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【元明石市長・泉房穂さん】ベビーカーが邪魔者扱いされない街、どうやって作る?<後編>
「やさしい社会を明石から」を信念に、兵庫県明石市長としてさまざまな子育て支援施策を実現して注目を集めた泉房穂さん。今年4月に市長を退任した泉さんに、子育て中の女性からの疑問や質問に答えていただくインスタライブを実施しました。泉さんの思う「やさしい社会」とは?
期日前投票の会場にベビーカーの行列
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加藤 前編のお話を伺って、明石市の子育て支援のことがよくわかりました。
泉 わたしが市長になった12年前から、「子ども子ども」と言い続けてきました。だけどわたしが伝えたいのは、子どもを応援したら、子どもや親御さんだけじゃなく、お年を召した方もハッピーですし、ご商売も繁盛します、ということなんです。
最初は信用されなかったけど、本当に明石市はそうなった。今では普通の市民の方が自信をもって「明石は子どもの街だから」と言うところまで来ました。経済が活性化したので、商店街の方々が「市長、子どもええわ、儲かるわ!」と言ってくださって(笑)。
加藤 (笑)。
泉 次はお年を召した方にもやさしい街に、と高齢者にもバス無料化、医療の一部無料化にも舵を切りました。実は明石市は子どもにやさしいだけじゃなく、高齢者にもやさしい。
子どもを応援すると、街が元気になってやさしくなるから、みんなハッピーになる。それが明石市の強み。全国でやればいいと思います。
加藤 いまのお話に関連するコメントが届いています。
泉 よう言われるのは、明石の人の子どもに対する気持ちの変化ですね。昔は子どもが泣き叫んだら、お母さんが周りに「ごめんなさい」という気持ちになる状況でしたが、いまや明石駅前はベビーカーだらけ。子どもがあちこちで泣いてます。みんながほほえましい目で子どもたちを見て、「元気な街や」って思うようになった。完全にひっくり返りましたね。
加藤 さまざまな施策を実行されてきたなかで、変わってきた手ごたえを感じ始めたのはいつごろですか?
泉 実は4年前に一旦市長を辞めていて、その時お母さんたちが「泉さん、もう一回市長に戻ってきて」という署名活動をされて、結果すごい数の署名が集まったということがありました。それでもう一度立候補したのですが、その選挙の期日前投票の会場にベビーカーの行列ができたんです。
泉 あの時7割の得票率で当選しましたが、30代の9割が私に票を入れてくれました。それまでは、お年を召した方は選挙に行くと言われてたけど、明石市は30代が選挙の中心になったと。シルバー民主主義から子育て民主主義に変わったと言われてますね。
そういった動きは全国に広がっている気がします。「子育て応援します」と公約に掲げる方も増えているので、いまは過渡期とちがいますかね。
加藤 全体的にがらっと変わってほしいです。
泉 だから、これを読んでいるみなさん全員立候補してください!
「子どもvs高齢者」は間違っている
加藤 こんなコメントも来ています。
泉 わたしは最初から「子ども子ども」言ってましたので、市長になって最初の5~6年は正直しんどかったのですが、徐々に子育て層の方から応援していただけるようになりました。さらに最後の3年くらいになると、高齢者の方にも応援いただいて。
それは先ほども言ったように、子どもを本気で応援すると、子どもと親だけじゃなくて、街全体が活気を帯びて元気にやさしくなる。お年を召した方も暮らしやすくなる。
今の明石市としては、子ども対高齢者の戦いじゃない。国もそこまでいってほしいと思いますね。高齢者と子どもは戦うものじゃなくて、両方大事にすべきだとわたしは思いますね。
加藤 そもそも、子どもと高齢者を対立させるのはおかしいですよね。
泉 結局お金の問題なんですよ。少ない財源でどちらを優遇するか、という議論がされているけど、実際にはお金はありますから。だって、こんなに国民が負担してるんですよ。消費税は払うわ、保険料は引かれるわ。だから、そのお金でやりくりすればいいだけですやん。
ちなみに、明石市は高齢者や障がい者に使うお金も増やしました。お金の無駄遣いをせずに、人に市民にお金を使う。やればできることですし、そんなむずかしい話じゃないですよ。
子どもの個性を応援する街
小谷 子育てする中で、肩身の狭い思いをすることが多くて辛いです。子育て世代が優遇されていると思っている方も多い中で、どうしたら平和に過ごしていけるのかなって。まわりの目を少し気にしている自分もいて、どうしようかなって……悩み相談になってすみません(笑)。
泉 自分なんかは、誰かの犠牲で誰かのハッピーが成り立つというのはないと思ってます。だから、子どものために自分を犠牲にするんじゃなくて、子育てしてる親自身も楽しい方がいい。
そのためには、思いを溜め込まずに本音で言いたいことを言っていったらいいと思いますけどね。もちろん周囲に気を遣うことはあるでしょうけど、とにかく抱え込むことはしないで、自分の悩みや苦しい思いというものを、いろいろな形で発信したらいいかなとわたしは思います。そのほうが長続きしますし。
ちなみにわたしは毎年人間ドックを受けるけど、めちゃめちゃ胃がきれいなんですよ。いろんな人や大手のマスメディアなんかにもいろいろ言われてますけど、その割にストレスはないみたいです。
加藤 すごい!
泉 自分はしたいことをしてますし、しっかり人生を歩んできた。こうあったらいいなっていう理想を目指して、自分なりに一生懸命やってきました。やりがいも感じている。そういう意味では、溜め込まないこともひとつかなと思います。
加藤 石原さんからはいかがでしょう?
石原 わたしは作詞の仕事をしているのですが、日本はアートへの理解に遅れがあるなと思っています。財源はあるのに、ほとんど支援されない。だからアートの能力がある人は、みんな海外に行ってしまいます。子育てそのものとは違う話になりますが、子どもがアートに触れる場所が増えたらいいなと強く思っています。
泉 明石市ではやってますね。明石駅前に子どもの預かり施設を作った話をしましたけど、その中に中高生用の無料の音楽スタジオを作りました。完全無料で、楽器弾きたい放題で、ライブコンサートができる空間ですね。
勉強をしたい子どもは図書館で勉強頑張ったらいいし、音楽をしたい子には音楽を頑張ってほしい。
実はわたしも高校の時にバンドを組んでいたけど、練習場所に困ってたんです。中高校生はお金がないので、練習場所がないですやん。
泉 それで、自分と同じように音楽頑張る子たちを応援したいと思って無料スタジオを作りました。音楽とか美術含めて、それぞれの子どもたちの可能性、やりたいことを、大人がみんなで応援したほうがいいなと思う。
石原 うらやましいです。
泉 でもやっぱり目線が大事ですよ。大人目線ではなく、ひとりひとりの子ども目線で。勉強したい人のことは止めませんけど、勉強したくなかったらそれでいい。
それぞれの子どもたちの夢を応援するのは大人の役割です。それが結果的にいい社会、ギスギスしない社会を作っていく。
駅前なんかではよく路上ライブをやっていて、警察が止めにくるんですけど、私は「もうちょっとやらせてあげて」といつも守っている。そういう意味では、かたくるしい建前ばかりの街ではなく、いろんな潤いや可能性があったらいいかなと思いますけどね。
加藤 本当に素敵です。
泉 ぜひ明石にお越しください!
<取材・執筆/KIDSNA STYLE編集部>