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図鑑はキレイなままではもったいない 教育評論家が勧める図鑑学習法
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教育評論家
教育評論家
親野智可等(おやの・ちから)/教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。
教育評論家の親野智可等さんが提案する子どもの学びを深める図鑑活用法。勉強が好きな子どもの共通点と図鑑の関係を探り、読むだけにはとどまらない図鑑を通じたアウトプットのアイディアを紹介します。
子どもが将来勉強好きになるか心配だったり、「勉強しなさい」と言わずに子育てしたいと思ったりする保護者は多いのではないでしょうか。
「勉強にまつわる悩み事の解決に図鑑が一役買ってくれる」というのは『ドラゴン桜』の指南役としても知られる教育評論家の親野智可等さん。家庭でこそ今すぐに取り入れられる図鑑学習のアイディアを教えてもらいました。
図鑑は「知識の杭」を打つ効果的なツール
――親野先生が図鑑を取り入れた学びを勧めるのはなぜですか。
まず、勉強には「芋づる式勉強」と「体系的勉強」の二種類があります。
体系的勉強とは、文部科学省が作った学習指導要領に則って「次は引き算、次はかけ算……」と系統立てて学ぶ勉強のことです。いわゆる学校や塾の勉強になるのですが、これは子どものモチベーションとは関係なく大人の都合で突然始まるわけですから、受け身にならざるを得ません。
一方で芋づる式勉強とは、自分の興味があることを調べてどんどん知識を深めていく方法のため、子どもが最初からアクティブで能動的な姿勢なのです。
勉強において、この姿勢の違いがとても大きいのですが、勉強の基本である好奇心と探究心を養うことができるのが「図鑑」というわけです。
――芋づる式勉強に図鑑が役立つ理由を教えてください。
子どもの知の世界を開くために最も効果的でインパクトが大きいのが本物体験です。
たとえば天体の勉強をする前に、望遠鏡を持って天体観測をしたり科学技術館に行ったりする本物体験があると、学校の授業で習った時に「僕、知ってる!」「この授業得意かも!」というふうになるんですよね。
私はこれを“知識の杭”と呼んでいます。生活の中で情報が流れてきても杭がなければ素通りして引っかからない。しかし杭を打てば引っかかって知識が溜まっていくのです。
一番よいのは本物体験ですが、それにはお金も時間もかかるため限界があります。その点、図鑑は手軽に知識の杭を増やすことができる。天体観測をしようと思ったら半日かかるところを、図鑑なら1時間もあれば何ページ分も天体の知識を得ることができます。
私は小学校の先生として長年働いてきましたが、勉強が好きな子は非常に多くの知識の杭を持っていると感じます。「まっさらな状態で学んだ方が新鮮で食いつきがいいだろう」というのは大人の勘違いの一つで、子どもが「ちょっと知っていること」を習う方が知識として定着しやすい。
いろいろなものに対して知識の杭を打つために、図鑑は非常に効果的なツールです。
――未就学児の頃から図鑑に親しむことには大きなメリットがありそうです。
未就学児は宿題もないですし、習い事も少ないので好きな世界に没頭できる時間がありますよね。年齢が上がるにつれてやらなければいけないことが増えて忙しくなりますから。
それに、未就学児の頃から図鑑に親しむメリットは他にもあります。たとえば身近に見ることはできない飛行機の細部や、緑の深い森、大きな象を図鑑で見ることで、本の世界の楽しさを味わえるでしょう。イラストや画像が文字と結びつくことで言葉も覚えることができます。
それから、頭がよいことの指標の一つとして「違いがわかる」ことがありますが、図鑑に載っている写真を見比べる中で、違いに気が付くようになるんですよね。カブトムシの図鑑だったら「ヘラクレスオオカブトとコーカサスオオカブトの角はこんなふうに違うな」と見比べることで、認識力が養われます。
地頭のいい子は「左右の絵を見比べて違いを5つ見つけましょう」といった問題を前にした時、早く的確に見つけられるのですが、ちょっとした違いに気付けることは人間にとって大事な能力です。
――種類別に整理されている博物型図鑑は、見方を変えれば「違い探し」をするのに最適ですね。
違いがわかることで地頭がよくなるともいえますね。
また、好きなものを深めることで自分の世界が作られます。昆虫が好きな子なら昆虫ワールドができる。その分野についての知識量が豊富になることは、自分に自信が持てるようになることにつながります。
「ママ、これはね!」と説明したいと思えばトーク力が磨かれますし、文章やイラストで表現したいと思えばどんどんうまくなっていくでしょう。
"足跡"や“編集”で図鑑を活用
――「図鑑がよいことはわかっていても本棚の肥やしになっている……」といった保護者の声も聞かれます。
図鑑を買ったはいいけれど、キレイなまま本棚に並べてあるというご家庭は案外多いものです。整理整頓されているご家庭だと思いますが、子どもを図鑑に触れさせるにはあまりよくない。
外遊びから戻って「疲れたぁ」とゴロンと横になった時に、図鑑が開いてあればどうでしょう? わざわざ本棚まで行って図鑑を見ようとはならなくても、リビングに開いてある図鑑ならば子どもは見るはずです。
図鑑は使い倒すことが大事です。だから「キレイに使わせて後でフリマサイトで売ろう」なんて考えたりせずに、ボロボロになるくらいでいいと思います。
――図鑑を使い倒すというと、どのようなイメージでしょうか?
もちろん乱暴に扱っていいというわけではありません。私がおすすめしているのは図鑑に「足跡を残す」ことです。
図鑑で見たところ、調べたところにマーカーで色をつけたり、ちょっとした感想やコメントを書いたりするだけでも十分です。そうするとだんだん自分だけのマイ図鑑ができていく。
マーカーした箇所を見れば以前に見たことを思い出し、記憶の定着につながりますし、知識の杭が作られます。
――「マーカーしていない部分を埋めたい!」という気持ちにもなりそうです。他にも図鑑をとことん使い倒すためのアイディアはありますか?
図鑑を自分で作ると楽しいですよ。トレーシングペーパーで図鑑のイラストや写真を描き写して色を塗る過程は達成感がありますし、しくみや細かな違いなどに気付くことができます。
それをノートに貼って、自分の図鑑を作っていく。字が書ける子であれば、図鑑に載っている400字ほどの説明を1/4ほどに短縮して書いてみることで、読解力や要約力が身につきます。そこに自分のコメントを追加してもよいでしょう。
また、「かっこいい生き物」「すごい昆虫」というふうに自分でテーマを設けることで、さまざまな図鑑から横断的に情報を集めることができます。そこにオリジナリティが出るわけですよね。
――テーマ別図鑑が流行っていますが、それを自分で編集するのはおもしろいですね。
あとは親子でクイズを出し合うこともおすすめです。クイズを作るためには、図鑑をよく読まなくてはなりません。そこで読みが深まりますし、頭に入れた情報を加工してクイズとしてアウトプットする必要があります。理解が進み、記憶の定着も促されます。
3択クイズや穴埋めクイズなど、作りやすいものから始めてみましょう。最初はお母さんがクイズを作ってあげて子どもに解いてもらい、お父さんにクイズを作ってみようという流れで試してみるとよいかもしれません。
偏ってもいい。図鑑選びは「その時楽しめる」ものを
――図鑑を買う時に未就学児の子どもならではのポイントはありますか?
発達段階と興味に合わせることが大事です。
「せっかく買うのだから長く使える図鑑にしよう」と、小学校高学年の子どもが読むような図鑑を買ってしまうと小さい子どもには難しくてつまらないんですよね。その時に見て楽しめる図鑑を選ぶ方がいいと思います。
また、図鑑を与えっぱなしにするのではなく、一緒に読んだり話を聞いたり、さきほどお伝えしたような図鑑の活用を促していくことが大切です。
絶対に言ってはいけないことは「読まないならもう買わないよ」というような子どもを責める言葉。余計に読みたい気持ちがなくなってしまいます。
――図鑑に興味を示さない子には、どのようにアプローチすればよいでしょう。
図書館に行って「これはおもしろそうだよ」と紹介してあげると、子どもが何か引っかかるものを見つけるかもしれません。紹介と推薦は大事だけれど強制はよくない。
――特定の図鑑にしか興味を示さない子にも、他のジャンルの図鑑の紹介と推薦をすれば興味が広がる可能性があるということですね。
興味の対象を広げることも深めることも、両方大事としか言いようがないんですよね。
ただ、魚の図鑑ばかりを読む子には深めるという方向で、他の魚の図鑑を何冊か買ってあげればいいと思いますよ。同じ魚の説明でも、写真も色も説明も微妙に違っているので、その違いを見つけることがまた楽しい。自分の好きな分野が深まれば自信がつきますしね。
これは勉強ではないので知識が偏っても全然いいんですよ。学校では体系的に偏りをなくす方向で勉強をしますし、まんべんなくやろうと思うと好きなことを追及する時間がなくなってしまいます。
芋づる式に好きなことを学ぶには偏っているのは当然ですし、「偏りこそが個性」と考えればいいと思いますよ。