日本の本音は核軍縮ではなく、米国の核兵器依存…政府が存在をひた隠す「4枚の極秘メモ」の内容
「核兵器のない世界」を掲げた岸田文雄に見た言行不一致
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2009年10月、アメリカのオバマ大統領がノーベル平和賞受賞者に決まった。朝日新聞編集委員の藤田直央さんは「核廃絶を目指すオバマ大統領に対して、日本はむしろ核兵器の重要性を訴えていた」という――。(第3回/全3回) ※本稿は、藤田直央『極秘文書が明かす戦後日本外交 歴代首相の政治決断に迫る』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
戦争被爆国日本がオバマに訴えた「核兵器の必要性」
日米同盟について、歴代首相は「外交・安全保障政策の基軸」(石破茂の2025年1月の国会での施政方針演説)と言い続けてきた。
だが、唯一の戦争被爆国としての国民感情に根ざす非核政策と、米国の核の傘に頼る防衛政策のジレンマは、日本外交に関する政府の説明能力を著しく弱め、国民を欺く数々の密約を生んだ。
そうした懸案を克服する手がかりが、まず懸案を国民が共有するための外交文書の保存と開示だ。しかし近年にも、存在するかどうかについてすら日本政府がノーコメントを貫く、核の傘をめぐる非公開の場での日米協議に関する文書がある。
米国で“a world without nuclear weapons”(核兵器のない世界)を唱えるオバマが大統領に就任して間もない2009年2月、日本政府が米国に対し、核兵器がいかに必要かを詳細に訴えていたことを示す4枚のメモだ。
その年の1月、自民党政権の首相・麻生太郎は施政方針演説で、「オバマ大統領とともに、核軍縮・不拡散といった地球規模の課題に連携して取り組む」と述べている。10月にはオバマは「核兵器のない世界」を目指す姿勢を評価され、ノーベル平和賞に決まった。
沈黙を貫く日本政府
麻生は同じ演説で「日米同盟を基軸」「さらに強化」と語っており、同盟の根幹である核の傘を意識して「核兵器のない世界」への留保も示していたと言えなくもない。しかし、核大国米国に核廃絶を率先するという大統領が登場したのだ。歴史の節目を捉え、日本も非核政策を強める方向で長年のジレンマを解こうとする道があったはずだ。
当時、日中間で尖閣諸島問題はまだ先鋭化しておらず、北朝鮮の核兵器開発をめぐる米中ロ日と南北朝鮮による6者協議が途切れてからまだ日は浅かった。「オバマ大統領とともに」東アジアの核軍縮で対話を探ることもできた。
しかし、日本政府は国民に議論を開かずにその道を閉ざしておいて、国民に見えないところで核の傘を保つよう米国に働きかけていた。そしてこのメモの存在が約10年後に報道で明らかになってもノーコメントを貫き、なお国民に議論を開こうとしない。
このメモには、戦後に核兵器をめぐる日米密約を生んだ体質が今なお日本政府に残っていることがあらわなのだ。