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【目育#02】3歳児健診・就学時健診では手遅れ?子どもを「弱視」にしないためのサイン
学校での授業、読書、テレビやスマートフォン。子どもたちの視力を気にする保護者も多い一方、子どもは、たとえ見えにくくても自分が「見えにくい」ことに気づかない。保護者が見逃してはならない、子どもの眼が発するサインとは?桃山学院大学名誉教授、髙橋ひとみ先生に聞く。
第1回では、近くが見えない「近見視力不良」の子どもたちが存在し、近くが見えにくいために学習意欲の低下を招くなど深刻な影響を受けていることを聞いてきた。
第2回は、子どもの視覚の発達と視力不良、子どもの眼のサインを見逃した場合どうなるのか詳しく解説してもらった。
保護者が知らない子どもの眼の「感受性期」
子どもの目がはっきり見えていなければ視力検査によって発見できるのですが、3歳児健診会場での視力検査実施率は全国でわずか3%(日本眼科医会平成24年度調査結果)。
3歳児の場合は3mの距離で遠見視力検査が行われますが、「ほら、見て!」といくら注意をひいても幼児なので集中力が続きません。ランドルト環(アルファベットの「C」のような輪の一部が欠けた記号)を見せても答え方がわからず、誤って答えてしまう子どももいるでしょう。
時間がかかるうえに、結果の信ぴょう性が保証されないことを背景に、健診会場での視力検査が行なわれていないのかもしれません。
日本眼科医会平成24年度調査結果によると、全国で約93.7%の自治体は、各家庭に視標を送って一次視力検査を保護者に任せています。しかしながら、視力検査の素人である保護者が検査をしても、正しく測定できないことがあります。
また、3歳児健診で精密検査受診を勧告されても、眼科に子どもを連れて行かない保護者が約3割いるとの報告もあります。「文字が読めるようになってから視力検査を受ければよい」という考えかもしれませんが、それでは遅すぎます。
生まれてから視覚の発達が終了するまでの時期を「感受性期」というのですが、多くの保護者がその存在すら認識していないのではないでしょうか。
「視神経の回路」は感受性期に形成される
生まれたばかりの赤ちゃんは、視神経の回路がないので見えません。
生後5日くらいには「明るさがわかる」程度の視力になり、6カ月くらいになると50cmほど先のおもちゃや、保護者の顔が見えるようになり、次第に部屋の中まで見渡せるようになります。
網膜上に結ばれた像の情報を脳に伝える視神経の回路は、「見る」ことで作られていきます。生まれたときにはなかった視神経の回路は、感受性期に形成されていって、約100万本に達し「はっきり見える」ようになります。
網膜上にピントを合わせることができないと、目から入った情報を脳に伝える視神経の回路(上の図では③)が作られません。視神経の回路がなければ、情報が脳に伝わりません。脳が認識する情報がないから「見えない」のです。
幼児の視力検査の意義
幼児の視力検査は3mの距離で行なわれています。これは遠見視力検査です。「遠くがはっきり見えているか」が分かります。一方、30cmの距離でする近見視力検査では、「近くがはっきり見えているか」が分かります。
子どもは近くから見えるようになります。視力不良を早期に発見するためには、「近くを見る検査」を優先するべきです。遠くでも近くでも「ハッキリ見えている」なら、視神経の回路は形成されているからです。
視力検査ではっきり見えていなければ、眼科の精密検査により「見えにくい」原因を特定し、原因に応じた治療を行います。
弱視にさえなっていなければ、視力の改善は可能です。つまり、視力検査ははっきり見えるようにするための入口なのです。
視覚の感受性のピークは生後3カ月頃から1歳半頃まで。6~8歳までは感受性期に当たりますが、3歳を過ぎるころには感受性の強さが著しく下がります。
感受性期を過ぎると、その後一生、視神経の回路は作られず、視神経の回路が形成されていないと、眼から入った光情報が脳に届きません。
視覚が発達する時期に視力検査を受ける機会がなく、視力不良を見逃し最悪の結果、弱視になる子どもは2~3%の割合でいるといわれています。
1年間に約2万人、50人にひとりのこどもが弱視になっている計算です。
屈折検査には限度がある
そこで、日本眼科医会は「実施率の低い視力検査を補完するために屈折検査の導入」を推奨。屈折検査では、遠視・近視・乱視や斜視などの視覚異常がわかります。
2021年には、自治体が屈折検査機器を購入する際には補助金が出ることになり、健診会場で屈折検査を行う自治体は増えたものの、視力検査を省く結果を招いています。
しかし、屈折検査には限度があります。さらに、器械の誤差や眼の調節力の違いにより、軽度の遠視性弱視や屈折異常は見逃される恐れがあります。
そのため、日本眼科医会は「視覚異常を検出する最も重要な検査は,やはり視力検査である。屈折検査導入により視力検査を廃止すると考えてはならない」と、自治体に注意喚起をしています。
弱視の種類
弱視には教育的弱視と医学的弱視があります。一般的に医学的弱視を弱視と言っています。医学的弱視は、視覚の感受性期に視力不良を見逃したために、視力の発達が停止、あるいは遅延したために起こります。視力不良を早期に発見し、早期に治療すれば弱視は改善します。
裸眼視力がどれほど悪くても、眼鏡やコンタクトを装着した状態で1.0の視力が出れば弱視ではありません。
弱視にはいくつか種類があります。
- 屈折異常弱視・・・両眼の遠視・近視・乱視が強いために起こる
- 不同視弱視・・・左右の目の視力差がおおきいために起こる
- 斜視弱視・・・斜視(右眼と左眼の視線が違う場所に向かっている状態)があるために起こる
- 形態覚遮断弱視・・・眼の病気や眼帯の使用などによって網膜への刺激が阻害されることで起こる
保護者が絶対に見過ごしてはいけない「視力不良」のサイン
日常生活に不自由を感じていなかったとしても、以下に挙げる様子があれば、注意が必要です。3歳児健診を待たずにすぐに眼科を受診しましょう。
上記以外にも、見逃さないでほしい赤ちゃんの眼の3大症状があります。
- ひとみが大きい
- ひとみが光る
- ひとみが白く濁る
それぞれ、先天性緑内障・網膜芽細胞腫・先天性白内障の症状です。
これらの病気は、多くの場合乳幼児健診(眼科健診)で発見されることが多いのですが、まれに見逃されることがあります。失明に繋がることもあるので注意が必要です。
そのほか、心因によって見えづらくなることもあります。検査で眼や脳に異常が認められない場合は、心因性の原因を探ります。たとえば、妹や弟が生まれたときに、「自分に関心を向けてほしい」との思いから、見えにくくなることもあるようです。
視力不良が発見されたなら、眼科で精密検査を受けて、視力不良の原因を見つけましょう。
弱視訓練の目的は、網膜上にピントの合った鮮明な像を結ばせ、視神経の回路を作ること。そのためには視力不良の原因を見つけることです。
視力不良の原因が近視の場合は、凹レンズの眼鏡をかけますし、遠視の場合は凸レンズの眼鏡をかけます。
不同視の場合は、視力のよいほうの眼にアイパッチをつけ、視力の悪い方の眼でしっかり見て視力の発達を促します。
視覚の発達にはタイムリミットがあるため、感受性期の終了後に治療を始めた場合は、思うような効果を得ることはなかなか難しいです。
3歳未満でもできる視力検査
幼児の視力検査は、時間と手間がかかり、信ぴょう性がないとして、実施率が低いために感受性期に視力検査を受ける機会がなくて視力不良を見逃され、弱視になる子どもがいます。
そこで、3歳児でもできる幼児視力検査が登場しました。まず、絵本や動画でクイズ遊びをします。
子どもが大好きなドーナツをランドルト環に見立てます。「かじられたドーナツ」の周囲には、とら・うさぎ・さる・ねずみがいて、「ドーナツをかじった動物」を当てるクイズです。ドーナツは次第に小さくなり、ランドルト環に変わります。
次いで、クイズ遊びの続きとして「たべたのだあれ」と問う視力検査をします。これを絵本にした『たべたの だれかな?視力あそび』は日本小児科医会・日本眼科医会が推薦しており、視力検査は日本経済産業大臣賞を受賞しています。
早期に視力検査を受け、視力不良を発見し、治療を始めれば、視力不良による負担なく義務教育を開始できます。
次回は、パソコンやゲーム、スマホなどのデジタルデバイスが子どもたちに身近になったことで増えた「眼の調節機能不良」について、原因と対策をお伝えします。
<取材・執筆>KIDSNA編集部
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