スマホに脳が壊される?子どもの発達を阻害するスマホの恐ろしさ

スマホに脳が壊される?子どもの発達を阻害するスマホの恐ろしさ

2025.12.19

「スマホ育児」をテーマに、子どものスマホ利用について研究を続けてきた東北大学応用認知神経科学センター助教・榊󠄀浩平先生と、現役保育士のてぃ先生がトーク。司会には、自身も2児の母である、タレントの鉢嶺杏奈さんをお迎えしました。前編は、学力とスマホの関係をデータを用いて解説。

画像
榊浩平。東北大学 応用認知神経科学センター 助教。2019年東北大学大学院医学系研究科修了。博士(医学)。人間の「生きる力」を育てる脳科学的な教育法の開発を目指した研究を行っている。
画像
てぃ先生。現役保育士。SNS総フォロワー数は180万人を超え、保育士としては日本一の数を誇る。育児アドバイザー、顧問保育士、講演活動など、メディア出演なども多数。
画像
鉢嶺杏奈。1989年 東京都出身。映画やドラマ、CMで女優として活躍する一方、TBS系バラエティー「日立世界ふしぎ発見」のミステリーハンターを務めるなど、タレントとしても活躍。2児の母。

脳は”使わないと育たない”が大原則

鉢嶺:家事や育児で手が離せないとき、子どもにスマホを見せているご家庭は多いと思います。一方で「スマホは脳に悪い」といった情報を耳にして、不安になる方もいるのではないでしょうか。榊先生、実際のところいかがでしょうか?

:「スマホが子どもの脳の発達に悪影響を与える」という研究結果が、世界中で報告されているのは事実です。脳には“使えば育つ、使わなければ育たない”という大原則があります。スマホを使用することで脳を使わない時間が増え、さらにはその時間に本来得られたはずの経験が奪われ、脳が育ちにくくなるといわれているんですね。

てぃ先生:とはいえ、スマホを使うことで伸びる力がある可能性はありますよね?

榊:確かに、メリットが全くないわけではありません。ですが「スマホを見ているだけ」では、失われる経験の大きさの方が上回ります。つまり脳の“使えば育つ、使わなければ育たない”の原則を考えると、スマホを使用することで得られるメリットよりデメリットの方が大きいです。

画像

鉢嶺:スマホは何歳まで見せないほうがよいのでしょうか?

榊:よくご質問いただきますが、実は何歳まで見せたらいけないとか、何時間以上は見せないほうがいいという話に科学的根拠はありません。なので、あまりそこに捉われるべきではないかなと思います。

てぃ先生:WHOが出している指針では、スマホは2歳までは見せないことを推奨されていますよね。何か根拠はあるのでしょうか?

榊:これも特に科学的な根拠があるわけではないんですね。24時間のなかで最も大切なことは睡眠であり、残った時間で「発達につながる活動」をどれだけできるか、という考え方をもとに作られた基準のようです。

てぃ先生:なるほど!たしかに2歳児は1日に11〜14時間の睡眠時間を推奨(※)されているので、ご飯やお風呂の時間を除くと使える時間は限られる。それを考慮するとスマホに時間を使うより、遊ぶことなどに時間を使うことが発達上よいということですね。

厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023.(RECOMMENDATION 2 こども版)」

榊:そういうことです。

鉢嶺:お母さんたちもスマホを見せたくて見せているわけではないので、辛いところではありますが…。ちなみに睡眠時間もやはり学力に影響するのでしょうか?

画像

榊:はい。昔から寝る子は育つと言われているように、やはり脳の発達にとって睡眠は非常によい影響があると分かっています。

学力向上はスマホ時間に左右される?

榊:私たちの研究チームでは、仙台市の小学2年生から中学3年生までの約7万人を対象に、10年以上にわたって追跡調査を行っています。

スマートフォンの使用状況と学力の関係を継続的にデータとして蓄積してきたのですが、その結果をまとめたのが、この「スマートフォン等の使用時間と学力の相関」を示したグラフです。

画像
※出典:榊󠄀浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

このグラフは、実際の子どもたちを長い期間追い続けることで、“スマホの使い方によってどれだけ学力に差が生まれるのか”を見える化したものなんですね。

鉢嶺:「持っていない」「全く使わない」子たちよりも、「1時間未満使っている」子の偏差値が高いのはなぜですか?

榊:ここだけ切り取ると、スマホを使わないよりも短い時間使うほうがいいと思われるかもしれませんが、我々の見立てとして1時間未満の使用で我慢できる子は、そもそも学力が高い子だと考えています。

てぃ先生:たしかに、大人でさえスマホをダラダラ見続けてしまったり、ついトイレまで持って行ってしまったりしますよね。それを考えると、1時間以内にきちんと自分で止められる子は、とても自制心の高い優秀な子ですよね。

榊:スマホと学力の関係についてお話しすると、よく「スマホが悪いというより、スマホに時間を取られて勉強や睡眠が不足するから成績が下がるのでは?」というご質問をいただきます。

実は、私たちも最初はそう考えていました。そこでデータ分析に「勉強時間」と「睡眠時間」の要素を追加し、影響を検証してみたのです。まず、スマホを全く使用しない子のデータです。

スマホ利用|全く使用しない

画像
※出典:榊󠄀浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

縦軸は偏差値、横軸に勉強時間、奥行が睡眠時間です。右奥がたくさん勉強して、たくさん寝ている子。左手前が勉強せずに、睡眠もしていない子。赤い部分が偏差値50以上、グレーが偏差値50未満です。

てぃ先生:睡眠時間だけでこんなに学力に影響があるんですね。

榊:はい。たとえば睡眠が5時間未満で、勉強は毎日3時間以上している子。せっかく毎日3時間以上も勉強を頑張っているのに平均点を超えられていません。それくらい勉強と睡眠は、セットで担保しないと記憶は定着しないのです。

てぃ先生:30分未満しか勉強していなくても、6~7時間以上寝ていたら、3時間以上勉強している子とあまり変わらず、むしろ超えてしまうことすらあるんですね。

榊:ここからスマホ使用の時間を一時間ずつ増やしていきます。仮に勉強や睡眠の時間が削られることによって成績が低くなっているのだとしたら、このグラフの形は変わらないはずです。逆に勉強や睡眠時間に関係なく成績が低下しているとしたら、グラフの赤い棒が減っていくはずだと考えられます。ではどちらが正しいか検証してみましょう。

【スマホ利用|1時間未満】

画像
※出典:榊󠄀浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

てぃ先生:勉強した時間の分だけ、しっかり身についている感じがしますね。

榊:ところが、2時間を超えると明らかな差が見え始めて、3時間を超えたところで、赤い棒はなくなります。

【スマホ利用|1~2時間未満】

画像
※出典:榊󠄀浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

【スマホ利用|2~3時間未満】

画像
※出典:榊󠄀浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

【スマホ利用|3時間以上】

画像
※出典:榊󠄀浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

鉢嶺:これは衝撃的な結果ですね。どれだけしっかり勉強して、十分な睡眠を取っていたとしても、スマホを1日に3時間以上使ってしまうと、このような影響が出てしまう。そう考えると、親が「勉強しなさい」「早く寝なさい」と言うだけでなく、スマホの使い方を見直すサポートをすることが大切なのかもしれません。

榊:スマホを使った分だけ、しっかり勉強もして、きちんと睡眠も取れば大丈夫――。

そんな単純な話ではないことが、今回のデータで明らかになっています。


勉強中は“スマホ見ない”に振り切るべき

鉢嶺:スマホって見たあとすぐに勉強しようとしても、なかなか集中力が戻らなかったりしますよね。

榊:そうですね。実際にスマホから意識が戻りにくいことを示すデータもあります。

例えば、手元にスマホを置いたまま勉強したり、YouTubeを流しながら勉強する、いわゆる「ながら勉強」が、どれほど学習効率を下げてしまうのかについて分析したグラフを紹介します。


画像
※出典:榊󠄀浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

勉強中にスマホを触ってしまう子が赤、スマホを見ずに集中する子が青です。同じ勉強時間だとしても、明らかにスマホを触っている子は低いですよね。

勉強時間が30分未満だけど集中している子(青)と、3時間以上勉強しているけど「ながら勉強の子」(赤)を比べてみてください。偏差値は同じくらいなんです。

鉢嶺:つまり、スマホを見ながら3時間勉強しても、集中して30分だけ勉強したのと同じくらいの効果しかないということですよね。これは…知らないと本当に損ですね!

榊:そうなんです。「ながら勉強」ではあるけれど、やる気があって、毎日何時間もがんばって勉強している子たちが、あまり勉強していない子よりも成績が悪かったとすると、モチベーションが無くなってしまうかもしれません。自己肯定感も失う可能性がある。でも、悪いのは子ども自身ではなく、勉強中にスマホを触ってしまう行為そのもの。それを教えられるか否かで、その子の将来は大きく変わってくるかもしれません。

てぃ先生:すごい勉強になります。この結果をそのまま子どもたちに見せたいですね。

榊:小学校高学年くらいになると、感情的に叱るのではなくデータを示して冷静に伝えることができるようになります。実際に、私も子どもたちには「家に帰ったら、まず30分だけ集中して勉強を終わらせよう」「3時間ダラダラやるより、その方が2時間半も自由時間が増えて得だよね?」という風に伝えています。

鉢嶺:子どもが未就学児の場合も同じでしょうか?

榊:同じですね。

てぃ先生:きっと遊びでも同じですよね。せっかく子どもが遊びにのめりこんでるときに、親の都合でスマホを見せられたら、スマホのほうに意識が持っていかれちゃう。本当は遊びのなかでもっといろいろな力が身についたかもしれないのに。

画像

榊:おっしゃる通りだと思います。勉強にも遊びにも集中することが大事なんです。オン/オフが大事だとは昔から言われていますが、数字上でも出ているということですね。

こちらの記事も読まれています

スマホが記憶力を奪っていく

榊:スマホと学力の関係についてお話ししてきましたが、次に気になるのは「脳への影響」ですよね。冒頭にもお伝えしましたが、脳には “使えば育ち、使わなければ育たない” という原則があります。そのため、スマホに触れる時間が増えるほど、脳の発達が妨げられるのではないかと考え、私たちは研究所で調査を行いました。

具体的には、5歳から18歳までの約300名を対象に、3年間にわたって脳の発達を追跡しました。その結果、ほぼ毎日スマホなどのデジタル機器を使用していた子どもたちの中に、発達が止まってしまった脳の領域があることがわかったのです。

鉢嶺:聞きたくないです……。

榊:こちらを見ていただくと、脳の3分の1くらいの非常に広い領域で、発達が止まっています。そして、我々が考えたり覚えたりするときに使う脳の前頭前野記憶や感情に関する部分が決定的に育っていないことが分かります。

画像
※出典:榊󠄀浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)

てぃ先生:ほぼ止まってますね!

榊:実は、これまでにもテレビやゲームで同様の研究をしているのですが、こんなに広範囲に結果が出たことはスマホが初めてなんです。

そして、最もダメージが大きかったのが、言語発達への悪影響です。

てぃ先生:スマホは見るばかりで自分が取り組むようなことが少ないからですか?言葉を聞くことはあっても、発する事が少ないから……。
榊:はい。そのように考えています。

てぃ先生:これは…かなり考えさせられますね。つい「教育系の動画だから大丈夫かな」と思って見せてしまうご家庭は多いと思いますが、そういう問題ではなかったんですね。

たとえば、読み聞かせの動画を見せていても、実際には言葉をしっかり学べているわけではない、ということですよね。

榊:おっしゃる通りですね。

鉢嶺:親って、いつも子どもの成長を意識して食べ物とかいろんなことに気を付けているけど、脳のダメージは見えないじゃないですか。だからこそ、いざこうやって目の当たりにするとショックですね。

画像

榊:脳の中でどんなことが起きているのかは見えないですからね。だからまずは、このような結果が出ている事実を親御さんに知っておいてほしいです。

“脱スマホ“で脳の回復余地はあるのか

てぃ先生:これは5~18歳までの子を追跡した結果とのことでしたが、それくらいの年齢の子でも、これから気を付ければ成長の余地があるのか、復活しないのか、どうなんでしょうか?

榊:正直に申し上げると、データがないのではっきりとしたことは分かりません。ただ、脳の成長期と呼ばれる9~18歳くらいであれば、まだ取り返しはつくのではないかと考えています。ずっと脳を使っていた子と同程度まで取り返すことは難しいかもしれませんが、元の世界線の自分と比較したらまだマシかもしれないですよね。

人間は今この瞬間が一番若いので、今から変えていかないと戻せないかもしれない。まず始めてみよう、と私は普段から伝えています。

てぃ先生:スマホがよくないのはわかっていても、子育てで手が離せない時は仕方ない…と、自分に言い聞かせてしまう親御さんは多いと思います。でも、この結果を見ると「本気で見直さないといけないのかも」と思わされますよね。

このまま放っておくのか、今日から少しずつ変えていくのかで、5年後の子どもの姿は大きく違ってくる気がします。

動画本編はこちら

再生ボタン

【てぃ先生×榊浩平】親子でできる「脱スマホ依存」のテクニック

取材レポートカテゴリの記事

KIDSNA STYLE 動画プロモーションバナー
【天才の育て方】#25 古里愛~夢はグラミー賞。名門バークリー音楽大学に合格した、13歳のジャズピアニスト

天才の育て方

この連載を見る
メディアにも多数出演する現役東大生や人工知能の若手プロフェッショナル、アプリ開発やゲームクリエイターなど多方面で活躍する若手や両親へ天才のルーツや親子のコミュニケーションについてインタビュー。子どもの成長を伸ばすヒントや子育ての合間に楽しめるコンテンツです。
  • 保育園・幼稚園を探すなら
  • キズナシッター
  • KIDSNAを一緒につくりませんか?