【専門家監修】世界でも注目を浴びる北欧の幼児教育。フィンランドやスウェーデンなど

【専門家監修】世界でも注目を浴びる北欧の幼児教育。フィンランドやスウェーデンなど

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匝瑳 岳美

匝瑳 岳美

長野県立大学こども学科准教授/日本保育学会/日本保育文化学会/フィンランド音楽学学会/日本乳幼児教育学会/フィンランド教育学会

長野県立大学 こども学科 准教授。フィンランド 国立ヘルシンキ大学人文学部哲学歴史文化芸術研究学科 博士課程 修了。専門は比較教育学、フィンランド、保育とICT教育、保育と記号学、音楽記号学。日本保育学会、日本保育文化学会、フィンランド音楽学学会、日本乳幼児教育学会、フィンランド教育学会に所属。

幼児教育の重要性が再認識される昨今、海外ではどのような幼児教育が行われているのでしょうか。今回の記事では、幼児教育が進んでいるといわれるフィンランドやスウェーデンなど「北欧の幼児教育事情」についてお伝えします。

近年、幼児教育は日本に限らず世界中で注目を浴びていますが、そもそも幼児教育はなぜこれほどまでに関心を集めるようになったのでしょうか。

実は、この幼児教育ブームには、火付け役となった研究がありました。

2000年代、経済学者のジェームズ・ヘックマンらは、非認知能力の重要性を示唆した論文にて「国が就学前教育・幼児教育・保育に投資をすればするほど、経済効果は大きく、こどもたちの非認知能力がよりよく伸びる」と発表。
その後、この研究を後押しするOECDの調査もあり、幼児教育は世界から注目を浴びることになったのです。ヘックマン氏はこの論文により、ノーベル経済学賞を受賞しました。

ヘックマン氏の研究は、ここ20年間の教育政策を大きく変える転換点となりました。今回紹介するフィンランドも、まさにその好例です。

幼児教育は「家庭」「地域」「園」の連携

幼児教育とは、文部科学省のウェブサイトでは以下のように定義されています。

幼児とは,小学校就学前の者を意味する。幼児教育とは,幼児に対する教育を意味し,幼児が生活するすべての場において行われる教育を総称したものである。
具体的には,幼稚園における教育,保育所等における教育,家庭における教育,地域社会における教育を含み得る,広がりをもった概念として捉えられる。

出典: 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について(中間報告)(案)/文部科学省

幼児教育は「家庭」「地域社会」「幼稚園などの施設」の三者が大切な役割を果たしていて、それぞれの教育機能を発揮してバランスを保ちながら、幼児の健やかな成長を支えるものだと説明されています。

家庭

愛情やしつけなどを通して幼児の成長の最も基礎となる心身の基盤を形成する場

地域社会

様々な人々との交流や身近な自然とのふれあいを通して豊かな体験が得られる場

幼稚園などの施設

幼児が家庭での成長を受け、集団活動を行いながら家庭では体験できない社会・文化・自然などに触れ、教員等に支えられながら、幼児期なりの豊かさに出会う場

参考:幼児教育の意義及び役割/文部科学省

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※写真はイメージ(gettyimages//Galina Kondratenko)

「幼児教育」と聞くと、幼稚園などの施設での教育が思い浮かぶ方が多いかもしれません。しかし、昨今の幼児教育・保育は、地域の子育て支援とは切り離すことができず、園と保護者との連携、地域の包括支援センター(子育て世代包括支援センター)などの公的機関との連携がますます重要になってきているのです。

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北欧の幼児教育は進んでいる?各国の教育事情

海外の幼児教育の中でも進んでいるといわれている北欧の幼児教育事情について、国別に調べてみました。

フィンランド

フィンランドは、OECDが実施している国際的な学習到達度調査で毎回トップクラスの結果を出していて、世界有数の教育先進国といわれています。

しかし、基礎教育が始まる7歳まではアカデミックなことよりも、遊びなどを通して個性やコミュニケーション能力、自尊心などを伸ばすことが優先されています。

日本では幼児期において「教育」と「保育」が分けて考えられていますが、フィンランドでは「教育」と「保育」を分けていません。

フィンランドの園は、日本の保育園と幼稚園が合体したような場所、すなわち「認定こども園」に近く、「教育」と「保育」の両方が提供されています。教育(Education)と保育(care)が合わさって、英語では「エデュケア(Educare)」と呼ばれています。

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※写真はイメージ(gettyimages/rogkov)

また、フィンランドの幼児教育・保育は、園に加えて次の2種類が法律上幼児教育・保育とみなされています。

まず、「ファミリー・デイケア」という場があります。これは、日本でいう保育士の資格を持った「チャイルドマインダー」と呼ばれる女性が、自分の子どもを含む子どもたち(4人以内)を自宅保育するものです。「チャイルドマインダー」は自治体によって認可・雇用されていて、給与も支給されます。

次に、専門的な訓練を受けた人による「プレイ・アクティビティー」という活動もあります。地域には、広い公園と屋内施設が合体した遊び場があります。午前中は乳児と保護者のためのリトミックなどの育児教室を行い、午後は学童保育を行います。

スウェーデン


スウェーデンでは「人は1歳から学ぶ」と考えられていることもあり、幼児教育が重要視されています。幼稚園、保育園などの種類はなく「フォースクーラ」と呼ばれる、就学前学校に1〜2歳くらいから通い始めるのが一般的です。

1975年には幼保一体化を実現し、1985年には待機児童問題が解消されたスウェーデン。日本と異なるのは、親の就労に関わらず子どもの権利として就学前教育が保証される点です。

スウェーデンは、1980年代に教育省による所轄一元化を実現しており、当時の北欧の中では最も先進的でした。OECDのスターティング・ストロングという研究では、スウェーデンの形態を参考に、各国の就学前教育・保育の管轄はひとつにまとめることが推奨されています。

2018年には就学前学校の指針が「ホリスティックな視点」「遊びは発達、学び、ウェルビーイング(幸福)の基礎」「コミュニケーションと創造」「持続可能な開発と健康、ウェルビーイング」の4点に制定されました。

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※写真はイメージ(gettyimages/Serenko Nata)

子どもを全人的にとらえ、遊びを重要視しながら探究や創造の機会を提供することや、自己肯定感を育むなど、昨今の日本での幼児教育において重要とされている内容が実現されているようです。

国内のどこの就学前学校も同じカリキュラムで教育を受けられるスウェーデンの子どもたちには、お互いを尊重しながら学べる環境が整えられています。
障害があってもなくても、どの国の出身で、家庭でどんな言葉が話されていても平等に受けることができるスウェーデンの教育は、1970年代から高福祉国家へ成長し、北欧のなかでも最も進んでいた国であることを表しているでしょう。

ノルウェー


ノルウェーもフィンランドと同じように、乳児期、幼児期の子どもたちには「教育」と「ケア」の両方が提供されています。

「バーネハーゲ」と呼ばれる日本の幼稚園にあたる施設は、親の就労の有無や収入に関わらず0歳から通うことができます。

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※写真はイメージ(gettyimages/Sam Edwards)

一般的には保護者が職場復帰する1〜2歳から通い始めることが多いようですが、1歳を超えて「バーネハーゲ」に通わず家にいる子どもの家庭には、助成金が出るそうです。なぜかというと、1歳以上のすべての子どもが保育園・幼稚園にいく権利があるからです。

また、ノルウェーでは1クラスの子どもの数に対する保育士の数の比率が定められていて、4歳児以下で1:6、5歳児以上は1:14だそうです。日本に比べると保育士の数が多く、手厚いサポートを受けられるともいえます。

その他の海外の幼児教育については、以下の記事でどうぞ。

幼児教育は誰のため?世界の幼児教育や最新の教育事情14選

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北欧の国々は幼児教育の先進国

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※写真はイメージ(gettyimages//©Rawpixel)

北欧では幼児教育に保護者の就労の有無や家庭環境の影響がほとんどなく、すべての子どもが平等に教育を受けられる権利があること、そして、子どもの個性を尊重し多様性を理解してお互いに認め合うような環境が整っているといえます。

日本とは制度やシステムが異なるので、一概に「北欧の幼児教育がよい」と言いきることはできませんが、幼児教育の先進国ともいえる北欧の国々に学ぶべきことはたくさんあるのではないでしょうか。

監修:匝瑳 岳美

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匝瑳 岳美

匝瑳 岳美

長野県立大学 こども学科 准教授。フィンランド 国立ヘルシンキ大学人文学部哲学歴史文化芸術研究学科 博士課程 修了。専門は比較教育学、フィンランド、保育とICT教育、保育と記号学、音楽記号学。日本保育学会、日本保育文化学会、フィンランド音楽学学会、日本乳幼児教育学会、フィンランド教育学会に所属。

2024.08.06

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