【専門家監修】保育園児と幼稚園児は学力に差が出る?保育園児の勉強4つのポイント

【専門家監修】保育園児と幼稚園児は学力に差が出る?保育園児の勉強4つのポイント

2024.08.16

Profile

中村 大輝

中村 大輝

宮崎大学教育学部講師

2023年度より宮崎大学教育学部講師。専門は科学教育、理科教育、教育心理学。東京都の公立小学校教員を経て、広島大学大学院で学んだ後、大学教員になる。2022年広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。特に科学的探究を通した思考力の育成、現代的な教育測定法の開発などの研究に取り組んでいる。主な役職は日本理科教育学会広報委員会副委員長、国立教育政策研究所PISA2025年調査の問題検討委員など。

子どもを保育園に通わせている保護者のなかには、「幼稚園に通っていた子に比べ、保育園出身の子は勉強をあまりしていないから、小学校に上がってから苦労する」といった話を聞き、心配になったことがあるかもしれません。本記事では、幼児教育の必要性と共に、保育園児の勉強のポイントや、保育園での勉強に関する保護者の声、幼稚園児との学力差などについてまとめました。

保育園児と幼稚園児の勉強事情

一般的に、文部科学省管轄の学校教育施設である幼稚園では勉強を教え、厚生労働省が管轄していた保育園では勉強は教えないとされていますが、2023年4月「こども家庭庁」が発足したことにより、方針に変化がありました。

これまでは、幼稚園と保育園では管轄が異なるために、連携がとりにくく弊害が生じていました。これを解消するため、こども家庭庁発足により幼保一元化が図られるかと期待されましたが、結果的には、保育園はこども家庭庁へ移管、幼稚園は文部科学省管轄のままとなりました。

ただし、文部科学省が幼児教育の振興を行い、こども家庭庁と調整をする方針でまとまったことにより、今後は保育園での幼児教育も増えていくことでしょう。

しかし、現在の保育園で全く勉強を教えていないというわけではありません。そもそも、食事やトイレトレーニング、集団生活などを通して「生活の基礎」を学ぶことが保育園の役割ですが、園や担任の保育士の方針によっては、簡単な読み書きや数字を教えていることもあるようです。

幼児期の勉強の必要性

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※写真はイメージ(gettyimages/Sasiistock)

幼児期は脳の発達が最も活発な時期です。この時期に適切な勉強をすることで、子どもの脳神経細胞は活発に働くといわれています。

勉強をする中で、わからない問題に直面したときに考える思考力が育まれるだけでなく、勉強をすることで得た理解力は、周りの人たちとコミュニケーションをとりやすくするでしょう。また、勉強によって自分の感情を伝える言語能力も発達し、感情をコントロールする力も身に付きます。

ただし、幼児期の学びは勉強に限定されるものではなく、遊びを通じた学びや社会性の発達、創造力の育成など、幅広い内容が含まれます。子どもの発達を支える学びをそれぞれの園が工夫をこらして行っています。


幼児期に定型的な勉強を行うことのメリット・デメリット

保育園児が定期的に勉強を行うことには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。

メリット

幼児教育にはさまざまなメリットがありますが、その一つは、子どもの探究心が育まれることです。子どもが興味を示すものがあれば、保護者と一緒に調べ、勉強をすることで、子どもが「もっと知りたい!」と自ら勉強をするきっかけとなります。

また、幼児期の勉強による基礎学力は、他の子どもや大人と関わる際にコミュニケーションを円滑にします。コミュニケーションがスムーズになることによって、子どもは保育園での生活をより楽しむことができるかもしれません。

さらに、保育園児の頃から勉強する習慣がついていると、勉強に対して自信がつき、小学校の学習にも意欲的になる可能性もあります。


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※写真はイメージ(gettyimages/bungoume)

デメリット

一方で、保育園児の頃から勉強をするデメリットとしては、遊びや自由な活動を通じた自発的な学びの時間が少なくなってしまうことです。

また、子どもに無理に勉強をさせようとすると、子どもはストレスを感じてしまうことがあるかもしれません。結果的に、学習意欲の低下などの問題が生じる可能性があります。



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小学校入学後「幼稚園児」との学力差は?

幼稚園は、文部科学省が管轄する学校教育施設です。3歳児から入園し、保育時間は短いですが、その中で読み書きや数字などの勉強がカリキュラムに組み込まれています。ただし、幼稚園も各園の方針によって、勉強に力を入れている幼稚園がある一方で、のびのびとした環境で子どもの自主性を尊重し、勉強にはそこまで注力していないという園もあるようです。


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※写真はイメージ(gettyimages/Victoria Popova)

保育園に通う子どもの保護者の多くは共働き世帯のため、幼稚園と比較すると保育園児は園にいる時間が長く、食事やおやつ、散歩、午睡など生活に関わるさまざまなことを体験を通じて学びます。また、0歳から入園する子どももいたり、生活習慣や集団生活をするうえでのルールを学んでいくのです。

そのため、「勉強」の時間は設けられていなくても、保育園の生活の中で自然と文字や数字を学ぶことも多々あります。

小学校入学にあたり、幼稚園児と保育園児で学力に差が生じているのでは……と心配する保護者もいます。しかし研究では、幼児期の語彙力が児童期の学力テストの成績と因果関係があることが分かっています。また、幼児期の語彙力は遊びを大事にした「子ども中心の保育」をしている園出身の子どもが優れているというエビデンスがあります。

すなわち就学後の学力には、幼稚園が保育園かどちらで過ごしたのかが重要なのではなく、子ども中心の学びが行われていたかどうかが重要だということです。


参考:内田伸子. (2017). 子どもの貧困と学力格差─ 貧困は超えられるか?. 学術の動向, 22(10), 24-28.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/22/10/22_10_24/_article/-char/ja/

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学習環境を整える

幼児教育は、子どもたちにとって安全な学習環境であることが大前提ですが、それと同じくらいに子どもたちの好奇心や創造性を刺激する環境であることも大切です。

子どもが興味を示す遊びの要素を含んだ、年齢や発達に応じた教材などを整えましょう。


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※写真はイメージ(gettyimages/Tatsiana Volkava)

保育園と家庭で情報共有する

保育園児は園で過ごす時間が長い分、保育園で学んでいることがたくさんあります。家庭では、手助けをしたり教えたりしていることでも、保育園ではできているということもあるようです。

保育士から園での成長の様子を聞き、家庭での勉強の様子を園に共有することで、子どもの育ちを支え合うことができるでしょう。

子どもの学習意欲を観察する

市販のドリルでは学習の目安年齢が設定されていますが、子どもの勉強の進み具合や、意欲に応じて難易度を調整することもポイントの一つです。

また、保育園で半日過ごした子どもは疲れている日もあるでしょう。勉強を強要することなく、子どもの様子に応じてサポートをすることが大切です。


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自然体験を大切にする

自然のなかで多く遊んだ人ほど、コミュニケーションスキルや課題解決スキルが高かったり、将来的に理科の学習意欲が高くなるというデータがあります。

そもそも幼児教育の基本は「遊びを通して学ぶ」ことであり、自然体験は幼児期において非常に大切です。自然体験というと海や山、川などで遊ぶことをイメージするかもしれません。もちろんそれも大切ですが、それだけではなく、たとえば家の近くで草や花を摘んで観察してみたり、色水遊びをしてみたり、そのような遊びも自然体験です。

いわゆる「勉強」だけが、学力向上につながるのではないということを、保護者は意識をするとよいかもしれません。ただ、主人公はあくまで子どもなので、保護者がやってほしいことを一方的に押し付けるのではなく、子どもの「やってみたい」を大切にしましょう。

参考:青少年の体験活動の現状について/文部科学省

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/036/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/11/16/1379441_6.pdf


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【体験談】保育園児の勉強事情は?

子どもが保育園に通っている保護者に、保育園での勉強の様子を教えてもらいました。


1児のママ
1児のママ

年長の娘の懇談会に参加した際、「小学校に向けた勉強は園でしてますか?」と質問している保護者の方がいて、先生からの回答は「子どもからひらがなや数字など質問があればその都度教えるだけ」とのことでした。

2歳ごろからひらがな、カタカナ、英語、数字、知恵遊びなど最低限の家庭学習はしているため、もし習得が少し遅れていても小学校に入ってから頑張れば大丈夫かなと思います。


2児のママ
2児のママ

英語を使ったリトミックが週に1回あるくらいです。その他、保育園での学習の取り組みはなく、園児から聞かれたら先生がフォローしてくれる感じだと思います。

ただ、長女も長男もひらがなや簡単な計算は保育園で友だちとのやり取りの中で自然と覚えたので、それで十分かなと思いました。先取り学習をしすぎると、学校に入ってから退屈かなとも思います。


1児のママ
1児のママ

小学校低学年の間は、幼稚園組の方が学力が高くなると聞いたことがあり、少し不安でした。いざ入学してみると地域柄、保育園に通っていた子の方が多く、そこまで学習面で気になることはありませんでした。

保育園では週に1回、習字の時間がありましたが、勉強の時間はありませんでした。


2児のママ
2児のママ

息子の通う保育園では、女の子たちが手紙のやりとりをしています。男の子はあまりそういった姿はありませんが、協力してブロックで大きな街を作ったりしているので、今は勉強よりも遊びに集中してたくさん楽しんでほしいと思っています。

ワンオペなので子どもの勉強を見る余裕がないだけですが、今は遊びの時間を大切にしています。


読み書きだけが勉強ではない、保育園児の学び

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※写真はイメージ(gettyimages/towfiqu ahamed)

基本的には、保育園でしっかりと勉強の時間を設けているケースはほとんどありません。しかし、一日のうち長い時間を過ごす保育園で、子どもはたくさんのことを学び取っています。

家庭で勉強する場合も、子どもの関心に応じて無理のない範囲で行えるとよいですね。

監修:中村 大輝

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中村 大輝

中村 大輝

2023年度より宮崎大学教育学部講師。専門は科学教育、理科教育、教育心理学。東京都の公立小学校教員を経て、広島大学大学院で学んだ後、大学教員になる。2022年広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。特に科学的探究を通した思考力の育成、現代的な教育測定法の開発などの研究に取り組んでいる。主な役職は日本理科教育学会広報委員会副委員長、国立教育政策研究所PISA2025年調査の問題検討委員など。

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