NHK「あんぱん」は名作になると確信した…「おむすび」には描かれなかった「ヒットする朝ドラ」にある決定的要素
Profile
今田美桜さん主演のNHK「あんぱん」が話題だ。コラムニスト矢部万紀子さんは「『あんぱん』には“朝ドラ愛”や“良い作品にしよう”という思いが強く感じられる。前作の『おむすび』で忘れていた感覚を思い出した」という――。
伏線は“丁寧なドラマ作り”の証
「カムカムエヴリバディ」の再放送を楽しみに見ている。4月9日の98話、ヒロインの夫・錠一郎(オダギリジョー)と叔母・雪衣(多岐川裕美)が朝ドラ談義をしていた。第一作から全部見ているという雪衣がこう言っていた。「好きなんじゃ。1日15分だけのこの時間が。たった15分、半年で、あれだけ喜びも悲しみもあるんじゃから、何十年も生きとりゃあ、いろいろあって当たりめえじゃが」。
心で拍手を送ったのは、「おむすび」を我慢して見ていたから。「喜びも悲しみも」あるから、雪衣は己の人生と重ねている。なのに「おむすび」は、ヒロイン結(橋本環奈)のあさーい喜びしかなかった。己と重ねようがない。
錠一郎がテレビをつけると、始まった朝ドラは「ぴあの」(1994年度前期放送)だった。大いに端折るが、挫折した音楽家の錠一郎が、このあと「ピアノ」で復帰する。「ぴあの」の画面をはさんで、錠一郎が動きだす。
「カムカムエヴリバディ」は「伏線回収」が話題となった。「ぴあの」もその一つだろう。が、伏線は回収のためにあるというより、丁寧なドラマ作りの証だと理解している。「あれがここにつながったのね」となる。良い朝ドラには、あることだ。
「朝ドラ愛」が感じられる
「おむすび」では忘れていたこの感覚、「あんぱん」で思い出した。隅々まで心配りされていることが感じ取れた。「ああ、あれがここにつながったのね」はもちろん、昭和初期の話に今どきの感性が反映されている。
朝ドラを好きで、良い作品にしようとしている。言うならば「朝ドラ愛」が感じられ、「おむすび」で傷ついた心が癒やされるようだ。脚本の中園ミホさんは、「花子とアン」(2014年度前期放送)以来、2度目の朝ドラだ。こちらもウェルメイドな作品だったが、学んだことも多かったと想像する。大ヒット作「ドクターX」の決め台詞にならうなら、中園さん、失敗していない。
ヒロインのぶ(今田美桜)と、後に夫となる嵩(北村匠海)の子役時代が終わったところだが、雪衣語録の「喜びも悲しみも」のうち、悲しみ多めの展開だ。が、悲しみを悲しみのままにせず、手が差し伸べられる。子どものいない60代の私ゆえ、「アンパンマン」についての知識はごく乏しい。それでもこれは、嵩のモデルであるやなせたかしさんが「アンパンマン」を通じて描いた世界観なのだとわかる。