実はドイツよりも、フランスよりも"優秀"だった…「日本人の生産性は先進国最低」という思い込みの真実
勤勉な日本人の努力は、実を結んでいる
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「日本人の生産性は低い」とメディアなどで耳にするが、本当にそうなのか。第一生命経済研究所主任エコノミストの藤代宏一さんは「数字としては正しいが、だからといって日本が劣っていると結論付けるのは早計だ。計算方法は国ごとにゆがみがあり、中には実態として反映されていない要素もある」という――。 ※本稿は、藤代宏一『株高不況』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
「労働生産性」は“単純な割り算”で出される
この記事では「賃上げ」とセットで語られることの多い「労働生産性」について議論していきます。論点は二つあります。
一つは、そもそも労働生産性が何であるか。もう一つは労働生産性の「水準」と「伸び率」のどちらに着目すべきか、という点です。
筆者は講演会などで「ところで労働生産性はどのように計算されているのですか?」といった質問をよく頂戴します。日常的に「日本の労働生産性は低い」などといった議論はよく見聞きするものの、その定義は意外と知られていない印象です。
答えは「GDP÷就業者数」、もしくは「GDP÷総労働時間」という単純な割り算に過ぎません。さぞ複雑な計算式を想像していた方も多いかもしれませんが、意外と大雑把なものです。分子は稼ぎ、分母は労働量ですから、どれだけ効率的に付加価値を生み出したかを大まかに把握するためのものです。
日本では、労働生産性の国際比較が注目されます。議論を正しい方向に進めるには、データの解釈が前提となりますので、国際比較する際の注意点を以下にお示しします。
“どこまでをGDPに計上するか”は幅がある
分子であるGDPは、世界共通の作成方法が定められているとはいえ、各国に固有の事情があります。一般的に金融、IT業の付加価値は高くなる傾向にあります。莫大な設備投資を必要としない上、少ない人手で収益を上げられるからです。
また時代の経過とともにGDPの作成が複雑化していることを踏まえる必要もあります。
IT化が進む以前の世界では、製造業が中心であったため、たとえば自動車や家電がどれだけ作られ、どの段階で付加価値が生まれたかを計測することは比較的容易でした。一方、経済活動が複雑化した現在において、どこまでをGDPに計上するかは、業種や取引形態によって大きな幅があります。特にサービス業ではGDPの作成が難しいという事情があります。
たとえば日本では、フリマアプリを通じたCtoC取引をどう計上するかという問題があります。GDPは国内総「生産」なので、中古品から生み出された付加価値を捕捉するのが苦手です。同様に民泊など近年一般化しつつあるシェアリングエコノミーをうまく反映できていない点も重要です。