連れ子を”区別”しても”差別”はいけない。日本でステップファミリーが浸透しないのはなぜ?

連れ子を”区別”しても”差別”はいけない。日本でステップファミリーが浸透しないのはなぜ?

2025.03.18

近年、結婚したカップルの約4組に1組が再婚家庭と云われるほど、離婚や再婚が増えています。今回の記事では、子連れ再婚家庭ーーステップファミリーの支援を行うNPO法人M-STEP 理事長の平田えりさんと、実業家のひろゆきさんをお招きして、ステップファミリーが抱える問題点や子どもたちへのケアなど、議論していきます。

ひろゆき
ひろゆき/ 本名:西村博之。1976年生まれ。パリ在住の実業家。「2ちゃんねる」開設者。主な著書に『論破力』(朝日新書)、『1%の努力』(ダイヤモンド社)、『自分は自分、バカはバカ。』(SBクリエイティブ)、『日本人でいるリスク』(マガジンハウス)など。
平田えり
平田えり/ 2005年 に三鷹市にて、子連れ再婚家族(ステップファミリー)をサポートする任意団体M-STEPを設立。 2013年に任意団体を法人化し、NPO法人M-STEPを設立、理事長就任。自身もステップファミリーで育ち、2人の子を持つシングルファザーと結婚。その後継子2人、実子2人を育てる。現在は、M-STEP独自のプログラムを構築し、全国にいる子連れ再婚家庭(ステップファミリー)のサポートをしている。
鉢嶺杏奈
鉢嶺杏奈/1989年 東京都出身。映画やドラマ、CMで女優として活躍する一方、TBS系バラエティー「日立世界ふしぎ発見」のミステリーハンターを務めるなど、タレントとしても活躍。2児の母。

いちばんの犠牲者になり得るのは子ども

近年、離婚が増えていることに影響し、再婚数も増加している。再び結婚するカップルの中にはお互い、もしくは一方が、以前のパートナーとの間に生まれた子どもを連れての再婚となるような家庭も多い。このような子連れ再婚家庭ーーステップファミリーと呼ばれている家族の形は数を増やしており、その家族関係の在り方について、悩む人も増えている。

今回のKIDSNA TALKでは、このステップファミリーへの支援を行う「NPO法人 M-STEP」の理事長である平田えりさん、また、実業家のひろゆきさんと一緒にステップファミリーが抱える問題などを議論していく。

鉢嶺:まずは、ステップファミリーについて詳しく教えていただきたいです。

平田:子連れ再婚家庭のことをステップファミリーといいますが、一口にステップファミリーといっても、様々なケースがあります。カップルの片方に子どもがいて、交際・再婚をするケース、カップルの双方に子どもがいて交際・再婚をするケース。他にも、離婚歴があって、以前の結婚のときに子どもがいる方が交際、再婚する場合も含まれます。

ステップファミリーという言葉自体はかなり前からありますが、日本では「子連れ再婚家庭」と呼ばれることが多いので、あまり浸透していません。

鉢嶺:ひろゆきさんはステップファミリーという言葉をご存知でしたか?お住まいのフランスでは、ステップファミリーを表現する言葉はあるのでしょうか。

ひろゆき:言葉として聞いたことはあります。フランスでは、子どもがいて離婚・再婚するということは当たり前のことなので、そのための特別な用語というのは存在していません。

鉢嶺:フランスでは、子連れ再婚は一般的な話なんですね。ちなみに、平田さんは普段どのような活動をされているのでしょうか?

平田:私たちは、当事者の皆さんが繋がれる場所を作りたいと「NPO法人 M-STEP」という団体を立ち上げました。LINEをはじめとしたSNSや交流会を実施するなど、ステップファミリー同士が、コミュニケーションを取れるような仕組みを作ることに特段力を入れております。

後は、子連れ再婚する前の方を対象にした、ステップファミリーの基礎知識や、ステップファミリーになった後でも役に立つような心理学の勉強会も行っていたり、私たちスタッフと当事者との距離が近くなるように、毎週一回ライブ配信やYouTubeへの動画アップなど、当事者目線のサポートができるよう日々活動をしていますね。


相談を受ける女性
gettyimages/Wasan Tita

ひろゆき:ステップファミリーに支援が必要、という感覚が僕自身にはあまりなくて、そうではない家族と同じでは?と思ってしまうのですが、何か特有のサポートみたいなものはありますか?

平田:ステップファミリーは、”血縁関係同士ではない”という理由でのいざこざが多いです。特に日本では、家族の血縁を非常に重視する文化があるので、一緒に暮らして価値観や生活習慣の違いが出てきたとき、血縁を理由にするケースが多々あるんですね。

ステップファミリーがトラブルに陥った際、犠牲者になるのは子どもです。子どもは親の離婚・再婚に付いていくしかないので。だからこそ、ステップファミリーの子どもたちへの支援には、特に力を入れて取り組んでいます。

鉢嶺:ステップファミリーは年々増えているのでしょうか?

平田:年々、相談件数が多くなって来ているので、私の体感としてはとても増えているように感じますね。

ただ、ステップファミリー・子連れ再婚の割合を国が人口動態統計などでデータを取っているわけではないので、はっきりしたことはなんとも言えません。国がデータとして取っているのは、離婚率・再婚率・養子縁組をした割合しかなくて、これらのデータからは、再婚率は4組に1組、離婚率は3組に1組ということしかわからないのです。

ちなみに、結婚相談所の統計によれば、支援を求めている人と繋がるためにも、しっかり統計を取ってもらいたいということは伝えているのですが、未だ実現は出来ていないのが悔やまれます。

継母=意地悪のイメージが染み付いている?

鉢嶺:ステップファミリーの方々からは、どのような相談が多いのでしょうか?

平田:生活習慣の違いや連れ子に関することが多いですね。特に連れ子については、好きになった相手の子どもなのに愛せない、お世話ができない、と自分を責めてしまう方も。「お世話ができない私は悪魔なんじゃないか」「親になれなくてごめんなさい」というような気持ちを持ってしまう継親さんが多くいらっしゃるのです。このようなところから児童虐待につながってしまうケースもあります。

ひろゆき:話を伺った限り、女性の方がうまく馴染んでいくのが難しそうだと感じました。男性の場合、妊娠・出産ができないので、子どもが生まれた直後は父親という感覚がなく、時間が経過していく中で父親というものを自分の中に作っていく人が多いです。

一方、女性の場合は妊娠中から、すぐに母親として覚悟を持つ人が多いので、再婚によって急に子どもができたときも、継子を息子・娘と思いこまなければならないと、責任を強く感じる方が多いのかと。

居間で疲れた母親と泣いている赤ちゃん
gettyimages/takasuu

平田:おっしゃる通りですね。今、日本の1人親家庭の数は、母子家庭が約120万世帯、父子家庭が15万世帯といわれており、母子家庭の方が圧倒的に多い状況です。私も初婚でステップファミリー、継母をやっていますが、途中からの育児は全くリソースがない状態で育てるので、本当に大変です。

鉢嶺:自分が出産した子どもの子育てでも様々な葛藤や悩みがあるので、再婚によって、違う環境で育ったお子さんの親になるというのは、計り知れない責任や、どうしたらいいのかわからないという感覚になってしまうと思います。

ひろゆき:お話を聞いて気になったことがあるのですが、母子家庭再婚と父子家庭再婚の場合、どっちが難易度高いのでしょう?

平田:どちらも大変であることが前提ですが、継母の立場になった女性から相談を受けることが多いですね。継母と聞くと、昔話などで悪いイメージがあるのか「継母=意地悪」のようなレッテルを貼られてしまうことがあり、そういったことからも悩む方が多いです。実際、私自身も、周囲からの目線で辛い思いをした経験が何度もあります。

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連れ子を”区別”しても”差別”してはいけない

鉢嶺:子連れ再婚の難しさはどのような点にあるのでしょうか?

平田:生活習慣や価値観、子育てなどについて、より夫婦間ですり合わせをする必要があるということでしょうか。実際、話し合いや交渉をする時間をしっかり持ったことで、ステップファミリーとしての生活が上手くいったというケースはたくさんあります。

ただ、一点気をつけたいのは、話し合いというのはお互いの考えをすり合わせる場を設けるということで、決して”こうあるべき”を押し付ける時間にしてはいけません。感情論で相手と話してしまうと、結局喧嘩になってしまって、夫婦関係が破綻してしまうケースは少なくないので。

対立する夫婦
gettyimages/kieferpix

子連れ再婚でうまくいくためのポイントは2つあります。1つ目は時間をかけて自然に親子関係を築くこと2つ目は、連れ子との関係性に悩んだとき「区別はしても差別はしないこと」です。子どもは大人のことをよく見ています。差別をされると「自分なんていらないんじゃないか」と思ってしまうんですね。

ひろゆき:区別と差別は、子どもが「どう感じるか?」が重要だと感じました。例えば、自分の実子には「宿題をやらなかったらご飯抜き」という教育方針でやっていたとして、その後「宿題はいつやってもいい」という教育方針でやってきた人と連れ子同士で再婚した場合、「あの子の方が優遇されている」と子どもは当然感じるわけですよね。教育方針や生活習慣には正解がないので、すごく難しい問題ですね。

平田:そうですね。おっしゃる様に、生活習慣の違いで子ども同士がすごく揉めるというのは、よくあるケースです。「なんでこの子は良くて、自分は駄目なのか」ということを、例えば実親がやってしまった場合、子どもは実親を継子に取られたと感じて、敵対心が芽生えてしまう、なんてこともあります。

ステップファミリーにおいて、子どものメンタル保持は一番大事です。でも再婚を前に、なかなかそこまでたどり着くのが難しいといえます。再婚するとき親になる大人は「何とかなるんだろう」と思っていることがほとんどです。

ひろゆき:子どもの立場で考えると、すごく怖いなという気がしますね。親が離婚したことで、片方の親に自分は捨てられたという感覚を持ってしまう子どももいると思います。親が再婚して、再婚相手の子どもたちに愛情を注ぎ始めれば、自分が受けられる愛情が2分の1、3分の1になってしまうかもしれない。でも、再婚したから新しい家族にも気を遣わなくてはいけないといういう状態になると、子どもは不安だし、怖いと思うのは当然かなと。

平田:確かに子連れ再婚家庭の子どもは、親の離婚によって喪失感を抱いている割合が高いと思います。親の再婚後、実親が再婚相手とばかり仲良くしているところを見てしまったりすると、「自分はどうしたらいいのだろう、逃げる場所もない」「愛情がどこかに行ってしまった。ママがママではなくなってしまった」と子ども自身のアイデンティティを失ってしまうのです。

孤独な子ども
gettyimages/Pablo Rodrigo Sanchez Remorini

鉢嶺:フランスでは、再婚家庭にどのようなケアをしているケースが多いのでしょうか?

ひろゆき:フランスは共同親権なので、離婚したとしても、生物学的な親とも会い続けることができます。ここが日本と大きく違うポイントですね。日本では、離婚したら生物学的な親と会う機会が減る家庭が多いと聞くので、子どもにとっては辛いのではないかと。定期的に会う機会があれば、「あなたのことが好きじゃなくて離婚したわけじゃないよ」ということを親が子どもに伝えられますよね。だから、子ども自身も「親同士で何か理由があってその家族で一緒には住んでないけど僕は嫌われてるわけじゃないんだ」という感覚を持つことができると思います。

今の日本の環境だと「自分は嫌われていない」という感覚をなくすことはなかなか難しいのではないでしょうか。

平田:日本でも、来年5月に共同親権に関する法改正がようやく行われます。私たち団体としては、制度に賛成も反対もしていませんが、会えるなら会った方がいいと考えています。M-STEPでも、別団体を立ち上げて面会交流支援、仲介サービスをやっていますが、やはり親と会えている子どもと会えていない子どもは全然違いますね。

ステップファミリーも十分幸せになれる

鉢嶺:子どもに交際相手を紹介する場合、気をつけた方がいいポイントについて、ひろゆきさんはどう思われますか?

ひろゆき:紹介したけど、結局再婚に至らないことが多いのではないかと思います。僕の彼女は母子家庭で、母親から紹介されることもあったみたいですが、結局交際相手で終わることが多かったようです。子ども心に「自分がいたから再婚できなかったのかな、私のせいなのかな」と残ってしまうこともあったと。

平田さんにお伺いしたいのですが、「この人なら再婚しても大丈夫!」となるまで、子どもには会わせない方がいいのでしょうか?

平田:そうですね。子どもには、そのパートナーの方との信頼関係がしっかり出来てから紹介した方が良いと思います。「この人とだったら一緒に暮らせそう」と思えるまで、時間をかけて信頼関係を築いた上で子どもに紹介しましょう。

鉢嶺:良い縁があったとして、子どもが再婚家庭に慣れるまでにどれくらい時間がかかるものなのでしょうか?

平田:慣れるまでに大体3年ぐらい、落ち着くまで5年ぐらいかかります。ただ、その間に子どもは成長するので、幼少期は何とか順応出来ていても、思春期になってきたら反発が起こる可能性は非常に高いです。そのため、子どもの反抗期とか思春期に向き合ってあげられるような余裕が家にないといけません。対応方法によっては、子どもがどんどん歪んでしまって家に帰ってこなくなってしまうこともあるのです。

子どもと真剣に話す母親
gettyimages/kokoroyuki

鉢嶺:ステップファミリーのさまざま葛藤や苦労を乗り越えて、平田さんのように幸せな家庭を築かれている方もいらっしゃるかと思います。平田さんは、ご自身がステップファミリーだからこそ気づけたことはありますか?

平田:難しさを多くお伝えしてきましたが、ステップファミリーという家族の形は、仲間が増えて家族・チームが広がるものだと思っております。前婚のときの親との交流があれば、保護者が3人に増えるということなので。本来であれば、家族に関わる大人が増えることから、ステップファミリーは子育てしやすくなる。大人が増えるということは、子どもにとっても心の拠り所が増えるということですから。

あと、これは私の経験則ですが、子どもは血縁関係がなくとも仲良くなれます。

ひろゆき:確かに子どもは血のつながりなど関係なく仲良くなれますよね。ステップファミリーが上手くいくためには、子ども同士で仲良くなって楽しい状況が作れるといいのかなと感じました。

家で一緒に遊ぶ子どもたち
gettyimages/Keys

鉢嶺:ひろゆきさんは、ステップファミリーを理解するのにどのような社会が必要だと思われますか?

ひろゆき:ステップファミリーが当たり前にいるということが広がるといいと思います。4組に1組が再婚なのであれば、連れ子はそれなりに社会にいるはずなのに、なんとなく見えづらい状況になってしまっているのでしょう。「うちもステップファミリー」「私も」といえるようになれば、当事者の人たちがもっと繋がりやすくなるのではないでしょうか。

平田:ステップファミリーは社会的認知度が低く、どういう家族なのか知らない人も結構います。ひろゆきさんがおっしゃった通り「うちもそうだよ」といえるようになると、離婚も悪くないし、再婚も悪くないという社会になっていくのではないかと思います。

ひろゆき:いきなりNPO法人に相談となるとハードルが高いかと思うので、ママ友やパパ友の中にそういう人がいると声をかけやすいですよね。

平田:そうですね。私たちの団体も自助グループから始まってNPO法人になっているという背景があったりするので。いずれにしろ1人で抱えこまずに相談してみてください。

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