「イクメンって言葉が嫌い」は男女の分断を広げる?【てぃ先生×治部れんげ】

「イクメンって言葉が嫌い」は男女の分断を広げる?【てぃ先生×治部れんげ】

2022.11.10

今回のKIDSNA TALKは、現役保育士のてぃ先生と、東京工業大学リベラルアーツ研究教育准教授でジェンダーの問題に詳しい治部れんげさんに、ジェンダーと子育てについて伺いました。最終回となる今回は、ジェンダーにまつわる時代の変化と男性育休に見る未来の希望について。

 
てぃ先生(写真左):現役保育士。SNS総フォロワー数は110万人を超え、保育士としては日本一の数を誇る。近著は『てぃ先生の子育て○×図鑑』(ダイヤモンド社)。 治部れんげ(写真右)東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。ジェンダー関連の公職に内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、東京都男女平等参画審議会委員など。著書に『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)など。

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【てぃ先生×治部れんげ】「どうして私だけ門限?」ジェンダー平等とセックスのジレンマ

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「女性は話が長い」が問題視される社会になった

てぃ先生:ジェンダーの話でよく挙がるのが、色ですよね。「男の子は青、女の子は赤」みたいな。僕も性別に関係なく、好きな色を選ぶのがいいと思うんです。それはもう、当然のこととして。

その一方で、公共の場所なんかに使われているアイコン、例えばトイレのマークが男女同じ色になっちゃうとわかりにくいですよね。そういうのは、どう考えればいいんだろうって。

治部さん:それはまさに議論が必要な話ですね。いろんな人が使う場所であればあるほど、わかりやすいかどうかが大事ですから。

てぃ先生:だけど「今まで通りでよし」としてしまったら、「『男の子は青、女の子は赤』が変わらないままじゃん」って考える人もいるだろうし。むずかしいですよね。

治部さん:トイレの表示のように、多くの人が瞬間的に理解すべきものに関しては、変えない方がいいという意見もあって当然ですよね。ただ、公共の場所で使われている色のイメージが私たちの意識に刷り込まれる面もあると思います。

てぃ先生:多くの人がかかわる部分と個人の好みをどう折り合わせるか、ですよね。

治部さん:そうですね。個人の話、たとえば子どもの持ち物についても色の話がよく出てきます。

ランドセルがその代表ですね。「男の子は黒で、女の子は赤」って決められているのはよくない。だからと言って、女の子が黒を使えばオッケーかといえばそういう話ではない。

 
※写真はイメージ(iStock.com/paylessimages)

てぃ先生:でもそういうことって起こりがちですね。「うちはジェンダーを気にしないように、息子におままごとをさせています」って話を聞いたことがあるけど、それはもう逆に押し付けてる可能性がある。大事なのは、子どもがしたいことを性別で判断しないことだから。

──性別ではなく、個別で見ることが大事、という話が今回何度も出てきました。個人の意思を尊重する、という考え方さえ広がれば、「ジェンダーニュートラル」の考え方を広める必要ってあるのかな、とも思ったのですが。

治部さん:ここまでしてきた話は、おっしゃる通り「個が大事」という話です。

ただ世の中には、目立つ女性を叩く風潮が今なお根強くあります。これは、女性の政治家が増えない理由にもかかわってくる問題です。

たとえば、女性が大きな組織の部長に昇進すると、わざわざ男性がその女性の部屋にやってきて、「女のくせに生意気だ」みたいなことを言う。あるいは、女性の実業家が男性から「どうせ社長の愛人なんでしょ?」と勝手に決めつけてバカにされるという話も過去にはよく聞きました。

そういう一つ一つの積み重ねが、ジェンダーギャップ指数の順位の低さにつながっています。

今の社会には男女の格差はなく、中立だと感じている方もいるでしょう。でもこれまでに蓄積されてきた泥がなくなったわけではない。

「女性のための政策ばかりだ」と文句を言う男性もいますが、それにはこれまでの経緯があります。膨大なハラスメントやいじめの果てに、ようやく問題意識として共有されるようになったということなので。この認識は世代によっても変わってくるかもしれません。

 

てぃ先生:そういえば東京オリンピックの時に問題になった、森喜朗さんの「女性がたくさん入っている会議は時間かかる」って発言も、あの世代の男性ならではというか、悪気なく普段からああいうことを言ってるんだろうなと思いました。

治部さん:森さんの発言が問題視されて、オリンピックの大会組織委員会を辞任したことに時代の変化を感じましたね。

昔は森さんのようなことを言う人がごくごく普通にたくさんいましたし、そういう発言で辞職に追い込まれるなんて考えられなかったわけです。

それに、女性だけじゃなく男性も森さんの発言を問題視したことにも時代の変化を感じました。

だから、男女で考え方が分断されているかというと実はそうではなく、「個人を尊重すべき」という考えを持つ人とそうじゃない人で分断されている気がします。その分断は、性別以上に世代によるものでは、と私は思っています。

「イクメンって言うな」は逆効果?

てぃ先生:そういえば、僕が育児や保育の話でインタビューを受けるときは、だいたいいつも女性が記者さんなんですよね。これは適材適所なのかなと思って。現状は女性が育児や保育にかかわることが多いから、女性の方がいい記事が作れるっていう。

治部さん:おっしゃる通り、新聞でも育児や保育、生活ジャンルには女性記者が多くて、政治や経済には男性が多い傾向があります。

でも最近は、30代でてぃ先生と同年代くらいの男性記者の方たちが育児休業を取るようになっています。これも大きな変化です。きっと今後は生活分野を担当する男性も増えるんじゃないでしょうか。

おもしろいことに、男性が育児やケアにかかわるようになると、これまで育児やケアにかかわってきた女性と話すことが似てくるんです。「会社のこういうところがダメ」って一緒にグチったりするようにもなる(笑)。

育児する人の目線で会社や社会を見るようになる、という変化ですよね。だから、育児休業を取ったり子どもとかかわる男性が増えると、性別による意識のギャップも埋まってくると思っています。

 
※写真はイメージ(iStock.com/Milatas)

てぃ先生:頭で考えるよりも、行動することで意識が変わるんですね。

治部さん:そうそう。「ジェンダー問題を解決しよう」みたいな大きなきれいごとを言う人は多いし、ポスターで啓蒙しましょうという動きもある。でも実際にそれで人の意識が変わるかというと、かなり難しい。

だから、大事なのは行動ですよね。家でお皿を洗っているお父さんの姿を見たら、娘さんは「自分もこういう人と結婚して一緒に家事を分担できたら、私も仕事を続けられるかな」と自然に考えるようになる。半径2メートルくらいの、自分がすぐにできる身近なことを始めるのが大事です。

てぃ先生:おっしゃる通りだと思います。頭でっかちになっちゃうとよくない。そういう意味でいま僕が気になるのは、言葉狩りして叩く風潮があるじゃないですか。

例えば、男性が育児を「手伝う」という表現はおかしい、父親なんだから育児して当たり前だ、とか。あとは「イクメン」って言葉も最近批判されがちですよね。たしかに、どちらももっともだなとは思います。

だけど、今の世の中でパパになった男性たちには、さすがに育児や家事をやらなきゃって思いがあると思う。でも現実には、会社の都合で子どもが急に熱を出しても迎えに行けない、育休が取りにくい会社もまだまだある。

そういう葛藤の中で、「手伝うじゃない」「イクメンって言うな」って責められ続けると、いよいよパパたちが苦しい。

これはパパだけを心配しているんじゃなくて、「こうあるべき」で頭がいっぱいになるとママたちもしんどくなると思うんです。

 
※写真はイメージ(iStock.com/takasuu)

てぃ先生:世の中では「パパも育児をすべき」って流れなのに、うちのパパは全然育児をしない。そうすると、「うちのパパはおかしい、ダメだ」と決めつけてしまう。でもパパにも会社とのジレンマがあって、すぐには状況を変えられない。

だから、「こうあるべき」で意識を変えるだけじゃなくて、具体的にパパが育児をするためにどうするのがいいか議論する必要がありますよね。家での工夫もそうだし、国の政策でこういうことをしてほしい、とか。仕組みを変えていくことも考えないと、個人の意識だけの問題にしたら不幸せになるだけだと思う。

治部さん:そうですね。生活に関する話は、「男性も家事をやるべき」というべき論よりも、楽しさや快適さで考えた方が健全ですよね。

てぃ先生:うんうん。治部さんが一貫しておっしゃっているのは、選択肢を増やすことですよね。それは女性だけではなくて男性もだし、世代も問わず。

治部さん:そうですね。今てぃ先生がおっしゃった言葉狩りもそうですが、なぜこんなに多くの人が他人の言動を批判するかと言えば、おそらく自分が置かれた状況に満足していないからじゃないかと思うんです。

子どもと一緒にいたいけど収入の都合で働かざるを得ないママもいれば、本当はリモートワークをしたいけど会社の都合でできないママもいるし、仕事を続けたかったのに辞めざるを得なかったママもいるでしょう。

てぃ先生:たしかに。育休を取りたいけど会社の空気でどうしても取れないパパもいれば、収入面を考えて休めないパパもいるし、逆にさまざまな理由で働けないパパもいますし。

治部さん:現状では、納得のいかない自分の状況の不満の先が、自分とは立場の異なる人に向きがちですが、それは状況を改善しません。

選択肢を増やすには、政策を変える必要もあるし、政治の世界に育児や介護などケア経験を持つ人がいた方がいい。男女に限らず、ですね。

全国民に選択肢が増えて、「私は私、あなたはあなた」と考えられるようになった先に、ジェンダー格差が改善された未来があるんじゃないかと思います。

 

2022.11.10

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