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「親だから」と自分に厳しくしていませんか。子どもの自尊感情に影響してしまう親の思考パターン【藤野智哉】
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精神科医
精神科医
精神科医。1991年7月8日生まれ。 秋田大学医学部卒業。 精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神科病院勤務の傍ら医療刑務所の医師としても務める。
2024年4月に発刊された書籍『「そのままの自分」を生きてみる 精神科医が教える心がラクになるコツ』には、そのままの自分を受け入れ、生きることが少し楽になるヒントがたくさん詰まっています。著者の藤野智哉先生のインタビュー第3回目の本記事では、つい「自分が悪い」と自分を責めてしまう人が、どうしたら自分を大切にできるのか、藤野先生流の考え方を教えてもらいました。
親しい友人を想うように自分も想ってあげる
ーー前回は、自分の心の声を知るために、ノートに書きだしてみる方法を教えてもらいました。
藤野先生:はい。ただ、気を付けたいのは、自分に対して考えると、つい厳しくなったり、ネガティブになったりすることです。なにか悩んでいるときは、ぜひ「近しい友人が同じことを悩んでいるとしたら、なんて声をかけるか」という視点を持ってほしいです。
もし友人に対して「あなたは頑張ったんだから、そんなに落ち込む必要はないよ」と言ってあげるのなら、自分に対してもそう言ってあげましょう。人を想うように、自分を想ってあげる。そうすると、自分に対しても少しずつ肯定的になってあげられます。
きっと、自分に対する優しい声は、普段から出ているんです。でも、叩き潰してしまっている。「自分にはこんないいところがある」と思っていても、「それよりもこんな悪いところがある」と打ち消してしまったり。「しんどいな、疲れてるなぁ」と思っても、「まだまだ頑張りが足りない」と要求してしまったり。
自己肯定感が低い人ほど自分に厳しすぎるのですが、そうやって自分の声を黙殺するのはやめて、もっと聞いてあげること。大切な人と同じように、自分のことも労わってあげてほしいです。
物事や人間関係を数値化してみる
ーー日本人は、自分に厳しすぎる人が多いのかもしれませんね。
藤野先生:そうですね。でも、「全部自分のせいだ」と思っている多くのことは、「100%自分のせいだけではない」ものです。たとえばなにか自分のせいでパートナーを怒らせてしまったとき、冷静に考えてみると、
「アクシンデントがあったから仕方ない部分もあった」
「相手と自分は考え方が違うからどうしようもない部分もある」
「でも、もう少し違う言い方をすることもできた。そこは自分のせいかな」
などと、いくつか要因が浮かんでくるのではないでしょうか。そして、それぞれが何割くらいかを考えてみるのです。アクシデントが2割、考え方の違いが5割、自分の言い方が3割、といったように割合を考えてみると、100%自分のせいだ、という考えには無理があったと気が付くと思います。
自分に悪い部分があったとしても、物事や人間関係に100%はありません。あまり自分を責めすぎたり、厳しくしなくてもいいんですよ。
親が「自分を大切にする姿」が子どもに与える影響とは
ーー親の自己肯定と子どもの自己肯定に相関関係はあるのでしょうか?
藤野先生:相関関係とまで言い切れるような研究データはありませんが、影響はもちろんあります。
自分を肯定するためには自尊感情が非常に大切ですが、自尊感情を得るためには、自分のやりたいことを自分の意志でやっていること「自己のコントロール感」が大事と言われています。親が、自分がやりたいことをやって満たされている姿を見せてあげることで、そのように生きていくことがよいことだと子どもに伝わり、子どもの価値観にも影響を与えますよ。
ーー親は子どものために「これをしてあげたい」「あれをしてあげたい」と考えがちですが、それで自分自身のことをおろそかにしているのであれば、結局は子どものためにもよくないのでしょうか?
藤野先生:そうですね。子どもを想うがあまりに自分のことをないがしろにしてしまうのであれば、結局子どもを苦しめてしまうこともあるし、親はもう少し自分自身の気持ちに目を向けてあげてほしいです。
真面目で頑張り屋の親ほど、「子どもにはたくさん習い事をさせてあげなきゃ」「子どもには怒らないでいつも笑顔でいるべき」などと、「~しなきゃ」「~べき」に捉われてしまいがちですが、本当に「すべき」ことなのかどうか、考えてみてはどうでしょうか。
自己肯定が苦手な人は、他者と共依存的になってしまうこともあります。たとえば「自分なんて愛されるわけがない」と考える親は、子どもからの無償の愛を信じられなかったり、素直に愛を受け取れなかったりします。そうすると子どもは「こんなに愛を示しているのに受け取ってくれない」と不安になってしまいますよね。
子どもはもっと愛をアピールしないといけないと考えてしまったり、それが続くと親がもっと愛が欲しくなってしまって、子どもに依存的になってしまったり。
ーードキっとしますね……。
藤野先生:はい。「べき思考」が強い人は、自分がいま「そうあるべき」だと思っていることを、書き出してみるとよいかもしれません。そして、それは「本当にそうあるべき?」「自分自身もそう思ってる?」と心に聞いてみましょう。
そうすると自分の本当の声が浮かんでくるので、ときどきは丁寧に自分と向き合って「そうあるべき」と「自分がそう思う」を分けて考えてみる時間を持ってみてください。
子どもの自尊感情を育む「できたことノート」
ーーそのままの自分を知るために、ノートに書き出す方法を教えてもらいましたが、子どももできますか?
藤野先生:子どもがひとりで書き出すのは難しいかもしれないので、親子でいっしょにやるほうがいいですね。子どもの場合は、「できたことノート」もおすすめです。
成功体験が大事だとよく言われますが、「これはできたね」「これもできたね」とひとつひとつ認めてあげることがとても大切だし、それを親子でいっしょにやることで、親が自分を認めてくれること、家庭は安心できるスペースであることを感じられます。
あとは、自己のコントロール感を身につけるような体験も重要です。たとえば、子どもが欲しいものを買ってもらうために、お手伝いをしておこづかいを貯めて、自分で買いに行ってそれを手に入れる喜び。
そういうことを小さい頃から体験していると、少なくとも自己否定的にはならずに済むとは思います。そして、自分を卑下しなかったり、他人を大切にするように自分自身を大切にしたりすることを、覚えていけるといいなと思います。