「ダメ」「危ない」は言わない。子どもの興味を伸ばすニュージーランドの保育

「ダメ」「危ない」は言わない。子どもの興味を伸ばすニュージーランドの保育

計600日間で25カ国、「世界の子育てと保育を知るため」の世界一周の旅を行った保育士の久保田修平さん。第3回は、雄大な自然の中で子ども一人ひとりの興味を伸ばすニュージーランドの保育についてご紹介いただきます。

雄大なニュージーランドの自然がくれたかけがえのない経験

旅で出会った多くの人が「ニュージーランドには、自然のすべてがある」と教えてくれました。

どうしてもこの言葉が心から離れず、僕たち夫婦は旅の途中のカナダでニュージーランドのワーキングホリデーのビザを取得しました。

約半年間滞在したニュージーランドでは、さまざまな自然に出会うことができました。

山、海、森、草原、そして氷河まで。なにより長期滞在しながら夫婦で一緒に働けたこと、保育施設でのボランティア、1カ月のキャンプ生活などのかけがえのない体験は、今でも僕たちの暮らしの中に息づいているような気がします。

僕たちは南島の中心都市クライストチャーチから車で3時間程走ったところにある、メスベンという街に2カ月間暮らしていました。

iStock.com/Joppi
iStock.com/Joppi

メスベンはスキーが有名で冬シーズンは観光客で賑わいますが、反面、シーズンオフはのんびりとした雰囲気が漂う人口1500人弱の小さな街です。夕暮れ時になると山に緩やかに沈む夕陽を眺められる街でした。

そんな街で僕は1カ月間、平日はほぼ毎日3つの保育施設を順にボランティアさせてもらいました。今までの視察とは違いボランティアスタッフとして子どもたちとたくさんの時間を共有でき、肌でニュージーランドの保育を感じることができました。

子どもの興味を「止めない」ニュージーランドの保育

日本の保育所では「保育所保育指針」、幼稚園では「幼稚園教育要領」などがあり、それに基づいて保育環境等を整えています。

一方、ニュージーランドにはナショナルカリキュラムの「テファリキ(Te Whariki)」というものがあります。特にテファリキの中の、観察と記録による子ども理解の方法「ラーニングストーリー」(学びの物語)は近年世界的に関心が高まっています。

iStock.com/master1305
※写真はイメージです(iStock.com/master1305)

テファリキとは先住民の言語・マオリ語で「編んだ敷物」を意味しています。4つの原理と5つの領域を絡み合わせ、子どもを主体的に育てていこうという考え方です。

 

4原理

①  学び成長する力(Empowerment)

②  全体的発達(Holistic Development)

③  家族と地域社会(Family and Community)

④  関係性(Relationships)

 

5領域

①  健康と幸福(Well-being)

②  所属感(Belonging)

③  貢献(Contribution)

④  コミュニケーション(Communication)

⑤  探求(Exploration)

 

僕がボランティアスタッフとして通っていた3つの保育所に共通していた大きなポイントは、子どもの意欲や興味関心に重きを置いていたことでした。

たとえば保護者主体の保育施設「PlayCenter」では0~3歳の子が通園しており、みんな毎日自由に遊んでいます。保育者や保護者は事前に遊び(設定保育)をしていますが、それを集団で行うわけではなく、個々の興味関心を大切にしながら臨機応変に保育をしていました。

雄大な自然に囲まれた場所で、ある日は室内で絵具を使った描画、またある日はシャボン玉や粘土遊びなど、それぞれ個人個人が興味のあるもので自由に過ごすだけでなく、こうした子ども一人ひとりの自由な時間には“禁止事項”があまりありませんでした。

※写真はイメージです(iStock.com/StockPlanets)
※写真はイメージです(iStock.com/StockPlanets)

特におどろいたのは、施設にある木工コーナーでの出来事でした。あるとき、2〜3歳の子どもがトンカチなどの工具を持って遊んでいたのです。

僕は一瞬「危ない!」とヒヤッとしましたが、他の保育者たちは「ダメ」「危ない」と声をかけることもなく、ただ優しく見守っていました。

他の園での体験を通して見ても、基本的には子どもの動きを止めたり、やめさせたりする場面に出会うことは少なかったです。また、2歳児の男の子が収穫したくるみの殻を30分以上も夢中になってトンカチで割る姿にも出会い、興味のあることはとことん追究できる環境なのだなと感じました。

※写真はイメージです(iStock.com/Imgorthand)
※写真はイメージです(iStock.com/Imgorthand)

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個を尊重するだけでなく集団で過ごすことも大切にする

旅に出る前、日本の保育は「個人が尊重されていない」「自主性が置き去りになっている」と感じていた僕は、この旅で「世界には個を大切に子育てしている場がたくさんある」と知り勇気をもらいました。

さらに個を大切にするだけではなく、集団の中で過ごすことの大切さも、海外の保育では配慮されています。個の意見を尊重しつつも他者の意見を聞き、それも踏まえてどうしていくのかを考えさせようとしているように感じました。

※写真はイメージです(iStock.com/kali9)
※写真はイメージです(iStock.com/kali9)

近年、日本の保育現場でも、子どもの「興味関心」や「いま」を大切にし、そこから保育を発展させ、子ども同士、そして子どもと大人が共に対話しながら一つの目的に向かってそれぞれの力を出し合える保育をしている現場が増えてきています。

子どもはさまざまなものに興味や関心を持ちます。

それは大人にとって考えられないものや驚かされるもの、ときには眉間にシワを寄せてしまうことにも夢中になるものです。滑り台を何度も何度も登っては下りたり、少し高くなっている道をあえて歩こうとしたり……。

保育園から帰ってきた子どものポケットを覗いてみてください。石ころや葉っぱ、虫、はたまた落ちていたゴミも大切そうにしまっています。

※写真はイメージです(iStock.com/Hakase_)
※写真はイメージです(iStock.com/Hakase_)

子ども自身も「成長したい」と感じている

こんなにも、子どもがさまざまなことに興味を持つのはなぜでしょうか?僕は「生きているから」だと思っています。

子どももひとりの人間であり動物です。無意識的に生きたいと思っています。そして成長したい、さまざまなことを吸収してより良く生きたいと本能的に感じているのではないでしょうか。

大人から見たらたわいもない子どもの行動も、実は彼ら彼女らにとっては「ただ遊んでいる」のではなく、無意識的に「成長したい」と感じて、いろんなことにチャレンジしてるのです。

日々、挑戦し、探検し、失敗しても諦めずに乗り越えていこうとしているのです。子どもの遊びを「挑戦しているんだ」「きっと成長するための練習なんだ」と思うと、僕ら大人の視点も和らぎ、彼らに託そうと思えてきませんか?

子どものそばにいる僕らは彼らを見守り、時に伝え、手伝い、共に悩んであげましょう。それが子どもの自己決定力を育み、自己肯定感を伸ばしていくひとつの経験になると思います。

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久保田修平

久保田修平

保育士・共育者 東京都大田区出身。私立保育園に7年間勤務後、夫婦で600日間25カ国の世界一周に出かける。「世界の子育て、保育を知る旅」をテーマに掲げ、保育教育施設の視察・海外在住日本人保護者へのインタビューを実施。帰国後、保育現場に戻ると同時に、団体「aurora journey -保育の世界を旅してみよう-」を発足。「保育者の専門性が高まることで、社会がより良くなる」を理念に、講演会・研究会・動画配信を精力的に行なっている。2019年には待望の書籍を発売。昨年9月19日《新しいカタチの保育・子育てフェス》「第1回えどぴフォーラム」を開催。現在、3歳児担当。

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