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【目育#01】やる気や集中力がない…「近くが見えない」子どもが増えている
学校での授業、読書、テレビやスマートフォン。子どもたちの視力を気にする保護者も多い一方、子どもは、たとえ見えにくくても自分が「見えにくい」ことに気づかない。保護者が見逃してはならない、子どもの眼が発するサインとは?桃山学院大学名誉教授、髙橋ひとみ先生に聞く。
「近くが見えない」子どもが増えていることを知っていますか?
学校の教室で遠くの黒板の文字を見るだけではなく、昨今はパソコンやタブレットを使ったオンライン学習への移行が加速。新型コロナウイルスの影響により家で過ごす時間が増え、スマホやゲームを使う時間が増えた家庭も多いでしょう。
こうした手を伸ばした範囲の作業をするときに使うのが、近くを見る「近見視力」。特に子どもは近くが見えないせいで目が疲れ、集中力が低下したり、根気が続かなかったりして、「やる気がない」と見なされることがあります。
子どもの視力を40年以上研究し続ける桃山学院大学名誉教授の高橋ひとみ先生は、こんな時代だからこそ、近くが見えない「近見視力不良」に注意すべきだと話します。
「近くが見えない」子どもが見過ごされている現状
現在、学校で行われている視力検査は、「教室のどこから見ても黒板の文字が見える視力が必要」として、5mの距離で行なう「遠見視力」検査です。
そのため「遠くが見えにくい子」は、学校の視力検査で発見できますが、「教科書やノートなど近くの文字が見えるか?」を検査する近見視力検査は一部の学校を除き、実施されていません。
したがって、「近くが見えにくい」子は発見できず、見逃されている可能性があります。
しかし、新型コロナウイルスの影響によって学習のオンライン化が加速し、子どもたちは教科書やノートに加え、タブレットやパソコンによる学習など「近くを見る」機会が増えました。
また、ひとり一台の学習端末の整備を目標に掲げる文部科学省は2021年3月、「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備の進捗状況について」の速報値を公表。「2021年3月末までに97.6%の自治体でGIGAスクール構想によるICT環境整備が完了する見込み」であると発表しました。
黒板にかわってタブレットやパソコンなど、「近く」を見る機会はますます加速するでしょう。
そもそもGIGAスクール構想で唱えられているのは、個別最適化された学びによって、多様な子どもたちが誰一人取り残されることがないようにするのが目的であるはずです。近見視力検査が行なわれていないために、近くが見えにくい「近見視力不良」の子どもが取り残されていることに疑問を感じます。
学習の方法が変化すれば、その学習方法に対して不都合な状態も変化します。したがって、現代の学習形態を考慮した方法で、子どもたちの視力を測る必要があります。私たちは、視力に問題を持つ子どもの学習機会を保証するために、さまざまな調査を実施してきました。
長年の調査により、「近見視力不良者(遠見視力不良者含む)」は約20%、「近見視力のみ不良者」は約8%いることがわかりました。
加えて、調査で行った質問の回答との関連から「近見視力不良者は近業時の学習能率が低い」ことが明らかになっています。
子どもは「学校保健安全法施行規則」により、保育園、幼稚園、学校において3歳からの視力検査実施が義務づけられていますが、近見視力検査は導入されていません。
教育がタブレット中心の学習形態へと変化するのであれば「眼前30cmの視標を判別する」近見視力の検査で、近くが見えにくい子どもを発見すべきです。
遠くを見る力と近くを見る力の違い
大人は「遠くが見えれば近くも見える」と思い込みがちです。そのため、子どもが学校で「遠くが見えるかどうか」の視力検査をしてきて異常なしなら、それで問題ないと思ってしまいます。
しかし、「遠くを見るとき」と「近くを見るとき」の目の仕組みは異なります。
遠くを見るときには光が平行に入ってくるので、網膜上に焦点を合わせるために、毛様体筋は弛緩して水晶体を薄くします。一方、近くを見るときには、光が広がって入ってくるので、網膜上に焦点を合わせるために毛様体筋は緊張して水晶体を厚くします。
すなわち、遠くを見るよりも近くを見るときの方が、調節するための負荷が大きいのです。
「近くが見えない」と聞くと老眼を想像する方も多いのですが、老眼とは、眼の老化(水晶体が硬化)によって近見視力が低下し、近くの文字がはっきりと見えなくなる現象です。
近見視力不良の子どもは、「近くがはっきり見えた」経験がありません。近くがはっきり見えなくても異常とは思わないので、自分から「見えない」と訴えることができないのです。
近くが見えないことを自分でも気づかない
先ほど話したように、私たちは近くを見るとき、対象物にピントを合わせるため、眼の調節力を必要とします。近見視力不良の子どもは、近くを見るときに「より調節力」が必要なため眼が疲れやすく、集中力や根気が続かなくなり、学習能率も低下します。
本当は視力に問題があるのに、「能力がない」「努力が足りない」と思われ、勉強嫌いや学校嫌いになってしまうケースもあります。
先行研究により、近見視力0.8未満は「眼前の活字を判別するのに支障があります」。具体的には、「間」と「問」、「1」と「7」など、似ているひらがなや漢字、数字を間違ったりします。
近見視力不良の子どものノートを見ると、1画過不足があったり、線が突き抜けていなかったり、突き出ていたり……という誤り方が目立ちます。
近くを見る視力の問題なのに、集中力がない、努力が足りないなどと誤解されている子どもたちがいるのです。中には、学習意欲が低下し、勉強ぎらいになり、知的好奇心を失う子どももいるかもしれません。
また、近見視力不良の子どもは、ボールを蹴ったり受けたりすることなどが上手くできないため運動嫌いになる可能性もあります。
近くがよく見えさえすれば、秘めている力を発揮できるかもしれないのに、その能力が開花しないまま見過ごされている子どもたちがいます。
すべての子どもが公平に義務教育を受けられる教育環境を準備すべきです。
子どもの「近くが見えにくい」日常生活のサイン
本来であれば、学校や自治体の視力検査で近くが見えにくい子どもを発見し、眼科で精密検査を受け、然るべき対処がとられることが望ましいのですが、その制度が整っていない以上、最も子どもを間近で見ている保護者が、子どもの発するサインに気づけるといいと思います。
- 同じ箇所を繰り返し読んだり、行を飛ばして読む
- 似ている形の漢字や数字をよく間違える
- パズルやブロックなど、手先を使う遊びが苦手
このようなサインに気がついたら、定期健診を待たずに眼科に連れて行き、検査を受けましょう。
ひとつ注意していただきたいのは、子どもの視覚の発達にはタイムリミットがあります。生まれてから視覚の発達が終了する6~8歳までの期間を「感受性期」といいます。
「視覚の感受性」の強さのピークは生後3カ月~18カ月頃です。3歳を過ぎるころには感受性の強さが著しく下がります。つまり、眼の異常や疾病は3歳頃までに、遅くても6~8歳頃までに発見し、治療することが大切なのです。
次回は、この子どもの視覚が発達する「感受性期」についてお話しします。
<取材・執筆>KIDSNA編集部
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