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褒めているつもりの「無意識の差別」【親子で学ぶ差別/後編】
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親子で「差別」について考える新連載。コミックエッセイストのハラユキさんといっしょに、さまざまな専門家の方々に疑問を投げかけ、子どもへの伝え方を学んでいきます。第2回は、社会学・国際社会学者の下地ローレンス吉孝さんが登場します。
▼▼▼この記事の前編はこちら▼▼▼
子どもが「ハーフ」の人々について聞いてきたら?
前編では、私たちが「ハーフ」の人々を「日本人とは違う」と思い込んで初対面で気軽に疑問を投げかけてしまう理由や、当事者の人々が自分のことを「ハーフ」と呼ぶかどうかは人それぞれ違うアイデンティティのひとつだからこそ、一人ひとりの声に耳を傾けることが大切だと話しました。
人種や言語だけでなく、ジェンダー、年齢、障がい、文化的背景などのアイデンティティは相互にかかわっており、一人ひとりの「ルーツ」はさまざまだからこそ、子どもには肌の色や顔立ちなどの外見の“違い”で差別をしないように教えたいところです。
たとえば、子どもが「ハーフ」のお友だちのことを「なんで〇〇ちゃんは肌が黒いの?」と何気なく聞いてくることがあるでしょう。
そんなとき、「そんなこと言っちゃダメ!」と頭ごなしに遮り、異なる肌の人にまつわる話題に触れないようにすることがあるかもしれません。一方で、「〇〇ちゃんがハーフだからといって何も変わらないのよ。あなたと同じ人間なのよ」と教えたとしましょう。
これは、実はどちらも良くない対応の仕方です。
特に、「触れないようにしよう」「差別にならないように気にしないようにしよう」という考え方は、人種の問題をタブー化し、子どもに“自分との違い”を考えさせないようにしている行為です。そうすることで、別の弊害が生まれてしまうので注意が必要です。
大切なのは子どもが「違いを受け入れ理解する」こと
昨今、欧米では「カラーブラインド」は、批判されるようになってきている考え方です。
政治的にも問題になっていて、オバマ大統領が就任した際、「黒人が大統領になったから、人種の問題はもうなくなったんだ」という人たちがいました。人種差別はもう社会からなくなったんだから、考える必要はないと。
こうした考えは、「あなたの人種を気にしない=あなたのために特別な対策をしなくていい」という考えにもつながり、黒人の人々が抱える問題が、全部なかったことにされてしまう。今社会にある問題を覆い隠し、是正する努力を放棄していいという社会の空気を醸成しかねません。
だからこそ、大切なのは「自分との違いを受け入れ、理解しようとすること」なのです。
カラーブラインドについては、昨年アメリカで出版され、今年日本でも翻訳版が出版された『アンチレイシスト・ベビー』(イブラム・X・ケンディ著、アシュリー・ルカシェフスキー、渡辺由佳里、合同出版)という絵本に、この問題を考えるうえでのヒントが詰まっています。
親がまず人種の偏見をしていないか常に自問し、それを子に伝える
マイクロアグレッションのように偏見と結びついた褒め言葉は、「国帰れ」「ガイジン」といったあからさまな差別用語よりも多く日常に存在します。
分けて考えてほしいのですが、、褒めること自体は悪いことではないと思うんですよ。本人の努力で良い成績を取ったり、本人のセンスで似合っている洋服だったり、そういう褒め言葉は良いですよね。だけど、問題なのは「褒め言葉が人種的な偏見と結びついている場合」なのです。
「あなたがハーフだから英語が得意」「あなたの肌が黒いからスポーツが得意」という偏見からくる言葉は、ポジティブな仮面を被っているけれど、結局のところ人種の偏見を相手に伝えていることになってしまうので。相手はまったく褒め言葉として受け取れないですよね。
こうした人種的な偏見は、レイシズム(人種主義)へとつながっていきます。
人種については、たとえば、肌の色はグラデーションのように一人ひとり異なっているもので、どこかで区切れるような明確な基準が存在するわけではありません。人種そのものは科学的に存在しないということが指摘されています。
一方で、歴史的に「人種」という概念がつくり出され、社会のすみずみまで浸透していて、アジア 系、白人系、黒人系など、さまざまなカテゴリーが存在しています 。
こうしたときに、本来は、一人ひとり違うルーツや経験があるはずだと目の前の相手に向き合うべきなのですが、そのカテゴリによって“優劣”をつけてしまうと「人種差別」になってしまうのです。
子どもが「あの人、肌の色が黒いよ」って言ったこと自体には、「そうだね、世界にはいろんな肌の色の人がいるよ」って説明できます。でも、「肌の色が黒い人たちは、悪い人たちなんだね」とか、「肌の色が黒いのは汚い」とか、そういうことを子どもが言った時に、親として何が言えるかってことがすごく大事だと思うのです。
メディアの影響で、白いものは良い、黒いものは良くない、みたいに刷り込まれていますし、それは親個人のせいでもなく、社会の仕組みや考えによるものなのですが、「肌の色が違うからといって悪いことではないよ」「それは社会が勝手に決めていることなんだよ」と、子どもが分からなくても、くり返し説明していくことが重要だと思います。
人種の話について子どもの時から話題にするのは、決して悪いことではなく、むしろしっかり育んでいかないと、何もしなければ偏見は身についてしまうので。同様に、日本のメディアや絵本などでも、まだまだ同じ肌の色や同じ顔つきの登場人物が多い場合があるので、社会の側も変わる必要があります。
もちろん、子どもが小さいころから社会で使われている言葉のニュアンスをくみ取って使うようにすることは難しいです。ただ、「あの子はハーフだから」と親が言ってるのを聞かせることで、子どもが影響され、子どもたちのコミュニケーションのなかでそのような偏見や言葉を身に付けてしまうのは心配ですよね。
だからこそ、「ハーフ」や「人種」のテーマに関しては子どもに教えるだけでなく、子どもといっしょに学ぶこと。この社会に生きている限り、偏見や差別意識は無意識に身に付いてしまうということを知り、常に自分を問い直す姿勢が大切です。
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下地 ローレンス吉孝
1987年生まれ。専門は社会学・国際社会学。現在、立命館大学に研究員として所属。著書『「混血」と「日本人」 ―ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』(青土社)『「ハーフ」ってなんだろう?あなたと考えたいイメージと現実』(平凡社)。「ハーフ」や海外ルーツの人々の情報共有サイト「HAFU TALK」を共同運営
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<漫画>ハラユキ
<取材>ハラユキ、KIDSNA編集部
<執筆>KIDSNA編集部