天才化学者をうんだ子育て「宿題は二の次で興味をやりこむ」【現役東大生 村木風海】

天才化学者をうんだ子育て「宿題は二の次で興味をやりこむ」【現役東大生 村木風海】

人類初の火星移住者になることが目標であり、その道のりで地球温暖化の解決にも挑んでいる村木風海さん。小学生の頃から研究を始めた二酸化炭素でさまざまな問題は解決でき、未来の地球はワクワクするものだと彼は言う。バイタリティ溢れる現役東大生化学者は、どのようなルーツを持つのか。その背景を紐解いていく。

前回は、地球環境問題の現状と、それを解決するために村木風海さん率いるCRRAが日々行っている研究について分かりやすく紹介いただきました。インタビューを通して、どうしたらこんなに前向きに自分を貫くことができるのだろうと、強く感じました。

今回は、村木さんが現在の活動を始めた経緯と、どのような子育てをしたら村木さんのようなバイタリティ溢れる人間が育つのだろうか、という疑問について話を聞きました。

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白衣とキテレツ大百科のサンバイザーを鎧にした子ども時代

ーー村木さんは小学校4年生のときにおじいさまがプレゼントしてくれた、スティーヴン・ホーキングの『宇宙への秘密の鍵』がきっかけで、人類で始めて火星に行くことを決意したんですよね。そして、火星を研究しているうちに二酸化炭素の可能性に気づき、地球温暖化を止めることもできると気付いた。

村木さんのような行動力や発想力のある人はなかなかいないと思いますし、そもそも火星に行こうと思うバイタリティがすごいですよね……。元々アクティブな子どもだったんですか?

村木風海さん(以下、村木さん):いえ、僕は元々すごく引っ込み思案で、ひ弱な子どもだったんです。家の廊下には図書館のようにびっしりと絵本があったので、引きこもって本ばかり読んでいましたね。祖父はそんな僕を自然で遊ばせようと外に連れ出してくれたり、一緒に工作をしたり、たくさんの影響を与えてくれました。

7歳の頃の村木さん
7歳の頃の村木さん

ーーおとなしい子ども時代だったんですね。今の情熱的な村木さんからすると、正直意外です。ご家族の教育方針はどのようなものでしたか?

村木さん:僕がやりたいと言ったことは、なんでも応援してくれました。小学校低学年の頃にはキテレツ大百科に憧れて、色々なものを発明したり、なにかを作ったりすることが好きでした。その様子を見ていた母は、キテレツがつけているような黄色いサンバイザーを買ってきてくれて、祖母は白衣をプレゼントしてくれました。

いま僕は研究者として白衣をいつも着ているのですが、祖母がプレゼントしてくれた小学生時代から、白衣がずっと自分のスタイルなんです。小さい頃は自分に自信がなかったし、いじめられることもあったのですが、白衣を着ていると鎧を身につけているような気持ちで。

白衣さえ着ていたら自分の創造性を爆発させられる気がしていました。家族は、「変だ」とか「やめなさい」などと言うこともなく、「あなたの人生なんだから好きなことを好きなだけしなさい」とずっと言い続けてくれたので、思い返してみてもありがたいですね。

ーーとても素敵なご家族ですね!親が子どものことをひとりの人間として尊重することは、大事だと分かってはいてもなかなか難しかったりします。村木さんが挑戦をし続ける心の支えなのかもしれませんね。

小さい頃から白衣を着て活動していたとのことですが、どのような研究をしていたんですか?

村木さん:かなり小さい頃から研究を趣味にしていましたが、本格的に始めたのは小学4年生のときです。テーマは「火星を住めるようにするには」で一年間研究に取り組み発表しました。火星は大気の96%が二酸化炭素なので、二酸化炭素を吸い取るにはどうしたらよいのかを考え始め、今でもずっと二酸化炭素の研究を続けています。

小学5年生の頃の村木さん
小学5年生の頃の村木さん

村木さん:5年生では「水中に住むには」をテーマに、水中で翼を制御する方法などを研究し、潜水艦と家を合わせたような技術を発表しました。6年生の頃は、宇宙エレベーターの研究。実際に動くエレベーター模型を作って発表した記憶もあります。

中学1年生では気象学にはまり、気象予報士の勉強をしました。そして、中学2年の頃に地球温暖化の専門書に出会って、「あれ、自分が火星に行くためにやっていた二酸化炭素の研究で地球温暖化も止められるかも」と気付いた経緯があります。

人類で初めて火星に行くという目標を達成したら、みんな「すごい!!」と喜んでくれると思うけれど、そのみんながいる星があと少しで滅びると分かっていたらそれって虚しいと思って。だからまずは地球を守ってから、火星に行くと決意したんです。

ーーなるほど。そのような経緯で「地球を守り、火星を拓く」というCRRAのミッションができたんですね。

先ほど素敵なご家族のお話を教えてもらいましたが、外の世界に出ると厳しいこともたくさんあったのではないですか?

村木さん:はい、もちろん理解してくれる大人ばかりではなかったですね。僕の二酸化炭素の研究は今まで誰もやってこなかった分野だったので、中学・高校時代は、研究者の世界ではひたすら否定ばかりされてきました。先生から許可を得ないと実験のための試薬を使うこともできないので、味方になってくれる人がいない環境は辛かったです。

でも、先生に使わせてもらえなかった試薬をどうにかゲットして実験を強行したら、いい結果が出たことが立て続けにあって。そこからは否定されればされるほど、「これはうまくいくんだ!」と思い込むことにしたんです。

※写真はイメージ(iStock.com/urbancow)
※写真はイメージ(iStock.com/urbancow)

村木さん:今でも学会に参加すると袋叩きに合うことも多いのですが、「必ずうまくいく」と思い込む力と、あとは実績や伝える力などの武器をどんどん増やしてきて、なんとか武装してやっています。中身は今でも変わっていなくて、メンタルは絹ごし豆腐くらい弱いのですが(笑)、経験や自信を固い鎧にしていけば、中身は“お豆腐メンタル”のままでもいいんじゃないかなと思っています。

ーー生まれつきポジティブな人なのかと思っていました……!

村木さん:真逆ですね。でも、思い込むことを続けるうちに、自分の内面が変わることってあると思います。僕も今では基本的にかなりポジティブになったし、嫌なことがあっても美味しいもの食べて寝たら忘れられますね。

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すべての興味に全力で臨むこと

ーー前回は、二酸化炭素の無限の可能性について語ってくれましたが、村木さんの興味は二酸化炭素ひとすじなんですか?

村木さん:いえ、僕は好奇心がものすごく強いタイプで、あちこちに興味が向いています。小学4年生のときに火星に住むことを決めて、そのために研究を始めた二酸化炭素に魅せられて、そこからは二酸化炭素がなによりも好きなのは事実です。

著書『火星に住むつもりです ~二酸化炭素が地球を救う』(光文社)から抜粋
著書『火星に住むつもりです ~二酸化炭素が地球を救う』(光文社)から抜粋

村木さん:でもそれだけではなく、今までの人生では空手、ピアノ、水泳、ゴルフ、合気道、弓道、演劇、動画編集、ゲーム実況、映画制作、バドミントン、船の操縦、飛行機の操縦・・・などあげるときりがないくらい色々なことに夢中になって、その都度全力でハマってきました。

高校では化学部に入っていましたが、当時は真面目に研究をするだけではなく、ちょっとやんちゃもしました。今でもよく覚えているのは僕の化学の恩師である、ちょっとアウトローな顧問の先生と一緒に掲げていた「月イチ爆発」という目標です(笑)。偉人の像がある校舎のロータリーでよく爆発実験をしていたんです。あまりに研究を批判されることが多かったので、ちょっとだけグレた気持ちがあったのかもしれません(笑)。

ただ、化学者として「爆発」を学んだことが、今すごく活かされていて。どういう条件だと爆発するのか、ギリギリしないのか、そのラインを知ることが安全につながるんです。高校の化学部では認めてもらえず悔しい思いもしたし、悪ふざけもしていたけれど、全てが今につながっていると感じています。

ーー無駄なことはなかったということですね。将来の夢は、ずっと変わらずに火星移住ですか?

村木さん:はい、それはそうなのですが、職業としては飛行機が大好きなのでパイロットになるつもりでした。でも、あるときふと「飛行機は二酸化炭素を大量に排出するよな……。」と気付いてしまって。そこで、自分はパイロットだけではなく化学者にもなって環境問題も解決する「空飛ぶ化学者」になろうと決意したのです。

二酸化炭素の素晴らしさを研究者の立場から伝えるだけではなく、さまざまな立場や角度から伝えることで、より彩り豊かな情報を、広く届けられると思っています。

僕は元々飛行機や乗り物に興味があったからこそ、より二酸化炭素への興味が強くなったんです。さまざまなことに興味を持ってひとつひとつに全力で取り組んでみることって、本当に無駄なことではないんだなと実感します。

※写真はイメージ(iStock.com/sharply_done)
※写真はイメージ(iStock.com/sharply_done)

好きなこと×好きなことで唯一無二な存在に

ーー村木さんのお話を聞いていると、好きなことは全部やったらいいし、将来の夢だってひとつに絞る必要もないんだなと感じました。

とはいえ、好きなことを仕事にすることってなかなかできることではないし、自分で諦めたりブレーキをかけちゃう人も少なくないと思います。どうしたら村木さんのように、興味に向かって突き進むことができると思いますか?

村木さん:まずは、常軌を逸したレベルで好きなことをやりこむことが大事だと思います。いつか僕が親になったら、たとえば夏休みには「宿題しなさい」と言うのではなくて「宿題なんて人生の中では些細なことでそんなに大事ではないから、その代わり好きなことをとことんやりこみなさい。もしどうしても宿題をやらなきゃいけないのなら、最後の日にまとめてやってもいい。」と言ってあげたいです。

夏休みの数週間、ご飯食べるときと寝るとき以外は好きなことだけをずっとやってみたら、なにか見えてくることがあるはずです。好きなことが見つからないという人も多いかもしれませんが、「やっていて心地いい」とか「気付いたらこれをやっている時間が多い」ということを見つけて、まずはそれを徹底的にやってみたらいいと思います。「このゲームのこのステージだけは世界で一番上手です」というくらいニッチな分野でも全然いいので。

もし「やっぱり違うな」と思ったり三日坊主になったとしても、それが違うと分かったことには意味があります。なにもしないよりは、ずっと得られることがあるんじゃないかなと思います。

※写真はイメージ(iStock.com/Phynart Studio)
※写真はイメージ(iStock.com/Phynart Studio)

村木さん:あとは、自分が「どうやったら世界一になれるのかな」と考えたときに、かけ算をすることは大事だと思っていて。僕の場合は、化学者もパイロットも船乗りもたくさんいるけど、化学者かつパイロットかつ船乗りの人っておそらくいないはず。好きなことを徹底的にやりながらそれをかけ算していくと、自然と唯一無二の存在になれるのではないでしょうか。

ーーたしかに唯一無二ですよね!これからの未来を共に生きる子どもたちになにかメッセージはありますか?

村木さん:中学・高校くらいになってくると、好きなことがだんだん分からなくなったり、辛いことがあって自分を見失ってしまうことがあるかもしれません。でも、自分の人生は自分だけのものだから、人生の舵は自分で取らないといけないんですよね。

なにか迷うことがあったら、僕の小学校時代の恩師の言葉ですが、「Find your compass, set your sails(自分の羅針盤を見つけろ、そして帆を張り風を受けろ)」という言葉を思い出してほしいです。自分の信念や道筋を見つけて、あとは追い風をちゃんとつかまえる。

いつ何が起こるか分からないからこそ、今日やりたいと思ったことは全部やるつもりで、全力で人生を楽しんでほしいなと思います!

あと、お父さんやお母さんは、子どもが何歳であってもひとりの人間として対等に見てあげてほしいです。僕は幼稚園のころに朝、冬景色を見て深いため息をつきながら「人生ってなんだろう」と思った瞬間のことをよく覚えているんです(笑)。子どもって言葉には表すことができなくても、意外と深いことを考えていたりもしますよね。

大人からぞんざいな扱いを受けると、好きなことを自信を持ってやれなくなることもあります。しっかりとひとりの人間として扱ってもらえるからこそ、自分の興味に突き進んでいくことができると思います。

※写真はイメージ(iStock.com/Georgijevic)
※写真はイメージ(iStock.com/Georgijevic)

ーー村木さん、ありがとうございました!

■編集後記

村木さんのお話を聞くと、幼少の頃からひとりの人間として対等に扱ってもらったこと、どんなときでも絶対に味方でいてくれるというご家族の存在が、あふれんばかりの好奇心やバイタリティにつながっていることを実感しました。

子どもの好きなことがなかなか見つからないという親子にとっても、「気付いたらこれをやっている時間が多い」ことを一度全力で取り組んでみることが次につながる、という村木さんの言葉はヒントになるのではないでしょうか。

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Profile

村木 風海

村木 風海

化学者・発明家。 専門はCO2直接空気回収(DAC)、CO2からの燃料・化成品合成。 地球温暖化解決と火星移住を実現すべくCRRAで独立した研究開発を行っている。 2021年より内閣府ムーンショットアンバサダーに就任。また、同年よりポーラ化成工業(株)フロンティアリサーチセンター特別研究員、(株)Happy Quality科学技術顧問、トーセイ・アセット・アドバイザーズ(株)科学技術顧問を兼任。 代表的な発明にCO2回収装置「ひやっしー」などがある。2000年生まれ。

2023.02.22

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