【教育熱心はどこまで?#1】日本の親が陥りやすい教育虐待・教育ネグレクト

【教育熱心はどこまで?#1】日本の親が陥りやすい教育虐待・教育ネグレクト

不安定な社会情勢やSNSなどを通じて得る過剰な教育情報によって、子どもの教育に奔走し、過干渉な子育てをする親(ハイパーペアレンティング)が増加している。行き過ぎた「教育熱心」が及ぼす危険性とは。そして子どもを疲弊させないために、親はどう在るべきなのだろうか。今回は青山学院大学教授で小児精神科医の古荘純一氏に話を聞いた。

<連載企画>教育熱心はどこまで?
親なら誰しもが持つ、子どもへの期待と不安。

2020年の教育改革により英語やプログラミングなどの新たな学びが注目される中、不安定な社会情勢によって将来の安定を求め、子どもの可能性を伸ばし、未来で役立つ確かな力を身につけさせたいと考える親は多いだろう。

その期待と不安から、勉強をはじめ、スポーツ、音楽、語学などの習い事のスケジュールを詰め込んだり、長時間取り組ませるなどの過剰な教育を与えて子どもコントロールし、過保護な子育てを行う「ハイパーペアレンティング」な親が注目されている。

「教育熱心が度を超えたハイパーペアレンティングは、子どもに悪影響を与える“教育虐待”、そして子どもが本来必要としているものを与えない“教育ネグレクト”のふたつになり得ます。

親子の愛着形成や子どもの脳の発達に影響を及ぼす恐れがあり、早期教育や英才教育が本当に目の前の子どものためになるのかを、保護者は今一度見つめ直す必要があります」

そう語るのは、青山学院大学教育人間科学部教授で、小児精神科医の古荘純一さん。

子どもへの関わりが教育虐待・教育ネグレクトにならないよう、親はどうあるべきなのか。全4回にわたり話を聞いていく。

「教育虐待」と「教育ネグレクト」

日本で最初に“教育虐待”という言葉が提唱されたのは2011年。

日本子ども虐待防止学会の第17回学術集会にて「子どもの受忍限度を超えて勉強させることを教育虐待とする」と報告され、教育の名のもとに親のいいなりにさせられるケースも含まれると定義されている。

――教育虐待という言葉の捉え方について、多くの保護者と接する中で感じることはありますか?

まず、虐待という言葉自体が非常に重いですよね。
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古荘純一(ふるしょう・じゅんいち)/青山学院大学 教育人間科学部教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。日本小児精神神経学会常務理事、日本小児科学会学術委員、日本発達障害連盟理事、日本知的障害福祉協会専門員なども務める。著書に『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』『教育虐待・教育ネグレクト 日本の教育システムと親が抱える問題』(ともに光文社新書)などがある。
虐待の「虐」という漢字の由来は「虎+爪」で、もともとの語源が「酷いことをする」「身体を傷つける」という意味なので、この言葉を使うと、親は「自分は子どもに対してそんなことはしていない」「していると思いたくない」という気持ちを持って、心を閉ざしてしまうことがあります。

親としては「子どもをかわいいと思い、一生懸命子どものためを思ってしている」がゆえに、子どもに対する行為が虐待にあたることだとは思っていない。

また、虐待を受けた子どもは「自分に原因がある」というふうに思い込んでしまっていることが少なくありません。

絶対的な存在である親の行為が悪いことであるとは考えもしないので、子ども側から虐待を受けていることを認知し周りに声を上げて知らせることは不可能です。

つまり、お互いに「虐待なんてしていない」「自分が悪いから怒られている」というふうに認知の歪みを起こし、虐待という正すべき行為に気づけないまま当たり前のこととして過ごしているうちに、親子の関係性がねじれてしまっているのです。
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教育虐待についても同じです。言葉を変えて“やりすぎ教育”といったりすることもありますが、根本的には変わらず、そこには親子間の認知の歪みがある。

行き過ぎた教育が親自身はもちろん、子ども自身にとっても当たり前になってしまうと、普段の行いが教育虐待にあたると気づくことは難しくなります。

もうひとつ、別の視点から見て注意をしていただきたいのが、「過剰な教育により子どもに必要なものを提供できていない状態になっていないか」ということ。

これは“教育ネグレクト”にあたります。

ネグレクトというと育児放棄のイメージが強く、子どもに手をかけている親からすると、自分の行為が教育ネグレクトに当てはまるとは思えないかもしれません。

しかし、子どもによかれと思って行っていることが、子どもの必要とすることとズレており結果的に子どもに適切な環境を与えていない状態になっているとすれば、それは教育ネグレクトといえます。
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――親がさせたいことと子どもに必要なことが、一致しない場合があると考えなければいけないのですね。

子どもが遊びたかったり、親とのふれあいや安心感を欲しているのに、教育を優先してそういった時間を全く与えないとしたら問題ですよね。

持つべき視点は「本当に子どものためか」

――親はどういった視点で、自らを省みるべきでしょうか。

子どもへの過剰な教育が、虐待やネグレクトにあたるかどうかの判断は、当然ながら大人の目線ではなく、子どもの立場に立って考えなければいけません。

親が子どものためと思って接していても、子どもにとって虐待になっていることや、逆に親が「子どもが悪い」と思っていることが全くそうではないということは、本当にたくさんあります。

身体的虐待や性的虐待は、他人から見れば虐待が行われていると把握しやすい。一方、心理的虐待やネグレクトはそうではないため、私たち専門家などの第三者も「それが子どもにとってどんな事象なのか」をきちんと把握する必要があります。
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――子どもへの干渉が行き過ぎたり、行動をコントロールしようとすることに心当たりがある親は多いと思います。

広い意味でいえば、「自らやりたいことを見つける、自分の人生に関わる選択を自分でするなどの子どもの主体性を尊重していない」ということなので、人権や主権を侵害していることになります。

大切なのは「この行為はいい」「この行為はだめ」とラベリングして考えるのではなく、「本当にこの行為は子どものためになっているのか?」という視点を常に持つこと。

たとえば、親が目指す教育が思い通りにいかず、子どもができなかったりやろうとしなかったりすると、不条理な罰を与えたり、言葉で罵倒したり、他者と比較をすることもあるでしょう。

親が勝手に目標設定をして励ましているけれど、子どもにとって大きなプレッシャーになっている場合も、心理的虐待と紙一重の行為になります。
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2020年4月1日から施行された児童福祉法等の改正法における体罰の禁止では、叩くということだけでなく、罰として食事をとらせなかったり長時間正座をさせるということも体罰にあたるとされています。

これらの行為は子どもの主権を侵害するものなので、そういう意識を持って子どもと接していただきたい。

もし自覚がある場合は、その時点でまずは立ち止まって子どもとの関わり方を考える必要があります。

行き過ぎた教育熱心の影響は攻撃性やうつ症状

――過剰な教育によって子どもに悪影響があった場合、どのような兆候として表れるのでしょうか?

まずひとつには、攻撃性が強くなるということが挙げられます。
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子どもは小さければ小さいほど、自分の状態について言葉で表現することができません。その分、気持ちが行動に表れやすいんです。

大人であれば不調を訴えたり、自分なりにストレスを発散できますが、子どもの場合はすべて行動に出て、コントロールができなくなってしまいます。

普段だったら親を叩くにしても手加減するところが、本当に全力で掴みかかってきたり、激しく噛んだりして、力の制御ができないという行動が出てくる。

これは不安がすごく強かったりストレスが溜まっているということの裏返しとして考えるべきだと思います。

その他にも、睡眠や食事がうまく取れずに体調が悪くなったり疲れやすくなるなどのうつ症状が出たり、赤ちゃん返りのような行動でストレスが表れる場合があります。

最大の問題は愛着形成をやり残してしまうこと

親が教育虐待や教育ネグレクトになり得るようなかかわり方をしていたとして、不調が出る子どもとそうでない子どもの差は、やはり小さいときの愛着形成にやり残しがあるかどうか。
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特定の相手に対して信頼感や愛情を基盤とした絆を感じることを愛着といいますが、これは大人からの愛情を持ったスキンシップや言葉かけ、会話などのコミュニケーションによって形成され、子どもの自己肯定感や情緒等を育む大切な礎となります。

子どもは幼児期には愛着対象者に、それ以降は周囲の人に「評価されたい」「愛されたい」と努力しています。

しかしこの願いが叶えられず、愛着がうまく形成されずに成長した子どもというのは、不調が出たときの影響が大きいんです。

多いのは愛着形成がうまくいっていなかったり、夫婦不仲や家族関係がすごく複雑で、家庭の中に居場所がないこと。

それに加えて、神経質な性格や融通が利かない性格、よい子でいようとしている子どもは疲れが出ることがあります。愛情をたくさん与えられてその愛が伝わっていても、逆境に弱いという子どももいる。
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理想としては親がちゃんと子どもを見て、その子の性格を理解して接することですが、子どもの傾向を認めたくないという親もいますね。

母親は認めているのに父親が認めたがらないというパターンも結構あって、それが原因で夫婦仲が悪くなったりもする。そうなると愛着形成がうまくいかなくなってしまうといった悪循環にもなってしまうため、特に幼児期は注意が必要です。

――次回、第2回では親が教育熱心になってしまう社会的な要因や、現代の子どもの傾向について聞いていきます。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部
<連載企画>教育熱心はどこまで? バックナンバー

2020年12月22日

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