【てぃ先生×治部れんげ】「どうして私だけ門限?」ジェンダー平等とセックスのジレンマ

【てぃ先生×治部れんげ】「どうして私だけ門限?」ジェンダー平等とセックスのジレンマ

2022.10.27

今回のKIDSNA TALKは、現役保育士のてぃ先生と、東京工業大学リベラルアーツ研究教育准教授でジェンダーの問題に詳しい治部れんげさんに、ジェンダーと子育てについて伺いました。全3回中2回目のテーマは、ジェンダーと生物的性差(セックス)のジレンマについて。

 
てぃ先生(写真左):現役保育士。SNS総フォロワー数は110万人を超え、保育士としては日本一の数を誇る。近著は『てぃ先生の子育て○×図鑑』(ダイヤモンド社)。 治部れんげ(写真右)東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。ジェンダー関連の公職に内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、東京都男女平等参画審議会委員など。著書に『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)など。

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てぃ先生、保育士としての葛藤を吐露?ジェンダー問題に詳しい治部れんげさんと対談

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「女の子は夜遅く出歩いちゃダメ」もジェンダー不平等?

──性別で子どもの扱いに差をつけないようにしたい。男の子も女の子も好きなようにふるまってほしい。そう思っても、現実の社会には性犯罪があります。防犯の観点でみると、女の子には「座るときに脚を開かない」など教える必要がありますが、この点についてどう思われますか?

治部さん:先日学生さんからまさにこういった質問を受けました。大学の授業で、「女の子/男の子だから」と言われて嫌だったことを書いてもらったんです。すると、「お兄ちゃんには門限がないのに、妹の私には門限がある。これはおかしい」と書いた学生がいました。ジェンダーの観点ではよい気付きですよね。なぜ帰宅時間を性別で制限するの、と。そう考えるのももっともでしょう。

だけど、保護者の立場で考えると私も女の子に門限を作るかもしれない。現実にある危険を取り除くためには、ジェンダー平等の理論だけでは判断できないことも起きてくる。だから杓子定規に良い/悪いと決めるよりは、個別に判断するしかないですよね。

あと最近は、男の子も性犯罪に遭うことも明らかになってきています。「女の子は性被害に遭うけど、男の子は遭わない」も一つのジェンダーバイアスなので、性暴力に遭った男の子が被害を言い出しにくい現状にもつながっています。

てぃ先生:子どもたちを見ていて「ジェンダーを気にして生きてるな」と思うことはないけど、夏に園で水遊びの時間があって、2歳くらいだとまだ男女気にせずお着替えをします。だけど、年長さんになると男女に分かれて着替えるようになる。そうすると必然的に、男の子と女の子の違いみたいなものの意識が芽生える部分はありますよね。「そんなの気にせず一緒に着替えるよ」っていうのが正しいとも思わないし。

 
てぃ先生

──今のお話で気になったのですが、いま保育園で性教育はどのくらいされるものなのでしょう?

てぃ先生:園によっても違いますが、僕のいる園ではみんなを集めて改まった授業として教えることは基本的にはないですね。子どもが自分自身や他の子の体がちがうと気付いて、そういえばお父さんとお母さんの体もちがう、と次々に疑問が湧く時期があります。

その時期は子どもによってちがうので、その子に疑問が生じたときに対応するのが園での性教育の基本ですね。個々の子どもに教える内容も、場合によっては保護者に許可を取ってから答えるようにしています。

治部さん:先ほど男の子も性暴力に遭うけど、男の子にはあまり注意喚起がされないという話をしましたが、男性が暴力をふるうほうで、女性が暴力をふるわれるほう、という固定された見方があります。実際に被害件数を見ると女性が被害に遭うことが多いので、一面的には正しいのですが、現実には女性が加害者で男性が被害者になることもあります。

このバイアスは子どものころから始まっていて、保護者や園や学校の先生が男の子には「乱暴しちゃだめ」と教える一方、女の子にそういう注意はしない。でも、他の子を叩いたり蹴ったりする女の子もいる。本来は性別を問わず「暴力はよくない」と教えないといけないんですよね。

てぃ先生:いまスッと思い出したけど、小学生時代に僕は女子を叩いちゃだめだけど、女性は男子を叩いていい、みたいな風潮がありましたね。いま思うとおかしい(笑)。

治部さん:うちには男の子と女の子がいて、ケンカすることももちろんあるけど、そういう時は両方から聞き取りをしています。「こっちが先に手を出した」「でもそれはそっちが〇〇したから」って経緯を聞いて、息子が悪いと鼻から決めつけないように注意はしていますね。

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※写真はイメージ(iStock.com/kdshutterman)

治部さん:「女の子は見た目がかわいらしいから」とか一切関係なく、手や足が出る子はいますから。これもまさにジェンダーバイアスですね。

てぃ先生:その通りだなと思うんですが、成長するにつれて男女には筋力の差が生まれるじゃないですか。僕たちの時代は「男の人が女の人に手をあげちゃいけない」と言われてた。人を殴っちゃいけないのは性別に関係ないことだけど、男女には体格や力に差があるってことも一緒に教えた方がいいような気もします。

あと最近、男女混合で50メートル走するかどうかって議論もあって。そうするとだいたいの場合は女の子が負けちゃうから、やる気をなくしちゃいますよね。生物学的なちがいをすべてないことにしてしまうと、こういう場面ではよくないのかなって思っています。

「男なのに保育士なんて」てぃ先生はどう乗り越えた?

──お二人はそれぞれ保育士、大学准教授としてジェンダーバイアスにとらわれずに活躍されています。ここまでの道のりでジェンダーバイアスに悩むことはありませんでしたか?

てぃ先生:そもそも保育士になろうと決めた段階で、高校の担任の先生に止められました。毎日のように「絶対にやめろ」「いい加減気は変わったか?」って。週に一回は呼び出されて「結婚しても養えないぞ」「コンビニでバイトした方がよっぽど稼げる」って、くり返し説得されましたね。でも思春期の僕は反対されればされるほど「やろう」と思ったから、逆効果で(笑)。

高校2年生の時に保育士になりたいと思い始めて、3年生でちゃんと決めたのですが、最後に迷ったんです。保育士になるか、声優になるか。父は単身赴任だったので母に相談したら、「声優さんで食べられる人なんて一握りだろうから、保育士にしなさい」って。その時初めて「あ、僕の進路に興味あったんだ」と思った覚えがあります。

──担任の先生が反対しても、お母さんは肯定してくれたんですね。実際に保育士になってみて、いかがでしたか?

てぃ先生:僕が保育士を始めたころは、男性がほとんどいなかったんです。だから、幼稚園実習の時、男が着替える場所がなくて、毎日園庭の隅っこにある暗くてジメジメした汚い体育倉庫で着替えなくちゃいけなかった。あれはきっとずっと覚えていますね。

あとは、トイレも不便でした。実習先の園には女子トイレはあっても男子トイレはない。だから「僕男だけど入って大丈夫かな」と思いながら女子トイレを使わざるを得ないっていう。どっちみちひとつしかないならわざわざ「女子」って書かないでよって思いましたね(笑)。

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※写真はイメージ(iStock.com/y-studio)

てぃ先生:保育業界はそれくらい女性中心の世界だったけど、今は男性保育士も増えてきて状況は変わっています。

──男性が少ない中でも、てぃ先生がめげずに続けられた理由は?

てぃ先生:うーん、なんででしょうね? 女性の職場を頑張って生き抜いたというよりは、単純に保育士としてどうやって毎日楽しく保育できるか考えていたからかもしれないですね。

治部さん:てぃ先生が保育業界に入りたての時に経験したことって、40年くらい前に多くの女性たちが経験したことに似ているかもしれません。男性ばかりの職場で、居場所がないっていう。

──その場所でマイノリティ(少数派)になると、男性であれ女性であれ大変な思いをしますよね。てぃ先生は学生時代から自分を貫ける方だったんですね。

てぃ先生:貫けるというよりは、目的意識なく進学するのが嫌だったんですよ。だから特定の職業に就くための学校に通いたいって気持ちはありましたね。その中で専門職だと保育士かなって。

──治部さんはいかがでしょうか?

治部さん:私はてぃ先生に比べたら全然意識が低かったですね(笑)。大学を出る段階でも就労意識がすごく低くて、でも何か仕事をしないといけないって時に、しいていえば本が好きだから消去法で出版社を選びました。

私が働き始めたのは1997年ですが、入社したビジネス系の出版社にはたしか50人くらい女性記者がいました。でもほかの企業を見ると、たいてい女性は事務職などのサポート役で、男性が営業や記者のような外に出る役割と決められていました。企業の説明会で手を挙げて「女性で営業を志望したら?」と聞くと、「女性は事務職です」って。

 
治部れんげさん

治部さん:当時はフェミニズムを意識していたわけではないけど、「女だからこれをやれ」って決められていることや、女性だけ制服を着ないといけないことが気持ち悪いと思ったのはよく覚えています。今思えば、決めつけられることへの拒否反応ですよね。なので、男女で特に扱いが変わらない会社がいいなとは思っていました。

──男女で扱いが変わらない、ということは逆に言うと、実力でシビアに判断される場所でもあるということですよね。

治部さん:そうですね。つまらない取材原稿を書きでもしたら、男女問わず「何やってるの?」と詰められる。25年以上前なので、今ならパワハラと言えるような叱責もありました。やっぱりそれは辛くてもうダメかも、と思うこともあったけど、周りに相談したり愚痴をこぼしたりできる相手がいたので、どうにか続けられたんだと思います。

それに、おもしろい記事が書けさえすれば性別関係なく「おもしろかった」と反応がもらえて、励みになりました。

まあ、当時でも九州に取材に行った時に悪気なく、「女性の記者さんなんですね」と珍しがられたので、本当に職場の環境が自分に合っていて運がよかったんだと思います。

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