人見知りでも大丈夫。子どものコミュニケーション力を育てる方法【最終回】

人見知りでも大丈夫。子どものコミュニケーション力を育てる方法【最終回】

予測不能な時代を生き抜くために必要になるであろう「〇〇力」。今回は「コミュニケーション力」を全四回にわたり脳科学者の西剛志先生と紐解きます。第三回では、脳タイプを活かした子育てについて教えてもらいました。最終回の本記事では、子どものコミュニケーション力の育て方がテーマ。人見知りで内向的な子どもでも心配ありません。

コミュニケーションに自信がない子へ 今日から使えるテクニック

ーーこれまで三回にわたり、世界はさまざまな認知バイアス(脳の偏ったクセ)で溢れていることや、そのことを認識して目の前の相手を理解することこそがコミュニケーション力だと教えてもらいました。それでは、子どものコミュニケーションを育てるためにはどのような方法があるのでしょうか?

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西先生:コミュニケーションとは相手のことを理解することだとお話しましたが、相手のことを理解しようとするとき、ミラーニューロンという脳神経細胞が重要な役割を担っているとされています。ミラーニューロンとは物真似ニューロンとも呼ばれていて、他人の行動を見て、あたかも自分が行動したかのように脳内で反応する神経細胞のことを言います。

たとえば泣いている人を見ていると、その感覚が再現されてもらい泣きをしてしまったり、ホラー映画を見ていると自分も主人公と同じ恐怖を味わったりすることがありますよね。これはミラーニューロンが関わっていて、相手の気持ちに共鳴していることがわかっています。

また、コミュニケーション力が高い人は、ジェスチャーが多いということが明らかになっています。

これらのことを考えると、親が日常からジェスチャーを交えたコミュニケーションを見せてあげることは有効です。たとえば親が大きく手を動かしながら話をしていたら、子どもも同じ部分を司るミラーニューロンが活性化し共鳴します。さらに、自分が話すときは同じようにジェスチャーをしながら話すようになります。

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※写真はイメージ(iStock.com/fizkes)

西先生:また、ジェスチャーが小さい人と大きい人とでは決定的な能力の差がうまれます。それは、問題解決力。手で表現した瞬間に、その問題をいろいろな角度から見ている感じがしているんですね。

ーージェスチャーを取り入れることで大きなメリットがあるんですね。人見知りで悩んでいる人がすぐに使えるコミュニケーションの裏技はありますか?

西先生:子どもの場合は前回もお話したように、性格は変わっていくものなので、人見知りでもそんなに気にしなくてもいいと思います。

※写真はイメージ(iStock.com/Jamaludin Yusup)
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西先生:大人の場合、コミュニケーションを苦手に感じている人は「なにを話したらいいんだろう」「無言になったらいやだな」などと思うことが多いですが、必ずしもなにかを話す必要はないと考えたらいいですよ。

ぜひやってみてほしいことは、頷くこと。コミュニケーションにおいては非言語コミュニケーションも大きな要素です。相手の話に全く頷かない人もいますが、そういう人と話しているとだんだん話し続けるのが怖くなって、話せなくなってきますよね。

ーー反応がないと、このまま話を続けてもいいのかなと不安になってしまいます。そう考えると、次に何を話そうかと考えすぎて相手の話に頷かない人より、会話が少なくても「うんうん」と頷いてくれる人のほうが素敵なコミュニケーションだと感じますね!

西先生:あとは、リフレクティブリスニングという相手が話したことをそのまま返すテクニックなら簡単に始められるのではないでしょうか。人間の脳は、自分が話したことを相手が繰り返してくれた瞬間に自分を理解してもらっていると感じ、とても心地よくなります。

これは親子関係でも大きな効果があって、信頼関係にもつながりますよ。たとえば子どもが「お母さん、今日こういうことがあったんだよ」と話してくれているのに、「それより早く片づけなさいよ」などと返してしまう人もいると思います。

※写真はイメージ(iStock.com/Galina Zhigalova)
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西先生:「こういうことあったのね。良かったね」の一言を言うだけでも全然違うので、絶対にやったほうがいいですよ。親がそれを言うことで、子どもも友だちとの会話の中で言うようになりますから。習慣をつけてあげましょう。

ーー頷くことも繰り返すことも気楽にできますね! 子どもとの会話になんて返事をしたらいいかわからない人もいるかもしれませんが、そのまま返せばいいと思うと簡単ですね。

西先生:以前、子どもが全然言うことを聞いてくれないと相談に来たお母さんがいました。そのお母さんと少し話すとすぐにその理由がわかったんです。とにかくマシンガントーク。リフレクティブリスニングが一切なく、こちらが息ができないくらいに矢継ぎ早に質問してこられるのです。

そのお母さんには、騙されたと思って子どもが言うことをそのまま返してみてくださいとお伝えしました。そして、半年後にまたお会いしたときに「すごく言うことを聞いてくれるようになった」と感動していらっしゃいました。

大人の10分は子どもにとっては1時間?! 親が知っておきたい時間の感覚

※写真はイメージ(iStock.com/blackred)
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ーー先ほどのお話から、親が子どもにしているコミュニケーションが、子どものコミュニケーション力につながることがよくわかりました。他に親子間でのコミュニケーションにおいて、気をつけたいことはありますか?

西先生:コミュニケーションの本質は、相手が誰であろうと変わりません。ただ、親子でのコミュニケーションで知っておきたいことは、大人と子どもでは時間の感覚が決定的に違うということ。

ジャネーの法則というものがあり、脳は処理することが多いと時間が長く感じます。子どもは代謝が高いので、脳が処理することが大人に比べてはるかに多く、そのため同じ時間を過ごしていても大人よりゆっくりに感じているのです。

ーー子どもは買い物や病院などに行くと、「早く帰りたい、つまんない」とよく言うので、連れていくのがストレスになったりしますよね。

西先生:まさにそれです。大人が感じているより、子どもはかなり長い時間に感じているのです。それは、つまらない、早く帰りたいと言いますよね。でも、このことを大人が理解していれば、イライラが少し減るかなと思います。

※写真はイメージ(iStock.com/yamasan)
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ーーありがとうございます。子どもに対しては待つ姿勢が大切とよく聞きますが、やはり出かける前などは、「早く」「遅れるよ」と言ってしまいます。なにかいい方法はありますか?

西先生:リハーサルをすることが大事です。たとえば大人だってゆっくりしているときに、いきなり「はい、今すぐに出かけるよ」などと言われたらめんどくさいですよね。

「テレビが終わったら外に出て、こういうことをするからね」と事前に言われると抵抗がなくなります。たとえば前日に「明日はここに行くよ。何時に家を出ようね」とリハーサルしておくこともひとつの手です。

ーー第三回の脳タイプによって伝え方を変えたらもっと効果的ですね。

西先生:そうですね。あとは、子どもが言うことを聞かないと言う親には特徴があり、命令形を使うこと。「この箱は絶対開けないで」と言われたらどうですか? 脳は制限されるのが大嫌いで、命令されると逆をしたくなる。

※写真はイメージ(iStock.com/SomeMeans)
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ーー大人でも開けたくなりますよね(笑)。

西先生:命令じゃなくて質問をするのが上手なやり方です。出かける当日になって、子どもに「8時になったらどうするの?」と聞いて、答えを自分で言わせる。それでも行きたくないと言われたら「じゃあ、あと何分したら行く?」とさらに質問するんです。

ときには「あと1時間」などと言ってくることもあるけど、「もうちょっと短いほうがいいんだけどな。だったら何分がいい?1分?」と言うと「じゃあ2分」といったように値引き交渉みたいになるんですよね。最初から2分と言われたら短い気がするけど、最初に親が1分と言った後の2分だったら長く感じる。

このテクニックのよいところは、子どもが物事を自分で決めることができること。自己決定感が高いと、もっとも幸福度が上がることがわかっていますが、まさに自分で決めさせることの繰り返しを大事にしたらいいと思います。

ーー自分で決めるのが苦手な子どもはどうでしょうか?

西先生:自分で決めるのが苦手なように見えるのであれば、怒られるのが怖いとか、なにか別の要因があるかもしれません。脳の性質としては、誰しも自分で決めたいんです。大人に従ったほうがラクだと学習してしまっている可能性があるのであれば、今からでも自分で決めさせる機会を増やしてあげたらいいですよ。

ーー脳は自由を好むんですね。

※写真はイメージ(iStock.com/Hakase_)
※写真はイメージ(iStock.com/Hakase_)

西先生:最後に、男の子の子育てと女の子の子育てについて、ひとつ面白い研究を紹介します。

人間は必要以上に褒められるとどうなるのかを、男女一万人で行った研究です。過度に褒められて育った女の子は、誠実さが伸びる傾向にあります。誠実さとは勤勉さとも密接に関係していて、誠実さが高いと社会的に信用されます。

一方で、過度に褒められて育った男の子は不誠実になる傾向があるのです。自己奉仕バイアスといって、成功したら自分の手柄、失敗したら他人のせいと考える傾向にあります。

※写真はイメージ(iStock.com/kohei_hara)
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西先生:つまり男の子は褒められすぎると調子に乗ってしまうんですよ。これが男の子と女の子の決定的な違いです。あと、褒められすぎて自分を正当に評価することができなくなってしまうと、人を上とか下で見るようになるんです。そういう人って相手を理解しようとはしないので、コミュニケーションが上手に取れません。

ただ、男女ともに、褒めることと厳しくすることのバランスがいいと最も伸びます。褒められすぎて自分は最高だと思ってしまったら、それ以上伸びませんからね。

ーー西先生、4回にわたり興味深いお話をありがとうございました!

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Profile

西 剛志

西 剛志

脳科学者(工学博士)、分子生物学者 T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。1975年宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。 博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めてこれまで1万人以上に講演会を提供。エビデンスに基づいた研修、商品開発サービスなども全国に展開。 テレビやメディアなどにも多数出演。著書シリーズは海外でも出版され、「80歳でも脳が老化しない人がやっていること」(アスコム)をはじめとして累計31万部を突破。

2023.07.18

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