"電気代高騰"でも"治安悪化"でもない…自販機が年間5万台ずつ消えていく理由に「ありがとう」が止まらない
すべては「ワークライフバランスを捨てた」裏方のおかげだった
Profile
街角の自動販売機がジワジワと姿を消している。何が起こっているのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「ライフスタイルの変化、インフレ……色々考えられるが、最大の要因は“担い手不足”だろう。『ワークライフバランスを捨てる』などと言ったら批判が相次ぐ世の中だが、今の仕組みは“作業員の頑張り”に支えられてきた実態がある」という――。
「2050年には半減する」は本当か
街中から飲料の自動販売機がじわじわと姿を消しています。
減り方は本当にじわじわなのですが、ピークだった2013年の247万台から毎年5万台ぐらいのペースで減少し、2024年は204万台にまで減りました。
「このペースで減少すると2050年には100万台まで減る」と言う(※)のですが、本当でしょうか?
※「『酷暑のオアシス』自販機、50年に半減も 飲料に代わるは和牛やケーキ?」(日本経済新聞)
実際はもっと早く減少が進むかもしれません。その背景と理由をお話しします。
自動販売機でよく買われる飲料といえばまず思い浮かぶのが缶コーヒーです。実は缶コーヒーの消費は自動販売機の消滅ペースよりも速く、2013年から約4割減っています。一方でペットボトルのコーヒー飲料やコンビニコーヒーを含めると、外出先で購入するコーヒーの需要はむしろ若干の増加傾向です。
出先で手軽に買えるコーヒーといえば90年代はほぼほぼ缶コーヒーだけでした。2010年代にコンビニコーヒーというライバルが出現して以降、缶コーヒーの比率は頭打ちになりますが、しばらくはそこで持ちこたえていました。
ところが2017年頃から缶コーヒーの需要が急に減り始めます。コンビニコーヒーが完全に主流になったことに加えて、600mlの大きめのペットボトルで販売されるコーヒー飲料がヒット商品になったことが大きいと思います。
「夏の猛暑」が定着して起きたこと
このペットボトルコーヒーは「ちびだら飲み」という言葉が定着したように、仕事中にちょっと飲んではキャップを締めるといった具合で、2~3時間かけて一本のコーヒーを消費するような消費スタイルでヒット商品になりました。
このように消費スタイルが多様化したことで自販機を利用する消費者が減少したというのが、自販機減少のひとつめの理由です。
行動変化という視点では、過去10年、夏の猛暑が定着したことで、ペットボトルや水筒を持ち歩くのがあたりまえの行動スタイルになったことも大きいと感じています。以前は飲み物を持ち歩いていなかったからこそ、ちょっと喉が渇くと自販機で飲料を買っていたのですが、今は外出先で喉が渇くと鞄の中からペットボトルを取り出して一口飲むのが当たり前になっています。
「ライフスタイルが変わったなら、自販機でも600mlのペットボトルコーヒーを売ればいいんじゃないか?」
と思うかもしれません。実際に訊いてみると自販機でも大き目の600mlのコーヒーを取り入れることは物理的には可能だと言います。
ただ自販機を利用する消費者は、飲み切り需要が主流です。
仮に飲み切れないサイズのペットボトルで販売したとして、かつてのタピオカブームのときのように歩道に捨てられるゴミが増えるのは、ボトラーとしては好ましい状況ではないそうです。そのため、自販機は缶で、大きめのペットボトルはコンビニやスーパーでと、販売チャネルを分けて考えている様子です。