こじれた夫婦は歩み寄れるのか…「泥沼の離婚調停」で"子どもを守る"家庭裁判所の揺るぎないルール
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日本では3組中1組が離婚すると言われている。子どもがいれば問題は複雑さを増す。関係がこじれた夫婦は、どのように落としどころを見つけていくのか。『家裁調査官、こころの森を歩く』(日本評論社)の著者で家裁調査官の高島聡子さんに、ライターの佐藤隼秀さんが聞いた――。(前編/全2回)
裁判官でも、弁護士でも、検察官でもない立場
――そもそも家裁調査官とは、どのような職業なのでしょう。裁判官や弁護士とはどう違うのでしょうか。
家裁調査官とは、家庭裁判所に勤務する国家公務員であり、そうした括りで言えば裁判官に近いところにいます。ただ、決定的に異なるのは、家裁調査官は法曹(法律を扱う専門家。裁判官、検察官、弁護士)ではないことです。
裁判所と言われると、裁判官が壇上で判決を言い渡す場面や、弁護士が「勝訴」の紙を掲げている光景が思い浮かぶと思いますが、家裁調査官は法律がベースにありながら、正確に言えば、“法律では白黒つけられない領域”を担当しているのです。
具体的に説明すると、我々が勤務する家裁では、「家事事件」と「少年事件」を扱っています。前者は離婚や面会交流など夫婦や親子といった家族に関わる問題を、後者は20歳未満の少年が起こした犯罪に関する処分を決める手続を扱います。
この両者に共通するのは、単純に理屈や法律で割り切ることができない問題が重要になってくるところです。親権や面会交流が問題となる調停では、両親や子どもの生活状況や心情の把握が不可欠ですし、少年事件であれば少年自身の未熟さから、自分の心情や動機を言語化できない場合も多い。
これらの事案に対して、行動科学の知見を持って向き合うのが家裁調査官です。心理学や社会学、教育学などを中心とした知見を参考にしながら、家族の紛争や少年の問題行動の背景にある心理的要因を探り、最善の解決を導き出す。裁判官よりも現場近くで動くポジションと言えます。
「当事者」と「裁判官」の橋渡し役
――より当事者と深く関わる立場であると。
そうですね。あくまでも判断を下すのは裁判官ですが、その判断材料となる調査報告書を提出するのも家裁調査官の職務です。
家裁調査官は、当事者や少年と裁判官の間を、橋渡しする立場であるとも言えます。調査で見えてきた当事者や少年の状況や心情は、法律の枠組みに当てはめるとどんな主張となり得るのか。あるいは逆に、今行われている手続や、裁判所が考える判断の枠組みを、当事者や少年に分かる表現でどう伝えるか。双方の言葉を翻訳していく仕事とも言えますね。
――離婚や親権、面会交流が問題となる家事事件では、当事者にどのような立場からアプローチをしているのでしょうか。
大前提として、離婚は人生の中で極めて高ストレスなライフイベント(節目となる出来事)です。しかも、転居や転職、子どもの転校といった、同様に高ストレスな出来事も合わせて起きることが多い。加えて、生活の変化に伴って金銭的問題が生じることもありますし、親族や職場の人間関係にも気を遣うなか、関係がこじれた配偶者と一定期間向き合うのはかなり疲弊するだろうと思います。
こうした状況下で、男女ともに取りがちな行動が、相手を非難して自分を正当化することです。特に子どもの親権や、監護権を争う場面ではよく見られる傾向です。妻側であれば、夫の育児への無関心やモラハラ的な言動を非難する。夫側であれば、妻の不貞や家事育児の至らなさを主張して、子どもを任せられないと言い張る。