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【小児精神科医監修】3歳までに実践したいアタッチメント形成3つのポイント
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小児科医/小児精神科医/医学博士
小児科医/小児精神科医/医学博士
青山学院大学 教育人間科学部教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。日本小児精神神経学会常務理事、日本小児科学会学術委員、日本発達障害連盟理事、日本知的障害福祉協会専門員なども務める。著書に『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』『教育虐待・教育ネグレクト 日本の教育システムと親が抱える問題』(ともに光文社新書)などがある。
触れ合いは、子どもにどのような影響を与えるのでしょうか。「アタッチメント」の意味や、アタッチメント形成のポイント、もしも十分にアタッチメントが形成されなかった場合の問題点、アタッチメント形成に関する体験談を紹介します。
アタッチメントとは
「くっつける、接続する、取り付ける」という意味のアタッチ(attach)。名詞のアタッチメント(attachment)は器具や機械の付属装置、付属品という意味で用いられていますが、もう一つ、「愛着」という意味もあります。
発達心理学におけるアタッチメントとは、子どもが不安を感じた時などに保護者や信頼している特定の人と接触しようとすることです。保護者と子どもの絆とも言い換えることができるアタッチメントには、以下の特徴があります。
幼児期に形成される
幼児期には、子どもが生きていくために必要とされる基本的な社会性やコミニケーション能力、価値観などが形成されています。アタッチメントもそのうちの一つであり、生きていくうえで大切な基盤となるものです。
言葉を話し始める前の子どもは、表情や声のトーン、動きや肌の感触など非言語のコミュニケーションを交わすことによって、保護者とアタッチメントを形成していくのです。
安全基地としての役割
アタッチメントは、子どもにとって安心できる安全基地としての役割を持ちます。子どもが安心して過ごせる環境を整えることが大切ですが、ストレスや不安を完全に取り除くことは難しいですよね。
子どもが怖い思いをしたときに、抱っこやスキンシップを求めてきたことはないでしょうか。ストレスや不安を感じたときに、信頼する保護者の側にいることで子どもは安心し、アタッチメントが形成されていきます。
保護者の関わり方に影響する
アタッチメントは保護者が適切に子どもに反応することによって形成されます。
1950年代に「愛着理論」を唱えたイギリス出身の精神科医であるジョン・ボウルビィによると、子ども時代の保護者との関係は、その後の人間関係や自己認識に大きな影響を与えるといいます。
アタッチメント形成3つのポイント
アタッチメントはどのように形成すればよいのでしょうか。3つのポイントをご紹介します。
受容的なコミュニケーションを行う
アタッチメント形成にはコミュニケーションが欠かせませんが、特に子どもの感情に寄り添い、共感することが大切です。否定されたり、貶められたりすることなく、子どもが安心して自分の感情を表現することができるようなコミュニケーションの場を作ることを意識しましょう。
また、保護者も忙しかったり、感情的になったりすることがあるかもしれませんが、なるべく安定したコミュニケーションをとることで、子どもは「どんな状況であっても保護者を頼ることができる」と感じ、アタッチメントが形成されていきます。
主体性を尊重する
アタッチメントを形成するためには、子どもの自主性を尊重することも重要です。
子どもの発達段階や個性に応じて、子どもがやりたいと言ったことへの挑戦を見守りましょう。「やりたい」という気持ちを受け入れてもらえたことで、子どもは自己肯定感を育み、さらに難易度の高い挑戦に取り組んだり、うまく取り組めるよう試行錯誤をしたりするでしょう。
この時に、失敗も含めて温かく見守ることがアタッチメント形成において大切なポイントです。
安心できる環境を作る
アタッチメント形成には安全な環境が必要です。子どもの周りに危険であったり、刺激が強かったりする物がないか確認しましょう。子どもの安全を確保することは、保護者の安心にもつながります。
また、子どもだけでなく保護者の心理的安全性が保たれていることも大切です。必要な場合には自治体の相談窓口を利用するなどして、できるだけ不安を減らせるとよいですね。
アタッチメント形成が不十分な場合の問題点
アタッチメントは子どもの精神発達に深く関わり、保護者との関係や生育環境などの影響を受けて形成されます。
アタッチメント形成が不十分な場合、子どもにどのような影響を及ぼすのでしょうか。
不安やストレスを抱えやすい
アタッチメント形成が十分でない場合、子どもは安心感や信頼感を抱きにくく、不安やストレスを抱えやすい状態になってしまいます。
そのため感情のコントロールが難しく、時に攻撃的な言動をすることもあるかもしれません。子どもが大きくなったとき、保護者以外の他者との信頼関係を築くことも困難になることがあります。
コミュニケーション能力の低下
アタッチメント形成は、保護者や特定の信頼できる人と子どもの間で親密なコミュニケーションを行うことが大切です。それが十分に行われないまま成長すると、コミュニケーション能力が発達しにくくなり、他の人との関係をうまく築けなくなるおそれがあります。
不適切な言動による人間関係のトラブルから孤立を感じてしまうかもしれません。
自己肯定感を育みにくい
保護者と子どもの間の絆ともいえるアタッチメントが十分に形成されていないと、子どもは保護者との心理的なつながりを感じられず、自己肯定感が育まれにくいです。
自分を認めることがなかなかできないため、自分自身を理解することが難しく、自己概念の発達が遅れることもあります。
アタッチメント形成がなされないと、重症な場合はさまざまな精神疾患を併存することもあります。自己肯定感が育まれず、自傷行為や依存症などを繰り返すこともあるのです。
アタッチメント形成の4段階
アタッチメントはいつから形成されるのでしょう。また、アタッチメント形成に重要な時期も気になりますよね。
アタッチメント形成の4つの段階を解説します。
生後3カ月頃まで
最初の段階では、子どもは保護者を始め、人物を特定することができません。誰に対しても同じように興味を示したり、泣いたりすることによって、どのような反応が返ってくるのか見分けています。
生後6カ月頃まで
生後半年ほどになると、子どもは人物の見分けがつくようになり、保護者などの特定の人への興味や関心が強まります。
母親と過ごす時間が長ければ、母親に対して笑いかけたり、じっと見たりすることがあるでしょう。しかし、この段階ではまだ本格的なアタッチメント形成は始まっていません。
生後6カ月~2、3歳頃
この段階がアタッチメント形成において最も重要といわれる時期です。
保護者など特定の人への反応がより強まり、アタッチメント形成している人とそうでない人の区別がはっきりとつくようになっています。
アタッチメント形成している人に対しては、自らスキンシップを求める他、その人の姿が視界から消えた途端に泣き始めるといったことがあります。反対に、アタッチメントが形成されていない人が現れると警戒するような反応も見られるでしょう。
周囲の環境に適応するために、アタッチメントを形成する非常に重要な時期とされています。
3歳以上
4つ目の段階では、アタッチメント形成した人が側にいなくても、感情をコントロールし適切な行動がとれるようになります。
3段階目でアタッチメントが形成されていることにより、離れていても愛着を維持することができるようになっているのです。
アタッチメント形成に大切な時期、保育園に預けてもいい?
アタッチメント形成において大切な時期は生後半年から2、3歳頃までの間ですが、保育園に子どもを預ける保護者も多いのではないでしょうか。
アタッチメント形成には時間も大切ですが、それ以上に質が大切です。短い時間でも、深い信頼を感じることができるような関わりを持つことにより保護者と子どもとの間でアタッチメントは形成されていきます。
保護者だけで育児のすべてを担おうと気負いすることなく、量的な部分は、保育園の先生や祖父母などに担ってもらうとよいかもしれません。この時期に保育者との間で一時的にアタッチメント形成がなされることはありますが、継続的なアタッチメント対象者は保護者となります。
「アタッチメント形成」についての体験談
0歳7カ月から保育園に行っている娘が運動会の時に、不安な気持ちになると私や夫ではなく保育園の先生に抱っこしてもらおうとしているのを見たときに、ショックを感じたことを思い出しました。
一人目の子どもで、かつ「こんなに早く保育園に預けていいのかな」という後ろめたさが少なからずあったので、やるせなかったです。
日中は保育園で過ごしているので、帰宅後はできるだけ子どもとコミュニケーションをとりたいのですが、どうしてもバタバタしてしまいます。
いっしょに寝落ちしてしまうことがほとんどですが、寝かしつけの時間はアタッチメント形成のための大切な時間になっていると思います。
人生に影響を与える幼児期のアタッチメント形成を大切に
アタッチメントの形成は、子どもが大人へと成長した後に「他者とどのような関わりを持つか」を決定づける大切な要素の一つです。
幼児期に保護者や特定の信頼できる人とのアタッチメントが十分に形成されることで、子どもはまた別の人とも信頼関係を築くことができます。子どもとアタッチメント形成ができる関わり方ができるとよいですね。
監修
Profile
古荘純一
青山学院大学 教育人間科学部教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。日本小児精神神経学会常務理事、日本小児科学会学術委員、日本発達障害連盟理事、日本知的障害福祉協会専門員なども務める。著書に『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』『教育虐待・教育ネグレクト 日本の教育システムと親が抱える問題』(ともに光文社新書)などがある。
末っ子は生後2カ月で保育園に行っているうえに、夜も私は一緒に寝ていないので、触れ合う時間が本当に少ないのですが、「ママが一番」な様子なので、なんだか不思議です。いつ愛着が形成されているのか知りたいくらいです(笑)。
1歳になった今でも、抱っこもほとんどしていないのですが、その代わりにリビングでくつろいでいる時に、お腹やお尻に乗ってくるので、身体が密着していることは多いかもしれません。