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ママ友との付き合いは本当に必要?「孤独」は悪いことじゃない【藤本美貴×精神科医 藤野智哉】
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今や生活に欠かせないインターネットやSNS。人と人とが簡単につながりコミュニケーション速度が早くなる一方で、リアルに人と向き合う時間がコロナ禍の影響もあり、減少しています。そんな背景から孤独感や喪失感に苛まれる人が増えているとも言われています。「KIDSNA TALK」第7弾では、タレントで3人のお子さんのママでもある藤本美貴さんと精神科医の藤野智哉先生にメンタルヘルスや自身との向き合い方についてお話いただきました。第3回のテーマは「精神的孤独感」です。
知り合いが少ないから「孤独」とは限らない
加藤
藤本 美貴さん
あまりないと思います。
私の家族は兄姉も含めて「ここがあれば他のものがなくなっても別にいい」と思えるくらい仲がとてもよく、小さなころからずっと「心の支え」でした。
また、「絶対的に愛されている」「守ってくれる」という実感もあり、「家族と一緒にいることが楽しい」という環境で育ってきたので、私も子どもに対して親として同じようにしてあげたいと思っています。
藤野先生
この人には「何でも話せる」、この人だけは「裏切らない」と思える人がいるのが一番いいと思います。もちろんそれは、家族でなくてもいいんです。
そして、もうひとつ大事なことは「大勢でいることの孤独もある」ということ。「みんなと仲良くしなくてはいけない」という考え方に飲み込まれている人が多い気がするんです。
藤本 美貴さん
確かに多い気がします。
藤野先生
「多くの人と仲良くできる」ことは良いことかもしれませんが仮に今、友達が数人しかいなかったとしてそれが本当に悪いことなのでしょうか。
もし「私には知り合いが少ないし、孤独なんじゃないか」と不安に思っているのであれば、「実害はどの程度だろうか」と考えてみることも大事だと思います。
もちろん、人に相談する客観的な視点が入ることで悩みがすっきりする方は、相談できない環境によって孤独を感じるかもしれません。ですが、自分で少しでも解消できるようになれば、頻繁に人に相談する必要はなくなります。
だからこそ、本当にそこまで多くの友人が必要なのか。実際、どれくらい連絡できる人がいればいいのかを考えてみてもいいと思います。
そのママ友との関係は本当に必要なのか
藤本 美貴さん
お子さんを持つママの中には、「ママ友みんなとうまくやらないといけない」と思っている方も少なからずいらっしゃると思います。
藤野先生
そうですね。「本当はしんどいのだけれど抜けられない」という方もいます。でも、「その関係は本当に必要なのかな」と考えてみる必要もあるとは思います。
なんとなく、「仲間はずれにされたら孤独になるんじゃないかな」と思う気持ちもあると思いますが、お子さんが小さいうちは一緒に遊んだりもしますが、小学校や中学校になってまで「子ども同士が仲が良いか」というと、あまり関係なかったりします。
藤本 美貴さん
そうですね、あんまり関係ないかも。
藤野先生
もともとは「息抜きで行っていたランチが負担になる」ということもあります。
だからこそ、「このつながりは本当に必要か」「つながりが負荷になっていないか」を考えて見ると意外に孤独ではなかったりします。
また、精神的孤独感は、「実は自らコミュニケーションを取りにいっていなかっただけ」ということもあります。
視野が狭くなっていると孤独に感じますが、意外に人って知らないところで繋がりが取れていたりするんです。だから、むしろ自分から連絡を取ってみるということもひとつですし、新しいところを作りにいくというのも手です。新しい環境は山ほどあります。
藤本 美貴さん
自分からアクションを起こせない方は嫌われることを恐れているのでしょうか。
藤野先生
自分を否定されている気分になってしまうのかもしれません。
でも結局、それも人と人との関係です。「私って愛されていないんじゃないか」と不安になる背景に「自分は愛される価値がある」と思えていないことが影響している可能性があります。
いい人になって、人に好かれようと思うのではなく、「今の自分でいい」「今の自分を愛してくれる人と仲良くしていこう」という発想でいいんです。
加藤
心の拠り所や自分の居場所が確立している人は「愛される価値」というものをあまり気にしないのかもしれません。
でも、自分の安心できる場所が少ないと「嫌われちゃダメ」とか「よく思われたい」と言った気持ちになってしまう気がします。
藤本 美貴さん
もっとラフに考えた方がいいですよね。こんなにたくさんの人がいるんですから。
藤野先生
そうです。そして「自分は愛される価値があるし、自分を愛してくれる人と一緒にいればいいんだ」という“セルフラブ”の考え方を持つことが大切です。
必要としてくれる場所は他にもたくさんある
加藤
SNSを見てもママ友コミュニティの話題はとても多い気がします。やはり、「近いところでコミュニティを形成しないといけない」と思ってしまうのでしょうか。
藤野先生
学校や会社もそうですね。確かに、授業や仕事に支障が起きない程度には仲良くしなくてはいけないかもしれません。ですが今の時代、時間外でコミュニケーションを取る必要はなくなっています。行きたい人はいけばいいし、行きたくない人はいなくてもいいんです。
藤本 美貴さん
「ひとつのことを始めたら辞めちゃいけない」という強迫観念に捕らわれているのかもしれませんね。例えば、幼稚園に通い始めたらここで卒園しなきゃいけないとか。
加藤
保育園や幼稚園、小学校のお手伝いもそうですよね。
藤本 美貴さん
私は子どもに「学校はここ以外にもいっぱいあるし、別に東京でなくてもいい。極論、日本でなくてもいいよ」ということを言っています。だから「辞めたかったから辞めていい」と言ってあげています。
藤野先生
なかなかそこまで広い視野で、言える人は少ないと思います。
学校でつらいことがあってお子さんが行けなくなってしまったときも保護者は「行かせなきゃいけない」、お子さんも「行かなきゃいけない」というふうに固定感に捕らわれてしまいがちです。
でも、選択肢はいま色々あります。ひとつしか世界がないと、そこで否定されたら「自分ってダメなんじゃないか」と悲しくなってしまいます。
でも、他にも場所があれば「ここで必要とされていなけれど、別の場所で必要とされている」という気持ちになります。
藤本 美貴さん
親としては「子どもが幸せで笑顔でいられる」っていうことが一番大事だと思っています。
だからこそ、それ以外のことは「なんでもいい」と思えると自分も気持ちが楽だし、それを伝えてあげることで、子どもが悩んでいなくても「大丈夫なんだ」と思ってくれると信じています。
藤野先生
そうですね。「お子さんの成長」が一番大事ですから、その過程で誰かが作ったルールに従わなくていいんです。ゴールはそこではないので、見失わないようにすることです。
藤本 美貴さん
確かに、いろんなママ友の話を聞いていくと「あれもやらないと」「これもやらないと」と思ってしまうときがあります。だからこそ、夫婦で「いまこれをやっているけれど本当に必要か、幸せか」ということを話し合う機会を定期的に行っています。
加藤
時間を設けなくても必然的にそういう話になっていくんですか?
藤本 美貴さん
そうですね。習い事についてもそうですが、学校でのことを考えて塾なども「これは一度辞めてみてもいいかもね」というふうに話し合いを持ちます。
他人の「いいね」よりも「自分」を優先
加藤
誰にでも「自分がどう見られているか」が気になる気持ちが少なからずあると思いますが、そういう気持ちはどうしたらいいですか。
藤野先生
「自分の中で何が大事か」ということを決めておくといいと思います。
他人からの「いいね」が大事なのか、自分がよく生きることが大事なのか。どちらを優先するかです。
別に「いいね」を求めることは、悪いことではないんです。
ただ、自分の輪郭がそれでできてしまっているとすぐにその「いいね」はひっくり返ります。何かあるとすぐにブーイングを浴びますから、それをメインにしないということも大切です。
藤本 美貴さん
確かに。他人の「いいね」は、無責任ですから。笑
藤野先生
「いいね」は、そのときは気持ちいいかもしれませんが、実生活でつらくなっていたら意味がありません。
例えば、「いいね」のために「おしゃれをしてご飯を食べに行かないといけない」とか「アフタヌーンティーに付き合わないといけない」とか。
加藤
そこが一生懸命になってしまうことで、しんどくなってしまっては元も子もないですね。
藤野先生
そういう意味では、「ネガティブ・ケイパビリティ(答えのでない事態に耐える力)」という考え方もあるかと思います。
すぐに答えを出さずに耐える「ネガティブ・ケイパビリティ」
藤野先生
世の中って答えがすぐに出ることばかりではないんです。子育ては特にそうですが、すぐに答えを焦らないことです。
宙ぶらりんな状態や環境が変わることで見えてくるものがあるので、すぐに答えを出さなくても大丈夫なんだ、ということを思っていてほしいと思います。そして、人は耐える力も持っています。
今の世の中は、すぐに答えを出すことを要求される時代であり、なんでもすぐに白黒つけたくなるのですが、グレーな部分もいっぱいあることを知っておくことが大事だと思います。
藤本 美貴さん
グレーで悩んでいるからこそ見えてくるものもあるんですよね。
藤野先生
答えを出すとそこで終わってしまいますが、グレーを検討しているうちに新しく見えてくるものもあります。
藤本 美貴さん
試行錯誤ということですね。
藤野先生
仮に「これで人生終わったな」って思っても、なんだかんだと事態は好転していきます。だから焦らずにちょっと待ってみることが大切です。今何か悪いことが起きてもいま結果を出さなくてもいいんです。
加藤
そういうときは1回止まって、別の視点に切り替えることが重要ですね。
そして、精神的な孤独感には「自分に愛される価値がある」ことに気付いていないことがあるため、「自分を愛してくれる人と一緒にいればいいんだ」という“セルフラブの”考え方を持つこと。
さらには、「近い関係だからといっても仲良くしなくてもいい」「必要としてくれる場所は他にある」という発想の転換は、「孤独」や「不安」の軽減につながることだと思います。
また、藤本さんがおっしゃっていたお子さんに対する「絶対的な親の愛と守り」についても改めて親子の在り方を考えさせられる心に残るお話でした。
藤本さんは「悩みを相談できない」「心の支えを得られない」といった感情を持たれたことはありますか。