を摂れていれば問題ないわけなので、「好き嫌いをなくそう」「たくさん食べてもらいたい」などと思いすぎる必要は全くありませんよ。
食事のマナーは注意しなくてもよい
ーー食事中の会話に夢中になると、マナーが悪くなることもあると思います。どのくらい指摘したほうがよいのでしょうか?
親野先生:程度問題ではありますが、基本的には言わなくてもよいと思います。マナーにやたらと厳しい親御さんもいますが、親子関係が良好で、親が一般的なマナーをわきまえて生活していれば大丈夫です。子どもは、大好きなお父さんやお母さんみたいになりたいという無意識の気持ちが働き、親と同等のマナーを身につけます。
一方で、マナーが悪いからといって、楽しいはずの食事の時間に指摘したり叱りすぎたりしてしまうと、親子関係が悪くなってしまいます。関係が悪い親の言うことは、もっと聞きたくなくなってしまいますよね。子どもだからこぼしたり汚くなるのは当たり前です。成長する過程で、自然と改善されるので、そんなに注意しなくても大丈夫ですよ。
ーー子どものマナーを気にするよりも親子関係をよくすることと、親自身が最低限のマナーを守ることがいいのですね。
親野先生:そうですね。とはいっても場合によっては指摘が必要なシーンもあるかと思います。、そのようなときは否定的な言葉で言うのではなく、「こうするといいよ」と肯定的な言い方に変えましょう。
また、きれいに食べてるときには「きれいに食べてるね」と言葉にしてあげること。上手にできてることって、当たり前すぎて大体見逃してしまうんですよね。うまくできているときにそれを言語化してあげると、子どもは「僕はきれいに食べられる子なんだ」という自己イメージができて、それが青写真になっていくのです。
逆に、「行儀悪いよ」とばかり言っていると、行儀悪い自分が自己イメージになってしまいます。だから、否定的な言い方は極力やめること。ちょっとでもできていたら「きれいに食べてるね」と肯定してあげたり、「きれいに食べてくれてありがとう、助かるよ」と感謝を伝える方法もありますよ。
ーーどうしても子どもに注意ばかりしていると、褒めるところがないと感じてしまうこともありますが、できて当たり前のことでも褒めたらいいんですね。
親野先生:そうですね。あと、できてなくても先に褒めてあげるのはどうでしょうか。「いつも頑張ってるね」と言ってあげたらいいのです。親御さんは「頑張ったら褒めよう」「できたら褒めよう」と無意識に思っているから永久に褒められないのです。「できたら褒める」ではなく、「褒めたらできる」と考えてみたら、うまくいくかもしれません。
子育ての99%はよい親子関係を築くことでうまくいく
ーー子どもに注意ばかりしているよりも少しくらいのことは見逃しておくほうが、結果として親の話を聞いてくれるようになったり、親としても楽しく子育てできたりすることにつながるんですね。
親野先生:本当にそうなんです。親御さんが子育てしているときに、一番大事なのはしつけや勉強ではありません。子育てで大事なのは1番から99番目までが親子関係を良くすることで、しつけや勉強は100番目でいいのです。
親子関係をよくすることは、子どもの自己肯定感と他者信頼感につながります。自己肯定感は、自分がお父さんお母さんに愛されている、大切にされていると感じ、自分は存在していいんだと思えること。また、子どもにとって親子関係は一番最初の人間関係であり、その人間関係がうまくいくことで、「自分以外の他人は信じていいんだ」と、他者を信頼できることにつながるのです。
ーーなるほど。自己肯定感と他者信頼感は、人間が生きていくうえでの土台になると言われてますよね。
しかし、親は怒りたいわけではないけれど、ついいろいろなことが目についてしまって、怒ってしまうんですよね……。株式会社ロッテが行った調査でも、「普段のお子様とのコミュニケーションで、不満だと思う/改善したいと思うことを教えてください」という質問に対し、83.7%の親が「つい怒ってしまう」ことだと回答しているようです。
ーーよい親子関係を築くには、やはり理由があっても叱ったりすることはやめたほうがよいのでしょうか?
親野先生:はい。叱ることは極力減らして、ゼロにするくらいに考えましょう。上から目線でものを言うのは絶対ダメで、ひとりの人間としてリスペクトすること。
どうしても言わなきゃいけないときには、いくつかほめたり共感的に話を聞いたりしてから、最後の最後に言うことです。この順番なら、子どもも親の言うことに素直に耳を傾けてくれるようになりますよ。
食事に加えて、おやつ時間でリラックス
ーー食事のほかに、親子関係をよくするための時間はありますか?
親野先生:おやつの時間をいっしょに過ごすことは、さらにおすすめです。食事は義務感があったり、時間に追われていたりもしますが、おやつの時間はもうワンランク上のリラックスがありますよね。
個人の嗜好もありますが、特にチョコレートなどの甘いものは子どもも大人も好きだし、ウェルビーイング感(幸せ感)が上がり、さらに打ち解けることにつながります。ちなみにロッテの調査では、普段親子で食べるおやつとして、チョコレートが第一位という結果が出ているようです。
親野先生:心からリラックスした時間をいっしょに過ごし、親子の絆を深めるために、おやつ時間を楽しく過ごす工夫をしてみたらどうでしょうか。