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褒め方には5つのレベルがある。見る、気付く、認める、褒める、あと一つは?【子どものやる気】
KIDSNA STYLE編集部が選ぶ、子育てや教育に関する話題の書籍。今回は、『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)を紹介します。斬新でユニークな授業を展開し、アクティブ・ラーニングの先駆けとも言われる東京学芸大学附属世田谷小学校の教諭沼田晶弘氏による、家庭でもできる「子どものやる気の引き出し方」をまとめた一冊から、抜粋してご紹介します。
ダンシング掃除? 楽しくないことを楽しくする工夫
子どもが育つうえで大事にしたいことは、ひとりひとり違います。ただ、ひとつだけ共通して言えることは、何はともあれ楽しいのが一番だということ。なぜなら、"楽しい"が高じて 「もっとやってみたい!」という"やる気"となり、それを夢中になって続けたときに、 「あれもできた!」 「これもできた!」と、子どもたちの中に自信が生まれるからです。
子どもは、楽しいという気持ちが続けば、それをやり続けることも苦ではないのです。だからボクは、「どうしたら子どもたちは、これを楽しくやれるかな」ということに、常に知恵を絞るのです。
学校でやらされる楽しくないことといえば、たとえば「掃除」 。掃除が好きで楽しいという子はあまりいないはずです。でも、ボクのクラスは違います。どうするかというと、ボクはただPCを立ち上げ、ノリのよい音楽を流すだけ。
曲がかかると子どもたちは一斉に掃除を始めます。机といすを移動させ、誰かはほうきを持ち、誰かは雑巾でふきます。みんな、自分ができることを瞬時に判断して動きます。しかし、曲がサビに差し掛かったら、全員が掃除道具を床において、踊りはじめます。そして、サビが終わったら、掃除再開です。
サビで踊ること、そして3曲を流し終えるまでに掃除を終わらせること。掃除に関して、ボクが子どもたちに指示するのはそれだけなのです。最初はちょっとした思い付きで始めたのですが、子どもたちが楽しそうだったし、「ダンシング掃除」としてテレビで紹介されたこともあります。
このように、子どもたちがやる気を持つことができるかどうかは、「楽しい」かどうかが非常に重要です。しかし、ひとつのことに対して、永遠に変わらぬ興味とやる気を持ち続け、常に変わらず没頭し続けられる人などそうそういません。
一度やる気になったことでも、しばらく続けていれば飽きてしまいます。だから大人は、子どもが楽しいと思えるまで、手を替え品を替え、いくもの提案や問いかけをする必要があるのです。
子どもが自分で決めることの重要性
ある年の林間学校でのこと。二日目は街中を散策して、ソフトクリームを食べる計画になっていたのですが、その日はひどい雨。足元はびちゃびちゃで、そのうえ寒い。冷たいものを食べて、風邪でもひいたら大変です。ボクは、子どもたちに聞きました。「アイス食べる? 何かあったかいもののほうがいいんじゃないの?」子どもたちはガヤガヤ意見を言い始めました。
話し合った結果「ここは、あえてのアイスでしょ」と。このとき、もしかしたら子どもたちの気持ちには、「寒いなあ」「このままアイス?」という後ろ向きな気持ちがあったかもしれません。もし、彼らの意向を確認することなくアイスを食べて、風邪をひいた子がいたら、「本当は食べたくなかったのに」と後悔するかもしれません。
でも、子どもたちは自分たちで考えて「食べる」結論を出しました。誰に言われるわけでもなく、自分たちで決めました。その意識があるからこそ、ソフトクリームは子どもたちにとっていい思い出になったのです。これが、子どもが自分で決めることの重要性だとボクは思います。
「課題」「制限」「報酬」の3つでワクワク・うずうずさせる
ボクは、子どもたちに「これをやってみよう!」と提案するとき、学ぶ楽しさを知ってもらうために必要な「3つのもの」を用意します。 ひとつめは、「課題」。「やってみよう」と提案するとき、必ず「これから何をやるのか」「どうやるのか」 をわかりやすく説明します。
ふたつめは、「制限」。課題を出すとき、同時に何らかの「制限」をつけるのです。 できることが限られると、子どもたちは許された範囲でできる最大限のことは何か、 どうすればそれをやれるのかと、ワクワクしながら考えはじめるからです。
みっつめは、「報酬」。課題を達成したあかつきに、子どもたちが手にすることのできる成果やご褒美について、最初にきちんと提示してあげます。
たとえば、子どもたちに、「今日は作文を書いてもらいます。書いてもらうのは物語です。」と課題を提示すると、ほとんどの子どもは「めんどくさいな」という気持ちで教室はざわざわし始めます。そこでボクは、その課題を面白そうと思ってもらえるように、「制限」を付け加えます。
「今日の作文は、一人一文しか書いてはいけない。一文書いたら、次の人に原稿用紙を渡して、その人がまた一文だけ続きを書く。他の人が書いている間は、原稿用紙をのぞいちゃいけないよ」と。要するに、リレー作文です。ボクが制限時間やグループの割り振りを話しているうちから、子どもたちはもうワイワイと相談を始めます。
そして、「1位になったグループは賞をあげるよ」と報酬のことも忘れずに伝えておく必要もあります。子どもたちはよりやる気をみなぎらせて、リレー作文を始めるのです。
作文を書くのはイヤでも、一文だけと言われたら、できそうな気がするでしょう。一方で、一文しか書けないという制限がかかることで、子どもたちは「一文だけでどうやっておもしろくできるか」とワクワクし始めるのです。
家庭では「制限」が親の腕の見せ所
ご家庭で「課題」 「制限」 「報酬」の3つを用意しようと思うなら、親御さんの腕の見せ所となるのは「制限」ではないでしょうか。よくあるのは、「このドリルを15分でやってみよう」といった「制限時間」を決めるやり方です。人は時間を制限されるほど、「それをかいくぐる方法はないものか」と考えるので、時間の制限はたしかに効果があります。
でも、それが何度も続き、あたりまえになってくると、おもしろみが途端に薄れてきてしまいます。そこで、飽きてきたようだと感じたら、さらに一工夫。たとえば、お子さんの大好きな曲をかけて、「この曲が終わるまでに、何問できるかやってみよう!」といったチャレンジに変えてみてはどうでしょう。
もしくは、お子さんの大好きなテレビ番組がはじまる時間を締め切りに決めて、「時間までに、宿題を全部終わらせちゃおう!」といったチャレンジに変えてみてはどうでしょう。テレビ番組は制限時間の目安になると同時に、「テレビが見られる」という報酬にもなり、一石二鳥です。
子どもをワクワクさせるような制限は、他にもたくさんあるはずです。お父さんお母さんは、ぜひ知恵を絞ってみてほしいと思います。
長続きしないご褒美効果を内からわき出る「やる気」に変化させる
子どものやる気を引き出す要素のひとつに「報酬」があるとお話しました。しかし、幼い頃から子どもと接してきた親御さんは、ご褒美の効果は案外続かないことをご存じでしょう。ご褒美といっても同じものが続くと飽きてしまいます。では、ご褒美を次々に変えていけばいいかというと、それもいずれ手段が尽きてしまうでしょう。
そこで、最初のうちはご褒美をあげることでやる気を引き出します。そして、そのご褒美の効果がまだ維持されているうちに、お子さんの心の中を「がんばってみてよかった」「絶対またやりたい!」という気持ちでいっぱいにするのです。ご褒美だけではなく、心の中からわいてくるやる気やプライドを刺激する、内発的動機づけに変化させていく工夫が必要なのです。
そのためには、それがご褒美につられた成果であったとしても、「すごいじゃない!」「最近変わったなぁ!」と大げさに驚いてみてください。周りに認められているという実感を得ることは、お子さんにとってはとても嬉しいご褒美であり、内からわき出るやる気のもとになるのです。
「褒め方」には5つのレベルがある!レベル別の褒め方
子どもを褒めることはもちろん大事ですが、褒め方には5つのレベルがあるとボクは考えています。レベル1は、見ること。視線を合わせて、お子さんと会話をする時間が一日のなかでどれほどあるでしょうか? 子どもは、見てほしがっています。親御さんが見てくれているというだけで、お子さんは喜んだり、ほっとしたりするものです。
レベル2は、気付くこと。そこにいるのね。今、それをやっているんだね。がんばってるんだね。そうやって、子どものやっていること、考えていることに気付くことです。
レベル3は、認めること。できた。やりきった。その事実を認めるのです。ボクは発表をしてくれた子どもに「よし」「ありがとう」とうなずきかけますが、それだけで子どもたちは「認められた」のだとわかってくれます。
こうして3つの段階を踏まえてようやくレベル4「褒める」の段階がやってきます。レベル1から3までの段階があるからこそ、「すごい」「がんばったね」という褒め言葉には、心がこもるのです。
そして、褒めるよりもさらに一段階上なのが、喜ぶこと。がんばったら、お母さんが喜んでくれた。やってみたら、お父さんが喜んでくれた。お父さんお母さんの笑顔ほど、子どもの心に強く残るものはないでしょう。子どもを褒めるときに、気の利いたフレーズを探す必要はなくて、心のままに大喜びしてみてはどうでしょうか。
任せると決めたら手や口を出さない
ボクは、「教える」ことと、「やらせる」ことを区別して考えることが、とても大事だと思っています。
たとえば、「食器の洗い方はもう覚えたでしょ? 今日はひとりでやってみて」とお子さんに任せておきながら、食器を洗う子どもの横に立って「そんなに強く水を出したら、床まで濡れちゃうよ」とか「すすぎが足りないよ」と、あれこれ口を出したり、手を出したりしていませんか?
「任せる」と言ったはずなのに、いつの間にか「教える」に変わっていますよね。任されてがんばっていたのに、やったそばからうるさくいわれてしまったら、お子さんはどう思うでしょう。「もうお母さんがやればいいじゃん」と、すっかりやる気を無くしているかもしれません。
教えるときは丁寧に教えるけど、子どもに任せると決めたのなら、子どもひとりでやらせましょう。隣に立って見守る必要もありません。
子どもが水を出しすぎて、すすいだ水が飛び散り床がびちゃびちゃになる前に、もしお母さんが「ちょっと出し過ぎだよ」と水加減を変えてしまったら、お子さんは床をびちゃびちゃにして失敗する経験ができません。どうしたら、床をぬらさずに洗い物ができるんだろう?」と、考えることも、学ぶこともできません。
あえてポジティブな表現を
想像してみてください。あなたは小学校の先生です。廊下を歩いていると、すごいスピードで走ってくる生徒がいます。あなたは先生として、その子にどんな言葉をかけますか?たいていの人は、「廊下は走ってはいけません!」「こら! 走るな!」と言うのではないでしょうか。ちなみにボクは、「歩け!」と言います。
どちらも言いたいことは同じですが、2つの言葉には大きな違いがあります。「走るな」は、 「これをやってはいけない」という減点法の考え方をそのまま反映した言葉です。一方、「歩け」という言葉は、考え方は「走ってはいけない」という減点法ですが、それを「ポジティブな言葉」に変えて表現しているのです。そうすることで、言われたほうの受け止め方は大きく変わります。
たとえばご家庭で「今日の休み時間は誰と遊んだの?」と聞いたとき、子どもが「今日は誰とも遊ばなかったよ」と答えたら、なんと言葉をかけるでしょう。「ひとりだったの? それは寂しかったでしょう」「誰も遊んでくれなかったの? かわいそうに」とネガティブに受けとめてしまうかもしれません。
本当は読みたい本があってひとりで読んでいただけなのに、お母さんにそう言われてしまったら、途端に子どもは「かわいそうな子」になってしまいます。もし「あら、何かひとりでやりたいことがあったの?」とポジティブな方向に聞いてくれたら、「そう。読みたい本があったの」と笑顔で話してくれるかもしれないのです。
話を聞いただけではネガティブなできごとに思えたことも、言葉の選び方や、そのときのお子さんの気持ち次第では、必ずしもそうでないことが往々にしてあります。反対に、かける言葉をネガティブにしてしまえば、本当はそうではなかったのに、悪いことが起こったような気になってしまうこともあります。
お子さんが必要以上に深刻な受け止め方をしないように、親御さんはあえてポジティブな言葉をかけてみてください。親御さんが笑顔で受け止めてくれるだけで、ほっとして、またがんばる力をもらえるものです。