親子で楽しむフィールドワーク「自然遊びをプロジェクト化する」図鑑コレクターの子育て提案

親子で楽しむフィールドワーク「自然遊びをプロジェクト化する」図鑑コレクターの子育て提案

2024.01.05

子どもと散歩中に「植物」について聞かれた時、どれくらい答えられるでしょう? 子どもに植物や自然についての知見を深めてほしいと思った時に、保護者が真っ先にできることは何なのか。植物図鑑の監修を行なう千葉県立中央博物館 主任上席研究員の斎木健一先生に聞きました。

前回は、図鑑の魅力や歴史についてお聞きしましたが、ここからは植物図鑑監修者である斎木先生に、親子で楽しみながら植物に触れ合うためのアイディアや、フィールドワークと図鑑の上手な活用方法について聞いていきます。

【わかることはおもしろい】図鑑コレクター・斎木健一に聞く図鑑の世界

【わかることはおもしろい】図鑑コレクター・斎木健一に聞く図鑑の世界

斎木 健一さんの写真
斎木 健一(さいき・けんいち)/1962年、神奈川県生まれ。千葉県立中央博物館 生態学・環境研究科 主任上席研究員。専門分野は古植物学・植物学・理科教育。所有する図鑑は2000冊以上。TBS系テレビ番組『マツコの知らない世界』では、“図鑑の世界”の案内人を務めるなど、メディアにも多数出演。『講談社の動く図鑑 MOVE 植物』(講談社)の監修なども担当している。

植物を知れば普段の散歩で感動できる

――植物についてあまり知識がなくても日常生活で困ることは少ないと思うのですが、知ることで人生が豊かになることは想像できます。

知らないとなかなか感動することはできませんが、知っているからこそ植物一つとっても、いろいろな感動ができるんですよね。

たとえば、道を歩いていてみすぼらしい神社があったとしましょう。その神社が実は戦国時代の武将に縁のある歴史的に価値のある神社だとしたら、見え方が違ってくるのではないでしょうか?

植物もそれと同じで「この街路樹が植わっているということは、この虫がよく来るぞ。ということは、あの鳥が虫を食べに飛んでくるな」と連想することができる。それを目の当たりにすれば感動につながります。

街路樹のイメージ写真
※写真はイメージ(iStock.com/t_kimura)

――植物を知れば普段の散歩の解像度が高まりそうです。斎木先生は植物のどういった点をおもしろいと感じるのでしょう?

植物のよいところは動かないところですね。季節変化や成長がよく見えます。

たとえば鳥の一生を観察しようと思っても、南の島で繁殖したり、飛び回ったりする鳥を追い続けるのは難しい。植物は「そろそろ芽が出る頃かな」と注意していれば観察できますから。

観察会は親の観察眼を磨く場

――子どもにとっても身近な植物は観察しやすいですね。子育てに図鑑を取り入れる方法はありますか。

実感としておわかりいただけると思いますが、植物に興味関心を示す子どもはほとんどいません(笑)。博物館主催の昆虫の観察会は、学芸員が黙っていても子どもたちは興奮して虫を探しますが、植物の観察会では全くそういうことがない。

植物の観察会に来る子どもは親が連れてくることが多いですね。そこで大事なのは、まず親が楽しむこと。親が楽しめないのに、子どもには楽しめと無理強いするなんて詐欺じゃないですか。

斎木健一さんがほほ笑む写真
 

――植物の観察会はどのように行われているのでしょうか。

子どもを連れてポイントを回る時は、植物だけでなくいろいろなものを紹介します。動かない植物は必ず紹介し、鳥や昆虫はその場にいれば学芸員が解説します。

子どもたちと出かける時に大切にしているのは五感です。たとえば、サンショウのトゲを触ってみて、本当に痛いか確認したり、葉をちぎって「匂いをかいでごらん」と言ってみたりする。そうすると「ウナギの上にかかってるやつの匂いがする!」といった発見があるわけです。

サンショウの写真
※写真はイメージ(iStock.com/igaguri_1)

観察会を通して、保護者が子どもへの興味の持たせ方を理解すれば、次は保護者が発案者となってフィールドワークを行うこともできますよね。

博物館の観察会は「自然を知る」という意味で非常によい機会だと思うので、ぜひ地元の博物館の植物観察会に参加してもらえればと思います。

目的を決め、自然遊びをプロジェクト化する

――自然観察のフィールドワークを行うとしたら、どのような場所がよいのですか?

地図アプリの航空写真で探すのがおすすめです。

パソコンで地図アプリを開く写真
 

たとえば、曲線を描いている田んぼは耕地整理されていないサインです。横に流れている小川から水を引いているため、ここには生き物がいる可能性が高い。

一方で、耕地整理されている真四角な田んぼの下には配管が通っていて、蛇口をひねって田んぼに水を引きます。そのため、収穫の終わった冬には田んぼの水がなくなります。水のない時期があると、そこには川の生物は生息できないのです。

田んぼの写真
※写真はイメージ(iStock.com/blew_i)

それからストリートビューもいいですよ。息子と一緒にライトトラップ(白い幕に光を当て夜間に集まる昆虫の習性を利用して採集する方法)を仕掛ける時は、これで探しています。

――マップやストリートビューを活用すれば、家の近くでも自然観察できる場所を探せそうです。フィールドワークの際に注意すべきことはありますか。

ケガをしないことは大前提として、田んぼも森も基本的には誰かの物です。子連れで虫取りをして叱られることはほとんどないと思いますが、何か言われたら、気づかないうちに迷惑を掛けているのですから、謝って引き返した方がよいでしょう。

それから、何のために行くのか目的をはっきりさせてからフィールドに出ることも大切です。子どもは採集が大好きなので、地元の方と一緒であれば山菜取りもよいでしょう。魚釣りや虫取りも子どもは興奮するものです。

虫をつかまえる男の子の写真
※写真はイメージ(iStock.com/somethingway)

魚と違って虫のよいところは家で飼育しやすい点。生き物の飼育図鑑などもあるので、それを見ながら飼育の準備をしてから捕まえに行くとよいでしょう。

何かを捕まえに行くというのは一つのプロジェクト。保護者自身が楽しみながら、子どもを巻き込んで計画を立て、自然観察をプロジェクト化すると子どもも楽しめると思います。

――フィールドワークの持ち物として、図鑑を持って行ってもよいのでしょうか。

フィールドワークで図鑑を開いている暇はありませんから、写真で記録するのがベストでしょう。家に帰ってからゆっくり写真と図鑑を照合するのがおすすめです。

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子どもを楽しませるよりも親が楽しむことが先決

――植物と日常生活を紐づけるには、フィールドワーク以外にも何か方法はありますか。

食材図鑑がおすすめです。

たとえば、トマトは南米のアンデス山脈が原産地で、16世紀にヨーロッパに伝えられましたが当時のトマトは観賞用だったそうです。18世紀になり南欧で食用として利用されるようになりはじめ、19世紀になってから露地栽培の方法が伝わり食用として広まることになった。つまり、それまでのイタリア料理にはトマトがなかったということです。

トマトの写真
※写真はイメージ(iStock.com/Denisfilm)

……と、食材図鑑にはこういったことが書いてあります。まずは保護者が読んで楽しみ、子どもに「こんなふうにできてるんだよ」と教えれば、親子で一緒に楽しむことができます。

魚や野菜の図鑑もあるので、ぜひ大人の方から楽しんで読んでみてください。

――毎日の食事で図鑑に親しむチャンスがあったのですね。未就学児が植物を身近に感じるアイディアには、他にどんなものがありますか?

栽培図鑑もたくさんあるので、家庭で野菜や果物を育ててみることもおすすめです。

うちではひょうたんを育てました。ひょうたんは地植えでなければ、すごく大きなケースが必要なのですが、そういったことも図鑑で調べ、あえて子どもの前で作業をするんです。楽しんでいる姿を見せると「僕もやりたい!」と自然と興味関心を持つようになります。

今はスマホやゲームなどでいくらでも遊べてしまいますが、子どもは暇だとちょっとしたことにも楽しさを見つけます。

植物を育てる親子の写真
※写真はイメージ(iStock.com/ArtMarie)

――まだデジタルの遊びが本格する前の未就学児なら、デジタル以外の遊びに興味を持ちやすいかもしれません。

繰り返しになりますが、親子で触れ合うとしたらまずは親が先に楽しさを見つけることが大事です。親がなかなか楽しめないものを子どもに楽しませようとするのは無理強いになってしまいますから。

「自然は楽しい」という感覚が育めれば充分

――今でも息子さんと虫取りをするというお話がありましたが、斎木先生ご自身が虫取りを楽しんでいるということですよね。斎木先生の子育てについてもお聞きしたいです。

三男は、20歳になった今でも一緒に虫取りをできるように育てました(笑)。

子どもの頃から、藪や泥の中にもどんどん入って行って、どんな虫でも捕まえては「おもしろいね」と話したり実際に飼育してみたり。夏休みの自由研究こそ、まさに親子で楽しんでいました。

虫を見て驚く子どもの写真
※写真はイメージ(iStock.com/kohei_hara)

――「親子で楽しむ」ことを体現されていたと。

だからこそ無理強いはしませんでした。長男は中学生の頃にすっかりコンピューターにはまったので、私の古いパソコンを「分解していいよ」と渡したことも。

私の好きな自然について何か学んでほしいと思ったとして、チャンスは与えても無理強いはしない。

――無理強いになると、楽しいものも楽しくなくなってしまいそうです。

子どもが大人になって子育てするときに、たとえばカエルやバッタに触ることができるという程度でいいんですよ。特別な知識も必要ありません。

ただ、子どもの頃の自然の中での体験が「楽しかったな」という感覚が残っていれば、それで充分です。

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