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子どもが幸せになるたったひとつの方法とは。「ずるい子育て」親野先生インタビュー
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教育評論家
教育評論家
親野智可等(おやの・ちから)/教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。
2024年3月に発刊された『ずるい子育て』という本には、子育てが楽になるヒントがたくさん詰まっています。今、子育てがしんどいと感じている親たちに伝えたいことについて、著者の親野智可等先生にインタビューしました。
「ずるい」が子育てを変える?
――親野先生がこの本を届けたいのはどんな人たちでしょうか。
親野先生 : 子育てを真面目にがんばっている、日本の親御さんたちです。
もちろん、真面目なのはよいのですが、講演会などを通じて親御さんたちの悩みを聞いて、空回りしてしまっている人が多いとも感じています。
こういう子にしなくちゃ、他人に迷惑をかけないようにちゃんと自立させなきゃ……と子育てに対するさまざまなプレッシャーが、親御さんが子どもを叱ったり、小言を言う回数を増やしているのではないでしょうか。
片付けも食事のマナーも勉強もすべて、ちゃんとさせないといけないと感じている親御さんが多く、その結果「○○しなければだめ」という伝え方を子どもにしてしまっています。
これは言っている親御さんも聞いている子どもも、両方がつらい気持ちになります。そして、これがよい結果になるかといえば、そうでもないようです。
親子関係が悪くなり、子どもの自己肯定感が下がってしまうという2つの大きな弊害があります。お母さんは真面目にがんばっているのに、その愛情がちゃんと子どもに伝わらず空回りし、子どもも自分の能力をそれほど伸ばせないという例を、公立小学校で先生をしている時からたくさん見てきました。
――「ずるい子育て」という言葉にはインパクトがあると思いますが、このタイトルに込められた思いについて教えてください。
親野先生 : 「ずるい」という言葉はいろいろな捉え方がありますが、この本のタイトルに使った「ずるい」には、効率よく、楽に楽しく子育てをしようという思いを集約させました。
タイパやコスパという言葉はビジネスなどの世界では常識で、それを悪く言う人はいません。ところが、子育てや教育ではタイパやコスパという言葉は使われることなく、「苦労してなんぼ」「それが愛情」のような風潮があると思います。
子どもをちゃんと育てたい、という気持ちはわかります。でも、親はスーパーマンではないので、何でもかんでもがんばるのは不可能です。むしろ、がんばりすぎて不機嫌になって子どもとよいコミュニケーションがとれていなかったり、大事なポイントがおろそかになってしまう親御さんも多いと思います。
だから、子育てにあえてタイパやコスパという視点を入れることが、親子の幸せにつながるのではないでしょうか。
親が幸せなら、子どもも幸せです。親の自己肯定感が高ければ、子どもの自己肯定感も高くなります。
タイパやコスパという視点を入れることを「ずるい」という言葉で表現しました。誰かを貶めるとか他者の不利益ではなく、自己の中で完結する「ずるい」という意味です。
「ピーマンも食べなさい」の弊害
――たしかに、子育てをつらい、大変と感じている親御さんは多そうです……。もちろん、楽しいこともありますが。
親野先生 : 子どものうちに、なんとかしなければと思い、大変だと思いつつ小言を言ってしまう親御さんは多いと思います。
例えば、好き嫌いをなくすために「ピーマンも食べなさい」などと食事の時にいろいろ言ってしまうのは逆効果です。
最近の栄養学の研究では、子どもが酸っぱいものや苦いものを避けるのは、本能だといわれています。「酸っぱいもの=腐っているかもしれない」「苦いもの=毒かもしれない」という理由で、防衛本能が働くのです。
親野先生 : むしろ、食事の時間が楽しくないことの方が、食育の面でも、親御さんのメンタル的にも弊害が大きいですよね。大切なのは、明るく楽しく幸せに食事をすることだと思います。
小言を言いつづけて親子関係が悪くなると「親のようになりたくない」と子どもは思ってしまいます。でも、親子関係が良好だと「大好きなお父さん、お母さんみたいになりたい」と思い、無意識のレベルで毎日一緒にすごす親御さんの姿を真似るようになります。
その結果、自然に食事マナーも身につくのではないでしょうか。
工夫でもっと子育てを楽に
――「ずるい」以外に、親が身につけるべきスキルはありますか?
親野先生 : 工夫することで、効率よく、子育てを楽にすることができます。たとえば、AIを活用すること。
親野先生 : 毎日のように子どもに同じ注意をして、雰囲気が悪くなり、親御さんもストレスを感じるということを繰り返さないために、ちょっと工夫するだけでよいのです。
最初は少し手間がかかると感じるかもしれませんが、一度システムを作ってしまうと、長期的に見ればかなり楽になります。親がするべきいちばんの工夫は「叱らないための工夫」です。
また、朝の時間はとても大切ですが、親御さんも人間なので笑顔で送り出せないほど疲れていることもあるでしょう。そういうときは、作り笑いで十分です。
親野先生 : 親がにっこりすると、子どももにっこりします。それで気持ちよく送り出すことができるだけで、1日がうまくいくような予感がするでしょう。完璧な笑顔である必要はなく、ただ笑うだけなので、ある意味、コスパのよい工夫ではないでしょうか。
「親の力」が親子を幸せにする
――どちらもすぐにできそうな工夫ですね。そもそもこの本を作ろうと思ったのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。
親野先生 : 今の時代は、子育てが大変すぎると思います。
取材や座談会、講演会でたくさんの親御さんに接しますが、みんな大変そうです。子育てにお金もかかる、仕事も忙しい、子どもにうまく声かけできない、子育てが思うようにいかない……。親御さんの負担感はかなり大きいです。
でも、子育てに関する価値観は、時代とともに大きく変わっています。昔は赤ちゃんが泣いたときにすぐ抱っこしてはいけないといわれていましたが、今はちがいますよね。
今までわからなかったことが研究などでわかるようになってきて、でもその情報がうまく広がりきっていなくて、それぞれの常識が異なります。
情報が多すぎて、さらに玉石混合なので、影響力ある人の発言をそのまま真似してしまう親御さんもいます。てぃ先生をフォローするのはいいと思いますけど(笑)
親野先生 : 今までの日本は、勉強も運動もなんでも平均的に上げるジェネラリストを育成する教育でしたが、これからはスペシャリストの時代だと思います。
がんばって苦手なことを克服するよりも、その子の「好き」を応援したほうが楽しいし、よい結果につながるのではないでしょうか。そのためにも「ずるい子育て」を取り入れて、毎日を楽しく過ごし、子どもが好きなことに夢中になれる環境が必要だと考えています。
――親野先生が教育評論家として活動する原動力について教えてください。
親野先生 : 公立小学校で先生になって1学期で「親の力」を感じました。伸びる子と伸びない子がいるのはなぜなのか。学校で子どもをいくら褒めても、自己肯定感が高まらない子がいるのはなぜか。
そういう子は、家庭で親御さんにガンガン叱られているんです。もちろん、親御さんには悪気がないことがほとんどですが。
それなら、親御さんに働きかけて子どもへの接し方を変えることが、たくさんの親子の幸せにつながるのではと考え、今から20年以上前に親御さん向けのメルマガを発行し始めました。内容は、学級だよりに書いていることほぼそのままでしたけど(笑)
一貫して伝えたいことは、親子関係をよくして親子で毎日楽しく幸せに生活することの大切さです。
幸せな親子が増えたら、人類全体が幸せになると、本気で思っています。
――本の中の「目指すのは、子どもが勝手に幸せになっていくこと」という言葉が印象的でした。本当はそれだけでいいのかもしれない、と。
親野先生 : どうしても、親は子に結果を求めがちです。それは他人との比較であることが多いかもしれません。
でも自分の価値観は自分で決めるという「自分軸」がないと、振り回されて終わってしまいます。
親野先生 : 自分軸で生きることはとても重要ですが、そういう生き方がむずかしい時代でもあるかもしれません。だからこそ、毎日を楽しく幸せにすごす親子をもっと増やしていきたいです。