【教育熱心はどこまで?#2】「受け身」の体験で疲れきった現代の子どもたち

【教育熱心はどこまで?#2】「受け身」の体験で疲れきった現代の子どもたち

不安定な社会情勢やSNSなどを通じて得る過剰な教育情報によって、子どもの教育に奔走し、過干渉な子育てをする親(ハイパーペアレンティング)が増加している。行き過ぎた「教育熱心」が及ぼす危険性とは。そして子どもを疲弊させないために、親はどう在るべきなのだろうか。今回は青山学院大学教授で小児精神科医の古荘純一氏に話を聞いた。

<連載企画>教育熱心はどこまで?
「どこまで」が教育熱心で、「どこから」がやりすぎなのだろうか?

子どもの可能性に期待したり、常に揺れ動く社会情勢への不安から、子どもに未来を生き抜く能力を身につけさせたいと、教育に力を入れる親は少なくない。

しかし、それに子どもが耐えられず、悪影響が出た場合、子どもを思ってやっていたことが「教育虐待」や「教育ネグレクト」となっている可能性もある。

第1回でそう教えてくれた、青山学院大学教育人間科学部教授で小児精神科医の古荘純一氏。

第2回では、親が教育熱心になってしまう日本ならではの文化や、現代の子どもの傾向について聞いていく。

疲れて達成感を得にくい現代の子どもたち

――第1回で、過剰な教育の影響として、子どもの攻撃性が強くなったり、うつ症状が出たりすると伺いましたが、古荘さんが臨床の現場や大学で今の子どもたちを見ていて感じることはありますか?

まず第一に、疲れた子どもが多いということ。小学校低学年でも、予定を詰め込まれ、親に言われたとおりのスケジュールをこなし、多忙です。

教育熱心な親を持つ子どもは、どうしても幼少期に受け身の体験が多くなります。
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古荘純一(ふるしょう・じゅんいち)/青山学院大学 教育人間科学部教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。日本小児精神神経学会常務理事、日本小児科学会学術委員、日本発達障害連盟理事、日本知的障害福祉協会専門員なども務める。著書に『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』『教育虐待・教育ネグレクト 日本の教育システムと親が抱える問題』(ともに光文社新書)などがある。
そうした子どもが、成長しても受け身であることから抜け出しにくいだろうということは、大学教授として学生たちと接していても感じます。

自分から行きたい場所に行ったりやりたいことを計画して進めたりする経験が少ないために、何かを得たとか成し遂げたという達成感を得にくい。

受け身の体験から、「楽しかった」という感情は湧いても、「どこがどんなふうに楽しかった」のかはなかなか説明できなかったり、自分が主体的にやりたいと思うことに取り組むことが大切なはずなのに、「この資格を取っておけば将来は大丈夫」といったように、興味のないことをとりあえずでやっていたりするのです。

そうした背景から、本来、能動的な経験から育っていくはずの逆境に耐える力、つまりレジリエンスも育みにくくなっているのではと感じています。

ーーー親が何でも与えすぎることで子どもを受け身にし、何かにチャレンジしたりする主体性や、それによって得られる達成感やレジリエンスを育みにくくしていると…。

なぜ親が与えすぎてしまうのかというと、日本を含めた韓国や中国などのアジアの国々は、文化的に「親の言葉に子どもが従う」「子どもは親の所有物である」という意識があることも理由のひとつだと思います。
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実は英語では「教育虐待」を意味する言葉はありません。

ヨーロッパでは7歳くらいから子どもの自主性や人権を尊重して接するという文化がありますから、教育虐待に陥りにくく、こういった概念がないんですね。

欧米の方に日本の教育虐待について説明すると、「そのようなことは自分の国ではほとんどない」といいます。

――やはり日本は学歴社会で、よい大学や企業に入れるかが人生において重要なポイントとなっている側面が大きいと思います。

日本人は学歴や就職について、勝ち負けで判断してしまいがちですよね。

本来、子どもの人生は他者との競争において勝つことではなく、本人が自主的にみつけた目的を達成して満足できるかということの方が大事なのに、偏った親の価値基準を押しつけられてしまう。

これはそうした行為に親を駆り立てる、日本の教育システムや社会の評価制度にも問題があると思います。

また現代の日本では「各家庭の子育てには干渉しない」という文化もあります。核家族化で孤立してしまいがちな家庭にとっては、救いの手がなかなか伸びてこないという状況ですよね。

結果的に能動的な体験よりも受け身の体験が多くなって、心理的虐待に近い、被害的な感情を持ってしまうのです。そうした結果、日本の子どもたちの自尊感情が低下していることは問題だと思っています。

調査で分かった日本の子どもの「自尊感情」の低さ

――日本の子どもの自尊感情にはどんな傾向がありますか?

私が2004年頃から実施した子どものQOL(quality of life:生活の質)の調査では、身体的健康・情緒的ウェルビーイング・自尊感情など6つの領域について、アンケートで得た回答を点数化し、日本と諸外国とを比較しました。

その中でも注目しているのが、日本の子どもの自尊感情が「低すぎて安定している(回復しない)」という状態で、海外と比較しても低いことです。
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・自分に自信があった
・いろいろなことができるような感じがした
・自分に満足していた
・いいことをたくさん思いついた

この4つの質問事項を作成し、5段階評価で回答した際、小学校2年生から6年生にかけて、右肩下がりに自尊感情が低下していることが分かりました。
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オランダの学校を訪問した際に、子どもたちが楽しく感じたことを書いたノートを見せてもらったのですが、多くの子どもたちは「物をもらった」「親や先生に言われたことができた」といったことではなく、「自分で決めたルールで何かをしたこと」「大人に褒められたこと、認めてもらえたこと」で達成感を味わい、それを楽しく感じたと書いていました。

対して、現代の日本の子どもは衣食住などの生活環境やゲーム機の普及など、物質的な環境が豊かであっても、本当の意味で達成感を味わい自分に自信を持てるような経験が乏しい。

さまざまなことが制限されやりたいことをやらせてもらえず、制限に関するルール作りにも子どもたち自身の参加権限を与えられていないのも現状で、これらによって自尊感情が低くなっているのかもしれません。

また、家族との心理的なつながり、コミュニケーションの充実度が低く愛着形成が不十分であったり、親が競争を意識するあまり子どもの努力を認めないまま次々と上を目指して頑張らせることで、自己肯定感を持ちにくくなっていることもあるのではないでしょうか。

受け身の中学受験では「失敗したら終わり」になってしまう

この子どものQOL調査で分かったことのひとつに、日本の子どもの特徴として、小学校3年生や4年生の頃に自尊感情が大きく下がり始めることがあります。
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自尊心感情が低い子どもは抑うつ傾向が高いといわれ、この年齢でもうつになる可能性があるのです。

これは教育虐待・教育ネグレクトを受けた子どもに出る影響が大きいことのひとつの要因にもなっていると思います。

――小3~4だと、ちょうど中学受験の準備がはじまる時期ですね…。

もともと発達的にも子どもが自分の力の限界を感じて、自信を無くす時期なんです。

しかし限界を感じても、自分で発することは難しい。そもそも発することを許されにくい環境がありますよね。

たとえば中学受験のために塾に通っている子どもだと、周囲の親も友だちも頑張っているし、自分で積極的にそれを否定して、自分の道を目指そうという子どもは少数だと思います。

――子どものもともとの特性に合った環境ややり方を親が提示できていないという場合もあるのでしょうか?

もちろん子どもがナイーブなタイプで、もともとの素質に要因がある場合もあります。

押しつけの教育だけに限らず、世の中には今、過剰な情報やものが溢れていて、たくさんの選択肢があることによってプレッシャーを感じたり、無意識に「やらされている」という被害的な感覚で受けとめる子どもが増えている。

中学受験についても、子どもが自主的に選択したのならよいのですが、親が決めた進路に従うという受け身の体験をさせたり、それに伴うプレッシャーをかけてしまうと、親が想像する以上に子どもにとってはストレスになります。
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「受験に成功すればいい未来が訪れる」という意識が大人も子どもも強いでしょうから、皆さん一生懸命なんですけど、本当はそこで一生が決まってしまうなんてことはないですよね。

成功したとしても失敗したとしても「今の自分はこれでいい」と思えればよいのですが、受け身の体験によって失敗したときに、セーフティネットがないと思いつめてしまったり、ある種のトラウマになってずっと背負っていくことになってしまうんです。

受け身の体験に疲弊感や葛藤を抱えている子どもの中には、どうにか関わろうとする大人に対して被害的な感情を持ち、「土足で踏み込んでほしくない」というふうに感じる場合もあります。

だからこそ親は、子どもが自分の気持ちをいいにくい環境に追い込んでいないか、安全基地として気持ちを打ち明けてもらえる関係を築けているか、ストレスを抱え込んでいる様子はないかということに気を配る必要があるのです。

――次回、第3回では、早期教育や英才教育について、教育虐待に陥る可能性や子どもへの影響などを聞いていく。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

2020年12月22日

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