元明石市長・泉房穂さんが考える「理想の街」って?キーワードは安心と安全<前編>

元明石市長・泉房穂さんが考える「理想の街」って?キーワードは安心と安全<前編>

2023.07.26

「こどもを核としたまちづくり」を目指し「5つの無料化」などの子育て支援を実現して注目を集める、元明石市長の泉房穂さん。もし泉さんが全権を掌握して理想の街をつくったらどうなる!? 人気ゲーム「Cities: Skylines」日本版ダウンロードコンテンツの作者であるゲームクリエイターの神乃木リュウイチさんが理想の街を再現します。 前編では、泉さんから理想の街の条件をヒアリングします。

 
 

光、水、緑、人。シンプルにこの4つです。

まず光ですね。明石の何がいいって、海岸で朝のぼってくる朝焼けと海に沈む夕焼けが見られるところ。それだけで幸せを感じられます。

 

二つ目は水です。人間にとって水は大事。明石には海とため池がありますが、川でも湖でもいい。

三つ目は緑。自然とも言い換えられますね。単に植物のことだけじゃなく、昆虫や鳥をふくめた自然全体が必要かな。

最後は人。ひとりぼっちではさびしいから仲間が必要。

太陽やお月さまが見られて、海や川沿いに座ったり湖を眺めたりできて、自然豊かなところで鳥や昆虫と一緒に緑のなかで寝っ転がって仲間と過ごす。そういうのがわたしの好みです。

 

世界の多くの都市は、公園と都市がセットになってますね。だけど日本は公園と都市を別々に作る発想が強すぎる。だから込みで考えたいですね。

散歩で行けるところに自然があるのが大事だから。いちいち車で出かけて自然に行くんじゃなくて、犬と散歩するような距離で自然とふれあえるのがいい。まさに市街地と緑地の微妙なバランスが大事かな。

 
※写真はイメージ(iStock.com/MASAHIKO NARAGAKI)
 

シンプルに「みんな仲間に入ろう」ということ。

むずかしく言えば、インクルーシブ。「誰ひとり排除しない」という意味です。

それをキーワードで言うと、安心だと思うんですよ。誰もが「自分が居ていいんだ」「仲間に入っていいんだ」という安心感がある空間が大事。

 

いまは逆に、不安が強すぎる時代ですね。お互いが疑心暗鬼になっている。でも明石はそうじゃない。「みんな違っていいじゃないか」って感じかな。

だって、わたし以上の変わり者はあんまりおれへんから(笑)。いちばんの変わり者が市長になれる街ですからね。

ちなみに明石市は、インクルーシブ条例(注)を全国で初めて制定しました。

(注)インクルーシブ条例:障がいの有無及び程度、年齢、性別等にかかわらず、誰もが安心して暮らせる「やさしいまちづくり」を目指すために制定された条例。インクルーシブとは、「分けない」「誰一人取り残さない」「多様性」「みんな一緒に」などという意味で使われる。明石市は全国に先駆け、2022年3月30日公布、同年4月1日に施行した。

 

ポイントは、自分たちがその街の主人公だと思えるような仕組みでしょう。

「自分は関係ない」「誰が政治やっても変わらない」という発想じゃなくて、自分自身も主人公であり当事者だと思えることが大事です。「自分自身が変えていける」と思えるような制度が必要ですね。

わたしは大学で、哲学者のジャン・ジャック・ルソーを勉強していたんですが、彼の考えが大好きなんです。ルソーの何がすごいかと言うと、自分たちの街は自分たちで作り変えればいいんだと主張したところ。

 

ルソーは、『社会契約論』という本のなかで、街の全員が参加して「どんな街がいいか」「わたしはこういうことに困ってるんです」というように話し合いをして、お互いに情報共有するのがいいと言っています。

彼が考えたように、ひとりひとりが自分の意思を反映できると感じられる街の仕組みが必要だと思います。

 

考えるべきは、誰にとっての教育か、という点ですね。

大人にとって都合がいいのは、「かくあるべき」という理想的な労働者像、納税者像に育て上げる教育でしょう。

一方で、子どもが「ぼく/わたしはこんなことがしたい」を活かす教育もある。

 
※写真はイメージ(iStock.com/kohei_hara)

わたしは後者のほうを大事にしたいんです。

そういう意味で、わたしはさかなクンを尊敬しています。彼は、学校での勉強はさておき、魚に関しては世界でもっとも詳しいくらいですよね。彼のように、一つの道を極めていくのは大事。

さかなクンやエジソンのような人は、学校でちょっと変わった子どもとして扱われて、なかなか能力を活かせない。だけど、わたしはひとりひとりの個性を伸ばすほうがいいなと思います。

そのためには、「こうじゃなきゃいけない」と子どもを常識で正すんじゃなくて、「それはそれでおもしろいね、がんばったね」と応援できる環境を作っていくことかな。

 

図書館。公園のような広場。あとは隠れ場やね。この3つ。

文化の面でいちばん大事なのは、図書館です。本が並んでいる空間という狭い意味だけじゃなくて、みんなが集う場所でもある。

なぜそこに本が必要かと言えば、本は時間や空間を超えるから。本には人の持っている目線をひっくり返す力があります。自分とはちがう立場の人のことを知る。そういった想像力や共感の源になるのが図書館です。

※写真はイメージ(iStock.com/Hakase_)

こう考えるようになったのは、自分自身の生い立ちも関係しています。わたしの親は一生懸命働く貧しい漁師でした。だから親に対して「本を買って」とねだったことはない。本は立ち読みするものだった。そんななかで子ども心に抱いた夢が二つありました。

一つは、将来自分で自分の家を建てて、その家の子ども部屋の壁一面に本を並べる夢。

もう一つは、市長になった時に、お金があろうがなかろうが、すべての子どもたちが読みたい本を読めるようにいっぱい絵本を並べる夢。

これは両方叶えました。市長になったその年に、駅から遠かった図書館を面積4倍に、本の数も2倍に買いそろえて、駅前の一等地に移転したんです。

市長として最後になったわたしの大仕事も、明石に新しく3つの図書館を作ることでした。

明石以外の周辺の街も、明石と同じように、駅前に図書館を作ったり、子どものための図書館を作ったりする動きが広がっています。これはうれしいこと。

二つ目は、公園のような広場。みんなが集える場所で、路上ライブをやったり、ボール遊びしたり、好きなように過ごせる空間ですね。

三つ目は、隠れ家。これがむずかしいねん!

隠れ家は無理して作ったらあかん。あやしい空間だからいい。全部がキラキラしてるとまぶしすぎるから、人間には隠れるための場所が必要。

ひとりぼっちになりたい時にこもれる場所や仲間同士の秘密基地は大事ですよ。だけど、それを行政があえて作って「さぁ、どうぞ」と差し出してしまったら、それはもう秘密基地じゃない。だからむずかしいね。

 

わたしは農業がいいと思うんですわ。種まいて、耕して、水やって育てて、美味しく食べる。

わたしは漁師の子ですけど、漁業には若干引け目があるんです。だって、漁業ってそこで泳いでた魚を取りますやん。その点、農業は自分でゼロから作るやんか。わたしはベースとして、光と水などを使ったような農業や漁業を大事にしたいかな。

 
※写真はイメージ(iStock.com/recep-bg)
 

治安を守る方法にも二種類あります。一つは監視カメラなどの機械で行くか、もう一つは人の目で行くか。どちらが正しいということはなく、国によっても随分ちがいがあります。

たとえばイギリスは監視カメラだらけ。一方フランスは監視カメラではなく人が見ている。じゃあフランスがいいかと言うと、治安対策として兵隊さんが街中で鉄砲を構えたりしてるわけです。

わたしはどちらかというと、人の目でお互い挨拶し合って、「こんなところで泥棒なんてとてもじゃないけどできないな」となる方がいいと思います。

ちなみにわたしは明石市のなかでも一番端の漁師町の田舎で育ったけど、そこは良心の町だったから、誰もカギを閉めないんですよ。

小学校の時、親に「うちの家、カギ閉めへんの?」と聞いたら、まあ怒られて怒られて。「なぜカギしめるんや! お隣さんが味噌や醤油取りに来られへんやないか」って。それでも、治安はよかったからね。

 

しんどく感じる面もあるけど、助け合いを含めた、居心地がいい程度のさりげない人の目というのが大事だと思う。

監視カメラを街中に付けまくったら安全かというと、それは嘘。何か事件が起きてからの捜査はしやすいから、警察は助かる。でもカメラを付けたから犯罪が減るかというと、そんな事実はないと言われています。

あと、わたしに去年ごろから殺害予告メールが140通も届いて、その時自宅に3台の24時間監視カメラを付けられたんですよ。でもやっぱり居心地悪かったよ。わたしのためにやってくれてることだけど、こちらからしたら夜中にコンビニも行けへんやないかいって。

監視カメラは自分を縛るものでもあったから、わたしの好みとしては人の目のほうやね。

 

やっぱり水道が大事。安心して飲める水の確保ですね。

特に日本の場合は水に恵まれている国だから、そのありがたみをもっと大事にしたほうがいいと思いますけどね。日本は自然豊かで四季もあって、水にも恵まれている。そこをもっと活かせばいいと思う。

そういうなかで、公共のインフラとしての水の衛生面も大事ですね。

 
※写真はイメージ(iStock.com/yamasan)

インフラに限らず、行政運営のキーワードは安心と安全です。

少し話がズレるけど、最近はお金の不安ともしもの時の不安を抱える方が多いですよね。もしも病気になったら、もしも離婚したら。そんな時大丈夫なんだろうかって。

この二つの不安は明石でも課題でした。だから課題に向き合って、「明石だったらお金は大丈夫」「明石だったらもしもの時も面倒みる」とこの二つをそろえた。それが、明石が一気にブレイクした理由だと思います。

 

わたしは、宗教のように医療を過度に信仰するのは不幸じゃないかって思うんです。医者に任せたからと言って、一瞬で病気が解決するというほど簡単ではないですよ。

なんぼ医療だからといって、永遠の命が与えられるわけじゃない。もっと言えば、永遠の命があれば幸せかというと、そうではないと思う。

血が流れたら止めた方がいいし、骨折したら治すためには若干のお手伝いがいる。だけど多くの場合、人は自分で治す能力を持ってるからそこをしっかり活かす。そのためにも、普段からいいものを食べて、ゆっくり休んで、周りの人との関係によって精神的な安定を保つのが大事ですよね。

 

人は病気になったりケガしたりしながら生きていくものだから、それも包み込むくらいの気持ちでやったらいいと思う。

「病気になったら終わり」じゃなくて、「病気なら、ちょっとくらい休んだら」と受け止める方が、長持ちする社会になると思いますよ。

 

明石市のまちづくりで強く意識したのは、東京の吉祥寺です。

吉祥寺はずっと住みたい街一位だから、それにはなにかしら要素があると思っていて、学生時代には吉祥寺と下北沢に住みました。

吉祥寺は、水の面では井の頭公園にボートがある。文化の面では本屋や映画館もあり、隠れ場としての路地裏も居酒屋もありますね。こぎれいだけど、こきたなさもある。

新しい文化が生み出されるであろう可能性やワクワク感もあって、それは大事なこと。そのあたりは強く意識しています。

 
※写真はイメージ(iStock.com/T-Fujishima)

あと、関西だと西宮北口もいいですね。都会だけど山が見えるし、山風が感じられる。ただ若干水の要素は少ない。川はあるけどね。

明石はそういった街を参考に、公園と海、海岸、ため池を活かした街づくりをしながら、再開発する時もあえて路地裏要素を残している。全部きれいにせず、ある一画は昔ながらにごちゃごちゃしたところを残すというのを意識しました。ワクワク感、ドキドキ感はある方がいいですね。


後編では、泉さんが考える「理想の街」がゲーム上で実現されます。

子育て支援で注目を集める元明石市長・泉房穂さんの「理想の街」をゲームクリエイターが再現!<後編>

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<取材・執筆/KIDSNA STYLE>

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