「日米同盟」を根本的に見直すタイミングが来た…「トランプ関税」が示した日本再興のために本当に必要なこと
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米国のドナルド・トランプ大統領が突如発表した「相互関税」の導入をめぐり、世界的な混乱が生じている。これからの日米関係はどうあるべきか。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「トランプ政権は、貿易、通貨、安保、産業、テクノロジーで米国が他国に負担を強いられてきたとの価値観を持っている。日本はこれまでの米国依存から脱却し、より対等な関係に変えていく必要がある」という――。(後編/全2回)
「相互関税」時代の日米関係とは
(前編から続く)
ここまで見てきたように、「相互関税」時代の日米関係において、日本政府は防戦一方の交渉に終始するのではなく、米国にとって戦略的に意味のある“能動的提案”を行う必要がある。
そして、筆者はその最有力分野が「造船業」だと考える。なぜなら、日米の造船業は、それぞれが抱える課題とポテンシャルにおいて驚くほど補完的だからである。
日本は技術力、品質、部品供給、人材訓練において圧倒的な強みを持つ一方、米国は国家的戦略意志、資金、制度変更力、安全保障需要という巨大な推進エンジンを持っている。この両者が本格的に連携すれば、単なる企業間提携を超えた「構造的な日米造船同盟」を築くことが可能となる。
では、どのような形でこの連携を設計すべきか。以下に具体的な提案を記す。
まず制度面では、「日米共同原産地制度」の整備がカギとなる。バイ・アメリカン法(BAA)と日本の防衛装備移転三原則という、両国それぞれの制度的壁を接続するためのガイドライン、共同認定制度を設計し、日米共同建造による船舶を“例外的に自国調達とみなす”スキームを制度化すべきである。
日本=「設計・中核部品」、米国=「艤装・組み立て」
次に製造モデルにおいては、設計・中核部品の供給=日本、艤装・組み立て=米国という「分業建造モデル」がもっとも現実的かつ有効である。日本側は高精度な構造部材、エンジン、AI管制システムなどを供給し、米国側はそれを自国内で最終艤装・塗装・性能試験まで行い、国内調達要件を満たすことができる。
拠点については、米国のフィリー造船所やマリネット造船所、日本の今治、長崎、横浜などを中心に、「二大拠点ネットワーク」を構築する。このネットワークは、日米が相互に“構造を運ぶ物流と建造の基地”をシェアする形となり、商船、官公庁船、軍需船においても柔軟な応答能力を持つ体制を生む。
また人材育成については、日米混成の「造船アカデミー」の設立が必要である。ここでは技能訓練のみならず、制度設計、調達、戦略交渉までを含む“海洋産業の人材共育拠点”として機能させる。とくに日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)制度のもとで、日本における米艦船の修理・保守を本格化させる制度運用が並行して必要となる。
このように見ていくと、日米の造船連携は単なる国際協力ではない。それは秩序をつくるという構造行為であり、同盟を制度と構造で支える“構造的同盟戦略”そのものである。この提案を日本が先んじて行うことこそ、トランプ政権との交渉においてもっとも説得力を持つ“貢献”であり、同時に“提案力のある同盟国”としての新たな日本の姿を示すものである。