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「子どものコミュ力が低い」実は心配ないかも。脳科学者に聞くコミュニケーション力【第2回】
Profile
脳科学者(工学博士)/分子生物学者/ T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。
脳科学者(工学博士)/分子生物学者/ T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。
脳科学者(工学博士)、分子生物学者 T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。1975年宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。 博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めてこれまで1万人以上に講演会を提供。エビデンスに基づいた研修、商品開発サービスなども全国に展開。 テレビやメディアなどにも多数出演。著書シリーズは海外でも出版され、「80歳でも脳が老化しない人がやっていること」(アスコム)をはじめとして累計31万部を突破。
予測不能な時代を生き抜くために必要になるであろう「〇〇力」。今回は全四回にわたり「コミュニケーション力」を脳科学者の西剛志先生と紐解く。第一回では、この世界は多くの認知バイアス(脳の偏ったクセ)で溢れていることを教えてもらいました。第二回である本記事では、コミュニケーション力とはなにか、紐解いていきましょう。
コミュニケーション力=相手を理解する力
ーー前回は、同じ絵を見ても人によって見え方が違う例をたくさん見せてもらいました。人によって物事の見え方や感じ方が違うということが、今回のテーマ「コミュニケーション力」に関係するのでしょうか?
西先生:そうなんです。コミュニケーションが上手な人とは、「自分と相手が見てる世界が違う」ことを認識できている人です。相手を理解する能力の差が、コミュニケーション力の差です。
ーー相手を理解する能力ですか。
西先生:そうです。コミュニケーションはキャッチボールと同じです。たとえば、すごく話が上手な人が一方的にずっと話してきたらどうですか?
ーー最初は面白くても、聞いてるだけではだんだんと疲れてきちゃいそうです。
西先生:そうですよね。よく喋ることや話が面白いことと、コミュニケーションが上手いことは違います。たとえば安定志向の人に「新しいことをどんどんやると楽しいから、やってみなよ!」と言ったり、チャレンジ精神がある人に「公務員は安定しているからなってみたら」などと自分のものさしで言うのはどうでしょうか。
自分を理解されていないコミュニケーションは、気持ちよくないですよね。その人の求めていることを理解して、かつ提供できること。これこそがコミュニケーション力です。そのためには、人によって見えているもの、感じていることが違うという大前提を認識しないといけません。
ーー相手を理解することって子どもには難しいようにも感じるのですが、できることでしょうか?
西先生:発達心理学で心の理論といいますが、他者を理解する能力は5歳頃から発達します。たとえば下記の絵のように、お母さんが矢印の書いた紙を持って「お母さんから見て矢印はどっちを向いてる?」と聞いてみます。
西先生:そうすると、4歳までの子どもにはお母さんの立場になるということが難しく、自分から見た方向でしか答えられません。もちろん個人差や男女差はありますが、お母さんの立場になって答えることができるのが大体5歳頃からです。
ーーよく「お友だちの気持ちになってごらん」などと言いますが、4歳以下の子どもには難しいということですね。
西先生:そうですね。そして、このように相手を理解する力つまり共感力は、48歳まで伸びていくというデータがあります。お父さんお母さんは、学生時代と今とでは人の気持ちを理解する力が実は全然違うということ。
経験を積んでいることももちろんあるし、脳の発達という意味でもピークは遅いんですね。だから、子どもが相手を理解する力が低いように見えても、自然と伸びていく力なのであまり心配しなくてもよいかもしれません。
ーーわかりました。でも、脳の発達は未就学児に決まるような話をよく聞くので、意外です!
西先生:脳の発達のピークは部分によって全然違いますからね。余談になりますが、情報処理に関する脳の発達のピークは18歳です。人の名前を覚えるのは22歳、人の顔を覚えるのは32歳がピークであることがわかっています。
西先生:だから大人になっても伸びていく力だけど、ピークを超えるとだんだんと名前と顔が一致しなくなっていったり、テレビに出ている人がみんな同じに見えたりしますよね(笑)。
友だちの多さとコミュニケーション力は無関係
ーーよく言われる「コミュ力が高い」という言葉って、友だちが多かったり、人前で話すのが上手だったり人見知りをしなかったり、そういう意味合いで使っているケースが多いですよね。
西先生:そうですね。ただ、本当の意味でコミュニケーション力が高い人が、必ずしも友だちが多いわけではありません。
友だちになりやすい組み合わせには条件があり、それは共通点を持っていること。さらに、お互いに尊敬できる部分があると親友になりやすいと言われています。全部が同じだと親友にはなれないし、全部が違うといっしょにいても疲れるんですね。
西先生:だから、そういう人と出会えなければ本当の友だちはできません。そういう意味では、昔に比べて1クラスあたりの人数が少ない今の小学校では、確率的に友だちができにくいのかなと思います。
ーー狭い世界では出会えるかどうかわからないですね。
西先生:そうです。友だちを作りたいのなら、学校だけではなく習い事やクラブなど他のコミュニティに所属してみたり、いろいろな場所に出かけて確率を上げていくことが必要ですね。
ーー子どもがおとなしかったり主張が苦手な性格だと「コミュ力が低くて大丈夫かな…」と心配になる親もいるかもしれません。
西先生:たしかに内向的な人は、一般的に暗いとかまじめすぎるとかあまり良いイメージは持たれないですよね。でも、内向性とは自分と向き合うことだから、悪いことではありません。実は大人になってビジネスやスポーツで成功している人は、内向性が高いという研究もあるんです。
西先生:また、小さいときには内向性の高さが目立っていたとしても、同時に外向性も伸びていくことがわかっていて、大人になるほど一般的に伸びていきます。
ーー外向性が10点中3点だとしたら、内向性は7点ということではないんですね。
西先生:その通りです。それぞれ独立した性格傾向なので、外向性・内向性のどちらも高いということは有り得ます。外向性/内向性はリサーチにもよりますが、30~50%が遺伝するとわかっていて、逆にいうと50~70%は後天的な環境要因と言われています。
生まれつき決まってしまうわけではなく、どのような環境でどのような言葉がけをするかで変わっていくものです。
ーー友だちがいないからコミュニケーション力が低いわけでもないし、外向性は伸びていく可能性が高いから心配しなくてもいいということですね!
「三つ子の魂百まで」は間違いだった!
西先生:そうですね。そもそも外向性/内向性の傾向だけではなく、性格は変わっていくものだと多くの研究でわかっています。
西先生:たとえば、習い事を始める年齢によって、性格形成に影響を及ぼすという研究があります。音楽教室に1歳・2歳・6歳から行き始めたらそれぞれどうなるかという研究で、6歳から行き始める子は外向性やチャレンジ精神が上がりますが、反対に2歳から行き始める子は、それらが下がることがわかっています。
2歳は自我が強くなってくる時期。そんな時期に行きたくないところに毎回行かされたらどうでしょう。本当は遊びたいのに遊べないという環境が続くと、新しい場所に行くと面倒くさいことがあると脳が学習してしまいます。そうすると、家にいたい気持ちが強くなるので、外向性が低くなるんですね。
一方で、1歳からやっている場合は行くことが当たり前になるから、あまり影響はないとされています。このように、幼少期の性格は環境によって大きく影響があるのです。
ーーなんかわかるような気がします。同じ環境で育ってもきょうだいで性格が全然違うのはなぜなんでしょう?
西先生:同じ環境といっても、生まれた順番が違う時点で違う環境になります。子どもの社会でも年功序列があったり、上の子は下の子の面倒を見ないといけなかったりしますよね。
アメリカの研究で第一子、第二子、第三子では就く職業に差があるというデータもありますが、生まれた順番が違う時点で同じ環境とはいえないということ。14歳と77歳のときの性格を調べた長期の研究でも、あらゆる性格傾向が全然違うことがわかっています。
とにかく性格は環境によって変わるし、変えられるということをお伝えしたいです。
ーーありがとうございました! 「コミュ力」と呼ばれているものと本当の意味でのコミュニケーション力は全然違うこと、また性格は変えていくことができると学びました。第三回では、認知バイアスを子育てにどのように活かしていくのかを教えてもらいます。
▽▽▽第三回の記事はこちらから(全四回)▽▽▽
Profile
西 剛志
脳科学者(工学博士)、分子生物学者
T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。1975年宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。
博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めてこれまで1万人以上に講演会を提供。エビデンスに基づいた研修、商品開発サービスなども全国に展開。
テレビやメディアなどにも多数出演。著書シリーズは海外でも出版され、「80歳でも脳が老化しない人がやっていること」(アスコム)をはじめとして累計31万部を突破。