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【天才の育て方】#17 田中琥太郎~動物と話せる世界へ挑戦する13歳
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KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。#17は、6歳で家族とカナダへ移住し、9歳でカナダ政府からギフティッド認定を受けた田中琥太郎さんにインタビュー。「動物と話したい」という夢を叶えるためにさまざまな学問に関心を持ち次々と行動していく彼は、どのようなルーツを持つのか。その背景を紐解いていく。
「失敗はただの過程。ゴールはもっと先にある」
「知りたいことがあればイーロン・マスクにさえ直接コンタクトを取る」
こう語るのは、9歳でカナダ政府にギフティッド認定を受けた13歳の田中琥太郎さん(以下、琥太郎さん)。
Grade1(年長の夏休み)になるタイミングでトロントに移住。現在はプライベートスクールに通いながら生物学などあらゆる分野を探究し、ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長である孫正義氏が「高い志と異能を持つ若手人材支援」を目的として設立した公益財団法人孫正義育英財団にも所属している。
彼を突き動かすのは、「動物と話せるようになりたい」という夢だ。どんな幼児期を過ごし、どのようにこの夢にたどり着いたのか、今回はお母さまにもご同席いただき、琥太郎さんのルーツや今後のビジョンに迫った。
「動物と話す」方法を模索し続ける行動力
わからないことは研究者を訪ねて聞く
13歳である現在、学校に通いながら自分の夢に向かってアグレッシブに探究し続ける琥太郎さん。驚くべきは、その行動力だ。さまざまなアプローチで、大規模かつ広範囲に活動を進めている。
――琥太郎さんは現在、具体的にどんな活動をされているのですか?
琥太郎:小さい頃から生きもの全般が好きで、人間が動物と話せる未来を実現したいと思っています。
今まで誰もやっていないことをやろうとしているので、教えてくれる人がいないため、自分で切り拓くしかありません。ふだんはプライベートスクールに通いながら、夢を実現するためにはどんな学問が必要で、どういう研究をすればよいのかを模索している最中です。
小さいころから、哺乳類や爬虫類、魚、虫など、生きものの生態で不思議に思ったことは図鑑やインターネットでなんでも調べていました。
本格的に動物と話したいと思ったのは、3年前に犬を飼い始めてから。それまでも人間の言葉は通じると思ってしゃべりかけてはいたけど、逆にこの子が何を考えているのか知りたいと思って調べていたら、犬の感情を13個まで解明できる装置を販売している国があると知りました。犬だけでいえば、国境を越えればここまで研究は進んでいるんだ!と感動しました。
それで最初は生物学を独学しようと思い、さまざまな研究事例を調べたり、あらゆる分野の専門家に話を聞きにいくようになりました。
母:琥太郎が生きもののことについて調べているなかで、興味をもった記事があるならそれを書いた人に聞きなさいと伝えていました。
生物学はとにかく未知の世界で、研究者はそれぞれの分野で日々新たな謎を解き明かしているけど、生物の数は数知れずだし、答えもないしゴールもないのです。つまり、みなさんパッションを糧に終わりのない研究をされている。だからこそ、琥太郎には「わからないことはプロに聞け」と。
――最近ではどんなことを研究者に聞きましたか?
琥太郎:トロント大学の生物科学の教授が、アルツハイマーの研究にゼブラフィッシュを使っていることを知り、気になっています。稚魚のとき身体が透明だから、解剖して傷つけずに顕微鏡で脳の動きを見ることができるという理由で研究に使っている、という記事を読んだんです。
それを読んだときに「稚魚のときに透明な魚はシラスとかウナギとか他にもいるのに、なんでゼブラフィッシュなんだろう」と疑問に思ったんです。なので、その教授にすぐにメールを送り、自分の夢にこの研究を関連づけられる可能性を感じたとコンタクトを取ったところ、「君の夢はとても興味深い」と快く研究室訪問を受け入れてもらえました。
夢を叶えるためには「動物=哺乳類」の脳を分析するものだと思っていたけど、この記事から「魚」も研究対象になるのでは、とワクワクしています。
母:研究室訪問は、小さいころからさせています。大学の先生って優しくて、分からないところを教えてほしいと連絡すると、皆さん快諾してくれるんです。それは琥太郎がまだ幼くて純粋な好奇心で動いているからこそ、親切に対応してもらえるんだろうなと思っています。
琥太郎:いま世界でいちばん動物実験をしているのは、電気自動車企業テスラのCEO、イーロン・マスクがやっているニューロリンクという会社。
そこでは、サルの脳にマイクロチップを埋め込み、サルがビデオゲームをできるようになったんです。サルがゲーム画面を見ながら「右に行け」と感じたら、チップがそれを読み取ってパソコン上で変換し、コントローラーを操作するわけです。
言葉を介すことにこだわりすぎずに、もしかするとこのサルのように脳波の動きでコミュニケーションをする時代がいつかくるかもしれないと感じました。気になることがたくさんあったので、イーロン・マスクにもメールでコンタクトをしているところです(笑)。
周囲の天才たちからも知見が集まる
自ら研究者にコンタクトを取り、直接教えてもらうことで、生きものについての疑問を次々と解き明かす琥太郎さん。しかしあることがきっかけで、活動の範囲を、生物学からさらに発展させていく。
――夢が具体的になってきたと感じた経験はありますか。
琥太郎:在籍している孫正義財団で、同じ財団生の土井ゆりかさんが、ハーバード大学の生物学研究室を案内してくれたことがありました。
研究室を訪問し、動物について話すのはとても楽しかった。実験も見せてもらって、僕の夢に近づくためには動物行動学や脳神経学だけでなく、エンジニアリングやデータ分析のための「コンピュータサイエンス」も必要だと実感しました。
それらの技術をうまくつなげることができたら、本当に動物と話せるようになるかもしれないと、いろんな人に出会うたび、夢に一歩近づいた気がしています。
母:最初は「ペットとしゃべりたいというのは誰もが一度は思う、幼い頃の子どもの夢だよね」と笑われていたのが、本人の行動力と、孫正義財団との出会いで大きく変わっていきました。
財団にはさまざまな分野を極めている先輩たちがたくさんいて、彼らはまったく笑わず、小さい琥太郎のアイデアを真剣に聞いてくれました。それにこの子は幼さゆえのポジティブさで、すごい人にもひょうひょうと質問するんですよ。
あるとき、マサチューセッツ工科大学メディアラボを訪問した際、光学とコンピュータサイエンスを研究している財団生に「動物としゃべる夢を叶えるために何が必要だと思う」聞くと、「ビッグデータだよ」という答えが返ってきたそうです。
動物のデータをひとつひとつ集めていたら生きているうちに実現することは不可能だから、ビッグデータであらゆる情報を集めて、その中から同一性やパターンが導き出せれば可能だと。だからプログラミングもできなきゃいけないよと。
財団生は本当に自分の専門分野に関してはどんな質問をしても答えてくれるし、「この分野ではこうだよ」「僕の分野では可能だよ」とアドバイスをくれてとても心強いです。琥太郎自身も、第一線で研究しているお兄ちゃんから聞いたことをすぐ実行して、プログラミングを始めていました。
母:こうした経験を重ねていると、いよいよ動物と話すことがそんなに現実離れした夢物語ではない気がしてきて、どんどん活動が本格的になっていきました。
親としても、本人がやりたいと言ったことに必要な情報や技術が得られるクラスに制限なく送っているつもりです。それでも、いきなり動物としゃべるための決定的な何かはすぐにはできないので、本人が可能性を感じる分野のクラスをとり、組み合わせていく必要があるのかなと。そのためにも、さまざまな大学の教育プログラムや最先端の医療を学ぶイノベーションプログラム、サイエンスプロジェクトなど幅広く参加しています。
天才ができるまでのルーツ
動物に興味を持った幼児期
小学校入学とともにカナダ・トロントに移住、9歳でカナダ政府にギフティッド認定を受けている琥太郎さん。日本とカナダ、それぞれどのような幼児期を過ごしてきたのだろうか。
――生きものに興味を持つようになったきっかけは、日本にいたころでしょうか?
琥太郎:おじいちゃんおばあちゃんが愛媛に住んでいて、日本に住んでいた頃はよく遊びに行っていました。
家の前の田んぼでイモリやカニやヤモリを捕まえたり、おじいちゃんが船で無人島まで連れて行ってくれて素潜りをしたり。そういうことが本当に楽しくて、次第に生きものが大好きになりました。
日本で住んでいたマンションでも庭に畑を作ってガーデニングをしたり、そこに来る昆虫を観察したりとか、自然環境がとにかく好きでした。植えていたレモンの木の葉っぱに蝶の幼虫がよくつくので、見つけるたびにポケット図鑑で調べていたこともよく覚えています。
母:興味関心を深堀りできるような環境をつくってあげたかったので、図鑑や本でリサーチしたり、パソコンで動画やリアル映像を見せるだけでなく、図書館・美術館・科学館などにもよく連れて行きました。
琥太郎が話を聞いてほしいときや質問したときは、自分がどんな状況であってもタイミングを逃さず対応するようにしていましたし、何かに興味を示したら、まずは「琥太郎はどう思う?」「琥太郎だったらどうする?」と尋ねるようにしていました。
とにかく気を付けていたのは、親の価値観・常識の枠の中で育てないこと。時代・場所が変われば変わるものに振り回されず、子どもの好奇心から生まれた一見変なアイデアでも、いっしょにのって楽しんで聞くことが今の行動力にもつながったのかなと。
――その後、就学のタイミングでカナダで子育てをしようと思われたのは、どのような経緯があったのでしょうか?
母:元々琥太郎が生まれる前に、夫婦でワーキングホリデーを利用しトロントで一年間生活したことがありました。そのときに、ダイバーシティの魅力と子育てのしやすさを痛烈に感じ、ここで自分の子どもを育てたいと決意しました。人種があまりに多様なので常識という概念がなく、人と比べることのない文化に強く惹かれましたね。
そのときはワーキングホリデーだったので一度帰国をしたのですが、子どもが生まれたらトロントに移住すると決意し、転職活動や小学校のリサーチなど、計画的に準備をすすめました。しかしビザの取得が困難で、夫と私の仕事が決まっていてもなかなか申請が通らなかったんです。そんなとき、私が現地の大学へ通うことが家族滞在ビザ取得の最短ルートだと知り、必死で勉強して大学を受験しました。
無事にトロントの大学へ進学が決まり、琥太郎がGrade1になる2週間前に引っ越し。私は大学生になり、彼は公立の小学校に通い始めました。
実際に暮らしてみて、学力やスキルで個人の優劣をジャッジをされることもなく、できる子もできない子も同等な世界が心地よく感じます。勉強ができるからといって誰も褒めないし、琥太郎も特別感をもつことなく育っています。
パズルや数学の創造性が好きなギフティッド
琥太郎さんはGrade3(小学3年生)のときに、ギフティッドの試験を受け、カナダ政府よりギフティッド認定を受けている。
ギフティッドとは、“贈り物”を意味し、学習障害など支援の必要な生徒にヘルパーの先生がつくのと同じように、それぞれ必要に応じて最適な教育が受けられるようにする公的な制度。その才能を社会のために還元できるようにというメッセージが込められている。
――ギフティッド認定には、どのような経緯があったのでしょうか。
琥太郎:Grade3(小学3年生)の時に学年の全員がスクリーニングに参加しました。最初のスクリーニングの内容がパズルのような問題で、僕は小さい頃からパズルやブロックで遊ぶのが大好きだったので、簡単に解けてラッキーだったなと思っています。
その後、数カ月間かけて認定が決まり、ギフティッドだけが集まるクラスのある学校に転校するか、辞退して元々の学校に残るかの選択肢がありました。僕はなんでもチャレンジしてみたい性格なので、すぐに「行く行く!」と転校を決意したことを覚えています。ギフティッドの学校はGrade6まで在籍して、Grade7からは生物学者の先生がついてくれるプライベートスクールに通っています。
母:転校してすぐの頃、脳のイラストに『Perfection is Robot』と書いてある印象的なポスターを持って帰ってきたことがありました。
ギフティッドだけどそれは特別なことではないし、ギフティッドの中にもいろんなタイプがいるし、完璧である必要もない。「完璧なのはロボットの仕事でしょ」と、自分らしさを全面に出すことを認められている環境が素敵だなとあらためて感じました。
琥太郎:Grade4(小学4年生)で大学で習う数学の対数関数(logarithm function)を使った問題をやったりしていました。あとはバスケを習っていたので、体育も楽しかった。ギフティッドだからこう、というステレオタイプはなくて、多様なクラスメイトたちと毎日を楽しく過ごしていました。
母:「完璧にやるより本質が分かることの方が大事」と思っているようです。
たとえば95点のテストを返されたら、ふつうは残りの5点は何をミスしちゃったんだろうと考えるけど、そういうことはまったく考えないよね。
琥太郎:うん。
母:琥太郎の場合は「計算ミス?コンセプトは分かってるからノープロブレム」という感じ。
だから好きな数学の分野でも、問題集を解く作業は「勉強」で、数学問題を考えて自分でクリエイトするのは「ワクワクすること」なのだそうです。
――暗記したり問題を解くことよりも、学問としての物事の本質に好奇心が向かっているのですね。
母:ギフティッドのサイコロジスト(心理学者)には、この子はカメレオンタイプの珍しいギフティッドだと言われました。
どこにいても周囲その色に染まるので、勉強に全く興味のない人といると勉強なんてどうでもよくなるし、志の高い人といると、それをすごいとも思わずにそういうものだと受け入れて、そうなっていく。
つまり、入れるコミュニティによってそんなに色が変わるのだとしたら、どんな環境に身を置くかがすごく大事じゃないかと早めに気付いたんです。だから、この子に見せる世界にはすごく気を付けてきました。
でも、どうやっても私たちが与えてきた環境を「与えなかったバージョン」のこの子には会えないので、正しかったか失敗だったかはわからない。だったら家族みんなが笑っていられる選択がいいなと。ゴールは勉強ができることではなくて、幸せな人生を歩むこと。それが誰かのため、何かの役に立つのであれば、こんなに嬉しいことはないですね。自分が将来研究したいことがあるなら、そのために今やらないといけないことは最低限やったうえでは何をやってもいいと思っています。
天才に聞く天才
――琥太郎さんが「この人は天才!」と思う人はいますか?
琥太郎:一番最初にルービックキューブを発明したエルノー・ルービックを尊敬しています。僕はルービックキューブが好きで色々な形のものを集めているのですが、今は調べると簡単に解き方やアルゴリズムが分かります。でも、そういった手段がない時代にどうやってこれを作ったんだろうと考えると、天才だなと感じます。
――お母さまから見て琥太郎くんはどんなところが天才だと感じますか?
母:よい意味で鈍感力が高く、ポジティブだからこそ、実現不可能と思える夢を追い続けられるところだと思います。ふつうの人なら挫折を感じる場面でも、彼は挫折や失敗と捉えないですね。幼さゆえの大胆さもありますが、図太く物事を進める力があります(笑)。
琥太郎:挫折とか失敗って、タイムリミットを勝手に設定するからそこが失敗になるだけで、ゴールがもっと先だとしたらただの過程だと思います。ゴールはずっと先にある幸せだと思っているので、普段あまり思い悩むことはないです。
母:ハッピーボーイですよね(笑)。動物と話したいという夢も、無理かもと思ったことは一度もないみたいです。ないどころか広がる一方で、無邪気で天真爛漫、見ていておもしろいです。
――最後に、今の目標を教えてください。
琥太郎:動物と話せるようになることが一番ですが、ほかにも獣医さんも気になるし、バスケが好きなのでNBAを目指すのも楽しそう。まだひとつに絞っているわけではないです。
今気になっているのは、最近、地球のいろんなところで野生動物に異変が起きていることです。
たとえば、気候変動の影響で鳥の羽が大きくなり、逆に体重は減っていることが明らかになっているのですが、実際に何が起こっているのか、どうして苦しんでいるのか、早く動物と話す夢を実現して、動物側からのメッセージを受け取れるようになりたい。
そうすれば、人間と動物がうまく共存して、動物の生態系を人間が邪魔しない世界がつくれると思います。
編集後記
好きなことをキラキラとした純粋な目で語る琥太郎さんと、そんな彼をおもしろそうに笑いながら相槌を打つお母さまからは、一見困難なことでもそれを困難とは思わずに、幸せな人生を追求する親子の強さが見えた。
琥太郎さんはその計り知れない好奇心で、これからも広い世界を見ていくことだろう。彼があらゆる分野をつなげていったその先には、どのような世界が待っているのか、期待せずにはいられない。
<取材・執筆>KIDSNA編集部