NHK大河「べらぼう」では描かれない松平定信の性癖…江戸の女の園・大奥と吉原を徹底的に嫌ったワケ
結果的に自らの墓穴を掘ってしまった
Profile
松平定信とはどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「質素倹約と文武奨励を重視し、幕府再建を狙った。ただ、大奥への異常な締め付けと吉原にまつわる洒落本禁止には、彼の性癖のようなものが見え隠れする」という――。
「女郎買いのガイド本」という傑作
世の中、松平定信(井上祐貴)が号令をかける「倹約」一色に染まり、蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)の「故郷」である吉原は、金を落とすお大尽もいなくなり、厳しい状況に追い込まれていた。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の第37回「地獄に京伝」(9月28日放送)。
そこで蔦重は「吉原を救うためのもんを考えたいんだ」といって、北尾政演、すなわち戯作者の山東京伝(古川雄大)を、「お前、吉原にはさんざん世話になっている身だ。やらねえとはいわねえよな」とけしかけた。
しかし、恋川春町(岡山天音)が、御政道をからかう黄表紙を書いた責任をとって腹を切って間もない。京伝自身、罰金刑になったばかりなので、「けど、お咎め受けるようなのは」と乗り気ではない。
しばらくして、喜多川歌麿(染谷将太)と京伝が蔦重に提案したのは、「女郎買いを指南する洒落本」だった。歌麿はこう説明した。「女郎と客の小話を通して、いい客ってのはこんなだよ、よくねえ客ってのはこんなだってわからせて、いい客を増やす、育てるって考えだ」。
蔦重はピンとこない様子だが、京伝は「歌さんの絵は、ありのままだからおもしれえわけじゃねえですか。小話もそういう具合にしてえなって」。ともかく、書いてみることになった。それは寛政2年(1790)正月、耕書堂から刊行された『傾城買四十八手』として日の目を見た。遊客と女郎の会話を4つの場面に描き分け、遊興における男女の手管や感情を、細かい観察と巧みな写実によってユーモラスに描いた、洒落本(遊里文学)の傑作に仕上がっていた。