理系成績が高い日本だからこそSTEM教育/STEAM教育を取り入れるべき。専門知識だけではもの足りない理由

理系成績が高い日本だからこそSTEM教育/STEAM教育を取り入れるべき。専門知識だけではもの足りない理由

2024.06.21

Profile

中村 大輝

中村 大輝

宮崎大学教育学部講師

2023年度より宮崎大学教育学部講師。専門は科学教育、理科教育、教育心理学。東京都の公立小学校教員を経て、広島大学大学院で学んだ後、大学教員になる。2022年広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。特に科学的探究を通した思考力の育成、現代的な教育測定法の開発などの研究に取り組んでいる。主な役職は日本理科教育学会広報委員会副委員長、国立教育政策研究所PISA2025年調査の問題検討委員など。

STEM教育やSTEAM教育について、なんとなくは知っていても、実際にどのような力を育む教育なのか分からない親も多いでしょう。本記事では、元小学校教員であり、現在はSTEM教育をはじめとした科学教育を研究する中村大輝さんに話を聞きました。幼児教育に取り入れる実践的な方法も紹介しています。

宮崎大学 中村大輝
2023年度より宮崎大学教育学部講師。専門は科学教育、理科教育、教育心理学。東京都の公立小学校教員を経て、広島大学大学院で学んだ後、大学教員になる。2022年広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。特に科学的探究を通した思考力の育成、現代的な教育測定法の開発などの研究に取り組んでいる。主な役職は日本理科教育学会広報委員会副委員長、国立教育政策研究所PISA2025年調査の問題検討委員など。

日本人は理系科目の成績が世界トップ5。それでもSTEM教育が必要

ーーSTEM教育とはどのようなものですか?STEAM教育との違いも教えてください。

中村さん:STEM(ステム)教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)をを総称する言葉で、Arts(芸術、リベラルアーツ)を加えて、STEAM(スティーム)教育と呼ばれることもあります。

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この5つの分野に力を入れることはもちろん、5つの領域を関連付けながら学習することがSTEM教育、STEAM教育の特徴です。各領域の思考を複合的・横断的に用いることで、問題解決能力や論理的思考力が育つことが期待されています。

STEM教育は、2000年代にアメリカが力を入れ始め、現在は世界中で取り入れられています。日本でも文部科学省が「予測不能な社会において、社会課題を解決できるような競争力のある人材を育成するための教育」として、STEM教育やSTEAM教育を推進していますが、まだまだ世界に比べると遅れているのが現状です。

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※写真はイメージ(gettyimages/photobyphotoboy)

ーーSTEM教育やSTEAM教育が日本社会に浸透しているとは言えないですよね。

中村さん:はい。特に学校教育のシステムは教科の枠組みを重視しているので、教科の枠組みを超えたSTEAM教育は取り入れにくいのが現状です。

ただ、実は日本の子どもたちの数学や科学の成績はとてもよく、OECD加盟国を中心に15歳の子どもたちに行っている世界的な学力テストPISAでは、数学・科学ともに常にトップ5に入っているのです。また、日本は技術革新と研究開発において世界をリードする国のひとつであり、多くのノーベル賞受賞者を輩出しています。

しかしながら、IEA(国際教育到達度評価学会)が実施するTIMSSという調査の「数学・理科の勉強が楽しいか」という項目を見てみると、それぞれ「楽しい」と答える子どもの割合は、諸外国と比べてかなり低いという結果があります。また、中学生が将来就きたい職業のアンケートでは、理系の職業に就きたいと答えた人はわずか8.9%というデータもあります。

ーー子どもたちに、理系分野を楽しく学んでもらうためにも、STEM教育/STEAM教育が必要なのかもしれませんね。


STEM分野の人材不足は深刻な社会課題

中村さん:STEM分野(理系分野)のキャリアに進む人材が少ないことは、日本社会の課題のひとつでもあります。

ーー日本は理系の人材不足だとは知らなかったです。一般的には、理系のキャリアはなんとなく難しそう、狭き門だというイメージがあるかもしれません。

中村さん:そうですね。アメリカの雇用予測のデータによると、2029年までにすべての職業の成長率は3.7%である一方、STEM分野に限定すると、8%もの成長が見込まれています。これからどんどんと必要性が高まる一方で、日本は人材育成ができていないのです。

ただ、内閣府が掲げる「統合イノベーション戦略(※)」の中でもSTEM人材を育成しようという取り組みがあったり、民間企業が運営するSTEM教育の塾が増えていたり、大学などが小中学生を対象としたSTEMのイベントを開催したり、少しずつ変わってきています。日本のSTEM教育は今が転換期ともいえるのかもしれません。

※統合イノベーション戦略とは、科学技術やイノベーションに関する関連施策を府省横断的・一体的に推進するために、政府により策定される年次計画

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※写真はイメージ(gettyimages/metamorworks)

今まで活躍できなかった子にもチャンスがある

ーーSTEM教育は、子どもたちの成長にどのような効果をもたらすのでしょうか?

中村さん:はい。5つの領域の思考を複合的・横断的に用いることで、問題解決能力や論理的思考力が育つと言いましたが、その他にも子どもたちの豊かな発想力や創造性をもたらす効果が期待できます。

従来の科目の枠組みのなかでは、答えが決まっている問いがほとんどで、正しいことが絶対でした。そのような教育では、間違ってしまうと自信を失ったり、個性がつぶされてしまうこともありました。

そうではなく、正解のない課題にチャレンジすることは、普段の科目では活躍できなかった子が素晴らしいアイディアを思いついたり、多くのチャンスが巡ってきます。難しい課題に挑戦して達成できたりうまくいった経験は、その後の人生において自己効力感につながることもあるでしょう。

ーー実際に小学校で行われているSTEM教育/STEAM教育にはどのような内容があるのでしょうか?

中村さん:実際に行われた事例として、「STEAM化ごんぎつね」という授業があります。子どもたちはごんぎつねを読んで、自分のなかで疑問に思ったことを調べます。たとえばキツネの生態、火縄銃のしくみ、うなぎの栄養素、物語に出てくる城や山が実在するかなど、疑問は多岐にわたります。

書籍を調べるだけではなく、仮説を立てたり専門家にインタビューを行ったりしながらレポートをまとめます。疑問から生まれるテーマは化学、地理、歴史、技術など、横断的な学びを可能としています。

出典:「STEAM化とは何か」/STEAMライブラリー(経済産業省)

https://www.steam-library.go.jp/lectures/878


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専門知識だけでは足りない時代。STEM教育/STEAM教育を通じた横断的な学びを

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※写真はイメージ(gettyimages/coffeekai)

ーー子どもたちの主体性が育まれそうな授業ですね! STEM教育の特徴のひとつとして、横断的な学びがあるとのことでしたが、なぜ横断的な学びが必要なのでしょうか?

中村さん:従来の科目の枠組みのなかでは、算数なら算数、社会なら社会と、どうしても各教科の領域のことしか学ぶことができませんでした。ただ、現代社会が直面する問題は非常に複雑で、ひとつの分野の知識だけでは解決できないことばかりです。

たとえば環境問題は、科学の分野だけで解決できる問題ではありません。STEMのそれぞれが関係しているし、さらに倫理的な問題や、国と国との政治的な問題もかかわってきます。つまり、今までの科目の枠組みだけでは対応できないのです。

また、さまざまな社会課題を解決するためには、イノベーションを起こすことが必要不可欠ですが、個々の専門知識だけではイノベーションは起こりにくいです。分野を超えた知恵を用いて新しいことを生み出すことが求められている時代なのです。

そのような背景があるなかで、教育においても今までの科目に捉われずに、分野を超えた学びを実現していくことが必要なのです。


特別な教材がなくてもいい

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※写真はイメージ(gettyimages/JohnAlexandr)

ーーSTEM教育やSTEAM教育を早いうちから取り入れてみたい保護者もいると思います。未就学児でも行うことは可能でしょうか?

中村さん:STEM教育/STEAM教育を行うことに、年齢は特に関係ありません。ただ、幼児教育の基本は「遊びを通して学ぶ」こと。それは、STEM教育/STEAM教育でも同様で、日常の遊びの中でも行うことができます。


たとえば、水の中に花びらなどの植物を入れて色を揉み出す「色水遊び」には、

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このようにSTEAM教育の要素が隠れています。

色水遊びだけでなく、砂場遊びでお城を作る遊びにも、STEM教育/STEAM教育の観点が含まれているので、未就学児でも行う機会はたくさんあると思います。

「STEM 幼児教育」と検索してみると、ロボット教材やデジタル機器を使った習い事などの情報が多いですよね。しかし、それに限らず日常的な遊びのなかに、たくさんのSTEAMの視点があるのです。そこを保護者が意識をすることがとても大切なのかなと思います。

ただ、遊びの主人公はあくまで子どもです。やってほしいことを一方的に押し付けるのではなく、子どもの「やってみたい」を大切にして、保護者はあくまでサポート役ということを忘れてはいけません。


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※写真はイメージ(gettyimages/fizkes)

AI時代だからこそ、五感を通した学びが何より大切

ーー遊びながら、実際にやってみることが大切なんですね。

中村さん:そうですね。テクノロジーの進歩により、各分野の知識は調べたら一瞬で出てきます。人間がAIに勝てることは、五感を通して、入ってきた情報を結びつけながら学ぶこと。

たとえば小さい子どもは、お散歩中に何回か犬を見ただけで、初めて見る犬種でもそれを犬だと捉えることができます。視覚情報、そのときに大人が話した言葉、触ってみた感覚、においなど、五感から入ってくる情報を関連付けながら、効率よく学んでいるのです。

これは当たり前のようで、実はすごいことです。AIに同じことをやらせようとしたら、何万枚もの犬の画像を学ばせないといけないですから。インターネットやチャットGPTで調べて分かった気になるのではなく、五感を通して学ぶことが非常に大切だし、今後ますます価値が高まっていくのではないでしょうか。

STEM教育やSTEAM教育が五感を通して学ぶきっかけのひとつになるといいですね。


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