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子どもの「イヤだ」「死にたい」は本心ではない?言葉の裏にある心理を精神科看護師・こど看が解説
育児や教育、夫婦関係にまつわる話題の最新書籍をKIDSNA STYLE編集部がピックアップする企画。今回は、『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』(KADOKAWA)をご紹介します。「児童精神科の病棟看護師」として、児童精神科に入院する子どもたちと長年接してきた著者が、「壊れやすい子どもの心を守る。さらには親の心も守る」をテーマにした一冊です。前編の今回は、大人が理解しにくい子どもの心理を解説した部分を抜粋してご紹介します。
子どもが話を聞かないとき、大人も子どもの話を聞いていない
子どもに対して「ぜんぜん話を聞いてくれない!」とイライラしたことはありませんか? この「話を聞いてくれない」状況ですが、実は子どもも同じように大人に対して「話を聞いてくれない」と思っていることが結構多いのです。
なぜこのような状況が発生しているのかというと、「子どもも大人もお互いに話したいことだけを話し、聞きたいことだけを聞いている」からです。そして、この状況が続くと、「話を聞いてもらう」という元々の目的が達成できないどころか、相手への怒りや不満が強くなってしまい、「話を聞かない相手が悪い」と、相手を責める結果になってしまいます。
このような状況を打破するために、私は「子どもの話を先に聞くこと」を提案します。これは子どもに対して「話を聞いてくれない」と感じたときに、一度立ち止まって「子どもの話を聞く側に回る」という方法です。この方法のよい点としては、子どもの話を先に聞くことになるので、「自分のことをわかろうとしてくれている」という姿勢が子どもに自然と伝わることです。
これは一種の「引き」の対応で、互いに冷静さを欠いている状態では非常に有効なコミュニケーションだといえます。しかし、この「引き」の対応は、場の雰囲気を読み、自分の感情をコントロールして行動しなければならないため、子どもからすればなかなかにレベルの高い対応になります。だからこそ、子どもよりも経験豊富な大人が、先に「引く」対応をしてほしいのです。
お互いが「聞いてくれない」と思っているということは、大人にも子どもにも、伝えたいことはあるということでもあります。これは互いに理解しあえるチャンスだとも言えます。
子どもがよく使う言葉は「多義語」かもしれない
私が新人だった頃、とある子ども(C君とします)の言動に困っていました。
当時小学生だったC君は毎日病院内の学校に出席していましたが、ある日突然休むようになりました。授業のじかんになってもベッドから出てこず、登校の時間であることを告げる看護師に「イヤだ」とだけ言って布団に潜ってしまいます。さらに困ったことに、「休んでもいいんだよ」と看護師から提案しても、同じようにC君は「イヤだ」と答えるのです。正直な話、C君の「イヤだ」に対して「どっちなのよ!」と苛立っていました。
翌日、何気なく「学校ってめんどくさいよね」とC君に話しかけてみました。すると、C君は目を見開いて「そうだよ! マジでめんどくさい!」と、こちらが驚くほどの大きな反応を示したのです。そこから話をさらに聞いていくと、浮かび上がってきたのは、C君が抱えていた宿題に対する不安でした。C君は前日に宿題をするのを忘れてしまい、登校直前になってそれを思い出したそうです。
「先生になんて言われるのか怖い」「どうしたらいいんだろう」「宿題をやれなかった自分にイライラする」
こんな気持ちが集約されての「イヤだ」だったのです。
C君が発した「イヤだ」もそうですが、子どもが発する「イヤだ」には、私たち大人が想像するよりももっと多くの意味が含まれています。
子どもからの言葉を言葉通りに捉えるだけでは、子どもが本当は何を感じ、何に困っているのかが見えなくなります。子どもの語彙はまだ少ないですが、大人と同じようにさまざまな感情を持っていることも、またたしかなのです。
実際に子どもから「イヤだ」を連発されたら、聞いたほうはよい気持ちはしないですが、その子はあなたに「イヤだ」と言えていることを忘れてはいけません。「イヤだ」と言えたことを認めた上で、「イライラしているように見えるんだけど、何か困っていることがあったりする?」と、その子の気持ちを代弁する形で言い換えてみるのもよいと思います。
今の例で出てきた「イヤだ」以外でも、私は子どもから何度も発される言葉は多義語(複数の意味を持つ言葉)である可能性が高いと思っています。
上の画像は、私が児童看護科の看護師として子どもたちからよく聞いてきた、「イヤだ」「めんどくさい」「もういい」「死にたい」という4つの言葉の裏にある気持ちを表にしてみました。それぞれの言葉の裏には、正反対の気持ちや、SOS、困りごとなどが隠れていることがおわかりいただけると思います。
これらはほんの一部ですので、表に載っていない気持ちを持っていることもあるということを、忘れないでもらえたらと思います。大切なのは、この表の中から子どもの気持ちを探るのではなく、この表の中にあるような気持ちを子どもが抱えているかもしれないという思いを持ちながら、子どもの言葉の裏にある気持ちを一緒に考えることです。その作業を通して、子どもが自分の感情に気づけるかかわりが大切だと思います。