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【天才の育て方】#26~尾脇勇之介・康次郎~ジョコビッチ選手、チチパス選手も絶賛。世界を魅了する“テニス兄弟”の勝負哲学
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KIDSNA STYLEの連載企画『天才の育て方』。#26はSNSを通じてその才能が世界に見つかり、ステファノス・チチパス選手やノバク・ジョコビッチ選手らトッププロから大会へ招待を受けるほど注目を集める尾脇勇之介さん・康次郎さん兄弟。テニス未経験だった両親と共に、いかにして世界の階段を駆け上がったのか。実業団のソフトボール選手として勝負の世界に身を置いてきた母親の美奈子さんの「自立を促す」教育方針とともに紐解いていく。
「テニスの練習時間は週5回。バスケも週3回。宿題の時間が足りなくて朝早く起きてやっています」
「自分より強い人に勝てたり、リベンジできたりする瞬間が一番ワクワクする」
「チチパス選手のようなきれいな片手バックハンドで、世界中の人に夢を与えられる選手になりたい」
こう語るのは、SNSでの練習風景がきっかけで世界中から注目を集め、ノバク・ジョコビッチ選手やステファノス・チチパス選手らトッププロからもその才能を認められ、一目置かれる存在となった尾脇勇之介さんと康次郎さんの兄弟。
4歳でテニスを始めた勇之介さんは、コーチに褒められた喜びを原動力に急成長。その姿を追って始めた弟の康次郎さんとともに、日々切磋琢磨を続けている。テニス未経験の両親とともに、トップ選手の動画を研究し、コーチの教えを親子で深く噛み砕く。そんな二人三脚の歩みが、ついには憧れのスター選手から直接大会へ招待を受けるほどの、類まれなる飛躍を生んだ。
単なる「天才」の枠に収まらず、泥臭い基礎練習や生活面での自立を重んじるストイックな二人。お母さまの美奈子さんにもインタビューに同席いただき、世界を惹きつける兄弟の育て方についてお伺いした。
「褒められた」喜びが、世界への扉を開いた
ーーまず、お二人がテニスを始めたきっかけを教えてください。
勇之介さん: 4歳のときにテニスの体験レッスンに行ったんです。そのとき、コーチに「上手だね!」ってすごく褒められた。それが子どもながらに本当に嬉しくて、もっとやりたいと思ったのが始まりです。
康次郎さん: 僕は、隣で勇之介が楽しそうにラケットを振っているのを見ていて、「自分もあの中に入りたい!」と思ったのがきっかけでした。

(右)勇之介さん (左)康次郎さん
ーー最初から今のような高い意識を持っていたのでしょうか?
お母さま: いえ、最初は本当に普通の習い事としてスタートしました。共働きなので、仕事後の時間だったり、土日の送り迎えの都合がたまたま合ったのがテニスだったという現実的な理由で(笑)。でも、いざ始めてみると二人ののめり込み方が凄くて。
藤原コーチ(※): 始めた当初から二人の集中力は、同年代の子たちとは明らかに一線を画していたと思います。一番驚くのは、ラリーを始めてから一回もミスをしないこと。多くの子は数球で集中が切れてミスをしますが、二人は地味な基礎練習や、ミスをゼロにするための泥臭い取り組みを一切嫌がらない。その「当たり前の質」の高さが、世界レベルの土台になっているように思います。
※2人が所属する「リーファ・インターナショナル・テニス・アカデミー」藤原慎一コーチ
「新手の詐欺かと思った」SNSが繋いだトッププロとの縁
ーーSNSで練習風景が拡散され、世界のトップ選手から注目されています。この状況をどう感じていますか?
勇之介さん: 最初は全然実感が湧きませんでした。でも、初めて海外遠征に行ったとき、現地の知らない人たちから「君の動画を見てるよ!写真を撮って」と声をかけられて、最初はびっくりして。憧れのチチパス選手からアドバイスをもらったり、試合に招待されたり……。まさか自分がそんな環境にいられるなんて、今でも信じられない気持ちです。
康次郎さん: 僕はジョコビッチ選手からセルビアの大会に招待されたことが一番の衝撃でした。日本の大会とは全然違う雰囲気で、海外の選手は体が大きいし、ジュニアでもプロみたいな迫力がある。あの空気の中にいられたことは、一生の思い出です。

ーーご両親としては、この急激な変化に戸惑いはありませんでしたか?
お母さま: 戸惑いどころか、最初は「新手の詐欺じゃないか」と夫婦で疑ったほどです(笑)。もともとSNSは、二人の成長を身内に見せるための記録用アカウントでしたから。でも、海外から届くDMの熱量に押されて現地へ行ってみると、そこには夢のような光景が広がっていて。あのとき味わった、地上から浮いているようなふわふわした感動は忘れられません。
完璧は目指さない。「チーム」で支える共働きのリアル
ーー共働きでトップアスリートを育てるのは、並大抵のことではないと思います。
お母さま: うちは共働きですし、親だけの力で子どもたちをサポートできているとは思っていません。テニスの試合とバスケの予定が重なったりすることもあり、把握しきれていない部分もあります……。
でも、そこを救ってくれるのが周囲の存在です。他の親御さんが「明日はこれが必要だよ」とリマインドしてくれたり、親族もサポートしてくれたり。周りの助けがあって、初めて成り立っています。
ーー食事などの体調管理で気をつけていることはありますか?
お母さま: アスリートなので、朝は温かいスープを出すなどバランスは意識しています。でも、どうしても仕事で時間が取れないときは、スーパーのお惣菜に甘える日もあります。他の親御さんの完璧な食事を見て勉強させてもらいつつ、うちは「今日は惣菜だけど、次は頑張ろう」と割り切る。無理をしすぎないことも、長く支え続けるコツかもしれません。

2人の練習を見守る母・美奈子さん
「テニスのためにバスケをする」 二刀流で磨く身体能力
――テニスだけでなく、バスケットボールにも取り組んでいるそうですね。スケジュールはかなりハードなのではないでしょうか?
勇之介くん:そうですね。テニスは週に5回、バスケは週に3回練習しています。学校から戻ったらすぐテニスに行って、そのあとバスケに行ったり……。家に帰って宿題をやる時間はあまりないので、次の日の朝早く起きてやっています。

――なぜそこまでして、別の競技であるバスケットボールを続けているのですか?
勇之介くん:すべてはテニスのためです。テニスに必要な体幹などをつけるために始めました。実際にバスケもやっていて体力がついた気がします。
康次郎くん:僕は、バスケのおかげで足が速くなったのがいいなと思います。

――バスケットボールチームの監督(※)から見て、テニスと両立する彼らはどのような選手ですか?
※2人が所属する「滝の沢ミニバスケットボールスポーツ少年団」松尾信一監督
松尾監督:テニスで有名な兄弟が入部してくるということで、選手たちはもちろん保護者の皆さんも、かなりザワついていたのを覚えています。実際に2人に出会った当初の印象は、ごく普通の小学生という感じでした。バスケットの本格的な経験は無いようでしたが、ポテンシャルの高い2人でしたのでメキメキ上達していき、あっという間に元いたメンバーたちを追い抜いていきました。テニスをやりながらバスケットも頑張る2人の姿には、周りの子たちもとても大きな影響を受けたと思います。
――異なる競技をすることは、二人にとってどのような経験になっていると思われますか?
松尾監督:バスケットは常にたくさんの仲間や相手選手の位置を確認し、狭いコートでスペースを考えながら戦うスポーツなので、この辺りがテニスとは大きく異なる点かと思います。「周りを見て、次の展開を予測してプレーする」。言うのは簡単ですが、子どもたちにはとても難しい壁となっていて、2人とも苦戦しながら取り組んでいます。時には話が聞けなかったり、苦手なプレーから逃げたり、というように他の選手と同じような小学生らしい部分も垣間見えます。(笑)

テニスが本業ではありますが、バスケットをやっていたからこそ気づける事や、チームスポーツから学べる経験などあるはずです。そういった事をテニスにも生かして、これからもカッコいい姿を見せていって欲しいと願っております。
「上履きは洗わない」実業団出身の母が貫く自律の教え
ーーお母さまは実業団でソフトボールをされていたそうですね。その経験は教育にも影響していますか?
お母さま: そうですね。私はずっと「結果がすべて」の厳しい勝負の世界にいました。誰も助けてくれない、最後は自分の努力で壁を乗り越えるしかない。そういう世界しか知らないからこそ、息子たちにも「自分のことは自分でやる」ことを徹底させています。たとえば、学校の上履きは、私は絶対に洗いません。「この時間に洗っておかないと、月曜日に乾かないな」という予測も含めて、自分で考えさせる。テニスはコートに立てば一人で戦うスポーツです。生活の中での甘えは、プレーの甘さに直結します。宿題もテニスも、自分で自分をコントロールする習慣をつけてほしいんです。

ーー壁にぶつかったとき、親としてどう手を差し伸べていますか?
お母さま: あえて何も言わず、ぐっと我慢します。しんどいときに、どうやって自分を救い出してくれる人に声をかけ、どうやって自分で動くか。そもそもどういう自分になりたいのか。その「乗り越え方」を自分で見つけてほしいんです。もちろん、痛い目を見ることもありますが、それも学び。親ができるのは「自分で戦う覚悟」を持たせることだと思っています。
テニス未経験だからこそ、親子で「かっこよさ」を追求できた

ーー指導経験のないご両親が、ここまで二人を導けた秘訣は何だと思われますか?
お母さま: 最大の理由は、「夫婦ともにテニスに対して無知だったこと」かもしれません。知識がないからこそ、子どもと一緒に「何が強いんだろう?」「どのフォームがかっこいいんだろう?」と、YouTubeを食い入るように見て、ゼロから研究してきました。親が教えるのではなく、親子で「正解」を探しに行く。そのプロセスが、二人の探求心に火をつけたのかもしれません。
ーー「天才」とはどんな人だと思いますか?
勇之介さん: 僕は、「ひとつのことに全力で夢中になれる人」が天才だと思います。何も努力せずにできることよりも、夢中になって続けられることの方がすごいと思うから。
ーー将来の夢を教えてください。
康次郎さん: 僕は海外の選手と一緒に練習して、どんなに追い込まれても挽回してくる余裕とか、ショットの安定感を学びました。どれだけ端っこに打たれても追いついて返す姿が本当にかっこよくて、僕もそういう選手になりたいと思っています。シングルスでもダブルスでもトップレベルになりたいです。
勇之介:僕は、チチパス選手みたいに、きれいな片手バックハンドを武器にして、いろんな人に応援されて、たくさんの人に夢を与えられる選手になりたいです。
編集後記
「一生分以上の親孝行をすでにもらっている」と、感謝の言葉を口にするお母さま。ご自身もアスリートらしい潔い教育方針の根底には、勝負の世界を生き抜いてきた人としての強固な哲学があった。親がお膳立てをせず、あえて突き放すことで芽生えた二人の自立心。「テニスで世界中の人に夢を与えたい」と語る兄弟の視線の先には、すでに世界の頂点が見えているに違いない。





























