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【子育てと人間関係#2】子どもは夫婦喧嘩を必ず見ている。夫婦だからこそ話し合いに感情を出すべきでない理由
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教育評論家
教育評論家
親野智可等(おやの・ちから)/教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。
夫と子育ての価値観が合わない、夫婦で子育てや家事の分担が平等じゃない…夫婦関係における不満や悩みは、誰にでもあるのではないでしょうか。今回の記事では、親野智可等先生に、子育てにおける心地よい夫婦関係構築のコツについて詳しく話を聞きました。
夫婦の話し合いは外交交渉と同じ
親野先生:夫婦で子育ての価値観がちがう、家事などの負担が平等じゃない、と悩む方は多いようです。むしろ、悩んでいない方の方が少ないのではないでしょうか。
でも、夫婦で価値観がちがうのは、あたりまえのことだと思います。夫婦といっても別々の人間ですし、そもそも育ってきた環境も、生まれ持った資質も、これまでの経験もまったく異なる人間同士です。子育てに対する価値観がちがうのも当然のことでしょう。
ただ、ひとつだけ、絶対にしない方がいいのは、子どもの前で夫婦が感情的に対立すること。子どもにとってそれはかなり大きなストレスになります。子どもの前での夫婦喧嘩によって、子どもの脳が萎縮してしまうという研究結果もあります。
さらに、その夫婦が言い争う原因が子どものことだと、さらに子どもは辛い気持ちになってしまいます。
「子どもの前では争わない」「その場では我慢して、あとで子どものいないところで話し合う」ということは、大人として守ってほしいと思います。
――夫婦間での「話し合い」が、ちょっとしんどいです。
親野先生:そうですよね。実際にうまく話し合いができている夫婦の方が少ないかもしれません。
でも、家庭に今まで話し合う習慣がなかっただけで、やってみると意外とできたりもするかもしれません。欧米では、夫婦の話し合いや家族会議が頻繁に行われているそうです。
話し合いで心がけたいのは「共感的で民主的な対話」です。
大前提は、共感的に聞くことです。「そんなはずないじゃん」と心の中で思っても、とにかく相手に話をさせて、聞き役に徹しつつ「わかるよ」「なるほど、そういう風に思うんだ」と共感的な態度をとりましょう。
不思議なことに、こちらが共感的だと、相手も同じように話を聞いてくれる確率が高まります。
また、着地点を探すことを目的とした、民主的な対話を心がけましょう。外交交渉のようなものと割り切って考えてみるとよいかもしれません。お互いに少しずつ主張を譲ったり、譲られたりしながら、着地点を見つける努力をしましょう。
もちろん、着地点が見つからないこともあります。でも、腹を割って民主的に話し合うことで、ある程度は許し合えるようになるのではないでしょうか。大切なのは、相手に勝つことや主張を無理やり通すことではなく、対話することです。
もし、子どもを参加させることができるような内容なら、家族会議にしてもいいかもしれません。民主的な夫婦関係、親子関係をつくることがとても大事で、これは子どもにもよい影響を及ぼします。
子どもが、対話の大切さを自然に学べる家庭に
――子どものためにもなると思うと、がんばれそうな気がします。
親野先生:相手の考えの背景がわからないと「なんでこの人はこうなんだろう」というネガティブな気持ちになってしまいますが、話し合うことで、それが乗り越えられることもあります。
たとえば、断捨離が好きでいつも片付けておきたいママがいるとします。パパにモノを溜め込む癖があると、ママはイライラするでしょう。でも、実はパパが育ってきたのが「モノを大切にしたい」という価値観の家庭だったのが原因ということが話し合いによって明らかになったら、夫婦で着地点を探ることができるはずです。
そういった両親の姿を見て、子どもは、話し合いは有効な解決方法だということを学ぶことができます。
「着地点を見つけるための民主的な話し合い」という文化が家庭内にあれば、子どもはそれを自然にできるようになります。兄弟姉妹や友達とのもめ事を話し合いで解決したり、将来、職場における仕事や人間関係の課題について話し合いで解決したりできるようになります。
家庭内にそういう文化がなく、ママが強すぎたりパパが主張を無理やり通すような、どちらか一方が専制的に振る舞う夫婦関係はよくありません。それが見本になって、子どもがまねする可能性があるからです。
日本社会も変わってきていて、昔のいわゆる「上司の愛のムチ」や「スポーツチームの鬼監督」ではいい結果を出すことはできず、逆に、社員が幸せな民主的な職場の方が生産性も高まる、という事実が証明されつつあります。
このように社会が変わる中で、子どもが自然に、家庭で対話の大切さを身につけられたらよいと思います。
子育ては夫婦で「シェア」するべきもの
――夫婦間で、子育ての負担が平等ではないと感じているのですが、よい解決策はあるでしょうか。
親野先生:日本では「イクメン」という言葉があること自体、平等ではないと思います。というのも、男性の子育てについてのテレビ番組で、北欧での街頭インタビューを見たことがあるのですが、彼らは男性も子育てをするのが当然なので、イクメンという言葉の意味を理解することができませんでした。
イクメンという言葉は、男性が子育てしていない現状の裏返しでもあるのではないでしょうか。もちろん、地域性などもあるとは思いますが。
ここで考えたいのが、夫婦の子育てにおける「ヘルプ」と「シェア」という概念です。
多くの男性は基本的に「ヘルプ」の感覚で、子育てや家事を「手伝ってやっている」と考えていて、それが言動の端々に出るのが、ママの不満につながるようです。
本来、夫婦の子育ては「シェア」であるべきで、喜びや苦労をわかちあうのが理想的です。この理想に近づくためには、共感的・民主的な話し合いが欠かせません。
「見えない家事」も同様ですが、改めてタスクをリスト化することで、パパもやる気になり、子育てをシェアしあえる、心地よい夫婦関係が構築できるかもしれません。
「自分の方が大変」をやめてみる
親野先生:良好な夫婦関係のための共感的・民主的な話し合いにおいて、絶対にやってはいけないのは、相手を責めることです。
夫婦はきっとお互いに「自分の方が大変」と思っています。「自分はこんなにやっているのに」という気持ちから、つい責めるような口調になってしまいがちですが、実は、相手も知らないところで苦労しているかもしれません。
責められた相手は不愉快な気持ちになり、心が閉じてしまいます。
話し合いによって着地点を見つけ、心地よい夫婦関係を保ちたいなら、相手を責めるような言い方をしないことが前提です。責めるのはやめて許してあげるのが、よい循環の始まりになると思います。
国同士の外交交渉でも、話し合いのテーブルで相手の国を責めるような言い方はしません。それと同じように、まずはよい雰囲気を作ってから、話し合いを始めましょう。
最初は、できたら「いつも仕事をがんばってくれて、ありがとう」「子どもと遊んでくれてありがとう」など感謝の気持ちを伝え、よい雰囲気を作って話し合いを始めましょう。
話し合いの目的は、子どものためによりよい道を探ること。議論ではなく対話であることが大切です。
実際に対話ができている夫婦は、もしかしたら少ないのかもしれません。でも「話せばわかる」をモットーに、臨んでほしいと思います。