【教育評論家が回答】共働きは子どもの教育やしつけに影響するのか

【教育評論家が回答】共働きは子どもの教育やしつけに影響するのか

共働き家庭が増えている昨今、共働きであることが子どもの教育にどんな影響を与えるのかについて知りたい方もいるのではないでしょうか。今回は、23年間、公立小学校で教育現場を経験した教育評論家の親野智可等先生に、共働き家庭がすぐに実践できる子どもによい影響をもたらす教育について話を聞きました。

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親野智可等(おやの・ちから)/教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。

共働きは子どもの教育に影響するのか

ーー子どもを保育園に預けて共働きをしている家庭では、特に平日は時間に追われる毎日だと思います。その中で、子どもと一緒にすごす時間が少ないことを気にする親御さんもいるようです。

親野先生 : 子どもと一緒にいる時間が少ないことで、子どもの教育に悪い影響が出るのではないかと心配される親御さんもいますが、心配する必要はありません。 

むしろ、あまり心配しすぎると逆効果になります。

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※写真はイメージ(iStock.com/maruco)

「自立」を意識しすぎることの弊害


親野先生 : 例えば「子どもと一緒にすごす時間が少ないので、できるだけ自立を促し、自分のことは自分でさせている」という親御さんもいますが、これは自立という意味では逆効果になることがあります。

なぜなら、子どもが自分で片付けやお出かけの支度ができないと、「なんでできないの」と否定的な言葉を投げかけてしまい、それが子どもの自己肯定感を下げてしまうからです。「自分はどうせだめだ」と感じることで、子どもは本来ならできることも、やる気をなくしてしまいます。

親子ですごす時間を最優先

親野先生 : 自己肯定感と親子関係は、子どもにとってもっとも重要です。もし共働きで一緒にいる時間が少ないと感じているなら、否定的な声かけや説教を極力控え、親子にとって楽しい時間にすることを優先した方がよいと思います。そのためには子どもを肯定、共感することが大事です。

もちろん、親としてやっておきたい教育やしつけはあるでしょう。だからこそ、それが空回りしないように、まずは親子関係を良好なものにして、子どもの自己肯定感を上げることが必要です。

共働き家庭でも工夫できる

ーー子どもの教育の環境づくりには、親子関係と自己肯定感が重要だということはわかりましたが、どうしても「これくらいはできるようになってほしい」と、親として子どもに期待してしまう場面もあると思います。

親野先生 : 子どもに対する教育やしつけは、親御さんが「方法」と「言葉」の2つを工夫するだけで、うまくいくことがあります。

たとえば、「歯みがきしなさい」と何度言っても、忘れてしまったり、自分からやらない子どもがいたとします。そういう子どもに対しては、毎日叱るより、食事のときにテーブルに歯ブラシを一緒に配膳するなど、子どもが取り組みやすい「方法」を工夫するのです。

そして、子どもがちゃんと歯みがきをすることができたら、「自分でできたね」と言葉で伝えることも大切です。これを1週間ほど続けて歯みがきの習慣が定着したら、様子を見つつ歯ブラシを配膳する必要がなくなるかもしれません。

子どもができないことを叱るのではなく、親御さんが工夫をすることで、子どもの自己肯定感を下げずに親子の時間を楽しく過ごせるようになります。

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※写真はイメージ(iStock.com/recep-bg)

親が割り切ることも大切

ーー共働き家庭で子どもと一緒にすごす時間が少なくても、楽しくすごすことができるのが理想ですが、文字のおけいこや片付けなど、あまり子どもの気が進まない教育やしつけを家庭で実践する時には、どのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。

親野先生 : 文字や数など勉強系のことも、「やらなければならない勉強」としてではなく「楽しい遊びのひとつ」としてできるようにしてあげることが大切です。その上で、「ママと半分ずつやろう」と一緒に取り組むなど、楽しくコミュニケーションしながらおこないましょう。

でも、いくら工夫してもうまくいかない時もあると思います。

子どもにおもちゃなどの片付けをいくら促してもやらない時は、親御さんが一緒に手伝ってあげてもよいですし、時には親御さんがやってあげてもよいと思います。

片付けが苦手な子はたくさんいますが、それは親のしつけが原因ではなく子どもの生まれつきの性質によるものです。同じように育てているきょうだいでも、得意な子と苦手な子がいるのがその証拠です。「子どもが片付けできないのは親である自分の責任」と思い込んで、自分を責める必要はありません。

子どもの能力や性格は、生まれつきによる部分もあるということを親御さんが理解し、少し肩の力を抜いて子どもに接することが大切です。成長していくうちに子ども本人が必要性を感じるときがきますし、そのとき自己肯定感が育っていれば自分でスイッチを押してがんばり始めるので大丈夫です。

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教育やしつけも親子で楽しむ

ーー子どもにできないことがあっても、親の教育やしつけのせいだと必要以上に思い詰める必要はないと思うと、気持ちが楽になり、子どもへの接し方にもよい影響がありそうです。

親野先生 : 子どもへの教育やしつけに関してあまり深刻になりすぎず、むしろ方法や言葉の工夫自体を親御さんが楽めることが理想です。

蝶などのさなぎが、外から見ると何も変化がないように見えても、さなぎの中ではちゃんと成長しているように、子どもが一見だらだらしているように見えても、実は何かを準備するために内面で気持ちを踏み固めているという可能性もあります。

子どもがいつ動くかは子ども自身の問題であり、親御さんはそこに踏み込むべきではありません。

教育やしつけを楽しくできるように工夫し、ふれあいの一環として明るい雰囲気で子どもに接すると、子どもの自己肯定感も上がりますし、親子の絆も深まります。


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※写真はイメージ(iStock.com/Yagi-Studio)

遊びが子どもの可能性を広げる

ーー最近は、勉強に力を入れている幼稚園などもあり、子どもを保育園に通わせる共働き家庭のママやパパにとっては、入学前にある程度勉強をさせたほうがよいのか、気になるのが本音だと思います。


親野先生 : たしかに、最近は早期教育もさかんに行われています。小学校のスタートダッシュを考え、入学前に数のおけいこやひらがな、ピアニカなどの先取り教育を検討する親御さんも多いのかもしれません。

しかし、長期的視野に立って考えると、特に幼児期には子どもがやりたがる遊びをやらせてあげることの方が大事です。その方が先々の後伸びにつながり、学力も高くなることが内田伸子先生(お茶の水女子大学名誉教授)の研究ではっきりわかっています。

子どもは、自分の好きな遊びの中で、目標を設定することができるようになります。たとえば砂場での遊びが好きな子は、砂の山を大きくするためにどうしたらよいかを考え、大きなスコップを使う、友だちの協力を仰ぐ、水かけて固めていくなど、目標を達成させるために試行錯誤します。

この経験が、子どものやりぬく力やコミュニケーション、非認知能力を伸ばすことにつながります。そして、幼児期にたくさんそんな経験をした子どもが、小学校に入って勉強に取り組むとぐんぐん伸びていくというパターンがよく見られます。

もちろん、勉強が好きな子どもなら、幼児期から取り組んでもよいと思います。ただし、ひとつだけ親御さんに見極めてもらいたいポイントがあって、それは子ども自身がやりたがるかどうかということです。

「ママが喜ぶ顔を見たい」というモチベーションで取り組む子もいますが、これは子どもが自分の気持ちを抑え込む習慣にもつながってしまうことがあります。子ども自身が楽しんでいるかどうかを見極めてあげてください。


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※写真はイメージ(iStock.com/maruco)

共働きかどうかは重要ではない

親野先生 : 結論としては、「親子ですごす時間を楽しむ中で、親御さんは子どもとふれあいながら、子ども自身の好きなことを応援する」ということがいちばん重要だと思います。

これは、共働きかどうかは関係なく、どの家庭にもいえることです。親御さんが心がけることで、子どもの自己肯定感を高めながら、良好な親子関係を保つことができます。

共働きであることをネガティブに捉える必要はありません。限られた時間の中での教育やしつけへの工夫を親御さんが楽しむことが、子どもの教育によい影響を及ぼすのではないでしょうか。

2024.03.22

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