こちらの記事も読まれています
自己肯定できない人は0か100で考えがち。「ちゃんとした親」を目指している保護者が試すべき思考法【藤野智哉】
Profile
精神科医
精神科医
精神科医。1991年7月8日生まれ。 秋田大学医学部卒業。 精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神科病院勤務の傍ら医療刑務所の医師としても務める。
2024年4月に発刊された書籍『「そのままの自分」を生きてみる 精神科医が教える心がラクになるコツ』には、そのままの自分を受け入れ、生きることが少し楽になるヒントがたくさん詰まっています。今、子育てを通して自己嫌悪を抱いたり、「自分は子どもを持つ前はどんな人だったっけ……」と葛藤したりする親たちに伝えたいことを、著者の藤野智哉先生にインタビューしました。全3回にわたりお届けします。
子育てをしていると思い通りにいかないことが多く、すぐにイライラしてしまったり、自分の本性が現れているような気がして自己嫌悪に陥ったり。「こんな親じゃだめだ。もっとちゃんとした親にならないと」と焦りや葛藤を抱える保護者もいるでしょう。
また、親になると子どもを通した社会とのかかわりが増え「〇〇ちゃんママ」「〇〇くんパパ」などと呼ばれたりするうちに、子どもを持つ前の自分がどんな人間だったのかよくわからなくなってしまった、ということもあるかもしれません。
本記事では、そんな葛藤を持つ保護者の心が軽くなるようなヒントを、精神科医の藤野智哉先生に教えてもらいます。著書『「そのままの自分」を生きてみる 精神科医が教える心がラクになるコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から抜粋して、そのままの自分を好きになるために思考を整理する方法も紹介します。
自己肯定=そのままの自分を受け入れること
ーー子育てをしていると、「自分ってこんなにキャパが小さかったんだ」と感じることや、「子どもを持つ前は温厚な性格だと思っていたけど、すぐにイライラしてしまうのが私の本性だったのかな?」などと、ダメな自分に向き合うことが多いですが、保護者はどのように心を保つとよいでしょうか?
藤野先生:そもそも生きていくなかで、いいときもあれば悪いときもあります。たとえば産後で体調が本調子でなければ、ネガティブな考えになりやすいです。そういうときは「今は調子が悪いんだ」「疲れていてネガティブになりやすいんだ」と自分の状態を客観的に見ることが大切です。
また、自己肯定感という言葉がありますが、本来は「ありのまま、そのままの自分を受け入れる」という意味ではないかと思うんです。「〇〇ができるから、自己を肯定できる」ということではありません。「すぐにイライラしてしまう」「家事が苦手」そんな自分も受け入れ、否定しない。それが自己肯定です。
ーーうまくいかなくても「今はそういうときだ」と客観的に見て、よくない状態の自分もそのまま受け入れる、ということですね。
藤野先生:はい。また、誰しもが「スキーマ」といって、考え方や受け取り方にかかわる自分の心のクセのようなものを持っています。よいスキーマも悪いスキーマもみんながそれぞれ持っていますが、しんどい状況のときほど悪いスキーマが前に出てきちゃうんです。
必要以上に「私はダメな親だ」などと自分をネガティブに思うスキーマがあると、たとえばSNSの投稿を見て、自分に向けられた言葉ではないのに責められているように苦しく感じたり、パートナーの何気ない言葉をねじ曲げて受け取ってしまったりします。そういうときは、「相手に悪意はなく、自分がそう受け取っているだけかもしれない」と考えてみましょう。
自分の考え方を客観的に分析してみる
ーー自己を肯定することが苦手な人には、考え方の特徴はありますか?
藤野先生:はい。このような思考のクセは、自己に否定的な考えを生むことがあります。
たとえばご飯を食べに行っておいしくなかったら、普通の人は「おいしくなかったけど、60点くらいかな」と考えられるところを、「おいしくなかったから失敗、0点だ」と感じたり。たった一回の失敗で「もう私はだめだ。どうせまたダメに決まってる」という思考に飲まれてしまい、次の一歩が踏み出せなかったり。
だけど、自分がそういう思考のクセを持っていると知っていたら、「あ、また白か黒かで考えちゃったな」「またひとつの出来事だけ取り上げて一般化しようとしてたな」と気付くことができます。自分の考え方のクセを知って、それをやってしまっていないか、チェックする習慣をつけるとよいですよ。
正面から受け止める必要がある言葉かどうか
ーーなるほど。ただ、いまの子育てって他人からとやかく言われることがとても多いから、自信がない人はしんどいですよね。
藤野先生:そうですね。いろいろと口を出してくる人の意見に振り回されて、疲弊してしまう人がとても多いです。
でも考えてみると、子どもと親は、近しいけれどひとつの人間関係です。普通は他人との人間関係において、そんなに口出しされることってないですよね? たとえば「友だちとしてこういう人間でありなさい」とか「この友人付き合いは間違いだ」などと言われることはあまりないのに、親子の人間関係だけは勝手に言ってくる人が多い。
それは、自分も「親子」という人間関係を経験したことがあるから知っている、と勝手に思っている人たちが多いということ。でも、親子という枠組みは一緒でも、親も子も全員違う人間なので、ただの対人関係なんですよね。
ーーたしかにそうですね! 親も子もひとりひとり違う人間で、それぞれ全く違う人間関係なのに、親子という枠組みなだけで、知ったように言ってくる人が多いんですね。
藤野先生:はい。世の中には、正面から受け止めなくてもいい言葉が溢れています。それに、自分の人生が充実している人は、人にわざわざ口出ししてきません。そういうことを言ってくる人には、「暇なんだなー」と思っておけばいい。
他人はあなたのために生きていないし、あなたも他人のために生きる必要はない。そう思うだけで、少しは聞き流せるようになるかもしれません。
第2回はこちら▽▼▽