1000円のジュースを500円で買った翌日に300円に値下げ…「損をした!」と思う人が忘れている大事なこと

1000円のジュースを500円で買った翌日に300円に値下げ…「損をした!」と思う人が忘れている大事なこと

気づけばお金がどんどんなくなる根本原因

老後2000万円問題が取り沙汰され、新NISAでの投資が国をあげて喧伝されている。しかし、元トレーダーの田内学氏は「投資しただけでは、お金の不安は解消されない。煽られて増幅したお金の不安から解放されるには自分の中に価値基準をもつことが必要だ」という――。 ※本稿は、田内学『お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

価値観を試す「メロンジュース」の問い

中学校や高校でお金の授業をするとき、僕がよく使うクイズがある。

教室のスクリーンにメロンジュースの写真とクイズを映し、「さて、3択クイズです」と言うと、生徒の目が輝く。


【問題】
いつも1000円で売られているメロンジュースがあります。高くて買えなかったのですが、ある日のセールで500円になっていたので、買って飲みました。ところが次の日、そのジュースは300円に値下がりしていました。この買い物で、あなたは得をした? 損をした?
A:500円得をした
B:損も得もしていない
C:200円損をした

「さあ、どれだと思いますか?」

生徒に手を挙げてもらうと、毎回きれいに意見が分かれる。

Aを選んだ生徒は、「1000円のものを500円で買えたから得した!」と自信満々だ。

Bの生徒は冷静に「価値は500円だから損も得もしてない」と答える。

Cの生徒は、悔しそうに「次の日には300円なんだから損した」とつぶやく。

ここで僕は付け加える。

「実はもう一つ、選択肢があります。D『この中に正解はない』という選択肢です。他の答えを思いついた人はいませんか?」

生徒たちは一様に首をかしげる。そこで、後ろで見学する先生や保護者にも問いかける。

「大人のみなさんも遠慮せずにどうぞ」

しばらくの沈黙のあと、あるお母さんが手を挙げた。

「ジュースがまずければ、どんな値段でも損したって後悔しますよね」

その一言に、生徒たちの表情が変わる。「確かに!」と納得する声があちこちで上がった。

値段より味。お金の損得より自分の満足感。

たった一杯のジュースが「価値とは何か」を考えるきっかけになった。

けれど、なぜ私たちは値段や損得ばかりに気を取られるのだろう?

その背景には、私たちを取り巻く社会の構造的な変化がある。

「欲しい」から「買わされる」へ

企業はかつて、「人々が本当に欲しいもの」を作っていた。だが今は、「人々に欲しがらせること」に力を注ぐ。それは、「メロンジュースの問い」にも見える構造だ。企業と消費者の当たり前の関係がすれ違い始めたのは、いつからだろう?

話は、戦後の復興期にさかのぼる。1952年、日本はサンフランシスコ講和条約の発効により独立を回復した。占領期を経て、日本人はアメリカの豊かさに強い憧れを抱いた。

当時の企業は人々が求めるものを作り、消費者もまた、それを素直に手に取った。両者が手を取り合って豊かさを目指す、健全な循環があった。

たとえば、当時のナショナル(現パナソニック)の新聞広告には、「我々の生活はこれでよいか?」という問いかけで始まっている。これは不安を煽あおるためではない。広告の本文からは、「電化による社会生活の向上」をみんなで目指そうとする強い意志が伝わってくる。

「憧れ」に導かれた豊かさ。それが、かつての日本社会だった。

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出典=田内学『お金の不安という幻想』(朝日新聞出版)
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2025.10.18

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