「ハーフ」って呼んじゃダメ?【親子で学ぶ差別/前編】

「ハーフ」って呼んじゃダメ?【親子で学ぶ差別/前編】

親子で「差別」について考える新連載。コミックエッセイストのハラユキさんといっしょに、さまざまな専門家の方々に疑問を投げかけ、子どもへの伝え方を学んでいきます。第2回は、社会学者の下地ローレンス吉孝さんが登場します。

下地ローレンス吉孝 ハラユキ 1

呼び方は本人のアイデンティティ。周囲が決めてはいけない

いまの親世代が子どもの頃、「ハーフ」と呼ばれる人たちはテレビや雑誌の中に出ている、めずらしい人々だったかもしれません。しかし、昨今では、幼稚園や保育園、学校などでも、「ハーフ」の子どもたちがいるのが当たり前になってきました。

そうしたとき、外国のルーツのある人々をなんと呼んだらいいのか、なんと呼ぶべきかと考える人も多いかもしれません。実際、「半分」をあらわす言葉に否定的なニュアンスがあるとして、「ハーフ」という言葉が適切ではないという考えもあるほどです。

日本では、外国のルーツがあることを意味する言葉が「ハーフ」以外にもたくさんあります。ミックス、ダブル、混血、アメラジアン、〇〇系日本人、ワンエイス、ブレイジアン……。

iStock.com/Rawpixel
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どちらかといえば、「ハーフ」と呼ぶのに慣れている人も多いかもしれませんが、まずお伝えしたいのは、呼び方については「本人にそれを決める権利がある」ということ。

自分のことをどのような呼称で呼ぶのか、または呼ばないのかは、そのときどきで本人が選ぶことが認められるべきです。

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「ハーフ」の人々は一人ひとり違うルーツを持っている

「自分が何者か」を示す言葉は、アイデンティティそのものです。

「ハーフ」と呼ばれる人々のなかでも、人種や言語、ジェンダー、セクシュアリティ、障害、年齢、文化的背景、経済的なバックグラウンドなどの要素は相互にかかわっており、一人ひとりの経験は本当にさまざま。

つまり、「ハーフの〇〇さん」ではなく、「〇〇さんは関西出身で、女性で、お父さんがバングラデシュ人でお母さんが日本人で……」という複数のアイデンティティを持ったひとりの人間という捉え方をすることが大切です。

さらには、たとえ肌の色や顔立ちで外国のルーツがあるように見えても、日本生まれ日本育ちでほとんど海外に行ったことがないという人もいますし、外国で生まれてすぐ日本に来た人もいます。幼いころに両親が離婚していて、片方の国の文化や言語に触れてこなかった、触れないようにしてきたという人もいます。生い立ちも一人ひとり違うのです。

こうした前提に立てば、一人ひとりの置かれた立場も経験も違うので、自分のことを「ハーフ」だと言いたい人もいれば、「ミックス」と言いたい人、「日本人」と言いたい人など人によって違うことが納得できると思います。

下地ローレンス吉孝 ハラユキ 2
下地ローレンス吉孝 ハラユキ 3

単一的な「日本人」の思い込みを自覚することから

実際に「ハーフ」の人々は、幼児期の、自分で自分のアイデンティティを決める前の段階から、見た目や名前などによって「あなたはハーフだ」という他人からのまなざしを何度も経験しながら大きくなっていきます。

それだけでなく、外国のルーツに関する差別やいじめの問題も起こっているのです。

「ハーフ」と呼ばれる人たちに、これまでの経験を尋ねると、「人生で最初に差別的な発言をされたのは小学校の先生から」という答えが返ってくることもありますし、生まれつき髪がカールしていたり茶髪だったりする子どもが「地毛証明書」などの校則に悩まされる事例も話題になりました。

また、外国のルーツを生かした職業に就く方ももちろんいますが、就活で「ハーフ」であることを揶揄され、落とされたり、家を借りるときに審査が通らないという声もいまだにあります。

iStock.com/xavierarnau
iStock.com/xavierarnau

こうした差別の問題の背景のひとつには 、「人間はだれでもたった一つの人種に属している、もしくは属すべきだ」という思い込みがあることが関係していると思います。

これは「単一人種観」というもので、英語では「mono raciality(モノ・レイシャリティ)」と呼ばれています。「日本は島国だから、外国人との接触が少ないから、仕方ない」と考える人もいますが、実は多人種といわれるアメリカやオーストラリアなどでも同じようなイメージが浸透しています。

そもそも「島国」といっても、日本にはすでに多くの海外ルーツを持つ方が暮らしていますし、今はどこに行っても、外国籍の人や海外ルーツの人と接さないことはほぼない時代です。これからもグローバル化が進み、子どもたちが今以上にさまざまな人たちとのコミュニケーションをするようになるというときに、そして子どもたち自体の背景が多様であるというときに、「日本人」という言葉を単一的に捉えてしまうと、視野が狭くなってしまいます。

実際に、テニスプレイヤーの大坂なおみ選手は、「日本人?アメリカ人?ハイチ人?黒人?アジア人?言ってみれば、私はこれらすべてです。」と複数のアイデンティティについてメディアに表明しています。

テレビなどのメディアや政治の世界、日常会話など、社会のあらゆるところで浸透している「日本人=こういう見た目で、こういう名前で……」という思い込みがあるからこそ、それに当てはまらない人を「あなたは何者なの?」と疑問に思ってしまう

その結果、「ハーフ」の人々に対して、「何人(なにじん)?」「日本語上手だね」と言ってしまうのです。

まずは、アイデンティティはひとつではなく複数あること、「ハーフ」といっても生い立ちや経験などのルーツはさまざまだからこそ、思い込みの枠組みにはめるのではなく、一人ひとりの声に耳を傾けることが大切です。

下地ローレンス吉孝 ハラユキ 4

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Profile

下地 ローレンス吉孝

下地 ローレンス吉孝

1987年生まれ。専門は社会学・国際社会学。現在、立命館大学に研究員として所属。著書『「混血」と「日本人」 ―ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』(青土社)『「ハーフ」ってなんだろう?あなたと考えたいイメージと現実』(平凡社)。「ハーフ」や海外ルーツの人々の情報共有サイト「HAFU TALK」を共同運営

Profile

ハラユキ

ハラユキ

コミックエッセイスト&イラストレーター。 おいしいごはんとお風呂屋さんと祭りが好き。近著に、国内外の多様な家族を取材し、その家事育児分担とコミュニケーションをまとめた『ほしいのはつかれない家族』(講談社)。
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<漫画>ハラユキ
<取材>ハラユキ、KIDSNA編集部
<執筆>KIDSNA編集部

2021年06月17日


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