【ママの体と向き合う】日々の腹圧が尿漏れを引き起こす

【ママの体と向き合う】日々の腹圧が尿漏れを引き起こす

2020.01.09

Profile

藤島淑子

藤島淑子

川崎協同病院 婦人科部長。日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会認定医

川崎協同病院 婦人科部長。日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会認定医。骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤など)、頻尿、尿失禁のほか、アスリートの月経不順・貧血・骨粗鬆症・薬の相談(ドーピング禁止薬)などを専門に診断と治療にあたっている。

個人差があるママの体において、自分にとってのベストな選択はさまざま。助言や迷信を鵜呑みにしたり、「やらなければ」という強迫観念で自己判断のケアをしていないでしょうか?この連載では、専門家を通してママが自分自身の体と向き合うためのガイドとなる正しい知識を発信していきます。第3回は、妊娠中や産後のママを悩ませる尿漏れについて、川崎協同病院 婦人科 産後骨盤トラブル外来の藤島淑子先生に話を聞きました。

尿漏れはどうして起こる?

出産が近づくにつれ、大きく変化するママの体。赤ちゃんの成長を嬉しく思う反面、尿漏れを経験してドキッとした経験のある方も多いのではないでしょうか。とはいえ、なかなか人には相談しづらく、ほかのママはどうなのか気になったり、いつ漏れるか分からない中、どう対策すればいいか分からず焦ってしまうママもいることでしょう。

「尿漏れは、実は女性ならよくあること。妊娠中や産後は、特に頻繁に起こりやすい症状ですが、産後の経過とともに自然に治っていくものではありません。まずは生活習慣を見直すことが、尿漏れを改善するために重要です」と話すのは、川崎協同病院 婦人科で産後骨盤外来を担当し、20〜90代まで、これまでたくさんの女性の尿もれの悩みを解決してきた藤島淑子先生。(以下、藤島先生)

まずは、尿漏れが起こる仕組みから、教えてもらいました。


産後は排泄機能を担う部位がゆるんでしまう

「妊娠中は、週数が進むにつれ、胎児の成長とともに子宮が大きくなり、膀胱を圧迫することで尿漏れを起こす場合もありますが、出産後は、お腹に圧力がかかることで尿漏れを起こす『腹圧性尿失禁』と呼ばれる症状がほとんど。

これには、膀胱、尿道、子宮など、女性の大事な臓器を骨盤の一番底で支えている大切な筋肉、骨盤底筋群が関係しています」

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「骨盤底筋群は、ハンモック状の薄くデリケートな筋肉。ここに尿道・腟・肛門の3つの穴があいていて、臓器を支えるという機能以外にも、尿や便を出したり、出産時には赤ちゃんが通ります。そのため、妊娠や出産を経験したママの骨盤底筋群はゆるみ、もろく痛んだ状態に。膀胱の出口がゆるみ、尿道を締める圧力がかかりにくくなるため、尿が漏れやすくなります」と藤島先生。

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尿は、膀胱から尿道を通って排出されていますが、腹圧が何度もかかると膀胱の出口が開きやすくなり、尿道を閉める働きをする尿道括約筋、いわゆる蛇口のような筋肉がゆるみます。きっちり閉めることができないために、漏れやすい状態になっているのだそう。

産後の禁止ワード「腹圧」

「腹圧」が尿漏れの大敵

「くしゃみや咳をするときや、赤ちゃんを抱きあげるとき、重たい荷物を持つときのことを思い出してみてください。お腹にぐっと力が入りますよね。この『腹圧』こそが、尿漏れの1番の原因になっているんです」

お腹に力が入った状態は、“鍛えられている”と良い方向に受け取ってしまいがちだけれど、尿漏れに関しては実は逆。骨盤底筋がゆるまないように、正しい位置に戻すための対策が必要ということなのです。

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「膀胱をチューブの歯磨き粉に例えると、手でぐっと折り曲げると中身が出てくるように、腹圧によって膀胱に力が加わると尿が漏れます。ただでさえ産後に骨盤底筋群がゆるんで尿道が開きやすくなっているのに、女性の尿道は、男性と比べると短く3cmほどしかないため特に尿が漏れやすいのです」

骨盤底筋群は、妊娠・出産によって伸びてゆるみ、尿漏れを引き起こしますが、体の使い方の癖や生活習慣が、骨盤底筋群のゆるみを招いていることも多いと藤島先生は指摘します。ということは、産後にこれまで通りの生活をしていると、尿漏れが改善されない可能性も…。ママができる対策には、何があるのでしょうか。


尿漏れ予防の救世主「ガスケアプローチ」

尿漏れや臓器脱を専門にしていた藤島先生が数年前に出会い、今の産後骨盤外来での治療に取り入れたのがフランス発祥の「ガスケアプローチ」。女性の体の骨盤底筋群を守り、正しく使えるように、姿勢と呼吸という生活習慣の観点からアプローチした方法です。

「骨盤底筋群がゆるんでしまう原因である腹圧をかけないようにすれば、尿漏れの悪化が予防できる。背骨を伸ばす良い姿勢と正しい腹式呼吸でアプローチするガスケアプローチは、患者さんの生活習慣を見直すためにぴったりでした」。

ガスケアプローチはあくまで骨盤底筋群がゆるまないための予防法。すでに尿漏れの症状があるママはどうしたらよいのか…と聞いてみたところ、実際に外来で、尿もれや臓器脱の患者に姿勢と呼吸法を指導したところ、症状が改善するケースもあったといいます。

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「骨盤底筋群になぜ姿勢と呼吸が関係するのか。まずは姿勢についてです。人間の体の臓器が収まっているお腹周りの空間を腹腔というのですが、姿勢が悪いと、骨盤底筋群に圧力がかかります。例えば猫背になると、腹腔の前の部分が潰れますよね。すると、上から下に向かって圧力がかかり、内臓が下がります。

だからといって、椅子やソファにもたれるなどして、体を反る姿勢もNG。姿勢を正そうとして、反り腰になってしまう方も多いです。腹腔内を箱に例えるとわかりやすいのですが、猫背でも、反っても、箱は潰れてしまってきれいに保てません。箱の形をきれいに保った状態、つまり背筋をのばしたまっすぐな姿勢こそが、骨盤底筋群を守り、内臓が正しい位置に上がる理想的な姿勢です。

呼吸の場合は、箱の状態の腹腔の上に、横隔膜がのっているイメージ。いわゆる胸で息をする胸式呼吸によってこの横隔膜が下がると、腹腔に圧がかかり、内臓がつぶされて骨盤底筋群に負担がかかるのだそう。それを防ぐためには、横隔膜を下げない腹式呼吸をすることが大切です。そのためには、お腹に力を入れないこと。背骨を伸ばす正しい姿勢ができていれば、自然に腹式呼吸ができるようになっています」


トイレの回数も見直すべき

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姿勢と呼吸の習慣のほかに、尿漏れに悩む方がやってしまいがちなのが、尿漏れしないようにとこまめにトイレに行ってしまう習慣。

「通常の1日の排尿量は1200~1500ml、排尿は7回以下なんです。膀胱にはだいたい200~400mlの尿を貯められるのですが、尿漏れしたくないからといって、頻繁にトイレに行くと、膀胱にはあまり尿が溜まっていない状態。それを繰り返すうちに、膀胱に貯められる尿の量が少しずつ減ってしまう。

排尿の際は、少ない尿を絞り出そうと一生懸命いきみますよね。いきむ行為は、腹圧がかかっているので、絶対にいけません」

そのような患者さんには、まずは、膀胱の容量を増やすために行う、トイレを我慢する膀胱訓練。尿漏れの症状や原因は人によってさまざま。排尿日誌を使いながら、尿量や尿漏れ、飲み物の量などを記録してもらい、トイレに行きたいのを我慢する時間を決めて、治療を進めていきます。

腹圧の怖いところは、ただでさえ出産でダメージを受けている骨盤底筋群がゆるみ、臓器は下がってしまうのに、お腹に力が入るだけでそれらを助長してしまうこと。最悪の場合、子宮脱や直腸脱などの臓器脱が起こり、外科的処置をせざるを得なくなってしまいます。

「例え手術をしたとしても、万全ではありません。腹圧のかかるクセや習慣がある方は、内臓や骨盤底筋群がまた下がってしまい、同じことを繰り返してしまう。生活の中で意識をしない限り、改善しにくいんです」

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正しい姿勢と呼吸ができる座り方

尿漏れには腹圧が禁物、と分かったところで…姿勢と呼吸を正しい状態にするために、日常の中で簡単にできる方法があるか、藤島先生に聞いてみました。

「姿勢と呼吸は連動しているので、正しい姿勢をとることで腹式呼吸が自然とできます。それが分かりやすく実感できる基本の座り方を教えます」

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椅子やトイレの便座に座る場合は足台を置いて調整するのがおすすめ

「ポイントは、どの座り方においても、背骨から太ももにかけての角度が90度以内になること。90度以上になる場合や、足がつかない場合は足台を使って調節します。背骨は真っすぐにのばし、あごはひきます。ひじが正しい高さになるように、クッションや枕を使うとよいでしょう。この座り方は腹圧もかかりません。意識せずとも、楽に腹式呼吸ができます」

自宅や職場でも、足台やひじを乗せられるクッションを用意しておけばすぐにできる姿勢です。デスクでパソコンを使用する場合は、机の上にひじを置くようにすると良いのだそう。

お腹に力が入らない習慣を身につけよう

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「ママは、子どものお世話や抱っこなどで腹圧がかかっている場面は意外と多くあると思います。尿漏れの予防と改善のためには、お腹に力が入っていないか、生活習慣を見直してみてください」と藤島先生は言います。

更年期以降に、女性ホルモンが減少することで骨盤底筋群を構成する筋肉自体が衰えてしまうということもあるのだそう。

「骨盤底筋群は女性にとって、一生をかけて付き合うべき大切な存在。腹圧をコントロールしなければ、日々小さなダメージが積み重なってしまいます。まずは姿勢と呼吸から見直してみましょう」

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藤島淑子

藤島淑子

川崎協同病院 婦人科部長。日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会認定医。骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤など)、頻尿、尿失禁のほか、アスリートの月経不順・貧血・骨粗鬆症・薬の相談(ドーピング禁止薬)などを専門に診断と治療にあたっている。

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

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