【元明石市長・泉房穂さん】日本の子育て支援はどうしてピントがズレているのですか?<前編>

【元明石市長・泉房穂さん】日本の子育て支援はどうしてピントがズレているのですか?<前編>

2023.07.19

「やさしい社会を明石から」を信念に、兵庫県明石市長としてさまざまな子育て支援施策を実現して注目を集めた泉房穂さん。今年4月に市長を退任した泉さんに、子育て中の女性からの疑問や質問に答えていただくインスタライブを実施しました。子育てにやさしいとは言えない日本社会を、泉さんはどう見ているのでしょうか?

子育てに必要なのはお金と安心感

泉さんプロフィール
石原さんプロフィール
小谷さんプロフィール
加藤さんプロフィール

加藤 泉さん、よろしくお願いいたします! 本日はお越しいただいた子育て中のママからの質問、そしてSNSなどで事前に募集した質問にお答えいただければと思っています。

 はい、よろしくお願いします!

加藤 早速ですが、いま子育て中のおふたりは、実際にどんなことが不安ですか?

石原 ちょっとぶっちゃけますと、まずまったく貯金ができない。子どもが増えれば増えるほど、お金がかかるじゃないですか。思っていた以上にお金がかかるので、どうしたら貯金できるだろう……って日々考えています。

児童手当もいただいていますが、支給が四か月に一回。送る方はまとめた方が楽だと思うけど、こちらとしては毎月いただけた方がありがたい……。細かい話ですみません。

加藤 泉さん、いかがでしょう?

 明石市のお話をすると、わたしが意識したのは安心の提供なんです。安心には二種類あって、一つはお金の安心、もう一つはもしもの時の安心。明石市は、この二つの安心に責任を持ちますというメッセージを出してました。

お金に関しても二種類あります。一つはいま石原さんがお話しされたような、児童手当などの現金給付です。

もう一つは、お金を二度払いさせない、という考え方です。つまり、税金としてもうみなさんからお金をいただいているわけだから、それ以上はいただかない。医療費、保育費、給食費は、すでにいただいている税金からまかなえます。

実際に明石市は、「5つの無料化」を形にしました。

5つの無料化

 でも「無料」ってそもそもみんなが税金として払ったものだから、それ以上は要りませんというだけなんですね。

あと児童手当(※明石市は児童扶養手当)ですが、明石市は希望者全員に毎月支給してます。数か月に一回しか送らないのは、役所の手間を省くためですよ。使う方は一か月単位で計算するはずで、毎月支払われた方がいいわけですから。役所が手間暇惜しまなければできますね。

 

加藤 すばらしいですね。子育てにおいて「安心」は重要なキーワードだと思います。小谷さんはいかがでしょう?

小谷 一歳と二歳の年子を育てているとけっこうしんどくて、誰かの手を借りたくなることが多いんです。

だけど、ベビーシッターさんや一時預かりをお願いするにもまず金額が頭に浮かんで、「それならがんばって自分で面倒見よう」と思ってやめてしまう。だけどそうするとやっぱりストレスがたまる。そういう悪循環に入ってしまって……。

子どもの預かり支援をしている自治体もあると聞きますが、そもそも母親だけががんばらなくていい、みんなで楽しく育児できる環境を国に整えてほしいと思っています。

 それは大事なことですね。明石市については「5つの無料化」をよく取り上げてもらうけど、それだけではないんです。まさに、お子さんを無料で預かる施設を明石駅前に作りました。

住民票を取りに行くとか、美容院に行きたいとか、そんな時にお子さんを預かります、と。健診センターもその近くにあります。お子さんがふたりいて、ひとりが健診を受けているあいだ、もうひとりの子を無料で預かることもできます。これは好評ですね。

小谷 無料で預かってくれるのはとても助かりますね。

 
※写真はイメージ(iStock.com/maroke)

 遠い昔は多くが大家族だったから、自分の子どもをおじさんやおばさんに預けられましたよね。でも、いまはそうじゃないですやん?

だからある意味、明石市があなたの子どものおじさんおばさん代わりですよ、というのがコンセプト。誰にも預けられなかったら市長が預かりますって言ってたから。

小谷 素敵です(笑)! いまのお話だけでも、明石市に移住したくなりました。

SNSには政治を変える力がある

加藤 事前にいただいた質問にもお答えいただきたいと思います。

質問1

 明石市が率先して始めた施策はさまざまありますが、おかげさまでいまでは全国に広がっていっています。特に明石市のある兵庫県内では、18歳までの医療費完全無料化が実現しました。ほかにも「明石市を参考に」という自治体が増えていて、変化を感じます。

4~5年前までは、「あれができるのは変わり者の明石市長だから」と言われていたけど(笑)、変わり者じゃなくても変えられるようになってきた。だけど本来は、自治体単位ではなく、国が一律でやればいいんですよ。医療費や保育費を無料にしたらいい。

加藤 それは可能ですか?

 やる気になればできると思います。明石市が「5つの無料化」のために一年間に使うお金は34億円です。明石市全体で一年間に使うお金が2千億円だから、割合で言うと1.7%。

これをたとえば世帯年収600万円の家庭で考えてみると、月に8500円です。子どもの習いごとの月謝を払うためには、明日からビールやめて発泡酒にしたりすればできる(笑)。そのくらいのことですよ。

加藤 なるほど、ありがとうございます。こんな質問も来ています。

質問2

 わたしも一時期国会議員をしていましたが、残念ながら多くの政治家がリアルな子育てを経験していない。さらには、お金に困ったことのない人ばかりです。もっと言えば、国民の声を聞く必要を感じていない政治家が多い。だから、ピントのずれた政策になってしまう。

一方で自治体のリーダーにはリアルな声が届きやすいし生活実感も近いので、そちらには期待できると思います。実際、自治体はどんどん変わっている最中ですね。

加藤 議員さんや自治体のリーダーに意見を伝える人もいるとは思うのですが、それ以外で国民自身に何かできることはありますか?

 そりゃSNSがありますやん! リツイートやいいねには意味がありますよ。わたし自身もTwitterを始めてまだ1年半くらいですが、多くの方に応援をいただけるようになりました。そういった影響力が大きくなって、国の政治が明らかに変わっていってると感じますし。

 

 黙っていて気づいてほしいというのは無理だから、まずは声をあげること。政治家は選挙があるので、国民の声を気にする方も一定数います。子育て層の声を特に気にしてはる方もいますから、おひとりおひとりの積み重ねは大きいと思いますよ。

加藤 意見書のような形式のものをちゃんと作らなきゃいけないと思って構えてしまっていたけど、身近なものでいいということですね。

 そうそう、SNSだけでもすごく意味がありますよ。さらにわたしがすすめているのは「選挙に出てみましょう」なんです。

ハードルが高そうに思えるでしょうけど、明石市の市議会選挙でわたしが「立候補しませんか」と呼びかけたところ、70人近い方が「立候補します」と言ってくださって。

加藤 すごいですね!

 
※写真はイメージ(iStock.com/maroke)

 そのうち5人の方が市会議員に立候補してくれました。そのうちのひとりは3歳と4歳の子を育てているお母さん。もうひとりも小学校と中学校の子がいるお母さんで、2人は上位当選してますから。

3歳と4歳のお母さんなんて、2千票獲れば当選のところを、1万2千票以上獲ってトップ当選したんです。自分たちの声をわかってくれる人だと思って票を入れたんでしょうね。

加藤 子育ての悩みがわかる方に託したいですよね。

 そういう意味では、よく「選挙に行こう」って言いますやん。でも、行ったって票を入れたい人がいなかったらしょうがないから。口悪いけど(笑)。

だから、「選挙に行って票を入れたい人にあなたがなりましょう」と。あなた自身が無理やったら、あなたの友だちや知り合いに「あなた頑張りーよ!」と応援するのもひとつじゃないですかね。意外といるものですよ。どうですか?

石原 いままで考えもしなかったけど、泉さんのような方がそばにいて、やり方を教えてくれたらできるかもしれないです。こうやって背中を押してくださる方が全国にいたらいいですね。

 僕みたいなのが全国にいたらうるさいですよ!

加藤 (笑)。でも、そもそも一般の人が政治に入り込めるイメージがないですよね。

 そうですよね。政治家ってイメージ悪いよね(笑)。

 

 3位当選した方も、「自分みたいな人間が、立候補なんて考えたことありません」と言っていたけど、私は言い返したんです。「だからいいんやろ」と。選挙なんて出ようと思ったことない人が出たほうがいい。

普通の子育て中の方こそがいま一番大事なんだとお話して、立候補いただいて無事通ったからよかったです。お金なんか大して要りませんよ。普通に立候補すればいいだけやから。

加藤 党とのつながりも必要なのかなって。

 さっきお話しした方は、どの党からも応援ももらってないですよ。わたし自身もこれまでどの党からも応援してもらったこともなければ、こちらから頼んだこともない。市民の応援だけで十分ですよ。政党に属している人のほうが少ない。市民と一緒に、市民を信じて頑張れば、道はひらけると私は思っています。

加藤 そう聞くと印象が変わりますね。

 立候補したら通りますよ。立候補しなかったら通らない(笑)。だって、こんなわたしが通ってるんやもん。


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