ワニの研究から宇宙を目指す16歳の研究者。温故知新で人類の未来を切り開く

ワニの研究から宇宙を目指す16歳の研究者。温故知新で人類の未来を切り開く

2025.04.18

KIDSNA STYLEの新連載企画『小さな革命者たち』。第一回となる本記事では、2歳のときに恐竜に魅了され、生物の研究を続ける孫正義育英財団生の大塚蓮さんに密着。彼は、恐竜が生きていた時代とほぼ変わらない姿をしているワニの生態に目を付けて研究に励む。生物の長い歴史から未来の人類が生きるヒントを探す、彼の研究に迫る。

大塚蓮。16歳。2歳で恐竜に魅了され、小学5年生の頃から生物の研究に勤しむ。現在の研究テーマは「ワニの肢と生態」だ。

彼は、ソフトバンクグループ代表である孫正義が「高い志と異能を持つ若手人材支援」を目的として設立した公益財団法人 孫正義育英財団に、数多くの志願者の中から選定された内の1人となり、5期生として所属。

また、2025年3月には、中高生研究者が自らの研究を発表し議論し合うアジア最大級の学会「サイエンスキャッスル ジャパン2025」に参加。大手機械部品メーカーTHK株式会社のパートナー賞と、優秀賞を受賞した。

好きなことを楽しそうに話す明るい雰囲気が人を惹きつける彼だが、恐竜やワニに対する熱意や知識には驚かされる。そんな彼の将来の夢はなんと宇宙飛行士。恐竜やワニの研究は、宇宙飛行士の夢とどのようなつながりがあるのだろうか。


ワニの歩行に隠された可能性とは

ーー蓮さんが行っている研究について教えてください。

蓮さん:現在はワニの肢と生態の傾向を探り、恐竜の生態との関連を調べる研究を行っています。また、生物を活かしたバイオミメティクス(生物模倣)分野を学んでいます。研究の主なテーマとしているのは、ワニの歩き方について。ワニはすごく低重心で、上下の振動がすごく少ないんです。だから、ワニの上に鳥や他の動物が乗っていても、ワニが歩いていることに気付かなかったり。

僕は、ワニ型のロボットを開発することによって、宇宙の調査や開拓にも使えるのではないかと思っています。たとえば、宇宙開発の際にさまざまな精密機器を運ぶ必要がありますが、通常のタイヤ型の運搬機器では振動によって機械が壊れてしまったり、また惑星の表面や貴重な調査材料を踏みつぶしてしまうこともあるんです。

これが、ワニ型歩行のロボットであれば重心が安定しているため上下の揺れが少なく、かつ踏みつぶす面積を少なく移動することができます。その可能性に気付き、現在はワニの歩行様式を研究しています。


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2歳のときに恐竜のかっこよさに魅了される

ーー幼少期から生物に興味を持っていたのでしょうか?

蓮さん:はい。物心ついたときから生物が好きでした。2歳のときに親戚のおじさんがドロマエオサウルスという恐竜のフィギュアをくれて、そこから恐竜に興味を持ったことを今でも覚えています。そして、博物館に行ったり、恐竜の映画を見るようになったり、どんどん恐竜にハマっていきました。

博物館で恐竜の骨を見ると、CGや絵で見るのとはまったく違っていて、「こんな生物が本当にいたんだ」と実感し、生き物の骨にも興味を持つようになりました。また、恐竜はその時代に他の生物には見られないような脳や肺の構造があったり、もっと知りたくなる要素がたくさんあります。ただ、なんでこんなに好きになったかというと、間違いなく「かっこいいから」。それに尽きると思います。

ーー最初に取り組んだ研究はどのようなものでしたか?

蓮さん:最初は恐竜に関する研究ではなく、小学5年生のときにフライドチキンの残った骨を乾燥させて、にわとりの骨格標本を作りました。標本を作ってみることで、骨の複雑さや洗練された役割にも気が付くことが出来たんですよね。手羽、脚、胸、アバラなどの部位を食べ比べながら集めていったので、同時にどの部位が一番おいしいかも研究することができました(笑)。


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本当はその次に恐竜について研究をしたかったのですが、恐竜の骨は実際に手に取って計測をするのが難しくて。そんなときに、進化系統上で恐竜に近く、鳥ほど多様化していないワニに目を付けました。ワニを研究することで、恐竜の謎を解き明かすことにも繋げられると考え、今も続けているワニの研究を始めることになりました。

当時所属していた支援団体の方に古脊椎動物学・哺乳類学の博士である西岡 佑一郎先生を紹介していただき、先生と一緒にワニの解剖をやりました。全体の構造や肉質、どの部分に脂が多いのか、しっぽは意外と筋肉質だ、などと多くの発見がありましたね。先生に生物のことをたくさん教えていただく中で、さらに生物の進化っておもしろいなと感じるようになりました。

生涯学びを楽しみながら続けたい

ーーワニの研究とは別に、2023年に「未来の農業ロボットアイディアコンテスト」で最優秀賞を受賞したと伺いました。

蓮さん:はい。ヘビ型ロボットのアイディアをプレゼンし、最優秀賞をいただきました。

ーーヘビ型ロボットは、どのようなロボットなのでしょうか?

蓮さん:よく野生動物が山から下りてきてしまって、農作物は被害を受け、それによって動物も射殺されてしまったりするニュースを目にしますよね。そのことに以前より問題意識を感じていて、どうにか人々にとっても動物たちにとっても幸せな方法はないかなと考えた結果生まれました。

このヘビ型ロボットは、農作物に近づいた野生動物を遠ざけるため、彼らが好む香りを出して別の場所へと誘導します。ヘビ型なので木の間をすり抜けたり、木に登ったり、森の中をスイスイと進むことが可能なんですね。

まさに、野生動物から農作物を守り、動物と人類の共存を可能にするアイディアだと思っています。

ーー面白いですね! なぜそのような画期的なアイディアが思いつくのでしょうか?

蓮さん:生物が小さいときから好きなので、そこからヒントをもらっていると思います。まだ実現させたわけではなくアイディアを出しただけなので、簡単に思いつきました。

僕は普段から好奇心のままに好きなことをやっています。自分が好きなものに理由なんてないじゃないですか。恐竜学の権威と呼ばれている真鍋真先生も、研究について話しているときも本当に楽しそうで、真鍋先生にとっての研究は遊びのようなんですよね。そんな風に生涯学びを楽しんで、続けたいなと思っています。


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メリハリをつけた研究生活

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ーー普段の生活のなかで研究時間はどのくらい確保していますか?

蓮さん:時間を意識したことはあまりなくて、気が向くままにやっていますね。休みの日は、朝9時頃に始めて気付いたら夜寝る時間になっていることもあります。義務感でやっているわけではなくて僕にとっては楽しいことなので、熱中してしまいます。

ただ、メリハリをつけることは意識していますね。中途半端にやってしまうと何もできなくなるタイプの人間なので。研究に集中すると決めたら研究、学校の勉強をすると決めたら勉強、遊ぶと決めたら遊ぶ、といった具合です。

ーーご両親は応援してくれますか?

蓮さん:すごくサポートしてもらっています。小さい頃から僕が興味を持ったことはすぐにやらせてくれたし、両親のサポートがなかったらここまで没頭できていなかったと思います。今やっている研究についても、いつも両親に聞いてもらうことで頭の中が整理できています。自分の頭の中だけで言語化しようとすると難しいことも、両親に聞いてもらうことで上手くできたりするので、そういう時間は大切にしていますね。

ーー孫正義育英財団生の財団生とも研究の話をしますか?

蓮さん:よく話します。たとえばワニ型ロボットを財団生の友だちに見てもらって、意見をもらうこともあります。僕は生物学の視点で作っているけれど、財団生はみんな専門分野が違うので、いろいろな情報や価値観をもらえるんです。それがすごくありがたいですね。


将来の夢

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ーー蓮さんの将来の夢を教えてください。

蓮さん:今までワニの話をしてきましたが、小さいときから宇宙に憧れていて、将来の夢は宇宙飛行士です。ただ、今やっているワニや恐竜の研究は宇宙開発に役立つと考えているので、ふたつの夢を同時並行でやっているような感じです。宇宙飛行士の夢を叶えたときには、ワニ型ロボットの実証実験を行いたいです。

ーーワニや恐竜の研究を通じて実現したいことは何ですか?

蓮さん:「温故知新」という言葉が合っているように思います。僕たち人間がいろいろな知恵を絞って、何十年間と研究をしたとしても、熾烈な生存競争のなかで生き抜いた生物たちの前では脆弱です。ですが、昔から生き残るために生物が進化してきた仕組みを解き明かすことができれば、今後我々が生きていく環境にはどのような生物が適しているのかがわかります。

つまり、いつか我々が地球以外の惑星で生きていくことになったとしても、それに適した身体の仕組みがあるということです。バイオミメティクス(生物模倣)といいますが、それを活かしていくことが、未来の人類のためにもなることだと考えて、研究を続けていきます。

研究にはゴールがなく、延々と伸びていくものだと思います。疑問列車という言い方をすることがありますが、ひとつ疑問が解決すると新たな疑問が出てきて、疑問列車がどんどん連結していく。それをどんどん続けていくことが大きな研究になると考えています。

ーー10年後の自分に声をかけるとしたら何と言いますか?

蓮さん:26歳……、宇宙に行っていたら最高ですけどね。10年経ったら宇宙工学の技術も発達していると思います。でも、どこで何をしていても自分は自分なので、いつも通り頑張ってと言いたいですね。


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