子どもは理不尽の中で育つ。AI時代こそ人間的魅力を身につける教育を

子どもは理不尽の中で育つ。AI時代こそ人間的魅力を身につける教育を

2026.06.04

Profile

高濱正伸

高濱正伸

花まる学習会代表

1959年熊本県人吉市生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学へ入学。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。1993年「花まる学習会」を設立、会員数は23年目で20,000人を超す。 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。算数オリンピック作問委員。 武蔵野美術大学客員教授。環太平洋大学(IPU)客員教授。日本棋院顧問。ニュース共有サービス「NewsPicks」のプロピッカー。

子どもの将来を思うあまり、つい口出しをして先回りをし、気づけば子ども以上に親のほうが疲れ切っている。そのような方は少なくないのではないでしょうか。今回は、花まる学習会代表として35年にわたり、子どもと保護者に向き合ってきた高濱正伸先生の「AI時代に生き抜く人間力の身につけ方」について、3つの視点でお届けします。

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視点①:子どもは外で育つ

長年子どもたちを見ていると、伸びる子と伸び悩む子の差がはっきり出る部分があります。立体の裏側を想像できるか、補助線がパッと浮かぶか、複雑なものを途中で投げ出さずやりきれるか。

私はそれを大きく2つに分けて、「見える力」と「詰める力」と呼んでいます。本質が見えるか、要点が見えるか、アイデアが浮かぶか。この「見えている感じ」は、数学一つとってもものすごく差がつく。それなのに、その力を育てる教育がほとんどない。

では、どこで育つのか。私の答えは、外遊びです。

子どもは、放っておけばとにかく枝を拾います。拾って、基地を作り始める。あるいはダムを作り始める。これがまさに「見える力」なんです。

この「見える力」を身につけることができる一連の体験が、外遊びには山ほど詰まっています。頭の良さを抽象化して一番大切な部分にまで突き詰めたとき、最も伸びるのは外遊びだと私は思っています。

そして、外遊びの効用は能力面だけではありません。人間関係も自然と育ちます。違う学年の子と一緒に遊ぶ。5歳の子が入ってきたら「あっち行け」とは言わずに必ず仲間に入れようとする。そういう多様性が育まれていく。

同じことは「葉っぱ」一つとっても言えますね。子どもは「葉っぱね、知ってるよ」とわかった気になる。でも本当に山で遊んでみると、1本の木の葉っぱでも、すべて違う。葉脈も、色合いも、一枚一枚違うんです。「世界はこういう感じでできているんだ」という肌感覚を、多様性ごと知る、これがすごく大事なことですね。

しかも「遊べ」と言わなくても、子どもは自由な環境さえあれば主体的に遊び始めます。それなのに、今の日本の公園は禁止事項だらけ。ボール遊びはダメ、大声もダメ。じゃあ子どもたちをいい山へ連れて行くしかない。そういう枠組みだけ作って、あとは自由に遊ばせる。これが本当は一番大事なのに、現代の子どもたちは点数のつくことばかりに邁進させられています。

——都心ではなかなか外遊びをさせられない、という現状もありますよね。

そうですね。だからこそ、せめて夏の間だけでも田舎に送り出すことをおすすめしています。山村留学のような場に預けるのもいい選択肢です。

これ、外したことがほとんどないんですよ。むしろたいてい子どものほうが帰ってこなくなる。「1週間だけ」と思って送り出したら、2年も3年も帰りたがらないケースもあります。それぐらい、本来の子どもは外でのびのびと育つ生き物なんですね。

以前、ある小学4年生の男の子がいました。一人っ子で、ママがいつも横にいて、「消しゴムがない」と言えば「あるじゃん」とすぐ手を出す。これではどこまで行っても自立できない、相当まずいと感じました。

そこでお母さんを口説いて、山村留学に送り出してもらったんです。1年後、お母さんから電話がかかってきました。

「帰ってきたら、この子がトイレ掃除をしているんです」と。
私が「なんで?」と尋ねたら、その子はひと言、「トイレは掃除するものだよ」と。

ママと一緒にいたら40歳になってもやらなかったかもしれないことが、外で鍛えられたら、ごく当たり前のこととして身につく。

この子の人生を長く幸せにするには、強くなって、自立してもらわなきゃいけない。愛しくてしょうがないけれど、ここを離れるしかないんだ——そう思って、送り出してほしいです。

——何歳くらいから「離れる」ことを意識すればいいですか?

目安は小学4年生以降ですね。小学校高学年は、本当に大切な時期です。第二次性徴期は体だけが変わると思われがちですが、聞く音楽も、好きなものも、友達も、親の見え方も、すべてが変わっていく。

芋虫が蝶になり始めている時期なんですよ。蝶になっているのに、「葉っぱを食べなさい」と言い続けてはいけない。本来なら飛び方を教えて、自分で責任を取らせるべき年齢です。

それなのに、いつまでも幼児期と同じ感覚で過干渉が続いてしまう。これが今の日本で最も危険な状態だと私は感じています。本当にいとおしくて、かわいいから、親自身が離れたくないだけ。でも、ある時期からは離れなきゃいけない。

そして、子離れと同時に大事なのが「誰に預けるか」です。

一般的にうまくいっているのが、部活です。たまたま入った部活で、厳しい監督のもとで仲間ともみ合いながら鍛えられ、厳しい練習にも耐え抜いて、そのうち監督を超えていく。この状態が、相当いい育ち方なんですよ。

部活というプロジェクトは、本当に人を育てます。仲良くしたり、「このやろう」と言い合ったり、「お前のせいだ」と喧嘩したり、「言い過ぎたな」と内省したり。そういう経験を経て磨かれていく。これは今の日本の一つの大きな財産です。

視点②:AI時代どうする?「また会いたい人」に育てる

AI時代に、親としてどう子どもを育てるか。私の一つの答えは、「また会いたい人」に育てることです。

知識の総量という点では、人間はもうAIに勝てません。天才の大集団を凝縮したような存在が、いつでも手元にある時代ですから。では、その時代に残る仕事、人間にしかできないことは何か。

一つは研究者かなと。東大の鈴木俊貴先生の言葉の受け売りですが、論文として「正しい」と証明されたことは、いずれすべてAIが知る状態になる。その中で鈴木先生は「鳥は喋るのだ」というたった一つの、AIがまだ知らなかった知識を世界に加えました。

世界の真実は、まだまだ見つけられていないものがいっぱいある。そこに自分だけの問いを立てて追求していける。これは人間に残るフィールドなんです。

もう一つは、人間的魅力を求められる仕事です。「この店員さんからなら買いに行きたい」と思わせるような何か。

例えばお医者さん。本質的には、データを見て「これは○○病ですね、薬を出します」という作業はAIのほうが圧倒的にできてしまう時代です。

それでもお医者さんの仕事はなくならない、と私は思っています。体の病気については、やっぱり顔のある、人間味のある人から「お母さん、これはこうですよ」と言ってほしいのが人間だから。

冷たいお医者さんは、顔も見ずに「はい、薬どうぞ」と言う。一方で、別のお医者さんはこう言ってくれるんです。「お母さん、これはきれいに治るから大丈夫。今日は何もしなくても、帰って寝てれば大丈夫。そういえば、弟くんが喘息みたいになって、お母さん寝られなくて大変だったでしょう? あれ、どうだった?」と。

我が家のことを覚えてくれていて、思いやりを向けてくれる。そんなお医者さんになら、また行きたいと思うじゃないですか。こういう仕事こそが、これからの時代に残ると言われています。

私が思うに、この人間的魅力の二大巨頭は「温かさ」と「面白さ(ユーモア)」です。

これらを育てるには、親としてもユーモアを忘れない。家族や周りにあたたかく接する姿を、子どもの前で見せる。これが何より大切です。

「何で点を取れないの」と能力ばかり追ってしまうけれど、「なんかこいつといるといい気分になるな」というのも、立派な能力。まだ名前のついていないこの力に、もっと目を向けてもいい時代になっていると思います。

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視点③:お母さんが幸せであること

長年子どもたちを見てきて、言い切れることがあります。子育ての中心は、お母さんです。

これは全ての教育者が最後にたどり着く結論で、論文もたくさん出ています。自分のお腹の中で動いている命を10ヶ月感じて、命がけで産んでいる。その想いには、誰も勝てません。

そして、子どもの学力や能力に悩む家庭をたくさん見てきて感じる、現代日本の一番の悲劇は、夫婦がうまくいっていないことです。

例えば、お母さんが「最近この子が心配で」と話したら、ご主人は「大丈夫だよ」「こうすればいいじゃん」と答えで返してしまう。でもお母さんは答えがほしいわけじゃない。真横で一緒に共感して、心配してくれる感覚がほしいだけなんです。

「この子最近調子よくないかも」と感じたときに、ご主人が「いい感じじゃない?」と一緒に子どもを観察してくれて、話しかけてくれたら、それだけでお母さんは「すごいパパだなぁ」と思える。この感じになると、子どもがいい感じに育つ。でも、それが難しい時代なんですよね。

長年かかってたどり着いた答えなのですが、そもそも歴史を見ると、人類はずっと「女衆の群れ」で子育てをしてきました。若いお母さんを年長者が囲みながら、みんなで、みんなの子どもを育てる。これがそもそもの形でした。

今のお母さんからすると、考えられないですよね。でも、それが本来の「みんなでやる子育て」。だから昔のお母さんは、安心して笑顔でいられました

それが今は孤立してたった一人で子育てをさせられている。誰にも分かってもらえない、共感してもらえない。夜遅くようやく帰ってきた夫に話してみたら、的外れな答えが返ってくる。これでは笑顔でいられないのは、当たり前です。

こういう構造で、誰にも悪気がないのだから、お母さん自身が意識的に「にこにこできるカード」を取りに行くしかありません。

仕事をするのはすごくいい。働いていたほうが心が安定するお母さんは多いです。「推し活」もいい。35年横で見てきて、誰かを愛して応援するという行為は、お母さん自身にとってとてつもなくいいエネルギーになります。ヨガでも、買い物でも、スポーツでも、なんでもいい。作り笑いではない、心からの笑顔ができる場所に、意識的につながりに行くこと。一人で頑張らない。これが、本当に大事です。

そしてお父さんにお伝えしたいことがあります。

お父さんも、自分にとって一番大事なのは子どもなんですよ。「こいつがよく生きてくれれば、俺は人生もう終わったっていいくらいだ」と思いながら子育てしている。でも、その一番大事な子どもにとって何より大事なのは「妻の笑顔」なんです。

評価基準はたった一つでいい。「あなたの妻が、笑顔かどうか」。これを、もう一つの仕事としてやりましょう。

子育てを「楽しむ」ことが、何よりの正解

最後にお伝えしたいことがあります。

60を過ぎた人たちが集まると、ほぼ全員が口を揃えて言うことがある。

「子育てだけは、間違いなく充実していた」「本当に生きていてよかったと思える時間だった」と。

それを、皆さんは今まさに体験している最中です。

能力主義の声に翻弄されすぎないでください。「こうすればこうできますよ」というアドバイスに振り回されすぎないでください。結局のところ、夫婦が仲良く幸せだったら、子どもも幸せ。これを信じて、大人として楽しく生きてほしいんです。

子育てが、楽しい時間になりますように。

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