逆効果になってない?無理なチャレンジが子どもの自己肯定感を下げる【てぃ先生×ひろゆき①】
現役保育士のてぃ先生と「2ちゃんねる」開設者で実業家のひろゆきさんに「子どもが幸せになるためには」をテーマにご対談いただきました。全3回中1回目は、子育ての環境と子どもの幸せ、そして子どもが満たされて幸せを感じる社会について。
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日本の子育て、なぜ息苦しい?
――最初のテーマは、子育ての環境と子どもの幸せです。メディアやSNSでは「子育てがしづらい」という声が盛んに聞こえてきます。このような意見が多い理由、子育てしづらい環境を変えていく方法について、お二人の考えをお聞かせください。
てぃ先生:他の家庭のことも、自分の家庭のことも気にしすぎじゃないですか。つい先日、赤ちゃんがキッチンの中に入って色んなものを出してる写真がバズっていて、パッと見るとかわいらしいものでした。でもその写真に賛否の声があがっていて、批判する人は「赤ちゃんをキッチンに入れるな」「なんで注意しない」みたいなことを言っていて。
個人的には気にしすぎじゃないかと思うし、「そういう親はダメ」「子どもをあんなふうにしたらダメ」って声に息苦しさを感じますね。「かわいいね」でいいと思うんですよ。普段から安全に気をつけている中でたまたま起こった出来事に、他人が目くじらを立て過ぎというか……。
――子育ての常識にこだわる声はいまだに大きいですよね。
てぃ先生:子育てに関しては、自分以外の価値観を許せない人や違和感を覚える人が多いのかなって。親御さんのほとんどが、「自分が今子どもに対してしていることが間違っていませんように」って不安になりながら余裕なく子育てをしているから、他人の明らかな間違いや価値観とズレたことに意見することで安心を得ているというか。特に子育てが終わった人たちにとっては、もうやり直しがきかないことなので、「自分は間違っていないはず」「自分が正しい」って思いたいから、それが他の親御さんに対する批判にもつながって、そういった声を受け取る親御さんたちの苦しさになっているのかな、という気はします。
ひろゆき:誰でもしゃべれるテーマで、かつ正解がわからないから、みんな好き勝手言いやすいし、「それ間違ってるよ」とも言いにくいんでしょうね。たとえば「日本経済にとってマイナス金利は意味がありますか?」と聞かれても、わからないからしゃべらない人がほとんどじゃないですか。でもみんな子どもだった頃の記憶はあるので「自分はこうだった」「ああするべきだった」と言えてしまうっていう。
――子育てに関しては自分の考えを押し付けやすいという話ですが、ひろゆきさんがお住まいのフランスではいかがですか?
ひろゆき:子育てに限らず、フランスのほうがむしろそういう傾向は強いんじゃないですかね。基本的にフランス人は他の人がやってることにすぐ口を出すので。だけどフランスの中でも宗教や文化圏は色々違うので、「この人たちはそういうやり方をするのね」くらいにしか受け止めない。押し付けにはあまりならないんですよね。
ただ、親切かどうかで言うと、僕はフランスではベビーカーを持って立ち往生している人をいまだに見たことがないんです。基本的にパリの駅にはほとんどエレベーターがないけど、ベビーカーを押してる人がいると、どこからともなく誰かが助けてくれるので。
てぃ先生:へぇ、それはすごい。
ひろゆき:電車やバスの中でベビーカーを畳んでる人も見たことない。バスに乗ってても、ベビーカーが来るとみんな席を譲ったり空いてる席を教えたりしてます。そういうふうに気を遣ってくれる人の割合は、日本よりすごく多い気がしますね。
てぃ先生:日本の百貨店には、お子さん連れやお年寄り向けの優先エレベーターが当たり前のようにあるじゃないですか。でも、海外旅行に行くとほとんど見かけない。それって日本がお子さん連れやお年寄りにやさしいんじゃなくて、逆なんじゃないかって。もしみんなが自然に気を遣えるとしたら、わざわざ優先エレベーターや優先席を作らなくてもいいですよね。
ひろゆき:優先席の弊害はある気がします。フランスだと普通の席でも自分が立てるなら立つようにする人が多いけど、日本には優先席がある分それ以外の席の人は立たなくていいという免罪符が与えられているように思っているじゃないですか。こういうのは社会システムの違いですよね。だから最初におっしゃった「子育てしづらい環境を変えていく方法」を考えるとしても、一つこれができたら、って話でもない気がしていて。
日本の場合、女性がキャリアを一度中断すると、元の収入に戻すのはほぼ無理じゃないですか。アメリカやフランスだと、それなりにスキルがある人ならいつでもまた働けるんですよ。スキルが足りない場合は大学に戻ることもできる。そういうキャリア形成のしやすさ、子どもを産んで育てるあいだは仕事を離れても大丈夫な社会環境かどうかが大きいと思います。
てぃ先生:でも、そもそものところ、心から働きたいと思って働いている女性ってどれくらいいると思います?
ひろゆき:どれくらいかはわからないけど、日本の方が働きたい女性は多いと思います。アメリカもフランスもキリスト教の文化圏なので、働くことは神から与えられた罰みたいな意識がある。フランスの場合だとバカンスのために働くし、みんな定時きっかりに帰ります。だから日本の方が仕事好きなんじゃないかと思いますね。
でも、日本は現状専業主婦の方が有利な仕組みが多いですよね。たとえば扶養控除とか年金の第3号被保険者とか。フランスにはそういう制度がないので、働くのが当たり前になる。その代わり、ベビーシッターを雇うための補助金が出ます。収入が低い家庭だと、1時間1ユーロ、日本円にすると160円くらいでベビーシッターを雇えるんですよ。
てぃ先生:なるほど。ただ、日本はいつまで経ってもベビーシッターがなかなか普及しないですよね。これは子育てしやすい環境の話にもつながってくるけど、今の日本のご家庭は他人を家に入れることに対する抵抗感がめちゃくちゃ強い。少子化の話題になると必ず、地域全体で子育てしましょうという話になるけど、僕はそれはもう結構厳しいと思っていて。だからせめて、家事代行とかベビーシッターを受け入れる風潮ができれば、雰囲気が変わっていくと思うんですけどね。
――フランスの風潮として、他人を家に入れることに抵抗はないですか?
ひろゆき:むしろ子育てを他人に頼る仕組みがありますね。子育て中の世帯の家に空き部屋がある場合、そこに学生を住まわせると補助金が出ます。学生は安く住める上に育児を手伝うとお小遣いももらえる。お互いに得なので、結果として他人を家に入れることを選ぶという感じです。
てぃ先生:なるほど。それで思い出したけど、2023年の子育てしやすい街ランキング1位だった千葉県松戸市は、1時間500円で家事支援サービスが受けられるんですよね。そういうサポートが受けやすいことは、子育てのしやすさにつながる気がします。松戸市はほかにも、おやこDE広場って施設が20か所以上あって、子育ての専門知識を持ったスタッフさんがいるらしいんです。そこに行くと直接子育ての相談ができたり、同じような悩みを抱える親同士でお話ができたりすると。
ひろゆき:フランスだと、幼稚園じゃないけど幼稚園のような謎の施設が地域にあります。政府が運営していて、親や子どもが遊びに行ってもいいんだけど、割と押し付けがましくて家まで来るんですよ。子どもがちゃんとした環境にいるのかどうか確認する義務があるから、家まで来て「このベッドはよくないよ」とか「おむつはこうやって替えるんだよ」とか教えてくれるおばちゃんがいるみたいです。さらに予防接種もその施設で受けられる。子どもが遊び慣れている場所だし、予防接種のスケジュールを周りの人が教えてくれるっていう。
――そのくらい強制力があるともう受け入れざるを得ないですよね。
てぃ先生:そのアイディア、僕も考えたことがあるんです。人を家に入れるのが嫌なら、ベビーシッター会社が部屋を借りちゃって、それぞれ担当している子を同じ空間で見るっていう。簡易的な保育園のようなイメージです。別に代表者1名の家でもいいんですけどね。それだと、自分の子どもとシッターさんが一対一にならない。
ベビーシッターによる事件もあったので、そういう不安を持ってる方もいて、だから複数のご家庭で集まって、子どもをみてもらう場所を作るのはどうだろうって。でも、押し付けがましいくらいに介入してもらう必要はあるのかもしれないですね。
ひろゆき:兵庫県明石市のおむつ宅急便も、子育て経験のある方が配達するんですよね。しかも、おむつを渡すには子どもの顔を見せないといけない。だから結果として、配達員の人が子どもの状況を確認できる。おむつを届けに定期的に訪問するから、その時に子育てで困ってることを配達員の人に相談できる機会を作ってるという。
てぃ先生:そう考えると、地域で子育てする、という漠然とした対策よりは、具体的なサービスや人とつながる仕組みを作る方が、今の日本に合ってる気がしますね。
ひろゆき:かなりコミュ力の高い人じゃないと、周りに頼れないですし。だから行政がちょっと厚かましいくらいにかかわってくる方がちょうどいいのかなと思います。
子どものささいな「できた!」を馬鹿にしない
――次のテーマに移ります。子どもが満たされて幸せを感じられる社会とは、どんなものだと思いますか?
てぃ先生:今の世の中、親御さんたちが暗い顔をしてるケースが多いじゃないですか。だから、きれいごとかもしれないけど、お子さんのことを考える前に、まず親御さん自身が満たされて幸せを感じるには、と考えた方がいいと思います。
話を戻して子どもの幸せについて考えると、日本は海外に比べて早生まれが不利すぎると感じる時は正直あります。僕も2月生まれですが、幼稚園や保育園に入った時に4月生まれの子と比べると体格も違えば知識量も違ってくる。かけっこでも勉強でも、早生まれの子がどうしても不利で、そういう差が自己肯定感にもつながると思います。海外だと飛び級ができたり、親御さんの判断で入学を遅らせることもできるけど、日本だとそういうのがない。だから、早生まれの人間としてはそういう平等性を考えてほしいなと思います。
ひろゆき:東大生は4月5月生まれが多いんですよ。プロ野球選手も4月5月生まれが多い。でも、ベストなチームを作ろうとオールスター選手を集めると、生まれた月は関係なくなるんです。要するに、4月5月生まれの人たちは、「自分は人より運動ができる」と思い込んでいるから練習に打ち込めて、結果としてプロに行くレベルにまで到達する。だから思い込みが大事ということですよね。
てぃ先生:思い込みが大事って話に加えて、子どもにとっては失敗する経験も大事ですよね。だけど、公園でもまず親御さんが小石や砂利をよけて子どもを歩かせるけど、それは良しあしだなと思う。親御さんがやさしさでお膳立てするので、その子は周りから見ると失敗していないように見えますよね。でもそれでいいんだっけっていう。
教育でも同じようなことがあります。バカにしているわけじゃないと前置きしてお話しますが、年長さんのお子さんを持つ親御さんがすごく誇らしそうに「うちの子、九九言えるんです」と言うんです。たしかにその子は9の段まで言えるんだけど、冷静に考えたら「年長さんでいつ九九使うの?」って。周りがやらせてるからうちもやった方がいいのかなと不安に感じて、要らぬチャレンジを子どもにさせたけどうまくできない。その結果自己肯定感が下がる。子どもにとって逆効果だけどこういうケースはよく見ます。
ひろゆき:結局時間が経てばみんなできるようになりますからね。覚える能力がまだない子に無理やり進めようとして、負荷を与えるのはどうかと思うんですけどね。
てぃ先生:子どもたちが本当に自信をつけたり、「できた!」と実感できたりするのは、もっとくだらないことなんですよ。たとえば、口笛吹けた、指鳴らせるようになった、とか、息を20秒止められたとか(笑)。大人からすると、「そんなのやってる暇があるなら九九覚えて」と思うようなものが、実は子どもにとっては大事で、自信をつけるものだったりする。それが結局は幸せじゃないかなって。大人側の勝手な価値観を押し付けないことが、子どもの幸せへの近道のように思います。
ひろゆき:結果で見るようになると、失敗しそうなことをやらない方が得という認識になりますよね。できることだけやったら褒められる。難しいことをやって失敗したら褒められない。だから、結果じゃなくて努力とか過程を褒める方が結果的に色んなことをやってみるようになりますよね。
てぃ先生:そうそう。海外の研究にも、結果を褒められたお子さんと過程を褒められたお子さんを比べるものが色々あって。結果を褒められたお子さんは、さらに難しい問題に取り組むのを嫌がる。結果を褒められてるから間違える自分を想像したくないので。一方で過程を褒められたお子さんは、取り組んでいる姿を褒められているので難しい問題にもチャレンジしようと思える。
――そう聞くと、過程を褒めた方がいいですよね。
てぃ先生:でもね、難しいんですよね。だから、子どもが机に座って勉強していたとしたら、「勉強してるんだね」と一言声をかけるだけでもいいんですよ。子どもは基本的に、親に見てもらいたい生き物なので。一日に何十回も「見て見て!」って言ってきた時期がありますよね。だから難しく考えすぎずに、お子さんが取り組んでいる姿をそのまま口に出せばいいのかなと思います。
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