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「好き」が天才を育む。孫正義育英財団が切り拓く、異能人材支援の最前線 【天才の育て方 特別編】
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高い志と異能を持つ若手人材が、才能を開花できるよう環境を提供する公益財団法人 孫正義育英財団。これまでKIDSNA STYLEの連載企画「天才の育て方」でも、多くの財団生が類まれなる才能を見せてくれた。今回は、孫正義育英財団事務局の方に、財団の設立経緯、財団生たちとのコミュニケーションの取り方などをお伺いした。
高い志と異能を持つ若手人材が才能を開花できる環境を提供し、人類の未来に貢献するための機関がある。2016年に設立された、公益財団法人 孫正義育英財団だ。
現在(2025年7月時点)9歳から29歳までの財団生が所属しており、今年7月には新たに第9期生を迎え、総人数169名が在籍している。
日本を代表する実業家である孫正義氏は、才能溢れる若者たちに向けて、次のようなメッセージを送っている。
「高い志と異能を持って、新しい世界を創出していくリーダーが求められます。これまでの延長ではなく、改めて自分に向き合い、生涯をかけて登るべき山を見つけてほしい」
孫正義育英財団は、孫氏の他にも、副代表理事に京都大学iPS細胞研究所名誉所長である山中伸弥氏を始めとして、日本を代表する研究者や経済界の実力者なども理事として名を連ねており、未来を創る若者たちに機会提供、経済的支援を行う。
今回はKIDSNA STYLEの人気連載「天才の育て方」の特別編として、孫正義育英財団事務局の須藤三佳さんと十河さくらさんに、財団設立の経緯や具体的な支援内容、間近で接する「天才」たちの実像や、その成長を見守る中で感じたことなどについて話を伺った。
(左) 須藤三佳さん (右)十河さくらさん
才能ある子が好きなことに打ち込める選択肢を
ーーKIDSNA STYLEの「天才の育て方」をはじめとした企画で、これまでに何人もの財団生にインタビューをしてきました。まさに天才だと感じる子たちばかりでしたが、財団生として認定を受けている彼らは相当な狭き門をくぐっているんですよね。
須藤:はい。毎年多くのエントリーがありますが、認定されるのは30名前後です。大学を始めとした国外の団体とも連携しているので、ここ数年は国内外さまざまな財団生が増え、世界中の異能異才をもつハイポテンシャルな子たちが集まってきています。
ーー具体的な支援内容をあらためて教えてください。
須藤:一つは才能を最大限に発揮できるような機会を。財団生専用施設「Infinity」では、財団生が自身の興味を深め、仲間との出会いから新たな視点を得られるよう、最先端の学習環境と交流の場を提供しています。
Infinityでは、スーパーコンピューターや3Dプリンターといったガジェットを自由に利用でき、必要な書籍もリクエストに応じて揃えています。
さらに、年間30〜40回ほど交流イベントを開催しており、参加者が多様な専門分野の知識に触れて自身の学びを深める機会があります。また、将来につながる貴重なネットワークを築く上でも重要な役割を果たしています。
もう一つは、財団生が進学する際の学費など、やりたいことを応援するための経済的支援です。留学先の生活費や研究費、事業立ち上げにかかる費用、PCの購入費などを支援しています。
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ーー須藤さんは財団設立から携わっているとのことですが、財団が発足した経緯を教えてください。
須藤:社員だけでなく社外の若い起業家が集う、「ソフトバンクアカデミア」というソフトバンクグループの後継者およびAI群戦略を担う事業家を発掘・育成する機関があるのですが、この運営で20代の経営者などと情報交換を進めていく中で、世の中には高校生でもビジネスを起こしたり、アカデミックな論文を書いていたり、様々な分野で才能を持つ若者がいることがわかったのが始まりでした。
当時、そのような才能ある子たちの話を聞いていると、特にやりたいことがあるわけではないけれど、家族や周りからの期待に応えるため偏差値の高い高校に入り、東大の理Ⅲに進み、医者になるといった、いわゆる日本のエリートの道を歩いている子が多くいました。
一度孫に会ってもらった結果、彼もその才能に驚きまして、才能ある子たちを何とか応援したい、何ができるだろうか、ということで始まったのが、孫正義育英財団です。
「本当は何をしたいのか?」「どうすれば自分の力を最大限に発揮できるのか?」を金銭的な制約なく考えられたとしたら、新たな選択肢が生まれるかもしれない。素晴らしい才能を持つ子たちが、好きなことに打ち込むことを応援するために、孫正義育英財団は設立されました。
財団生の家庭の共通点
ーー今までで特に印象に残っている財団生のエピソードはありますか?
須藤:当時中学生で、数学が非常に得意な子が入ってきたときのことをよく覚えています。その子は同じレベル感で数学の話ができる友だちがいなくて、かといって両親も話についていけず、孤独を抱えていました。
でも財団生になってすぐの頃、Infinityでホワイトボードに数式を書いていたら、すぐに他の財団生が反応してくれて、白熱した数学談議が始まったんです。それをたまたま見ていたお母様が嬉しそうに涙ぐんでいた様子が、とても印象に残っていますね。
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十河:私が印象に残っているのは、とある小学生の財団生です。その子は元々英語が得意ではなかったのですが、Infinityに来るようになって、他の子が流暢に話しているのを見て触発されたんです。数カ月後にはネイティブの財団生と普通に会話をしていました。本当にスポンジみたいな吸収力だなと驚いたことを今でも覚えています。
財団生は「これをやりたい」「できるようになりたい」と思ったときの集中力と吸収力が本当にすごいですね。本人のポテンシャルはもちろん高いですが、きっとご家庭で親御さんのサポートも厚いんだろうなと思います。
須藤:確かに子どもが興味関心を持ったものに対して、敏感にアンテナを張っているイメージはありますね。例えば子どもが電卓で遊んでいるのを見たら「数字に興味持ったのかな」と察知して、数学の書籍を何気なく置く。一例ではありますが、このように子どもの様子を見ている方が多いと思います。
十河:子どもに刺さるかわからなくても様々な機会を提供して、どれか一つでも刺さったら、それを全力でやらせてあげる印象ですね。
規格外のリクエストにどう応えるか
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ーー事務局として働くなかで大切にしている価値観を教えてください。
須藤:彼らは狭き門を突破して財団生になった若者ですが「すごい人」みたいなスタンスを取ったりはせず、フラットに普通の一人の人間として接することを意識しています。会話のなかで専門的な話になることもあるのですが、わからないことは今の話は理解できなかったから教えて、と伝えます。
十河:私もフラットなコミュニケーションを取ることを大切にしていますね。
須藤:彼らは既存の枠に捉われないので、事務局へのリクエストも規格外だったりします(笑)。できる限りリクエストに応えるべく、私たちも頭をフル回転しています。
過去には、財団生同士のコラボレーション活動費の支援、海外でも集まれる場所がほしいというリクエストから、アメリカとイギリスに一軒家を借りて、ルームシェアで住める物件を用意したこともあります。
ーー財団生から影響を受けたり学んだりしたことはありますか?
須藤:枠に捉われない彼らと過ごすうちに、どんな仕事でも既存の環境やルールに縛られず、理想に対してどうアプローチをしたらいいのかをまず考えるようになりました。思考が柔軟になった気がします。
十河:私は何でもいったんは興味を持つようになりました(笑)。今までは自分には関係ないとスキップしていたようなことも「これ財団生が好きそう」「この話みんなで聞いてみたら面白そう」と、アンテナを張るようになりましたね。テクノロジーに関しても、財団生には敵いませんが、かじれるくらいの知識にはなったと思います。
須藤:あとは私に限らずですが、子ども時代をやりなおしたい、若いうちにもっと自由に好きなことをやったらよかったと、思っている事務局のメンバーは多いのではないでしょうか。若いうちからいろんなものに触れていたら、もっと選択肢が増えていただろうなと。私たちはその選択肢があることすら気付かず大人になってしまったけれど、世界はこんなに広いと昔の自分に教えてあげたいです。
十河:本当にそう思いますね。私が学生の頃、インターネットはすでにありましたが今とは違ったし、検索の仕方や情報収集の仕方もあまり知りませんでした。学校の先生から得られる情報がすべてだったり……。もっといろいろな人と出会ったり、行動を起こしていたら違う未来があったかなと思ったりもします。
「天才」は「天才」とは思っていない
ーー「天才の育て方」恒例の質問ですが、天才とはどのような人だと思いますか?
須藤:天才と呼ばれる人たちは、恐らく自分のことを天才だと思っていません。ただひたすらに興味があることを追求したり、世の中の問題を解決しようと研究に打ち込んだり。そのような時間も努力も惜しまず突き進んでいける人が結果として「天才」と周囲から言われるのかなと思います。
十河:「好き」が明確だなと思います。財団生が自己紹介するとき、二言目には「〇〇の専門です」と言うんですよね。皆が好きなテーマを持っていて、それに向かって突き進んでいるし飽きない。一生のテーマとして取り組んでいるのがすごいし、共通していることかなと思います。
<取材・撮影・執筆> KIDSNA STYLE編集部