世界中の保育を旅して分かった、いまの日本に必要な「引き算」

世界中の保育を旅して分かった、いまの日本に必要な「引き算」

2021.07.28

Profile

久保田修平

久保田修平

保育士/共育者

保育士・共育者。 東京都大田区出身。私立保育園に7年間勤務後、夫婦で600日間25カ国の世界一周に出かける。「世界の子育て、保育を知る旅」をテーマに掲げ、保育教育施設の視察・海外在住日本人保護者へのインタビューを実施。帰国後、保育現場に戻ると同時に、団体「aurora journey -保育の世界を旅してみよう-」を発足。「保育者の専門性が高まることで、社会がより良くなる」を理念に、講演会・研究会・動画配信を精力的に行なっている。2019年には待望の書籍を発売。昨年9月19日《新しいカタチの保育・子育てフェス》「第1回えどぴフォーラム」を開催。現在、3歳児担当。

計600日間で25カ国、「世界の子育てと保育を知るため」の世界一周の旅を行った保育士の久保田修平さん。最終回となる第5回は、旅を終えて帰国した久保田さんが、日本の保育の課題を改めてどう捉え、保育士として、旅での経験をどう生かしているのかをご紹介いただきます。

これまで、私が経験した世界一周「世界の子育てと保育を知る旅」で学び、体感したことを通して、私が大切にしている考えを綴ってきました。

「自然が子どもの生きる力を育む」「子どもを信じて、ゆだねる勇気を持つ」「子どもの興味を止めない」「個から群れへ。競争から共生へ」など、今の日本で子どもに関わる大人たちの心に留めておいてもらいたい、改めて考えてもらいたいと思うことばかりです。

最終回の今回は、私が帰国し保育現場に戻って感じたこと、そして、今まさに実践していることをお伝えしたいと思います。

世界旅行から帰国後、改めて日本を見て思うこと

600日25カ国を旅する中で、先進国と言われている国から発展途上国、貧困層の人たちが多く住む地域などさまざまな場所を訪れました。

特に発展途上国や貧困層の地域を訪れると、改めて「日本は豊かな国なんだ」と感じさせられることが多かったです。識字率が低い、学校に通えない、家族の働き手になっている、そもそも生活すら危うい……など、日本の多くの子どもが当たり前にできていることが十分でない子どもが多くいることを肌で感じ、「日本ってとても裕福な国なんだな」と強く思いました。

同時に、旅を出る前に感じていた「日本の保育の現状へのモヤモヤ」以前の状態にいる子どもが世界には多く存在するのだと知りました。

提供:久保田修平さん
インド・ブッダガヤにて(提供:久保田修平さん)

しかし一方で、日本でも経済的に厳しい家庭も増えています。

たくさんの物やサービスに囲まれているのになんだか満たされていないなど、心を貧しく感じている子も多くいる現状も忘れてはいけません。だからこそ私は旅での経験を生かし、改めて「日本の子育て・保育現場を良くすることで、世界がより良く、そして豊かになれる」という想いを強く持ちながら保育現場に戻り、日々実践を重ねています。

子どもを「管理」すべき?「自由」にすべき?

これまで、デンマーク、ドイツの「生きる力」を育む自然保育、オランダ、イギリス、イタリアの「個を尊重する」保育、ニュージーランドの「興味関心を止めない」保育と、さまざまな国の保育のあり方を紹介してきました。

旅に出る前に感じていた日本の保育は、それらとは逆で“管理的”なものでした。しかし、現在は「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」の改正や、子どもに関わる大人の学びの場が増え多様な視点を持つようになってきたことにより、少しずつ子どもの主体性を大切にした保育が多くなっていると感じます。

より子どもが子どもらしく、そして自分のことを大切に、自分らしくありのままでいられる場や時間が多くなっていることは嬉しく思うのですが、一方で、世間では「受け止める」「寄り添う」「信じる」「待つ」ことの大切さが大々的に謳われていることにより、「子どもを信じて待つ=子どもの好き勝手に、なんでもあり」と履き違えてしまっている大人も少なくありません。

提供:久保田修平さん
フィリピン・マニラにて(提供:久保田修平さん)

私たち大人は、自由と放任をしっかりと見極めて子どもを見守ることが大切です。ただ放任して好き勝手にさせるのではなく、私たち大人だからこそ伝えられることや伝えるべきこともあるはずですし、それを強制したり押し付けるのではなく、選択肢のひとつとして子どもに知らせることで、子どもの自由も担保されます。

脳の発達において、その能力を学習できる最適な時期である「臨界期」という言葉がありますが、子どもの育ちがより良くあるために、子どもに関わる大人、特に保育者は専門的な知識や見地から的確に接し、待つだけでなく時には背中を押すように応対する必要もあると思います。

その見極めはとても難しいですが、とても大切な考えだと思います。

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「自然に触れる」ことと「自然体でいる」ことの違い

自然の中での保育も、近年注目されるようになってきました。

私が帰国して現在勤めている保育所は、住宅街の中にある小さな保育所です。

2階建ての一軒家で保育所としてはこじんまりしていますが、子どもの主体性と伸びる力を信じて、自然とともにいきいきと生活するという想いに共感して、毎年新しい子どもと保護者が入園してきます。

提供:久保田修平さん
オランダ・アントワープにて(提供:久保田修平さん)

ここ最近、「自然という言葉には2つの意味がある」ということを強く感じ、そのどちらを大切にするかで大きく変わるのではないかと思いました。

1つ目は、空・土・草・川などの自然、つまり「ネイチャーの自然」です。そして2つ目は、自然体という自然、つまり「ナチュラルの自然」です。

私は今まで、子どもの育ちには自然が大切と考えていましたが、改めて考えてみると、まずは子どもたちがナチュラルで自然体でいられるという基盤であってこそ、森や川などのネイチャーな自然とのふれあいが生かされるのだと気づきました。

確かに子どもの育ちに森や川などの自然は欠かせませんが、人間として自然体であることなしに、ただそれらの環境を与えても、それは一種の早期教育になってしまいます。子どもにも響きませんし、ネイチャーを単なる物や環境のひとつとして見てしまい、生命が宿る偉大さや繊細さを肌で感じるのは難しいと思います。

まずは人間の本来の育ちや生活はどんなものか、そして我が家ではどんな暮らしや子育てをしたいかということを考えたうえで、子どもも大人も自然体でいられるような子育てをすることが大切だと思います。

※写真はイメージ(iStock.com/Mladen Zivkovic)
※写真はイメージ(iStock.com/Mladen Zivkovic)

保育と子育ては「足し算から引き算へ」

これまで多くのことを語ってきましたが、これは私の経験や今までの保育を通しての持論です。すべての人に適しているとも言えませんし、逆に反対の意見も多くあるかもしれません。しかし、子育てにおいて「これが正解」というものはありません。いろんな想いや意見の中で試行錯誤しながら、ときに悩みながらも、自分のやり方を少しずつ作っていけたらよいのだと思います。

世の中には多くの子育てや保育のメソッドが謳われています。どれも素敵で、説得力のあるものばかりです。

ときには科学的な根拠に基づいて語られ、私も保育現場で生かしていきたいと思うこともあります。ただそれらを学ぶ中で「どれもよさそう」で、はたまた「どれがよいのだろう」と迷うことがあるのも事実です。

そんなとき私が選ぶ基準にしているのは、「いいね」よりも「なんだかいやだな」という違和感です。良さそうな方法をあれもこれもと足し算するのではなく、うまく言葉で表現できないけれど、確かにある直感を信じ、本当に大切にしたいものを考えて引き算をしてみてはいかがでしょうか。

そうすることで、“わが家の正解”、“その子の正解”が見つかっていきます。大人は子どもと関わることがより楽しく、良い意味で楽になりますし、子どもはそれまでよりいきいきとするでしょう。

提供:久保田修平さん
オランダ・アントワープにて(提供:久保田修平さん)

「自分の人生を自分で作るチカラを持ってほしい」。これが私の子どもたちへの想いです。

言い換えれば、それは我々、子どもに関わる大人自身も自分の人生を楽しみ、自分らしく歩んでいく姿を見せることが大切だということ。

「大人が輝くことで、子どもが輝く」と私は信じています。子どもが最善の状態でいられることも大切ですが、その最善(Best)が100%子どもではなく、大人の喜びや幸せ、豊かさも大切にしたBetter(子ども80%、大人20%)くらいの心持ちで過ごせたらいいなと思っています。

私も保育士として、まだまだ道半ばです。これからも皆さんと一緒に学び、葛藤し、成長していく日々をともに歩んでいけるのを楽しみにしています。これまで読んでいただき、ありがとうございました。

提供:久保田修平さん
ペルー・チチカカ湖にて(提供:久保田修平さん)
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