【専門家監修】イエナプラン教育とは。日本でイエナプラン教育を行うことの意義など

【専門家監修】イエナプラン教育とは。日本でイエナプラン教育を行うことの意義など

イエナプラン教育について興味のある方もいるのではないでしょうか。今回の記事では、そもそもイエナプラン教育とはどういったものなのか、また、日本におけるイエナプラン教育の意義や、実際に取り入れている小学校など、一般社団法人日本イエナプラン教育協会で理事を務める矢澤あいりさんにご監修いただき、ご紹介いたします。

イエナプラン教育とは

イエナプラン教育と聞くと、「自ら積極的に学びに向かう子どもの姿」「教員が子どもひとりひとりを心から信頼し尊重する姿」などを思い浮かべる人も多いかもしれません。

実際には、イエナプラン敎育とはどういう内容なのでしょうか。イエナプラン敎育を説明するためのいくつかのキーワードついて説明します。

様々な年齢の子どもたちが一緒に過ごしている様子
※写真はイメージ(gettyimages/monkeybusinessimages)

異年齢学級

イエナプラン教育では、子どもたちは異年齢の学級編成で構成されたクラスで過ごすため、自然と子ども同士で助け合う姿や学び合う姿が見られます。違いを前提とするので、自然に他者を尊重しながらコミュニケーションしあうのが、異年齢学級の強みのひとつであるといえます。

異年齢学級は、通常、3つの年齢のグループ(4~6歳児グループ、6~9歳児グループ9~12歳児グループ)から構成されます。3年間、同じ教室の同じグループで、年少・年中・年長の3つの立場を経験することができます。


ファミリーグループ

異年齢学級を構成するグループは「ファミリーグループ(根幹グループ)」と呼ばれます。さらに、テーブル・グループという小グループが作られますが、このグループも異年齢で構成されます。


リビングルーム

イエナプラン教育では、教室をリビングルームと呼びます。日本の小学校では、教室の前にある黒板に向かって机が並べられるのがほとんどですが、イエナプラン教育の教室はリビングのように穏やかな雰囲気で、安心して過ごせ、リラックスできることが大切にされています。

そのため、サークル対話がいつでもできる空間があったり、グループになれるように机が配置されていたりします。また、子どもたちが学習する場所やスタイルを選択できることも特徴です。


ワールドオリエンテーション

ワールドオリエンテーション(ファミリーグループ活動)は、イエナプラン教育の中核で、科目の枠を超えた総合的な学びのことです。ワールドオリエンテーションでは、子ども自身の問いに基づいて探究を行い、科学研究のプロセスを、仲間と共に協働して学びます。

参考:オランダ・イエナプラン教育の特徴(日本・イエナプラン教育協会)

イエナプラン教育の学校の特徴

積み上げられた本
※写真はイメージ(gettyimages/Jose Miguel Sanchez)

イエナプランの学校教育の特徴について説明します。

生と学びの共同体としての学校

イエナプラン教育では、学校は「生と学びの共同体」と呼ばれています。この共同体は、民主的で人間的な、将来の理想の社会を先取りするものとして捉えられています。子ども、保護者、教員の3者は、共に学校共同体をつくるメンバーです。

学校共同体では、子どもたちの自治が尊重され、年齢関係なく平等に扱われます。また、交流もファミリーグループの中だけではなく全校規模で行われ、保護者は自分の子どもだけでなく、学校に通うすべての子どもたちのために活動に参加します。


科目で区切られない授業(4つの基本活動)

日本の一般的な小学校と違って、毎日の学校の授業が科目で区切られていません。イエナプラン教育では、対話・遊び・仕事・催しという4つの基本活動がリズミックに循環するよう企画されています。

そのため、予定よりも子どもたちの状態から活動を組み立てなおすこともあります。


イエナプラン教育の始まり

バスに乗る子ども
※写真はイメージ(gettyimages/dusanpetkovic)

イエナプラン教育の発祥や創始者についてお伝えします。

ドイツからオランダへ

創始者であるドイツの教育学者ペーター・ペーターセン(Peter Petersen,1884-1952)は、イエナ大学に赴任し、同附属校の校長を務めました。1927年に、この取り組みはイエナプランと呼ばれるようになりました。

やがてイエナプラン教育は、スース・フロイデンタール(S.J.C.Freudenthal 1908-1986)によってオランダに伝えられ、オランダの教育制度の中で普及していきました。


「小さなイエナプラン」

ペーターセンが教育実践報告として刊行した『小さなイエナプラン』は、従来の学校教育のあり方についての問題提起ともなりました。この本は今でもイエナプラン教育関係者のバイブルとなっています。


イエナプランの始まりと発展(日本イエナプラン教育協会)

日本のイエナプラン教育

日本では戦後、ペーターセンやイエナプランについての研究論文が多く発表されましたが、広く知られるようになったのは2000年代です。

2004年にリヒテルズ直子氏が『オランダの教育 ー多様性が一人ひとりの子どもを育てるー 』、2006年に『オランダの個別教育はなぜ成功したのか ―イエナプラン教育に学ぶー 』を発表し、オランダの教育を通してイエナプランを日本に紹介しました。

ランドセルを背負う小学生の子供
※写真はイメージ(gettyimages/anurakpong)

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イエナプラン教育を実施している日本の小学校

2019年に日本初のイエナプラン校として、長野県佐久穂町に学校法人茂来学園しなのイエナプランスクール大日向小学校が開校しました。2022年には、広島県福山市立常石小学校の施設を活用して「常石ともに学園(イエナプラン教育校)」も開校。その他、中学校や幼稚園でもイエナプラン教育が実施されています。


2023年には、名古屋市教育委員会のナゴヤ・スクール・イノベーション事業「マッチングプロジェクト」の一環として、日本イエナプラン教育協会との連携により、名古屋市立山吹小学校でイエナプラン教育のコンセプトを取り入れた教育が始まりました。

日本でイエナプラン教育を行う意義

イエナプランスクールは「共に生きることを学ぶ学校」と呼ばれます。異なる他者と共生する力は、人間が社会の中で生きていく上で、最も重要なものではないでしょうか。

世の中にはさまざまな人がいて、さまざまな考え方があります。

子どもたちは、異年齢学級で過ごすことで、そうした違いを認め合う心を育みます。また、ワールドオリエンテーションを通して、「本物」の世界の中で自ら問題を解決する力を養います。

イエナプランで取り扱われるそれぞれの方法には、子ども学に基づくコンセプトが埋め込まれており、それらはあらゆる人にとって、目の前の子どもと真剣に、対等に向き合うためのヒントになり得ます。

IT技術の革新等により、人と人とのつながりが希薄化してしまっているからこそ、一人ひとりをかけがえのない個人として尊重し、社会の中で他者と共に生きることを大切にする「共同体」を育むイエナプランには、大きな意義があるのではないでしょうか。

イエナプラン教育では主体性や多様性が育まれる

教室にある地球儀
※写真はイメージ(gettyimages/cerro_photography)

子どもの自律が尊重されるイエナプラン教育では、自分で考えて行動する主体性が身につきます。また、異年齢学級で他者の意見を聞いたり、助け合ったりする経験から、多様性を尊重する姿勢も育まれます。

日本にはまだイエナプラン教育を実施している小学校は少ないですが、これから増えていくかもしれません。

興味がある方は、日本イエナプラン教育協会のホームページでより詳しく知ることができます。

監修:矢澤 あいり

Profile

矢澤あいり

矢澤あいり

日本イエナプラン教育協会理事。都内保育園にて現役保育士も務める。高校時代、国際バカロレア(IB)教育を海外で受け、教育に興味をもつ。大学では幼児教育学を学び、海外の保育現場視察も行う。オランダでイエナプラン教育に出会い、以後、身近なイエナプランナーとの対話を重ねている。2021年より現職。

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